OEKのCD

2017年9月
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2017/09/20

OEK定期公演2017/2018シーズン開幕。井上道義指揮による総決算の「田園」。神尾真由子と四つに組んだ壮大なスケール感のあるヴァイオリン協奏曲。拍手からも熱さが伝わってくる演奏会でした #okejp

OEK定期公演2017/2018シリーズは,井上道義音楽監督指揮による,ベートーヴェン中心のプログラムで開幕しました。今年の春に行われた,ガル祭のテーマは,「ベートーヴェン」で,その時にヴァイオリン協奏曲と交響曲第6番「田園」も演奏されたのですが,井上さんは参加していませんでしたので,その「アンコール」を井上音楽監督の指揮で楽しむといった位置づけになるのかもしれません。ただし,「田園」については,1年前の「ナチュール」がテーマだった,最後の「ラ・フォル・ジュルネ金沢」の時に井上さんが取り上げていますので,そのアンコールとも言えます。

この演奏会ですが,やはり井上さんとOEKの「田園」は最高だなぁと思いました。ベートーヴェンの交響曲については,OEKの演奏で何回も聞いており,井上さん指揮の「田園」も聞くのは3回目ですが(確か),その度にこの曲に対する「愛」のようなものを感じます。

第1楽章の冒頭から,「田園に着いたばかりの新鮮な気持ち」が溢れ,何回聞いても新鮮な気分を味わわせてくれます。第2楽章は,ベースとなる「流れるような」雰囲気も素晴らしいのですが,その上で絡み合うOEKの各パートの音の動きを聞いているだけで飽きません。この楽章を聞くたびに,隠されている自然の音を発見する喜びがあると感じます。

第3楽章以降は,音による祭り・自然・感謝の気持ちの描写音楽です。1年前のラ・フォル・ジュルネ金沢の時も同様だったのですが,3楽章途中に「嵐」のメンバー6人(ジャニーズではなくトランペット2名,トロンボーン2名,ティンパニ,ピッコロ奏者の皆さんです)が上手側から入って来て,視覚的にもドラマを印象付けていました。

第4楽章から第5楽章に掛けては,前回聞いた時よりもスマートな感じに思えましたが,第5楽章の途中,曲想が盛り上がってきて,井上さんが大きく両手を広げるのを見ると,「井上さんの田園だなぁ」と熱い気分になります。そして最後の部分の名残り惜しさ。繰り返しになりますが,井上さんの「田園」はやっぱりいいなぁと思います。

前半はまず,ペルトのベンジャミン・ブリテンへの追悼歌が演奏されました。振り返ってみると,井上さんは,ペルトの曲を取り上げる機会も多かったですね。神秘的な和音がベルの音に合わせて最初から最後まで続いているだけ,といった曲なのですが,演奏会の最初に演奏されると,日常生活の空気から,アートの空気へと切り替える,緩衝地帯になっているような気がしました。この古いのか新しいのか分からないムードは癖になりそうです。

前半では,金沢でがすっかりおなじみのヴァイオリン奏者,神尾真由子さんとの共演で,ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。神尾さんについては,先月8月19日,ほぼ1カ月前にOEKとメンデルゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏したばかり。さらには,11月21日には,ロシア国立ウリャノフスク交響楽団との共演でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏します。この短期間の間に金沢で,いわゆる「3大ヴァイオリン協奏曲」を1人の奏者が全部演奏する,というのは(たまたまこうなったのだと思いますが),「金沢史上初」なのではないかと思います。

今回のベートーヴェンについても,井上/OEKと神尾さんとがじっくりと四つに組んで,じっくりと聞かせてくれる聞きごたえのある演奏でした。雰囲気としては,1カ月前に聞いたメンデルスゾーン同様,「演歌的」と言って良いほど,滴るような音を聞かせてくれる演奏で,個人的にはロマンティック過ぎるかな(結構,チャイコフスキー的なベートーヴェンだな,と思ったりしました)と思ったのですが,「さすが神尾さん」とも思いました。

神尾さんの場合,音や歌いまわしを聴けば「神尾さんの演奏だ」と分かる,しっかりとした個性を持っていると思います。どの楽章もゆっくり目のテンポで,存分にこの曲の中に潜んでいる「情感」と「歌」をしっかりと引き出していました。井上/OEKによる,非常に気合いの入った充実した演奏と組み合わさることで,この曲のもつスケールの大きさ(45分以上かかっていたと思います)をしっかりと体感させてくれました。

この日のお客さんの拍手からは,いつもにも増して熱いものが伝わって来ました。今シーズンは,この公演を含めて,井上さんは3回OEKの定期公演に登場します。本日の演奏を聞いて,その1回1回で,総決算のような演奏が期待できると感じました。

このプログラムと同様の内容で,次のとおり国内演奏旅行が行われます。是非お近くの方は,お聞きになってください。

名古屋定期公演 9月22日(金) 19:00開演 三井住友海上しらかわホール
大阪定期公演 9月23日(土) 14:00開演 ザ・シンフォニーホール
三原公演 9月24日(日) 14:00開演 三原市芸術文化センター ポポロ
※三原公演のみ,ヴァイオリン独奏は,三浦文彰さんです。

2017/09/16

#金沢ジャズ・ストリート2017 オープニングコンサート@石川県立音楽堂 伝説的なジャズピアニスト #秋吉敏子 さんのソロ,#マッズ・トーリング &村上寿昭/OEKの共演による独創性あふれる「ヴァイオリン協奏曲」を楽しんできました #oekjp

金沢市内で毎年9月に行っている「金沢ジャズ・ストリート2017」のオープニングコンサートにOEKが登場し,ジャズ・ヴァイオリン奏者のマッズ・トーリングと共演。さらには伝説的なジャズピアニスト,秋吉敏子も登場するということで,秋の3連休の初日の午後,石川県立音楽堂コンサートホールに聞きに行ってきました。

金沢ジャズ・ストリート(KJS)も今年で9回目で,ラ・フォル・ジュルネ金沢とほぼ同様の歴史を持っているのですが,実はこれまで1回も有料コンサートを聞いたことがありませんでしたが,OEKが出演するとなると,OEKファンとしては聞きにいかないわけにはいきません。

KJSは,ラ・フォル・ジュルネのように,45分単位でハシゴをするようなスタイルではなく,有料公演については通常の公演ぐらいの長さ(ジャズの演奏会の長さはよく知らないのですが...)があります。この日の公演も,前半が秋吉さんのソロ,後半がトーリングさんとOEKの共演から構成された,約2時間の公演でした。

前半に登場した秋吉敏子さんは,日本のジャズピアニストで初めて世界的に活躍された方です。年齢のことを言うのは失礼かもしれませんが,クラシック音楽のピアニストで言うと,イェルク・デームスあたりと同世代になります。80代のピアニストが現役で活躍されているというだけで,素晴らしいのですが,その演奏も味わい深いものでした。

秋吉さんは,トークをまじえつつ,全部で7曲演奏されました(配布されたプログラムは8曲になっていましたが,一部省略したようです)。今日は,3階で聞いたこともあり,やや音圧的には遠く感じ(ピアノの蓋をあまり開けていなかったせいもあるかもしれません),速いパッセージについてはスムーズでない部分はあった気はしましたが,特にしっとりとした雰囲気をもった曲での,淡々とした語り口が実に味があると思いました。

「毎回,演奏会の最後に演奏しています」という「ホープ」という曲(広島や長崎への原爆投下に関する秋吉さんの自作の曲でデューク・エリントンに捧げた長い曲の最後の部分,という説明をされていたと思います)が,今回も最後に演奏されたのですが,この曲での,どこか爽快さと前向きな気分のある演奏は素晴らしいと思いました。

後半は,デンマーク出身のヴァイオリニスト,マッヅ・トーリングさんが登場し,村上寿昭指揮OEKと共演しました。こちらの方は,OEKの定期公演で言うところの,ファンタスティク・オーケストラコンサートのような雰囲気があると思いました。トーリングさんはのヴァイオリンについては,バランスが悪くならない程度にPAを使っており,リラックスした余裕のある音がしっかりとホール全体に広がっていました。

演奏の技巧的にも素晴らしく,時折,「粋なポルタメント」のような奏法を交える以外では,通常のクラシックの演奏会と大きな違いはないと感じました。その点で,ジャズの本道(?)という感じではなく,クロスオーバー的な雰囲気がありました。

その点については,トーリングさん自身も意識しており,「餅アイスクリーム(どこで食べたのでしょうか?私も好きです)」のように,色々な音楽をフュージョンするのが私の音楽と語っていました(英語で言っていたので細かい部分は分かりませんが)。

特にデンマーク出身という北欧のテイストや民族音楽的な親しみやすさの要素が入っているのが大きな個性になっていると思いました。特に最後に25分ぐらいかかる「Begejstring(デンマーク語で「心からの喜び,熱狂」といった意味)というタイトルを持った,3楽章からなるヴァイオリン協奏曲的大曲が非常に面白い作品でした。

通常の協奏曲のように,堂々と始まった後,中間楽章で叙情的になり,最終楽章は大きく盛り上がるというクラシカルな構成でしたが,前述のとおり,色々なジャンルの要素を巧く盛り込んでおり,飽きることなく楽しめる作品となっていました。OEKの定期演奏会で演奏してもおかしくない曲かな,と思いつつ聞いていたのですが,最終楽章のカデンツァ風の部分になって,やはりこれは即興性を重視する何でもありのジャズだなと感じました。

トーリングさんの足元に何か機械が置いてあるのは気になっていたのですが,これを足で操作しながら,事前に仕込んでおいた音源(テンポが結構変化していました)が流れ,それに合わせて,トーリングさんが熱狂的に弾きまくります。各楽章ごとに面白い聴きどころがあったのです,やはりこの部分が全曲の見せ場だったかもしれません。

この曲はトーリングさん自身の作曲ということで,クラシック音楽の作曲家としても,とても面白い存在だと思いました。トークの雰囲気からもどこか知的な雰囲気を感じさせてくれ,今後さらに,国際的にもジャンル的にも,色々な境界を乗り越えて活躍するアーティストとして活躍していくのではないかと感じました。

そして,最後に秋吉さんが再度登場し,トーリングさんとの「50歳差デュオ」で大変リラックスした雰囲気のある演奏を聞かせてくれてお開きとなりました。

全体として,石川県立音楽堂コンサートホールは,ジャズを聞くホールとしてはやや大きすぎる印象でした。結構,お客さんはマジメというか,クラシック音楽のコンサートとほぼ同じ雰囲気だったと思いました。ジャズについては,お客さんの方がもっとリアクションを示しながら聞くのかと思っていたのですが,やはり,音楽堂という場所だとクラシックと同様になってしまうのかもしれませんね。特に秋吉さんの演奏については,聴衆との一体感が感じられるような場所の方が本当は良かったのかなと思いました。

ただし,私としては,いつものOEKの演奏会と同様の気分で2人のアーティストの演奏を楽しめた演奏会でした。

2017/09/03

北國新聞赤羽ホールで行われた「若き才能の輝き『いしかわ国際ピアノコンクール』から世界に羽ばたく」という演奏会で,4人の若手ピアニスト(塚田尚吾,中川真耶加,小嶋稜,竹田理琴乃)の力の入った演奏の競演を楽しんできました

本日は,北國新聞赤羽ホールで行われた「若き才能の輝き『いしかわ国際ピアノコンクール』から世界に羽ばたく」という4人の若手ピアニストが登場する演奏会を聞いてきました。登場したのは,過去,このコンクールに登場し,優秀な成績を収めたことのある,塚田尚吾 さん(富山出身),中川真耶加さん (愛知県出身),小嶋稜さん (大阪府出身),竹田理琴乃さん (石川県出身)の4人でした。

塚田さんと竹田さんについては,今年の春に行われたガルガンチュア音楽祭でのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏に参加するなど,金沢の音楽ファンにはお馴染みの方です。今回聞きに行こうと思ったのは,塚田さんや竹田さんと同世代の実力のある若手が一気に聞けることと,演奏された曲の渋さにあります。今回演奏された曲を並べると次のとおりだったのですが,「さすらい人」幻想曲を除くと,かなりマニアックな雰囲気の曲ばかりです(塚田さんの演奏した「死の舞踏」は,以前,塚田さんの演奏でどこかで聞いたことがあります)。

塚田尚吾 (富山)
メンデルスゾーン/幻想曲 嬰ヘ短調「スコットランド・ソナタ」op.28
リスト/死の舞踏:怒りの日のパラフレーズによるS.525/R.188

中川真耶加 (愛知)
ショパン/マズルカ op.50
バーバー/ピアノソナタ

小嶋 稜 (大阪)
J.S.バッハ:トッカータ ホ短調
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.760「さすらい人」

竹田理琴乃 (金沢)
ヴェルディ=リスト/「アイーダ」より 神前の踊りと終幕の二重唱 S.436/R.269
ブラームス /7つの幻想曲 op.116~第1,2,3番

個人的には,未知の曲を開拓していくことと,未知の演奏者を聞くことが大好きなので,その両方を目当てに聞いてきました。

今回特徴的だったのは,各奏者が自分自身のことや選んだプログラムについて,5分程度のスピーチを行ったことです。このコンクールでも曲についてのスピーチを行ってもらっているようですが(他に例はあまりない?),スピーチとセットで聞くと,楽しみが増すなぁと思いました。お客さんが喜ぶような話をしたり,曲についての説明をすることは,一種,「常識的な発想」が必要になります。「アーティストは演奏の内容だけで勝負」というのが理想だとは思いますが,日常的にお客さんがほとんど予備知識を持っていないクラシック音楽(特に今回のようなマニアックなプログラムの場合)を聞かせるという場合,演奏者によるトークはかなり重要だと思います。今回の演奏を聞いて改めてそう思いました。

今回の演奏は,4人とも大変水準が高く,どの演奏も面白く聞くことができました。塚田さんの演奏では,最初に演奏されたメンデルスゾーンの「スコットランド・ソナタ」という曲がいいなと思いました。スコットランドのひんやりとした空気を感じさせてくれるような,良い曲だと思いました。「死の舞踏」の方は,もはや十八番という感じだと思いました。

中川さんは,しっとりとした落ち着きのある流れをもったマズルカに続いて,バーバーのピアノ・ソナタが演奏されました。中川さんのトークの解説の後に聞いたこともあり,一見,難解そうな作品(ホロヴィッツが演奏していた曲だそうです)をとても面白く聞くことができました。各楽章に際立った個性のある曲で,大変鮮やかな演奏だったと思います。今回の演奏会のいちばんの収穫でした。

小嶋さんの演奏は,かなり個性的な歌わせ方をするピアノだったと思います。シューベルトの「さすらい人」幻想曲は,シューベルトの曲の中でも特にダイナミックで技巧的な作品ということもあり,速いパッセージでは少々窮屈な感じに聞こえる部分がありましたが,第2楽章に当たる部分でのメロディの歌わせ方が素晴らしいと思いました。

最後の竹田さんについては,毎回毎回レベルの高い演奏を聞かせてくれて感心するばかりです。最初の曲は,ヴェルディの歌劇「アイーダ」の中のメロディをリストがパラフレーズしたものでした。初めて聞く曲でしたが,ちょっとエキゾティックなメロディを豊かな情感を伴って鮮やかに演奏しており,一気に曲の世界に引き込まれました。ブラームスのop.116の中からの3曲についても,一見地味な印象のある曲の中から,くっきりとした情感の動きが引き出されていました。

4人の演奏を聞いて,演奏者それぞれに,音楽の流れのようなものを持っているなぁと思いました。演奏者それぞれに,呼吸のタイミングのようなものがあり,それが演奏全体に反映していると感じました。それは曲によっても変わるし,誰が良いというものでもないのですが,その違いを楽しめることが,こういった複数の奏者が登場する演奏会の楽しみだと感じました。

いしかわ国際ピアノコンクールについては,やはり,もう少し広報に力を入れてもらい,ピアノに関心がない人にもピアノ演奏に目を向けてもらう機会になれば,良いなと思います。4人それぞれに30分以上演奏していたので,トータルで2時間30分ぐらいかかりましたが,定期的に行っても良い企画だと思いまいした。

PS. 演奏会のサブタイトルに「百万石歴史のみち交流祭」と書いてありました。これが少々謎でした。

2017/09/02

今年の岩城宏之音楽賞は受賞者なし。その分,岩城宏之メモリアル・コンサートの方は,井上道義+OEKらしさをたっぷりある楽しめる内容に。やっぱり「ジュピター」は良い曲です。 #oekjp

毎年この時期に行われている岩城宏之メモリアル・コンサートでは,その年の岩城宏之音楽賞受賞者とOEKが競演するのが恒例だったのですが,今回は受賞者は不在で,過去の受賞者の中から,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさん(10回岩城宏之音楽賞受賞者)と首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタ(第4回岩城宏之音楽賞受賞者)さんがソリストとして登場し,井上道義指揮OEKと共演しました。

演奏したのは,サン=サーンスの「ミューズと詩人」という曲でした。ヴァイオリン、チェロ、管弦楽のための二重協奏的作品で,OEKが演奏するのは今回初めてです。ほとんど知られていない作品ですが,何といってもサン=サーンス。メロディが美しく,とても気持ちよく楽しめる作品でした。ややセンチメンタルな雰囲気もあったのですが,ヤングさんとカンタさんが演奏すると,ちょっと抑えの効いた大人のロマンといった雰囲気になります。ハープの入った,品の良い色彩感のあるOEKの演奏と合わせて,曲の魅力をしっかり伝えてくれました。こういう知られざる佳曲の発掘というのは,是非,これからも継続していって欲しいと思います。

今回の公演のもう一つのポイントは,最初に演奏された,邦楽器とオーケストラが共演する,三木稔「序の曲」でした。OEKは岩城さんの時代から邦楽器との共演を伝統的に行ってきましたが,この曲では,尺八,二十五絃箏,太棹三味線という3つの楽器が登場しました。邦楽器とオーケストラによる協奏的作品というと,武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を思い出しますが,あの曲のような,緊迫感溢れる作品ではなく,「序の曲」というタイトルどおり,大きく盛り上がる前のイントロダクション的な雰囲気を持った作品でした。

実際,「序の曲」「破の曲」「急の曲」の三部作の最初の曲ということで,ちょっとインパクトが弱い印象はありましたが,まるでハープのようにオーケストラと溶け合って艶やかな気分を出していた野坂操壽さんの二十五絃箏。豊かさを感じさせてくれた本條秀慈郎さんの太棹三味線。そして,通常より大きめの楽器で曲全体にアクセントを付けていた三橋貴風さんの尺八(オーケストラも弦楽器だけだったので,唯一の管楽器でした)。これらが一体となって,スケール感と暖かみを感じさせる演奏を楽しませてくれました。

そして最後にモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」が演奏されました。いうまでもなく,モーツァルトの交響曲の総決算のような堂々たる作品です。そして,今回の演奏もこれまで築いてきた井上/OEKのつながりの強さをしっかり感じさせてくれるような,堂々たる構えと余裕を持った演奏でした。

冒頭部から,適度な柔らかさと芯の強さを持ったオーケストラの響きが最高でした。石川県立音楽堂に最適化された音という感じでした。きっちりと締めつつも,OEKの柔軟性も生かした演奏で,ちょっとした間の取り方,ニュアンスの変化など,この組み合わせならではの表情の豊かさがありました。井上さんは,アンコールの時,「希望を感じさせる曲だ」と仰っていましたが,まさにそういう演奏だったと思います。「ジュピター」を聞くのは,意外に久しぶりの気がしますが,改めて完成度の高い作品だと思いました。

そして,楽しく,爽快な,モーツァルトらしいアンコールが2曲演奏されました。このアンコールについては,後日レビューでご紹介しましょう。井上さんのトークを聞きながら,来年からは,こういう雰囲気を味わう機会が減ってしまうんだな,と少々淋しくなりました。

井上さんはアンコールの時のトークの中で「何事にも終わりがある。だからこそ,そこまでは一生懸命やりたい」(不正確かもしれません)といった言葉をおっしゃられていましたが,このことは,音楽についても言えるし,人生についても言えるし...井上さんとOEKとの関係についても言える言葉だと感じました。

色々な点で名残惜しさを感じた演奏会でした。

2017/08/27

山下一史指揮OEK+合唱団OEKとやま+藤原歌劇団のソリスト4人によるヴェルディのレクイエム(北陸初演)を富山で聞いてきました。さすがヴェルディ!という名曲。たっぷり楽しんできました #oekjp

昨年まで,毎年のように夏にOEKと共演してきた「合唱団おおやま」が,名称を「合唱団OEKとやま」と変え,ヴェルディの「レクイエム」をOEKと共演するということで,夏休み最後の日曜日,金沢から富山に出向いて,この大作を聞いてきました。1時間30分近くかかる大作ということで,私自身,これまで実演で聴いたことはありません。それどころか,今回が北陸初演ということです。

この曲については,強烈な4つの和音で始まる「怒りの日」の最初の方だけは,テレビの効果音などで,非常によく耳にするのですが,実演での全曲となるとなかなか聞く機会はありません。私の場合,大昔,FM放送からエアチェックをしていた時代には,何となく全曲を聞いた記憶はあるのですが(アバド指揮ミラノスカラ座のライブ録音とか),CD時代になってからは,なぜか聞かなくなってしまい,今回,久しぶりにじっくりと予習をしてから,聞きにいきました。

今回初めて実演を聞いた感想は,「ヴェルディの気合い入りまくりの曲だ!すごい」と,この曲の良さを,初めて肌で実感できました。私にとっては,CDやカセットテープ(古くてすみません)だと,何故か聞き通せない曲だったのですが,実演だと全く退屈することなく,オペラ風味をもった壮大な宗教曲を丸ごと楽しむことができました。

その理由は,今回の演奏の水準の高さによると思います。そして,そのいちばんの原動力になったのは,山下一史さんと「合唱団OEKとやま」の皆さんの長年の信頼関係の力だと思います。プログラムによると2002年の「合唱団おおやま」の第7回演奏会以降,山下さんとは14回目の共演とのことです。この強いつながりが,集中力と熱気を持った演奏のエネルギーになっていたと感じました。

そして,藤原歌劇団に在籍する,砂川涼子,鳥木弥生,所谷直生,伊藤貴之の4人のソリスト,兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)のメンバーを加えて増強されたOEK。これらが一丸となって,「合唱団OEKとやま」のデビューコンサートに相応しい,充実感のある演奏を生んでいました。

今回の会場は,富山市役所のすぐ向かいにある,富山県民会館でした。以前に一度来たことがあるのですが,ホール全体がきれいにリニューアルされていました。音楽専用のホールではなく,多目的ホールなので,残響は少な目で,今回の大編成にしては,やや小さいと感じましたが,その分,迫力たっぷりの生々しい音楽をクリアに楽しむことができました。

有名な「怒りの日」については,大太鼓(OEKの渡邉さんが担当されていました)の音が壮絶に響き,弦楽器の細かい音の動きなども,くっきり聞こえました。大きな音の部分だけでなく,例えば,「怒りの日」の後半に出てくる,合唱のソット・ヴォーチェの部分(文字通り,声をひそめてソット歌う部分。この部分,個人的に好きな部分です)など,非常に生々しく聞こえ,ゾクゾクしました。曲の冒頭部も,CDでは,「小さすぎてよく聞こえない」ようなところもあるのですが,実演だと,そのエネルギー量が全然違うと感じました。

第2曲の「怒りの日」は,「怒りの日」から「涙の日」までが連続的に演奏されるセクエンツィアなのですが,この部分が,オペラの一つの幕を見るように多彩な音楽が詰め込まれていて,「やはり,ヴェルディはすごい」と思いました。

「怒りの日」は,熱狂的に荒れ狂う感じではなく,しっかりと迫力のある声の力を聞かせてくれました。改めて,100人以上からなる合唱団のパワーは素晴らしいと思いました。その後の「トゥーバ・ミルム」では,トランペットの別動隊が楽しみだったのですが,ホールの両袖の上の方(お客さんからは見えない場所)に居たようです。山下さんは,半分以上,客席の方に体の向きを変えて指揮されていました。この部分での,爽快に音が広がる立体感も素晴らしいと思いました。今回,オーケストラのメンバー表が付いていなかったのが残念だったのですが,恐らく,PACオケの方が活躍されていたのだと思います。

その後は,ソプラノとメゾソプラノによる二重唱,テノールの独唱など,「ほとんどオペラ?」みたいな部分が続々と出てきました。4人のソリストは,みなさん本当に素晴らしかったのですが(この4人でヴェルディのオペラを何か聞いてみたいものです),このセクエンツィアでは,金沢ではお馴染みのメゾ・ソプラノ,鳥木弥生さんの存在感が特に大きかったと思いました。鳥木さんの声には,聞いた瞬間,「ヴェルディのオペラだ」的な充実感がありました。特に「涙の日」での,文字通り泣かせる歌は素晴らしいと思いました。

そして,この「涙の日」の最後の部分の雰囲気が実にいいなぁと思いました。ちょっと明るく転調して,静かに終わる感じが,いかにも「ヴェルディのオペラにありそう」で,終結感と期待感が混ざったような後味を残してくれました。
第3曲から後も,「ヴェルディの総決算」のような色々な曲が続きました。「サンクトゥス」は合唱だけ,「アニュス・デイ」はユニゾン中心の素朴な感じの曲。「ルクス・エテルナ」は,ミサの中心である聖体拝領の場に相応しい神秘的な雰囲気がありました。

そして,最後の「リベラ・メ」では,レクイエム全体を回想するような,聞きごたえがありました。この部分では,ソプラノの砂川涼子さんの声が見事でした。「リアルな朗誦」のようなソロも印象的でしたが,合唱とソプラノが一体になった時の,中から浮き上がってくるような,高揚した声の力も素晴らしいと思いました。

最後の方で,「怒りの日」が再現したり,二重フーガが出てきたリ,合唱団の皆さんには,最後まで,エネルギーと集中力が必要だったと思いますが,素晴らしい盛り上がりを聞かせてくれました。二重フーガの部分では,ヴェルディの音楽がいちいち「ジャン,ジャン」と念を押すよう感じで,結構,泥臭い(?)感じもしたのですが,それが音楽全体の熱さにつながっていたと思いました。

今日の演奏については,休憩なしで一気に演奏されたのですが,先に書いたとおり,充実した時間を楽しむことができました。一気に演奏して良かったと思いました。

今年の夏は,7月中旬,大阪で聞いた井上道義さん指揮大阪フィルによるバーンスタインの「ミサ」で始まり,8月末の富山でのヴェルディのレクイエムで終わった感じです。とても良い「夏の思い出」となりました。本日の演奏を聞いて,「合唱団OEKとやま」の今後の活躍がますます楽しみになりました。毎年,夏の思い出作りに富山に来たいなと思います。

その一方,富山県民会館は,100人編成だとやや小さい気がしたので,残響の豊かな石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてみたい気もします。ヴェルディのレクイエムは,北陸初演というほどには大編成ではなかったと思いますので(トランペットは大勢必要ですが),是非機会があれば,「金沢初演」にも期待したいと思います。

2017/08/22

IMA&OEKチェンバーコンサート 4曲のフランス系の室内楽作品をたっぷり楽しみました。特にレジス・パスキエさんの気迫がこもったフランクのピアノ五重奏曲が感動的

いしかわミュージックアカデミー(IMA)期間中に行われる,アカデミーの講師たちとOEKメンバーによる室内楽公演もすっかり定着しました。毎年,熱のこもった,講師の面目躍如たる演奏を楽しむことができるのですが,今年のプログラムは特に素晴らしい演奏の連続だったと思います。

今年はフランス音楽中心のプログラムで(後半に演奏されたフランクはベルギー生まれですが,フランスで活躍した人なのでフランスの作曲家といっても間違いはない気はします),演奏会全体としての統一感があったのに加え,IMAの講師であるヴァイオリン奏者たちが4曲に分散しており,それぞれの個性を楽しむことができました。

1曲目のラヴェルの弦楽四重奏曲は,原田幸一郎さん中心の演奏でした。原田さんといえば,東京クワルテットの初代第1ヴァイオリンとして知られていますが,弦楽四重奏のメンバーとして聞く機会は,近年は意外に少ない気がします。冒頭から柔らかな響きが素晴らしかったのですが,特に弱音器を付けたヴァイオリンの音の何とも表現できないような,くすんだ音が素晴らしいと思いました。キビキビとした若々しい表現との対比も鮮やかでした。

2曲目は,ロラン・ドガレイユさんと鈴木慎崇さんによる,ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタでした。この曲では,ドガレイユさんの音の引き出しの多さに感激しました。最初の音から,フランスの香りと言ってもよさそうな。高級感がありました。その一方,強い音を出す時には,ほとんど飛び跳ねるように演奏し,ダイナミックで切れ味の良さを感じさせてくれました。それでいて声高に叫ぶような感じにはならず,常に微笑みをたたえているような暖かみがありました。お見事!という感じの演奏でした。

前半最後は,ラヴェルの「序奏とアレグロ」が演奏されました。弦楽四重奏にハープ,フルート,クラリネットが加わった7人編成の曲で,この日演奏された曲の中ではいちばん大きな編成でしたが,印象としては,いちばん静かな感じでした。

この曲では,各楽器の音の溶け合い方が本当に素晴らしいと思いました。フルートの岡本さんとクラリネットの遠藤さんがハモるような部分が多かったのですが,違う楽器だとは思えないほど,しっかりと溶け合っていました。第1ヴァイオリンはホァン・モンラさんでしたが,神谷美千子さんの第2ヴァイオリンやOEKの石黒さん,大澤さんと一体となった繊細で心地よい響きを作ってくれました。

そして,この曲では何といってもハープの平尾祐紀子さんの上品なきらびやかさが印象的でした。初めて聞く曲でしたが,ミステリアスで詩的な雰囲気があり,どこかドビュッシーや武満徹の曲を思わせるムードがあるのが面白いと思いました。

後半演奏された,レジス・パスキエさんを中心としたフランクのピアノ五重奏曲は,特に熱気のある演奏でした。パスキエさんはかなり高齢なはずですが,ビシッと締まった硬質の音が素晴らしく,冒頭の和音から一気に聴衆をフランクの世界に引き込んでくれました。「魂のヴァイオリン」といった趣きがあり...感動しました。

この日は,非常に前の方の席で聞くことができたのですが,パスキエさんの使っている譜面の紙は古く,ボロボロ。この曲を若い頃から弾き込んでいるのだな,ということが伝わってきました。他の奏者たちも,このパスキエさんの気迫にしっかりと応えていました。

ユニゾンで演奏する部分での音の迫力,所々入れていた大きな間での緊迫感。最初から最後まで,緊張感が途切れず,曲の終盤に行くほど,大きく盛り上がっていくのが素晴らしいと思いました。

その一方,全体を支えるハエスン・パイクさんのピアノの音には,どこか艶っぽい美しさがあり,曲全体のイメージに膨らみを持たせているようでした。

というわけで,違った編成の4曲のそれぞれの魅力を最大限に楽しませてくれた演奏会でした。そして,間近で聞く室内楽の面白さ(CDで聞くのとは全く違った印象)をしっかりと味わうことができました。IMA受講生によるライジングスターコンサートも凄かったのですが,講師による室内楽公演はそれとは別の方向で,素晴らしいと思いました。

2017/08/20

IMAライジングスターコンサート2017 今回も水準の高い演奏の連続。ヴァイオリンの弦が切れるハプニングもありましたが,奏者ごとの多彩な表現力とエネルギーを間近で味わってきました。

今年で20周年となる,いしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞いてきました。このコンサートは,前年度のIMA音楽賞受賞者を中心とした若手奏者が続々と登場するコンサートです。IMA音楽賞受賞者からは,毎年必ず,国際的な音楽コンクールでの上位入賞者を輩出しています。恐らく,今日聞いた人の中からも,世界的に活躍する奏者が出てくることでしょう。

今回は次の皆さんが出演しました。
  • ヴァイオリン:外村理紗, ドンミン・イム, シューハン・リー, ナキョン・カン
  • チェロ:金子遥亮
  • ピアノ:ユリ・ノ
  • IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(ヴァイオリン),牟田口遥香(チェロ),渡邉朋恵(ピアノ))
今回も水準の高い演奏の連続でした。どの奏者も,技巧的に不安定なところはなく,表現力,技の切れ味,音の迫力...といった一段階上のレベルで聴き比べをするような聴きごたえ十分の演奏会でした。

今回の奏者の中では,韓国のドンミン・イム(ヴァイオリン)さん,台湾のシューハン・リー(ヴァイオリン)さんについては,演奏した曲自体,技巧が前面に出る曲だったこともあり,その音の迫力と技巧の切れ味の良さ間近で体感できました。2人とも平然と弾いているところが心憎いところです。特にドンミン・イムさんの方は,途中で弦が切れるハプニングがあり,再度,途中から弾き直すハプニングがありましたが,これもまた,演奏の強靭さを裏付けているように感じました。非常に激しくビブラートを掛けていましたので,切れても不思議でないかなと思わせるほどでした。

ただし,強靭だから良いというわけでもなく,金子遥亮さんの自然な表情の動きを持ったチェロの演奏を聞いて,実に人間的だなぁと感じました。最初に演奏した,外村理沙さんのヴァイオリン独奏によるバッハの無伴奏ソナタ第1番にも,内面から溢れてくる,しみじみとした味わいと暖かみが感じられました。各奏者が,演奏した曲に応じて,適切な表現で演奏しているのが素晴らしいと思いました。

後半に登場したナキョン・カンさんは,15歳に満たない方でしたが,全ての点でバランス良く,高い水準でまとまっているのが凄いと思いました。この方だけは,過去のIMA音楽賞受賞者ではないのですが,今後,「天才少女」として注目を集めるようになるのかもしれません。

ピアニストとしては,韓国のユリ・ノさんだけが登場しましたが,この方のラヴェル「ラ・ヴァルス」もお見事でした。前半のミステリアスな雰囲気から,華麗なワルツに変化し,ダイナミックに盛り上がっている曲想を非常にクリアに再現していました。

演奏会の最後は,吉江美桜さん(ヴァイオリン),牟田口遥香さん(チェロ),渡邉朋恵さん(ピアノ)による,ブラームスのピアノ三重奏曲第1番の第1楽章でした。ソロ演奏が続いた後,最後に室内楽で締めるというのは落ち着きますね。ヴァイオリンとチェロの2トップの音のハモリが大変心地よく,ピアノがそれをしっかりと支えていました。若々しさと同時に落ち着きを感じさせてくれる,トリに相応しい演奏だったと思います。

IMAのコンサートについては,22日に講師の先生方とOEKメンバーによる室内楽コンサートが行われます。それとの比較も大変楽しみです。

2017/08/19

明日8/20に行われるIMAライジングスターコンサート2017の内容が分かったのでお知らせします。 #いしかわミュージックアカデミー

毎年,若手奏者たちによる水準の高い演奏の競演となっている,「IMAライジングスターコンサート」ですが,本日のコンサートで配布されたパンフレットに内容が書いてありましたのでお知らせしましょう。

# 印刷されているのならば,Webサイトの方にも掲載できるはずだと思うのですが...以下のページには相変わらず情報がないですね。

http://ishikawa-ma.jp/concert.html

日時:2017年8月20日(日)18:00~
場所:石川県立音楽堂交流ホール

外村理紗(ヴァイオリン)
バッハ, J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調,BWV.1001

ドンミン・イム(ヴァイオリン)
ヴィェニャフスキ/創作主題による変奏曲, op.15

シューハン・リー(ヴァイオリン)
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35~第3楽章

金子遥亮(チェロ)
ベートーヴェン/魔笛の主題による7つの変奏曲変ホ長調, WoO.46

ナキョン・カン(ヴァイオリン)
フバイ/カルメンによる華麗な幻想曲,op.3-3

ユリ・ノ(ピアノ)
ラヴェル/ラ・ヴァルス

IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(Vn),牟田口遥香(Vc),渡邉朋恵(Pf))
ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番ロ長調, op.8~第1楽章

#IMA いしかわミュージックアカデミー20回目を記念したスペシャルコンサートを聞いてきました。#新倉瞳 #辻彩奈 #神尾真由子 3人の卒業生による個性的で堂々たる演奏を楽しんできました。

夏休み期間中,金沢市で行われている若手演奏会のための講習会「いしかわミュージックアカデミー(IMA)」も今年で20回目となります。それを記念して「スペシャルコンサート」が行われたので,聞いてきました。

IMAは,ヴァイオリン奏者を中心に,世界的な音楽コンクールでの上位入賞者を続々と輩出していますが,今回はその”代表”として,チェロの新倉瞳さん,ヴァイオリンの神尾真由子さん,辻彩奈さんという3人の「卒業生」が登場し,IMA全体の監督でもある,原田幸一郎さん指揮OEKと協奏曲を共演しました。

この日は最初,IMAの実行委員会会長でもある谷本石川県知事のあいさつがあった後,原田さんと神尾さんのインタビューがありました。

その後,新倉瞳さんが登場し,ハイドンのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。新倉さんは,IMAを8回受講されたとのことで,「8月=金沢」という青春時代(?)を過ごされたことになります。この日は,3人の若い女性ソリスト3人が登場するとあって,ドレスの競演のようなところもありました。新倉さんは,水色の涼し気なドレスで登場しました。

ハイドンのこの曲は一見地味なのですが,第3楽章をはじめ,非常に技巧的な曲です。新倉さんは,原田さん指揮OEKの安定感のある演奏と一体となって,技巧を誇示することなく,ナチュラルでしなやかな演奏を聞かせてくれました。第2楽章での艶のある美音も魅力的でした。第3楽章は快適なビート感のある演奏で,速いパッセージがとても心地よく感じられました。

続いて,今年度の受講生でもある辻彩奈さんが登場しました。辻さんも,IMAに参加するのは,今年で8回目ということです。ちなみにドレスの色は,紫でした。ただし,時々,色合いが青?に変化する不思議な色でした。辻さんの演奏の方も,このドレス同様に,大変ニュアンス豊かでした。

辻さんの音には,真摯さと同時に密度の高さがあります。そして,ヴァイオリンの歌わせ方に,常にテンションの高さが秘められているのが素晴らしいと思います。今回のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番でも,昨年までライジングスターコンサートで聞いて来た難技巧の独奏曲と同様の充実感のある演奏を聞かせてくれました。

モーツァルトのシンプルな曲の中に,絶妙のニュアンスの変化が付けられており,プロの奏者によるモーツァルトだなぁと実感しました。第2楽章での陶酔感のある美音も印象的でした。第3楽章は,中間部で「トルコ風」に変化しますが,この部分を中心として,ドラマを感じさせるような雄弁な演奏を楽しませてくれました。

前半の2曲は,OEKの方は,実は全く同じ編成(弦五部+オーボエ2+ホルン2)でした。演奏後の新倉さんと辻さんへのインタビューの時に,「原田先生と一緒に演奏できることがうれしい」とお2人は語っていましたが,両曲とも,その雰囲気通りのどっしりとした暖かみと包容力のある演奏を聞かせてくれました。ちなみにこの日のコンサートミストレスは,松浦奈々さんでしたが,松浦さんもIMA出身者です。

後半は神尾真由子さんが登場し,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。神尾さんは,OEKとは何回か共演していますが,メンデルスゾーンをOEKと演奏するのを聞くのは今回が初めてです。

神尾さんは,IMAの講師としても参加しているのですが,今回の演奏も,既に若手奏者による演奏という雰囲気ではなく,女王様的な貫禄のある聞きごたえたっぷりの演奏となっていました。裾の長い,鮮やかな青のドレスで登場した神尾さんの雰囲気は,大物女優的なオーラを漂わせているようでした。

第1楽章の冒頭部から,通常聞くこの曲とはかなり違った雰囲気の歌わせかたをしていました。ヴィブラートをしっかり聞かせ,かなり弱い音から入っていたので,どこかギクシャクした感じに聞こえたのですが,次第に音量がアップし,神尾さん独特の凛とした鋭い響きが出てきたり,スケール感たっぷりの雰囲気になってきました。

メンデルスゾーンのこの曲については,個人的には叙情的にサラリと演奏する方が良いような気もするので,強弱を変化を強調し,クライマックスで大見得を切るような演奏は,「やり過ぎ」のような気もしましがた,聴衆の耳をぐっと引き付けるアピール力は素晴らしいと思いました。

反対に第2楽章は抑制した美しさ,第3楽章は軽やかな躍動感を感じさせてくれました。ただし,どの楽章のどの部分について,「神尾さんの意識」が隅々まで行きわたっている感じで,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲というよりは,神尾さんのヴァイオリン協奏曲といった演奏に感じられました。

少々好みが分かれる演奏だった気はしましたが,神尾さんの音の迫力と個性の強さを感じることのできる演奏だったと思います。

アンコールでは,お得意のパガニーニのカプリースの中から,いちばん有名な第24番が鮮やかに演奏されました。

この日は夏休み中ということもあり,親子連れのお客さんや中高生のグループが大勢聞きにきていました。今日の演奏を機会に,未来のIMA受講生が出てくることを期待したいと思います。

2017/08/11

オペラ版「死神」を落語版と2本立てで鑑賞。特に沢崎恵美さんの死神は,カルメンを思わせる悪女の魅力。千変万化の合唱団も大活躍でしたね。8/11も同一公演があります。涼しくなりたい方はどうぞ #oekjp

今晩は,落語「死神」をオペラ版「死神」と合わせて楽しむという,石川県立邦楽ホールならではの企画があったので聞いてきました。

もともと落語「死神」の方は三遊亭圓朝の落語で,ブラックユーモアの味わいのある名作なのですが,これをもとに映画監督として有名だった今村昌平さんが脚本を書き,お馴染み池辺晋一郎さんが音楽を付けてオペラ化したのが,オペラ版です。

そのいちばんの違いは,オペラ版では,死神が艶っぽい女性になっていた点です。そのことによって,ドラマ全体に華やかさが増し,人間の生命力(特に女性の生命力)が強調されたいたように感じました。

池辺さんによるオペラ版や約2時間かかるもので,死神役のソプラノの沢崎恵美さんと葬儀屋役のバリトンの泉良平さんを中心に物語が進みます。儲からない(?)葬儀屋をたぶらかし,死神の言う通りにやっているうちに葬儀屋は,「難病でも治す名医」のようになりお金持ちになっていきます。その展開は落語と共通するのですが,オペラ「カルメン」を観るように,どんどんと風采の上がらない男性が女性にのめり込んでいく感じはオペラならではの面白さでした。

何といっても死神役の沢崎さんのシュッして妖艶な感じが,このキャラクターにぴったりでした。第2幕の最初に1つアリアがありましたが(この曲以外は特にアリアはなかったと思います),この曲を中心に魅力を発散していました。瑞々しさのある声も大変魅力的でした。ただし,本当の悪女というよりは,落語が原作という味も残っており,どこかユーモラスな雰囲気も出していました。

泉さんの方は,凶暴な(?)妻に支配されてい,風采のあがらない。「○○○な」(この部分が大人向けの理由でしょうか)葬儀屋役で,前半はそのとおりの雰囲気があったのですが,死神と接しているうちに,段々と自信が出てきて,格好良く見えてくる辺りが面白いと思いました。泉さんの堂々たる声は,オリジナルが落語と思えない,スケール感を作品に加えていました。

最後,死神の手先になっていることへの罪悪感に目覚めるあたりは,「落語」にない部分です。さらに,色っぽい死神のお蔭(?)で○○○は治ったようで,妻に「子ども」が出来ていました。ただし,この「子ども」の父親は,妻が若い葬儀屋との間の子ども(?)という可能性もあり,謎を残した形になっていました。

この辺の葬儀屋の妻の「たくましさ」というのは,考えてみると死神と同様とも言え,やはり男性より女性の方が絶対に生命力はあるなぁと感じました。この葬儀屋の妻約の二渡加津子さんの迫力のある歌と演技も印象的でした。

このオペラ全体としては,合唱団が大活躍していました。色々な職業の人を含む街の人びと,ヤクザ役,医者役,看護婦役,キャバレーのシーン...これだけ多彩な役柄で登場することも珍しいのではないかと思います。

池辺さんの音楽は,特に沢崎さんの歌う曲などには,ちょっとシュプレッヒシュティンメを思わせる難解な感じの曲が多かったのですが,合唱団の曲には,「ふしぎだな,ふしだな」など,親しみやすく分かりやすい曲が比較的多く,オペラ全体が暗くなるのを防いでいたと思いました。それと,今村さんの脚本自身がそうなのだと思いますが,「どこか昭和」な雰囲気が感じられ(例えば,交通事故の件数などは,現在よりずっと多かったはずです),それが味となって感じれました。

池辺さんの音楽には,現代音楽風のシリアスさと昭和風の分かりやすさが混在させることで(途中,懐メロが1曲入りましたね),オペラ全体を観やすくかつ,深みのあるものにしていたと思いました。松井慶太さん指揮の小編成のOEKも,打楽器やピアノなど多彩な楽器が加わることで,ドラマに彩りと緊迫感を加えていました。

そして,最後の場ですが,やはり,落語同様,沢山のろうそくが出てきました。人間の生命をロウソクに例えるというのは,やはり,外すわけにはいきませんね。この部分での背景に「死神マスク」がうごめく中での「ロウソク沢山」という雰囲気は,やはりこのオペラのいちばんの見せ場だと思いました。

このオペラは,何回も色々な編成で再演されてきているそうですが,人間の生命力のはかなさと逞しさの両方を感じさせてくれる点で,落語同様に名作といっても良いのではないかと思います。

前半の古今亭志ん輔さんによるオリジナル版も素晴らしいものでした。志ん輔さんの声は,口跡が良く,落語を滅多に聞かない私のようなものにも,この落語のストーリーがくっきりと伝わってきました。語り口に軽さと渋みとが両立しており,死を扱っているにも関わらず,重苦しくなくなることなく,生命のはかなさのようなものを実感できました。

というわけで,オリジナルのシンプルな味,オペラ版のスケール感の両方を楽しめた今回のような機会は大変貴重だったのではないかと思います。少々終演時間が遅くなりましたが(21:45頃,「夏休み前」特別公演といったところでしょうか),落語にぴったりの,石川県立音楽堂邦楽ホールならではの好企画だったと思いました。

PS.ロウソクは生命のたとえによく使われるのですが,実際に染色体の一部に「テロメア」というロウソクのような部分があるそうです。次のような番組で取り上げられています。個人的に,結構感心があります。

2017/08/06

東京大学音楽部管弦楽団サマーコンサート2017金沢公演。充実のロシアプログラムを三石精一さん指揮で見事に聞かせてくれました。

本日は,東京大学音楽部管弦楽団のサマーコンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われて来たので聞いてきました。東京大学音楽部管弦楽団は,数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢に出演されたことがありますが,演奏旅行(学生オーケストラでツァーというのがまず,凄いのですが)で金沢に来られたのは...初めてのことかもしれません。

今回聞きに行こうと思ったのは,やはりラ・フォル・ジュルネ金沢での好印象が残っているからです(それと,ツイッターの力です)。調べてみると2011年の「シューベルト」の時に来られています。その時も,聞いているうちに「大学生が演奏している」ということを忘れそうでしたが,今回も同様でした。どのパートにも不安定なところはなく,ロシア音楽を集めた充実のプログラムをしっかり楽しむことができました。

最初のグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲は,プログラムの解説には「速弾きの練習の成果をお楽しみに」と書かれていましたが,そこまで猛烈な速さではなかったと思います。しっかりと音を鳴らし切った余裕のある演奏でした。冒頭からティンパニの野性的な強打が素晴らしく,低弦を中心とした重心の低いサウンドがグリンカにぴったりだと思いました。

2曲目のショスタコーヴィチの交響曲第9番は,今回,特に楽しみにしていた曲です。もともとディヴェルティメント風の軽さのある曲ですが,第1楽章の冒頭から気負ったところのない,脱力感が素晴らしいと思いました。今回の指揮者は,東大のオーケストラを長年指揮されている,超ベテラン指揮者の三石精一さんでしたが,その落ち着きのある指揮ぶりが,自然な「軽み」を生んでいたと思いました。

この曲には,ソリスティックな部分も沢山出てきます。要所で出てくるピッコロの存在感。印象的な音型を「お呼びでない?」という感じで何回も演奏するトロンボーンのとぼけた味。切れ味良く演奏されていたコンサートマスターのソロ。どれもイメージどおりの演奏でした。

さらには,しっとりした味のある第2楽章でのクラリネット,第3楽章でのトランペットの気持ちの良い音,第4楽章でのトロンボーンとテューバの荘重なファンファーレ。どれも充実した演奏でした。そして第5楽章への導入となるファゴット。このソロは,とても長く,意味深のものでしたが,見事に聞かせてくれました。

第5楽章では,後半,タンブリンなどのパーカッションが盛大に加わって,ちょっとチープな感じで盛り上がった後,本当に軽やかに締めてくれました。東大メンバーの演奏も素晴らしかったのですが,三石さんの若々しさも素晴らしいと思いました。

後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」でした。チャイコフスキーの交響曲については,アマチュア・オーケストラが頻繁に取り上げるレパートリーですが,熟練の演奏という感じで,特に安心して楽しむことができました。

この曲についても,第1楽章の冒頭から深刻になり過ぎることなく,しっかりとした美しい音を楽しませてくれました。特にヴィオラの音が美しいなぁと思いました。第2主題も甘く成り過ぎることなく,ロマンの香りをほのめかせつつ,美しく聞かせてくれました。ppppppの弱音の後に始まる強烈な展開部も神経質になり過ぎることなく,鮮やかに決めてくれました(今回は,プログラムの曲目解説が非常に充実していたので,それを見ながら書いています)。その後,金管が炸裂する部分は,一瞬ちょっとヒヤリとする部分がありましたが,凄味のある盛り上げを聞かせてくれました。

第2楽章の暖かみのあるチェロの音と中間部でのちょっと不吉な雰囲気のあるヴァイオリンも良い味わいを出していました。第3楽章は堂々たる演奏でした。安定感のあるテンポでクリアに始まった後,次第に熱くなり過ぎることなく,巨大に盛り上がって行きました。この部分では,個人的には大太鼓の腹に応える強打とシンバルの強打の連携をいつも楽しみにしているのですが,迫力と鋭さのある素晴らしい音で◎でした。

楽章の後,間違って「拍手がはいるかな?」とも思ったのですが,無事入りませんでした。そのお蔭で,楽章の後の「静寂」をたっぷり味わうことができました。プログラムには第3楽章最後の部分の楽譜が掲載されていましたが,最後に休符が入っていることの意味が分かりました。祭りの後の静寂のような気分になりました。

そして,第4楽章に入っていきますが,クールかつ盛大に盛り上がった第3楽章の後だと,大変情感豊かでウェットに響いていました。見事なコントラストでした。クライマックスの部分では,ミュートを付けたホルンの不気味な音が大変効果的でした。銅鑼の音は大変静かでした。その後,しんみりとした気分になっていきます。最後部分での力をふり搾るように続く,コントラバスの鼓動のような音も印象的でした。

最後,東大オーケストラ伝統となっているアンコールがありました。プログラムの裏表紙に「歌声ひびく野に山に」というドイツ民謡の譜面が印刷されていたので,何かあるな?と思っていたのですが,最後にこれを会場のお客さんと一緒に輪唱をするという楽しい趣向でした。こういう「伝統」があるのも良いですね。

今回の演奏会については,東大オーケストラのツイッターの宣伝の力で聞きに行こうと思ったようなところもあるのですが,SNSの活用については,恐らく,プロオーケストラの方が学ぶべきところが多いと思いました。北陸新幹線の開通後は,東京と金沢の距離も縮まったので,機会があれば,また金沢公演を期待したいと思います。

2017/07/29

井上道義さん,来年3月にOEK音楽監督を退任。寂しさ+新時代への期待。そして感謝の気持ちでいっぱいです。その思い出などをまとめてみました #oekjp

井上道義さんが今年度限りでOEKの音楽監督を退任するというニュースを聞いて,寂しくなるな,という思いと同時に,やはりそうだったのか,と思いました。

来シーズンの定期公演プログラムを見た時,すぐに来年3月の公演が,ハイドンの交響曲「朝」「昼」「晩」になっているのに気づきました。
http://www.orchestra-ensemble-kanazawa.jp/concert/2018/03/401_1.html#more

過去の記録を調べてみると,井上さんがOEKの定期公演を初めて指揮したのは,渡辺暁雄さんの代理で登場した1990年4月の公演。その後,1992年5月の定期公演で,恐らく,井上さん自身によるプログラムで登場しています。その時,最初に演奏したのが,ハイドン/交響曲第6番「朝」でした。その後,「朝」「昼」「晩」を全部取り上げた定期公演も行っていますので,個人的には,井上さんとOEKのつながりの原点にあるプログラムという印象を持っています。

そのプログラムが再登場したということで,「もしかしたら」という思いがありました。

井上さんの指揮に初めて接したのは,上述の,渡辺暁雄さんの代理で登場した時でした(今から思えば,この公演,実現して欲しかったのですね。その後,すぐ渡辺さんは亡くなられてしまいました)。

井上さんが,石川厚生年金会館の下手側から登場した時の印象は,強く印象に残っています。両手を広げ,半分客席の方に体をひねって,とても明るい笑顔で登場されました。その指揮を見た時,なんとしなやかで美しいのだろう,と感激しました。色々な意味(?)で光り輝いている指揮者だと思いました。

最初に演奏したのは,モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークでした。古典派の音楽といえば,「大人しい」「まとまりがよい」という印象を持っていましたが,その指揮の動作同様のしなやかな流動感があり,素晴らしいと思いました。岩城さんの音楽は,質実剛健な感じがあったので,特に華やかに感じました。そして,その印象は現在も同様です。

その後,井上さんが岩城さんの後を継いで,OEKの音楽監督になると決まった時,とても嬉しく思ったことを思い出します。

井上さんの実績といえば,やはりラ・フォル・ジュルネ金沢を誘致したことが大きかったと思います。OEKの存在感を高め,ファン層を大きく広めました。さまざまな,パフォーマンスを含む冒険的な演奏会も印象に残っていますが,色々な言動の中で,常に「若いアーティスト」や「若い聴衆」のことを意識していたのも素晴らしいと思っていました。

というわけで,思い出を振り返るにはまだまだ,早いのですが,非常に寂しい思いがしています。
ただし,10年で一区切りを付け,また違った色合いのOEKの時代を楽しんでみたいという思いがあります。私の場合,特定のアーティストだけを強く応援する,というよりは,色々なアーティストによる色々なスタイルの演奏を楽しみ,比較することの方が好きなので,そういう点でも,OEK新時代に期待しています。

それにしても,来年の3月は首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんも定年になられるし,一つの時代に区切りになりますね。

井上さんの場合,数年間の大病から復帰後,以前同様に活動されていますので,音楽監督という立場を離れて,今まで以上に自由な演奏をOEKと聞かせてくれるのではないかと思います。

というわけで,井上さんが,世界からいなくなるわけでないので少々変なのですが,今の気持ちとしては,感謝の気持ちでいっぱいです。

2017/07/18

OEKの今シーズン最後は井上道義指揮,ティエリー・エスケシュのオルガンによる,OEKらしいプログラム。エスケシュの自作自演の新作はオルガンのイメージを変えるような,不思議な音世界。おなじみカンタさんのチェロ独奏によるサン=サーンスも安心して楽しめました #oekjp

OEKの2016/2017定期公演フィルハーモニーシリーズのトリは,井上道義音楽監督の指揮による,石川県立音楽堂のパイプオルガンを大々的に使ったプログラムでした。プログラムの中心は,OEKの今シーズンのコンポーザー・オブ・ザ・イヤーで,オルガン奏者でもあるティエリー・エスケシュ作曲によるオルガン協奏曲第3番という新作でした。

これまで,新曲は前半に演奏されることが多かったのですが,30分以上かかる未知の曲を最後に持ってくるというのは,余程,エスケシュさんに対する信頼がないとできないことです。実際,最後の曲に相応しいスケール感とストーリーを持った作品でした。

まず,「オルガン=重厚」というイメージを壊してくれました。冒頭から,どこか可愛らしさのある高音が印象的でした。曲の方は,打楽器を大々的に使っている点も特徴で,特に金属系の打楽器とオルガンの音が重なりあうことで,「この音は一体何の音だろう?」という,電子音を思わせるような不思議な響きが続出していました。

曲は4つの部分から成っており,古い時代から現代へと,音楽の歴史を辿るといったコンセプトを持っていました。聴けば何時代の音楽か分かる...というほどの明快さはありませんでしたが,各部分ごとに違った雰囲気で作られており,全曲を通して,壮大なスケール感を感じました。

エスケシュさんの使うオルガンの音には,どこか透明感があると思いました。オルガンの音だけが盛大に目立つことはなく,オーケストラの各楽器の音と一体となって,「これまでにない音」をブレンドしているように感じました。OEKの編成自体も,いつもよりもやや大きめでしたが(トロンボーンが加わっていました),オルガンが加わることで,室内オーケストラというよりは,フル編成オーケストラのような音になっているように感じました。

エスケシュさんは,演奏会の最初に,井上道義さんが提示した主題(交響曲「未完成」をもとにした主題)による即興演奏も行いましたが,本当に多彩な音のパレットを持ったオルガン奏者だと思いました。それと音の使い方のセンスがとても良いと思いました。

今回,エスケシュさんとOEKは,中部地方を中心に,パイプオルガンを持つホールをめぐるツァーを行います。各会場のオルガンの性能や音色に応じた形で,どういう即興演奏を行うのか,楽しみですね。追っかけるわけではないので,聞き比べはできませんが,画期的な企画と言えそうです。

その他,前半ではシューベルトの「未完成」交響曲とサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。

「未完成」交響曲については,名曲中の名曲ということで,今回,井上道義さんは,ステージ下手側に弦楽器,上手側に管楽器を集めるという,非常に変則的な配置を取っていました。ただし,この配置については,数年前の北陸新人門登竜門コンサートの時に「未完成」を演奏した時も同様でした。「「未完成」については,この配置の方が良い」という確信に基づく配置だったと思います。

実際,冒頭から正面奥の高い場所に配置したチェロやコントラバスの音がとてもよく響いていました。また,弦の刻みもしっかりと聞こえてきました。管楽器の方は,上手側に集めることで,管楽器パート全体としての存在感が明確になっていたように聞こえました。「未完成」の場合,オーボエ,クラリネット,フルート,ホルンなどが第2楽章を中心に活躍しますが,その響きがとても美しく厚いと感じました。

そして何よりも,井上さんのじっくりとしたテンポ設定が印象的でした。シューベルトの晩年の作品ならではの,天国に一歩,近づいたような美しさがありました。あらためて「未完成」は良い曲だなぁと再認識しました。
前半最後は,OEKの首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんの独奏で,サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。全曲を通じて,生き生きとした音楽と流れと,ノーブルなチェロの音色を楽しむことができました。第1楽章では,一瞬,カンタさんのチェロが乱れる部分がありました。例えば私だったら(ものすごく変な例えですが...何事につけ),動揺して,その後,ムタムタ(金沢弁)になってしまう気がするのですが,カンタさんは,その後,平然と気持ち良い音楽を聞かせてくれえました。その辺のリカバリー力に,ベテラン奏者のすごさを感じました。

これでOEKの2016/2017シーズンも終了です。最後に実にOEKらしいプログラムを楽しむことができました。

2017/07/15

#大阪フェスティバルホール で #井上道義 指揮大阪フィル他による #バーンスタイン の「ミサ」全曲を聞いてきました。ジャンルを超えた多彩な音楽に浸りながら,平和と権威のはかなさを実感。深く刺激的な作品でした

本日は大阪フェスティバルホールまで遠征し,大阪フィル70周年記念及びフェスティバルシティ・オープン記念として行われた,レナード・バーンスタン作曲の「ミサ」の全曲公演を聞いてきました。

この公演を聞きに行こうと思ったのは,何といってもSNSでの広報の力です。春頃から繰り返し,充実した公演情報や出演者のインタビュー動画などの情報が流れてきて,「四半世紀に1回ぐらいのビッグイベントかも」という気分が自然に盛り上がってしまいました。もちろんOEK音楽監督でもある,井上道義さんが本気で取り組んでいる難曲であること,そして金沢でもお馴染みの若手の歌手たちが大勢出演していること,そして...3連休初日であることもその理由です。さらには新しくなった大阪フェスティバルホールに行ってみたいという気持ちもありました。

このバーンスタインの「ミサ」は,大まかに言うと,ミサを取り仕切る司祭の苦悩とミサの自体の崩壊。そして回復。これらを歌あり,踊りありの約2時間のシアターピースのスタイルで描いています。いちばんの特徴は,クラシック音楽の枠に留まらない多彩な音楽を使っている点です。バーンスタインの生まれたアメリカは,民族的に多様なルーツを持つ国です。民族面と同様の音楽面での多彩さを表現した作品と言えます。

録音された無調音楽,親しみやすいミュージカル風の曲,ロック,ブルース,行進曲,荘重なクラシック音楽,慰めるような音楽,扇情的な音楽....。演奏の編成についても,独唱,合唱,少年合唱と多彩です。オーケストラのうち弦楽器と打楽器はピットに入り,木管楽器,金管楽器がそれぞれ下手袖,上手袖にバンダのような感じで配置。ステージ上中央に祭壇。その両脇にロックバンドとブルースバンド。そしてステージ奥に合唱団が配置していました。

歌手については,役が決まっているのは司祭役ぐらいで,その他の歌手は,アンサンブルで歌を歌ったり,ダンスや演技をしたりするストリートコーラスということになっていました。

というわけで,「こんな作品他にない」という構成・編成の作品でした。この曲が滅多に演奏されないのは,まず,このことが理由でしょう。それに加え,「ミサ」というタイトルでありながら,キリスト教を冒涜するような場面が出てくることも演奏回数が少ない理由となっているようです。

曲全体として,明確なストーリーはありません。伝統的な権威の象徴である司祭が,民衆たちからの激しい突き上げに合って,ミサ自体が崩壊してしまいます。最後はボーイソプラノの声が象徴する大きな存在の力(この辺はよくわかりませんが)で,平和は回復されるのですが,宗教的な儀式を司祭が放棄してしまう,という展開は前代未聞だったようです。

司祭がミサを放棄した理由については,初演当時のアメリカの抱えていた社会問題を象徴的に表現しているようですが,今回の井上道義さん演出(今回は指揮だけではなく,全体も取り仕切っていました)による公演を観て,もっと普遍的な理由を感じました。現代人の多くが共通して抱えている心の中に秘めた葛藤のようなものが,多彩な音楽の積み重ねを通じて,段々と高まって行くような印象を持ちました。そして,作曲者レナード・バーンスタイン自身の心の葛藤を描いていたと感じました。

実際,今回の司祭役の大山大輔さんは,レナード・バーンスタインがよく首に巻いていたマフラーをつけていました。大山さんの声には,司祭にふさわしい立派さだけではなく,弱さを持った等身大の人間らしい優しさと柔らかさを持った歌を聞かせてくれました。特にアニュスデイでの「狂乱の場」は,音楽自体の異様な迫力(照明も結構すごいことになっていました)も相俟って,客席にいながら,「これは大変な場に遭遇してしまったな」と思いました。

最後の「平和の回復」の部分でも,シアターピースならではの,「見せる演出」がありました。ステージ奥の高いところにフルート奏者が登場。いつの間にかそこに滑り台(!)ができていました。ボーイソプラノの少年が1人滑り降り,取り壊された祭壇の下から出てきた白いピアノの上へ。そこで文字通り「天使のような歌」を聞かせてくれました。今回の公演の成功は,この最後の歌と演出に負うところが大きかったと思います。ブラーヴォ。

もちろん,前半の多彩な音楽が次々と登場するのも魅力的でした。特にストリート・コーラスのメンバーが,ビートを聞かせたエレキ・ギターや電子オルガン(この音を聞くと,どこか1960~70年代のアメリカといった気分になりますね)などと一緒に歌う曲は,通常のクラシック音楽にはない魅力を感じました。

それにしても,今回のメンバーは豪華メンバーでした。私がこれまで金沢で実演を聞いたことのある人を列挙すると,小川里美、小林沙羅、鷲尾麻衣(先週聞いたばかり!)、藤木大地、久保和範、与那城 敬、ジョン・ハオ...記念公演ならではの,華やかさでした。

背後で歌っていた大阪フィルハーモニー合唱団の皆さんは,「民衆の声」という感じで,ドラマの要所要所で音楽を盛り上げてくれました。特にグローリアの中のトロープス(この公演のプロモーション動画で使っていた曲)の力強さが印象的でした。余談ですが...この曲を聞くと,どうも「ひょっこりひょうたん島」のテーマ曲を思い浮かべてしまいます。私だけでしょうか?
http://blog.osakafes.jp/archives/2453

全曲を振り返ってみると,司祭が最初に歌っていた「シンプルソング」の美しさが,懐かしく思いだされます。べートーヴェンの第9の4楽章ではありませんが,こういったシンプルな曲が音楽の原点なのかもしれません。そして,最後,ボーイソプラノの声で救済されたことも意味深だと思います。ボーイソプラノという声自体,非常に儚いものだからです。世界の平和は儚さの上に成り立っている,,,ということになります。司祭が語っていた「何事もすぐに崩れやすい」とやすい,という言葉はやはり解決されないのだな,と思いました。深い作品だなと思いました。

音楽の性格としては,本当のミサではなく,「ミサ」というタイトルの「ほとんどミュージカル」といった作品だと思います(キリスト教を題材にし,ロックを使ったミュージカルという点では,「ジーザス・クライスト・スーパースター」と共通する部分もあるかもしれません)。音楽自体に魅力があるので,レパートリーとして定着していってもよい作品だと思いました。
PS 久しぶりに出かけた大阪フェスティバルホールは,大変豪華な雰囲気がありました。赤じゅうたんと大階段がそのまま残っていたのも嬉しかったですね。今回は,”安い”席を最近買ったので,最後列(いちばん”高い”席)になりました。この席からだと,まさに”神”のような視点で,全体を見渡すことができました。音もよく聞こえたし,今回の公演には,最適のホールだった気がしました。

2017/07/13

OEK第2ヴァイオリン奏者の若松みなみさんのヴァイオリン・リサイタル。フランクのソナタを中心にどの曲も爽快に聞かせてくれました。

先週の土曜日から,5日間で4日目となるのですが,本日は,OEKの第2ヴァイオリン奏者,若松みなみさんのリサイタルが行われたので聴いてきました。若松さんはOEKの中でも,最も若い世代の奏者で,今回が初めてのリサイタルとのことでした。というわけで,OEKファンとしては応援しないわけにはいきません。

今回のプログラムは,フランクのヴァイオリン・ソナタ,ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ,モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第25番を中心に,若松さんの演奏したい曲がしっかりと並んでいました。若松さんのヴァイオリンは,どの曲も,本当に音がしっかりと鳴っており,聴いていて惚れ惚れとしました。音が大変豊かで,音を聞くだけで幸福感を感じました。神経質な部分はなく,どの曲にも演奏する喜びが素直に表れていると感じました。

特に最後に演奏されたフランクのソナタの爽快な演奏には,若手奏者ならではの魅力が溢れていました。このところ,湿気が高く,疲労がたまり気味でしたが,週末金曜日まで働くエネルギーが湧いてきまいした。

後半の最初に,同じOEKのチェロ奏者,ソンジュン・キムさんのチェロとの二重奏で,マルティヌーのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第2番が演奏されました。この曲だけは,やや苦み走ったような気分があり,プログラム全体の中で,絶妙のアクセントになっていました。

前半最後に演奏された,サラサーテの「序奏とタランテラ」は,そのタイトルどおりの曲です。最初の音を聞いた瞬間,スペインの陽光が溢れてくるような気分になり,とても良い曲だと思いました。後半のタランテラの部分での技巧的な部分も気持ちよく楽しまてくれました。

ピアノのジュヌゥ・パクさんの演奏には,マイルドな包容力が感じられ,若松さんをしっかりとサポートしていました。

終演後の拍手も大変暖かいものでした。若松さんは,OEK入団後,「金沢が大好きになりました」と語っていましたが,金沢のOEKファンにもしっかりと愛されているなぁと実感しました。今後もソロや室内楽での活躍にも期待したいと思います。

«石川県立音楽音楽堂 室内楽シリーズ。2017年度第1回は,OEKメンバーによる七重奏曲×2曲。ベートーヴェンと「ほぼジャズ」のマルサリスの曲の組み合わせは最高。ジャズも演奏できてしまうOEKメンバーに感服 #oekjp

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