OEKのCD

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2019/01/12

2019年最初のOEK定期は,フォルクハルト・シュトイデさんの弾き振り&リードによるモーツァルトとシュトラウス・ファミリーの音楽。新年らしい清新さと上品な華やかさのある演奏。今年も色々な公演を楽しめそうです。 #oekjp

2019年最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会は,恒例のニューイヤーコンサートでした。昨年のちょうど今頃は,50cmぐらいの雪が積もっていたのですが,今年は暖冬傾向ということで,本日は音楽堂まで自転車で往復しました。

登場したのは,ウィーン・フィルのコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデさんで,昨年に続いての「弾き振り」を交えての演奏となりました。プログラムの構成もほぼ同様で,前半は序曲的な曲に続いて,シュトイデさんの独奏による協奏曲。後半はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを彷彿とさせるような,シュトラウス・ファミリーの音楽でした。

前半・後半ともに,派手に聞かせるというよりは,音楽そのものを流れよく,すっきりと聞かせるような演奏で,正月の気分に相応しい,清新さと品の良い華やかさが漂う,素晴らしい雰囲気の公演だったと思います。何より「このパターンが,OEKのニューイヤー・コンサートの定番かも」と思わせる安定感があるのが良かったですね。

前半の最初のモーツァルトの交響曲第1番は,昨年5月の楽都音楽祭の時,アシュケナージさん指揮OEKで聞きましたが,その時よりも音にビシッとした芯があり,聞き応えを感じました。続く協奏曲もモーツァルトの作品で,名曲の割りに比較的演奏されることの少ない,ヴァイオリン協奏曲第4番がシュトイデさんの弾き振りで演奏されました。考えてみると,シュトイデさんが立って演奏していたのはこの曲だけでした。

シュトイデさんのヴァイオリンの音には,切れ味の良い細身の刀を思わせるようなきらめきがありました。速めのテンポですっきりと演奏しつつ,次々と湧き出てくる美しい曲想を鮮やかに聞かせてくれました。アビゲイル・ヤングさんを中心としたOEKの演奏も自発性に富んでおり,幸福感に溢れた音の世界を楽しむことができました。

後半は,お待ちかねのシュトラウス・ファミリーの音楽でした。こちらも昨年と同様で最初に「ジプシー男爵」序曲,最後に「皇帝円舞曲」と規模の大きめの曲を配し,その間にポルカ,ギャロップ,軽めのワルツなどが並ぶという構成でした。

前半同様,シュトイデさんの作る音楽には,「無理矢理」感がなく,どの曲も大変気持ちよく,流れの良い音楽を楽しむことができました。途中,お客さんを楽しませるためのパフォーマンスが入るのも昨年同様でした。ニューイヤーコンサートは,金沢公演の後,富山県射水市や東京でも行われるのであまり詳しくは書かないのですが...今年もまたMVPは,打楽器奏者のグンナー・フラスさんでした。とりあえずは「クラップフェンの森で」にご注目ください。それともう一つOEKメンバーが,「楽器以外」で活躍する曲があります。こちらもお楽しみに。

演奏会の最後は,タイトルからして,シュトラウスのワルツの中でも,特に立派な雰囲気のある皇帝円舞曲で締められました。曲の最後の部分,チェロ(おなじみカンタさんでした)のソロが入り,室内楽的な雰囲気になった後,大きく盛り上がって終了。この曲はトリにぴったりですね。

そしてアンコールで,お約束どおりの手拍子入りの「ラデツキー行進曲」でおしまいでした。あまりビシビシ仕切らない,のどかな雰囲気が良かったですね。

演奏会の後,OEKメンバーが音楽堂の入口付近で,恒例のOEKどら焼きを配布していました。こちらの方も「これがないと新年になった気がしない」というぐらい定着しましたね。というわけで,華やか,かつ穏やかな気分で新年気分の最後を味わうことのできた演奏会でした。

2019/01/03

2019年最初の演奏会は,OEKメンバーによる新春ミニコンサート@石川県庁19階展望ロービー。大勢のお客さん一緒に,音楽による初「日の出」を楽しみました。

2019年最初の演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる新春ミニコンサートでした。毎年1月3日に石川県庁19階展望ロービーで行っているもので,大勢のお客さんで賑わっていました。私の場合,今年の正月3が日は,初詣に行った以外は,「ほぼ家の中」でゴロゴロと過ごしていましたので,絶好の気分転換になりました。そういった方が大勢集まっていたのではないかと思います

演奏された曲は,ハイドン :弦楽四重奏曲「日の出」~第1楽章,ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番~第1楽章,ドヴォルザーク:ユーモレスクということで,比較的堅めの選曲でしたが,30分ほどの時間,しっとりとした弦楽四重奏の音色を楽しむことができました。登場したのは,ヴァイオリンが原田智子さん,江原千絵さん,ヴィオラが石黒靖典さん,チェロが早川寛さんでした。

ハイドンの「日の出」は,恐らくこの展望ロビーにちなんでの選曲でしょう。今年の場合,初日の出の時間帯はしっかり晴れていましたので,このロビーからもしっかりと見られたのではないかと思います。この曲の第1楽章の出だしの部分は,じわ~っと太陽が昇っていくような雰囲気がありますので,「音楽による初日の出」といったところです。今回の演奏はロマンティックな気分が漂うぐらい,柔らかな空気感がありました。少々くすんだ感じがあったので,冬の金沢の空にぴったりだと思いました。

続くベートーヴェンの弦楽四重奏曲は,恐らく「第1番=最初=1年の最初」というつながりで選ばれたのではないかと思います。実は,12月20日に石川県西田幾多郎記念哲学館で行われた,OEKメンバー(今回とはヴィオラの石黒さんを除くと別メンバー)によるコンサートで聞いたばかりの曲だったので,図らずも聞き比べのような形になりました。この曲についてもじっくり,ゆったりと演奏され,豊かな情感が耳に染みこんでくるようでした。特に第1ヴァイオリンの原田智子さんの表情豊かな演奏が印象的でした。

最後は,ドヴォルザークのユモレスクがアンコールのような感じでリラックスした雰囲気で演奏されて,終了しました。

この日はお客さんが多すぎたこともあり(私は13:00からの1回目の方を聞きました),会場に到着した時は,椅子席が全部埋まっており,立ったまま聞くことになってしまいました。補助席がもう少し欲しいところでしたが,これも地元でのOEKの人気によるところでしょう。

今年もまた,可能な限り演奏会通いをして,色々な音楽を楽しみたいと思います。

2018/12/30

今年もあとわずか。2018年のOEKの公演を定期公演を中心に振り返ってみました。 #oekjp

2018年もあとわずかです。今年も石川県立音楽堂で行われたOEKの定期公演を中心に,数多くの演奏会を楽しむことができました。この時期,音楽雑誌では,ベストコンサートを決める企画もありますが,私の場合,何事につけ「これがいちばん」を決めるのが苦手なので(正直なところ,記憶がどんどん薄れていくので...),全体的な印象を振り返ってみたいと思います。

今年のOEKの定期公演のうち,9月最初の川瀬賢太郎さん指揮のものだけは聞きに行けなかったのですが(その代わり,同一内容の大阪公演を聞きに行きました),それ以外はすべて聞くことができました。フィルハーモニーとマイスターの定期公演をタイプ分けすると,次のような感じになると思います。

A OEKのレパートリーの根幹,古典派~初期ロマン派の作品中心のプログラム
B バロック音楽など古楽系の指揮者による声楽が加わるプログラム
C 編成を少し大きくしてのロマン派プログラム
D 指揮者のこだわりのプログラム
E オペラ

OEKの定期会員に入っていれば,これらをバランス良く楽しますね。フル編成のオーケストラの定期公演の場合より,A,Bが多い分,プログラムの多様性や工夫があるのがOEKの良さです。そして,近年は,以前にも増して,世界的に著名なアーティストによる,OEK独自企画的な公演が多かったと思います。ちょうど1年前の1月にマルク・ミンコフスキさんがOEKの芸術監督になることが発表されましたが,このことがその象徴だと思います。そして,このことは,OEKの試行錯誤の30年の歴史の成果だったのではないかと思います。

そのミンコフスキさん指揮による,7/30の「ペレアスとメリザンド」定期公演は,記念碑的な公演でした。通常のオペラとは一味違う,演劇的で象徴的なオペラの魅力を理想的なキャストと見事なプロジェクションマッピングとともに伝えてくれました。その他のオペラ公演では,11/25の「リゴレット」も,金沢初演でした。青山貴さん,森麻季さんを中心に,イタリア・オペラの中でも特に魅力的な作品をしっかり楽しむことができました。

ただし,オペラというのは,やはり総合芸術なので,OEKファンとしては,上記のタイプAのOEKの根幹プログラムを色々な指揮者で楽しむことができたのが,いちばん嬉しかったですね。井上道義さんの音楽監督として最後のステージとなった3/17公演でのハイドンの「朝・昼・晩」,9月からOEKの指揮者団に加わったユベール・スダーンさん指揮による10/13公演でのハイドンの103番,シューベルトの5番,川瀬賢太郎さんによる9月定期でのハイドンの90番,ベートーヴェンの5番。その他,急遽代役で2/24公演に登場したマティアス・バーメルトさんによるシューベルトの6番,7/7の公演に登場したリープライヒさん指揮によるベートーヴェンの1番。こういった曲を,色々な解釈で楽しむことができました。

ちなみにモーツァルトの方は,5月の楽都音楽祭で,たっぷりと楽しむことができました。一見,名曲中心の「どなたでも楽しめます」といった内容でしたが,今年の場合,「室内オーケストラの競演」のようになっていたのがとても面白かったですね。

上記のタイプBの古楽型については,3/10の北谷直樹さんとラ・フォンテ・ヴェルデによる公演が,非常にスリリングでした。オリジナリティの点では,今年最高だったと思いますた。11/01の鈴木雅明さんとRIAS室内合唱団による公演は,バロック音楽ではなくメンデルスゾーンの珍しい宗教音楽がメインで演奏されました。素晴らしい合唱の力と共に,隠れた名曲を再発見するような公演になったと思います。

合唱団と共演した公演では,8/26に富山で行われた山下一史さん指揮によるベートーヴェンのミサ・ソレムニスも聞き応えがありました。前年のヴェルディに続いての「夏のミサ」公演も定着しつつあるようですね。

タイプCのロマン派的な公演については,定期公演ではありませんが,1/23に行われた佐渡裕さん指揮による兵庫PACオケとの合同公演が楽しめました。「1812年」では,立派な大砲も登場しましたね。6月の定期公演に登場した,川瀬さんは,金沢ではシューマンの「ライン」,小松ではチャイコフスキーの5番を楽しませてくれました。武満徹「系図」での谷花音さんの見事なナレーションも鮮烈な印象が残っています。

10月の小松公演では田中祐子さん指揮によるフランス・プログラム。サン=サーンスの2番はOEKにピッタリの曲でした。そして,番外編が,2/26のミンコフスキさん指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーブルによるメンデルスゾーンの3番,4番。古楽器によるちょっと不自由な感じが魅力になっているような演奏でした。

最後にタイプDの「こだわりの選曲」については,どの公演も「こだわり」なのですが,特に井上道義さん指揮による,2/3公演でのショスタコーヴィチにチェロ協奏曲とヒンデミットの「画家マティス」の組み合わせが印象的でした。クニャーゼフさんのチェロは今年登場したソリストの中でも最も強烈な印象を残してくれた気がします。
井上さんの指揮では,11/7に邦楽ホールで行われた,邦楽洋楽コラボレーション公演も井上さんらしさ満載,本領発揮といった内容でした。

6/21の下野竜也さん指揮による定期は,後半にロッシーニの序曲が並ぶ下野さんならではの選曲。吉野直子さんのハープによる,ニーノ・ロータの曲も良い曲でしたね。11/29の定期には,オリ・ムストネンさんが初登場。ムストネンさん自身の作品とヒンデミット,シベリウスなどの作品を組み合わせる,何が出てくるか分からないようなプログラム。全身アーティストといった感じのムストネンさんの魅力をたっぷうり味わうことができました。

OEKと共演したソリストでは,上記の人たちに加え,フルートのジャスミン・チェイさん,ピアニストの反田恭平さん,小山実稚恵さん,ヴァイオリンの堀米ゆず子さんなど,若手からベテランまで実力者との共演が続きました。

その他,ピアニストの平野加奈さん,OEKのフルート奏者,松木さやさんなど地元の若手奏者との共演もありました。音楽堂室内楽シリーズでは,OEKの奏者たちによる室内楽公演も楽しむこともできましたが,今後も地元のアーティストやOEK内の名手たちとの共演に期待したいと思います。聴衆からの距離の近いアーティストについては,世界的に活躍するアーティストとは違った,「応援しながら聞く」という最高の楽しみがあるのではないかと思っています。

先日,天皇誕生日の記者会見の中で天皇陛下は,平成の時代が戦争のない時代として終わりそうであることに言及されていましたが,世の中が平和であることが,芸術活動の前提だと私は思っています。来年は5月に元号が変わりますが,新しい時代も戦争のない時代が続くことを心から願っています。

2018/12/27

今年最後の「演奏会通い」は,太田弦指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期公演。チェイコフスキーの交響曲第3番「ポーランド」を中心としたこだわりのプログラムを楽しませてくれました。

今年最後の「演奏会通い」は,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期公演でした。今回は,金大フィル初登場となる,太田弦さんの指揮で,チャイコフスキーの交響曲第3番「ポーランド」を中心としたプログラムが演奏されました。この曲が金沢で演奏されるのは,私の記憶にある限りでは初めてのことです。今回は,この曲と太田弦さんの指揮ぶりを楽しみに聞きに行くことにしました。

最初に演奏されたのは,シューベルトの「ロザムンデ」序曲でした。ゆっくりとした序奏の後,軽快なリズムに乗って,美しいメロディが次々出てくる曲で,個人的にとても好きな曲の一つです。太田さんはとても落ち着いた指揮ぶりで,この魅力的な作品を,すっきりと聞かせてくれました。

次に演奏されたのは,スメタナの連作交響詩「わが祖国」の中の第3曲「シャールカ」でした。「わが祖国」といえば,「モルダウ」が定番中の定番ですが,それを敢えて外すあたり,今回のプログラミングは,「一捻りあるなぁ」といったところです。この曲の演奏ですが,まず冒頭の一撃が大変鮮やかでした。非常に集中力の高い音で,一気にボヘミアの伝説に出てくる「復讐を誓った乙女」の激しい世界に引き込んでくれました。このドラマティックな雰囲気に続いて,行進曲調になったり,クラリネットの意味深なソロが出てきたり,次々と場面が変わって行きます。

太田さんの指揮は,要所要所をビシッと引き締めるメリハリの効いたもので,各部分が鮮やかに描き分けられていました。曲の最後の部分は,ホルンの不気味な信号に続いて,一気に戦闘開始という感じになり,爽快さの漂う雰囲気で締められました。実演では聞く機会はそれほど多くない曲ですが,楽しめる曲だなぁと思いました。

後半は,チャイコフスキーの交響曲第3番1曲だけでした。全体で45分ぐらいかかる大曲です。チャイコフスキーの交響曲の中では,5楽章形式であること,長調である点で,一味違った作品となっています。「ポーランド」というニックネームは,最終楽章がポロネーズになっている,という以上の意味はないようです。

第1楽章と第5楽章が堂々とした交響曲的楽章。その間に舞曲的な楽章と緩徐楽章が3つ入る構成の作品です。頻繁に演奏される後期3大交響曲に比べると,緊密感の点ではやや薄い気はしましたが,チャイコフスキーお得意のバレエ音楽を思わせるような,親しみやすさや鮮やかさのある作品だと感じました。

第1楽章,ほの暗い序奏に続き,折り目正しく進む主部に入っていきます。金大フィルの演奏は,所々でアラの見える部分はありましたが,前半の演奏以上にスケールの大きな演奏を聞かせてくれました。中間の3つの楽章は,管楽器がソリスティックに活躍する部分も多く,それぞれ楽しませてくれました。特に,軽快だけれども,とても難しそうな音の動きの続く第4楽章は,どこかメンデルスゾーンの曲の雰囲気があり面白いなと感じました。

第5楽章は,最初に出てくるテーマの颯爽とした雰囲気が良かったですね。その後,フーガ風になった後,最後は華やかに盛り上がります。太田さんの指揮ぶりからは,落ち着いた冷静さを感じました。熱狂的に聞かせるというよりは,すっきりと整理された音楽が,くっきりと盛り上がってくる語り口の上手さのようなものを感じました。

チャイコフスキーの管弦楽曲の最後の部分については,交響曲第4番に代表されるように,何回もジャンジャンジャンジャン...と連打されるパターンが多いのですが,この第3番はその中でも特に連打回数が多い曲なのでは?と思いました。ティンパニの強打がワンランク上がる中,気合いのこもった音が10回ぐらい(多分)続きました。それでもしつこさよりは,爽やかさを感じさせてくれるのが,学生オーケストラの良さだと思います。

演奏会の方は,アンコールなしでお開き。こちらも方もすっきりとしていました。金大フィルや石川県学生オーケストラの演奏会では,考えてみると,ロシアや北欧方面の交響曲が演奏される機会が多いのですが,今後もこの路線で色々な交響曲を取り上げていって欲しいものです。期待しています。

2018/12/20

本日は石川県立音楽堂の #夜コン ...には行かず,西田哲学館で行われたクリスマスコンサートへ。OEKメンバーが挑んだ,ヤナーチェクの「ないしょの手紙」をはじめとした,充実の弦楽四重奏曲3曲 #oekjp

本日は石川県立音楽堂コンサートホールで行われていた(はず)の「夜クラ」第2回目に行くという選択肢もあったのですが,プログラムの素晴らしさに惹かれ,石川県西田幾多郎記念哲学館で行われた,OEKメンバーによる「かほく市クリスマスコンサート2018」を聞いてきました。

この演奏会も恒例イベントになっているのですが,「クリスマスコンサート」という楽しげな名称とは関係なく(?),30分程度の弦楽四重奏曲をたっぷりと聞かせてくれる,大変マニアックな内容の演奏会でした。登場したのは,OEKメンバーによる室内楽ではおなじみの,ヴァイオリンの松井直さん,上島淳子さん,ヴィオラの石黒靖典さん,そして,チェロの大澤明さんでした。

演奏された曲は,モーツァルトの弦楽四重奏曲第16番変ホ長調,K.428,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番ヘ長調,op.18でした。今回も,大澤さんのトークを交えての内容でしたが,どの曲の選曲にもこだわりがあったと思います。

大澤さんのお話によると,モーツァルトの弦楽四重奏曲は,有名な「ハイドンセット」の中の1曲だけれども「その中でも演奏される頻度の少ない曲」。ヤナーチェクについては,タイトルとは裏腹に結構支離滅裂な部分もあるけれども,素晴らしい作品。ベートーヴェンについては,「遠くからだと子猫に見えるが,実は虎」という作品,ということで,超有名作はなかったのですが,各楽器の音が生々しく聞こえるホールで聞いたこともあり,どの曲も迫力に満ちていました。

モーツァルトとベートーヴェンについては,古典派音楽の到達点といった趣きのある作品で,各楽章とも主要な主題が,きっちりと展開し,絡み合うような緻密さを感じました。モーツァルトの方は,音の動きに半音階的な動きを感じさせる部分が多く,どこか古典派音楽を超えるような部分もありました。

ベートーヴェンの方は,まさに大澤さんの言葉どおりの作品で,第1楽章の冒頭,清澄な感じのユニゾンで始まった後,中期の作品を思わせるようなモチーフの積み重ねが続きました。クライマックスでは,切実な声を上げるように感情が爆発する部分もあり,やはりベートーヴェンだなぁと思いました。

前述のとおり各楽器の音が生々しく聞こえるホールだったので,少々疲れる部分はありましたが,第2ヴァイオリンとヴィオラの内声部の音の動きがしっかり聞こえ,第1ヴァイオリンがしっかりと歌い上げ,チェロがビシッと引き締め...という感じで臨場感たっぷりの演奏を楽しむことができました。

2曲目に演奏された,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番の方は,かっちりとまとまった古典派音楽とは対照的に,どの楽章についても狂気に満ちた,この世から一歩踏み外したような世界が広がっていました。ヤナーチェクの音楽は,モーツァルト,ベートーヴェンに比べると,確かにとっつきにくかったのですが,音楽というよりは,常に何かのストーリーを語っているような表現力の多彩さを感じました。

最晩年のヤナーチェクの恋愛がモチーフになった作品で,技巧面でも一筋縄では行かない難曲であることは確かですが,OEKメンバーの演奏には,その難曲に正面から挑むような迫力がありました。聞いているうちに,クリスマス気分も吹っ飛びそうでしたが,こういうスタンスも良いですね。

ただし,今回の演奏会では、開始前のプレコンサートとして賛美歌が演奏され,さらにアンコールではバッハの「主よ人の望みの喜びよ」が演奏されました。しっかりとクリスマス直前であることを思い出すこともできました。

この演奏会も恒例になっているようですが,今後もマニアック路線で,色々な弦楽四重奏を楽しませて欲しいと思います。

2018/12/09

「金沢でメサイアを歌い続けて70年」#北陸聖歌合唱団 と #柳澤寿男 指揮 #OEK によるメサイア全曲公演。70年に相応しい充実感のある演奏 #oekjp

本日は,「金沢でメサイアを歌い続けて70年」となる北陸聖歌合唱団と,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,年末恒例のヘンデル作曲オラトリオ「メサイア」公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。記念の年ということで,全曲が演奏されました。指揮は,「メサイア」を指揮するのは2回目の登場となる柳澤寿男さんでした。

北陸聖歌合唱団と柳澤さんのつながりは,過去の歴代指揮者の中でも特に強いようで,今回の全曲演奏も見事な演奏でした。柳澤さんの作る音楽は正統的で,全曲を通じて,がっちりと引き締まった充実感を感じました。テンポ設定も中庸だったと思いますが,この曲の合唱部分によく出てくる,メリスマ風の細かい音の動きの続く部分などでは,妥協しないような速いテンポでした。合唱団の皆さんは大変だったと思いますが,その緊迫感が一つの聞き所になっていたと思いました。

その一方,70年記念ということで,合唱団の人数は120名編成でしたので,スケール感を感じさせる余裕のある声を聞かせてくれました。ハレルヤ・コーラスでの,クライマックスに向かって,充実感を高めていく構成も良かったのですが,最後のアーメン・コーラスでの染み渡るような清澄な気分も素晴らしいと思いました。宗教音楽のクライマックスにぴったりの表現だったと思いました。

今回は全曲演奏だったのですが,休憩の方は第2部の途中に1回入るだけでした。2枚組CDの「メサイア」と同じような分け方だったと思います。その分,第1部と第2部,第2部と第3部に切り替わる部分が入ってしまうのですが,連続的に聞くことで,その空気感の違いが実感できました。特にイエスの生誕を描いたクリスマス気分の溢れる第1部と受難を描いた第2部については,急に湿気を沢山含んだ曇り空(本日の金沢の空のことですが)に切り替わったようなコントラストを感じました。

ソリストの方については,特に女声が充実していたと思います。ソプラノの朝倉あづささんは,70年記念公演には「外せない」ですね。プログラムのプロフィールを読むと,この公演に登場するのは27回目とのことで,平成になってからはほぼフル出演という感じだと思います。その声の雰囲気がずっと変わらないのは,本当に素晴らしいと思います。北陸聖歌合唱団の「メサイア」公演に無くてはならない存在だと改めて思いました。

ソプラノの出てくる曲は,どの曲も良いのですが,特に第3部の最初の曲(全曲演奏以外だとカットされることもあるのですが)が好きです。この曲を聞くと,「メサイアも終わりに近づいてきたな,今年も終わりに近づいてきたな」と少ししんみりとした気分になります。

メゾ・ソプラノは田中展子さんでした。メサイア公演には初登場の気がしますが,今回のソリスト4人の中で,特に素晴らしい声を聞かせてくれたと思いました。まず声にしっとりとした落ち着きと品の良い美しさがあり,どの曲を聞いても,美しいなぁと思いました。いちばんの聞かせどころの,第2部の最初のアリアも深さと同時に,厳しさが伝わってきました。メサイアの中には,オーケストラの伴奏部に付点音符が入った音型が連続する箇所が結構あるのですが,柳澤さん指揮は,この付点音符の部分については,例年に増して,厳しく引き締まった感じで演奏していたように思えました。このアリアでの田中さんの声をさらに引き立てていたと感じました。

テノールの志田雄啓さんも,「メサイア」公演ではお馴染みの方で,大らかな表現を聞かせてくれましたが,今回は全体的に高音部が苦しそうな感じだったのが,少々気になりました。バスの大塚博章さんがこの公演に登場するのは今回が初めてだったと思います。どの曲も美しく安定感のある歌を聞かせてくれましたが,少々ソツがなさ過ぎるかな,と贅沢なことを感じました。

さすがに全曲公演となると,休憩時間を合わせると3時間コースになり,少々疲れましたが,70年記念に相応しい充実した公演だったと思います。

PS. 本日は「70年の公演記録」をまとめたリーフレットも配布されました。そのうち何回行っているのか,カウントしてみたところ,丁度20回でした。私にとっても記念の公演ということになります。

2018/12/08

本日は,#松井慶太 指揮OEK&#ルシエンヌ・ルノダン=ヴァリ さんよる #PFU クリスマス・チャリティコンサートを聞いてきました。OEKにぴったりの選曲。ルシエンヌさんのトランペットはクールでした #oekjp

本日は午後から,毎年恒例のPFUクリスマス・チャリティコンサートを聞いてきました。今年のテーマは,「ラッパが鳴り響くところ」ということで,ハイドンのトランペット協奏曲,ヘンデルの「水上の音楽」第2組曲を中心に,バロック音楽から古典派音楽が演奏されました。演奏は,松井慶太さん指揮OEKで,ハイドンの独奏者として,若手トランペット奏者のルシエンヌ・ルノダン=ヴァリが登場しました。

演奏会は,ヘンデルの「水上の音楽」第2組曲で始まりました。この組曲は,ラッパ特にトランペットとホルンが活躍する曲集です。今回は古楽奏法という感じではなく,弦楽器などは,ほぼ通常の人数でした(第1ヴァイオリンは8人でした)。松井さん指揮OEKの演奏にも大らかさがありました。次の曲は,この日唯一管楽器の入らない,バッハのブランデンブルク協奏曲第3番でした。ヘンデルの「水上の音楽」第2番は,特にトランペットの負担が大きい曲なので,「中休み」といったところでしょうか。

この曲を実演で聞く機会は,以外に少ないのですが,CDなどで聞くより,実演で聞く方が楽しめる作品だと思いました。編成が,ヴァイオリン3人,ヴィオラ3人,チェロ3人+コントラバス1人という独特の編成で,ノリの良いリズムに乗って,合奏する部分と,次々に色々な人がソロを取っていく部分が交錯します。特に実演で聞くと,ヴィオラのダニイル・グリシンさんの迫力が際立つと思いました。

第2楽章は,楽譜的には「2つの和音だけ」のはずですが,本日はチェンバロの辰巳美納子さん(プログラムには記載が無かったのですが,メンバー表が欲しかったですね)が,センスの良い見事なソロを聞かせてくれました。チェンバロの音もしっかりと聞こえてくるのが,石川県立音楽堂コンサートホールの良さだと思います。

ちなみにこの曲ですが,3つの弦楽器のパートが3人ずつ。番号も第3番ということで,3へのこだわりを感じさせる作品ですね。バッハの生誕333年の年に聞くのにぴったりの作品といえます。

前半の最後は,この日のハイライトといってもよい,ルシエンヌさんの独奏によるハイドンのトランペット協奏曲が演奏されました。ルシエンヌさんは,まだ10代の女性トランペット奏者で,来年の7月のOEKの定期公演に出演し,辻井伸行さんとともにショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を演奏する予定の注目のアーティストです。

とても小柄な方で(指揮者の松井さんが非常に長身だったので,そう見えたのかもしれませんが),ステージでの動作も「今どきの若者」という感じでしたが,その音は大変柔らかく,演奏のスタイルもセンスの良さを感じさせるものでした。「ハイドン×トランペット」といえば,明るく健康的という印象がありますが,ルノシエンヌさんの演奏には,少し憂いを含んだような抑制した感じがあり,しっかりと「らしさ」を持っている奏者だと思いました。もちろん伸びやかさもあるのですが,所々で,フッと陰りを見せるようなサラリとした感触を見せるのが大変威力でした。

アンコールでは,デューク・エリントンの曲をブルーなムードたっぷりに演奏しましたが,ハイドンの方も,ちょっとブルーさのあるクールなハイドンだったと思います。来年7月のショスタコーヴィチも大変楽しみです。

後半はハイドンの交響曲第104番「ロンドン」が演奏されました。この曲については,特にトランペットが大活躍...というわけではありませんが,OEKの編成にピッタリのお得意の曲です。松井さんの作る音楽は,コンパクトに引き締まっており,古典派音楽にぴったりの雰囲気がありました。第2楽章は短調の部分が時々挟まる,ハイドンのお得意のパターンですが,軽やかさの中に落ち着きと深さがあり,大変聞き応えがありました。

新鮮さのある第3楽書に続き,キビキビと展開していく第4楽章へ。毎回思うのですが,OEKのハイドンは良いですねぇ。OEKの良さがしっかり引き出された,とても気持ちの良いハイドンでした。

アンコールではオーケストラとチェンバロのために編曲された,「きよしこの夜」が演奏されてお開きになりました。演奏会の長さはやや短めでしたが,とても気持ちよく楽しめた演奏会でした。

2018/12/04

#浅井隆宏 ピアノリサイタル@金沢市アートホール シューベルトのピアノ・ソナタ第21番を核とした素晴らしいプログラム。期待通りの充実感のある演奏会でした。

本日は,ピアニストの浅井隆宏さんのリサイタルが金沢市アートホールで行われたので,聞いてきました。浅井さんは,OEKのヴァイオリン奏者,青木恵音さん,チェリストの富田祥さんとTrio RFR(アルファ)を結成し,室内楽の分野で活躍されていますが,金沢でソロ・リサイタルを聞くのは今回が初めてです。

今回聞きに行こうと思ったのは,何と言ってもプログラムの素晴らしさです。後半にシューベルトの最後のピアノ・ソナタ,第21番。前半はハイドンのピアノ・ソナタ,ブラームスの4つのバラードop.10にベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番。特にシューベルトとベートーヴェンの最晩年の作品の組み合わせというのに,惹かれました。

浅井さんは,大変立派な体格の方ですが,その雰囲気どおりの安定感のある音楽を聞かせてくれました。ピアノの音には力と輝きがあり,一見シンプルなハイドンの音楽からも十分な聞き応えがありました。

ブラームスの4つのバラードは,ブラームスの若い時代の作品ですが,音楽自体は非常に充実しています。浅井さんの演奏にも,落ち着いた語り口で叙事詩を読み聞かせるような大らかさを感じました。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番は,変奏曲となっている第3楽章が特に聞きものでした。プログラムの解説によると,バッハのゴルトベルク変奏曲との関連性のある楽章とのことでした。浅井さんの演奏には,一本筋が通ったような安定感があり,多彩な変奏が続いた後に主題が再現すると,「確かにゴルトベルクに似ているかも」と実感しました。特にクライマックスとなっていた第6変奏での,力強いトリルを中心とした盛り上がりが素晴らしいと思いました。

後半はシューベルトのピアノ・ソナタ第21番のみが演奏されました。この曲を実演で聞くのは2回目のことですが,やはり,シューベルトの晩年のソナタには,天国的と言っても良い魅力があると感じました。

浅井さんのテンポ設定は,第1楽章などは比較的速めで,個人的には,もう少し遅いテンポで,耽美的な雰囲気がある演奏が好みだったのですが,停滞することなく,美しく率直に音楽が流れるシューベルトも良いなぁと思いました。途中,少々音楽が止まりそうな部分はありましたが(やはり難曲なのだと思います),大曲をじっくりと味わうことができました。

第2楽章以降も停滞することはなく,叙情的な気分の中から,時折,美しい音がキラリと光るような魅力的な音楽を聞かせてくれました。第4楽章は,最後のコーダの部分だけ,急にテンポが速くなって,唐突に終わる感じはあるのですが,それもまた,若くして亡くなったシューベルトの性急さを体現しているようにも感じられました。

というわけで,金沢では滅多に実演では聞くことのできない,シューベルトの21番を中心に,充実のプログラムを期待どおりに楽しむことができました。浅井さんには,今回のような路線で,金沢でリサイタルを定期的に行い,息長く,熟成していって欲しいなぁと思います。個人的には,シューベルトのピアノ・ソナタ第18番を一度,実演で聞くのが夢なので(この曲,何故か中学生の頃から大好きなのです),是非,浅井さんに期待したいと思います。

2018/11/29

#オリ・ムストネン さん,OEK定期に初登場。フィンランドの作品を中心として,ムストネンさんの多彩さを実感できる素晴らしい公演でした。作曲家としても素晴らしいと思いました。 #oekjp

本日は,OEK定期公演初登場となる,オリ・ムストネンさん指揮によるフィルハーモニー定期を聞いてきました。ムストネンさんといえば,フィンランドを代表するピアニストという印象を持っていたのですが,実は,指揮者としても,さらには作曲家としても活躍の場を広げています。本日の定期公演は,そのすべてを聞かせてくれる充実の内容となりました。チラシの宣伝文句に書かれていたとおりの「天才」的な雰囲気を持つアーティストだと思いました。

プログラムは,最初に演奏されたヒンデミットの「4つの気質」以外は,すべてフィンランドの作曲家の作品。メインとなるシベリウスの「ペレアスとメリザンド」組曲は,過去の定期公演で聞いたことはありますが,それ以外は,定期公演に登場するのは初めての作品。ということで,ムストネンさんのこだわりのプログラムと言えます。

# 訂正です。調べてみると、「4つの気質」については、河村尚子さんのピアノ、広上淳一さん指揮で一度取り上げていましたので、「OEK初」ではありませんでした。

最初に演奏された,ヒンデミットの「4つの気質」は,ピアノ協奏曲と変奏曲が合わさったような独特の作品でした。古代ギリシャのヒポクラテスの時代から伝わる「人間の典型的な気質」を変奏曲として表現した作品なのですが,他のヒンデミットの曲同様,ややとっつきにくいところがありました。ただし,ムストネンさんのピアノの音には,独特の透明感のようなものがあり,苦み走っているけれども,後味がとても良い,といったムードがありました。

ムストネンさんのピアノを聞くのは今回初めてでしたが,とても手を高く上げて演奏したり,独特の奏法だったと思います(専門的なことは分かりませんが)。速い部分での軽快な躍動感が素晴らしく,重苦しくなるところのない演奏でした。機会があれば,是非,別の作曲家の曲も聞いてみたいものです。

続いては,ムストネンさん自身が作曲した九重奏曲第2番の弦楽合奏版が演奏されました。これは今回が日本初演とのことでした。聞く前はどういう作品なのか想像もできなかったのですが,とても魅力的な作品でした。4楽章構成の作品で,どこかベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏曲を思わせるような,躍動感と神秘性を感じました。しかも古くさい感じはなく,ベートーヴェンを現代的で新鮮な感性でバージョンアップさせたようなような,オリジナリティを感じました。急速なパッセージが連続する最終楽章では,この日のコンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんのリードが光っていました。この曲については,オリジナルがどういう編成だったのも気になります。機会があれば,オリジナル版も聞いてみたいものです。それと,ムストネンさんの他の作品も聞いてみたいものです。

後半は,指揮者としてのムストネンさんの魅力を味わうことができました。

最初に演奏された,ラウタヴァーラのカントゥス・アルクティクスは,鳥の鳴き声を収録した音源とオーケストラとが共演する独特の作品です。聞くのは2回目ですが,ムストネンさんの指揮で聞くと,非常に清々しく感じられました。不思議なことに,音を聞いているうちに,ビジュアルが喚起されるところもありました。最後の部分では,ティンパニとシンバルが盛大に入り,スケール感たっぷりの盛り上がりを聞かせてくれました。

次に演奏された,シベリウスの「ペレアスとメリザンド」組曲もとても魅力的な作品でした。ドビュッシーの同名の曲の印象からすると,もう少し淡い感じの演奏を予想していたのですが,ムストネンさんの指揮には最初の曲から,グイグイと音楽を引っ張っていくような力強さがありました。アンコール曲としても時々演奏されることのある,「間奏曲」などでは,ムストネンさんのピアノ演奏に通じるような躍動感を感じました。

最後の「メリザンドの死」は,重苦しい感じで始まった後,最後の方で,どこかシベリウスの交響曲第2番を思わせるような大きな盛り上がりを作り,その余韻を残すように静かに終了。OEKの音もとても良く鳴っており,演奏会をしっかり締めてくれました。

その後,同じシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォが演奏されました。この選曲は,事前に組み込まれたアンコール曲的な位置づけだったと思いますが,本当に見事な演奏でした。他の曲同様,速めのテンポでくっきりと演奏されました。その音には光り輝くような壮麗さがありました。

プログラム的には,あまり知られていない曲が並んでいたので一見地味な印象を持ったのですが,実際には,多彩であると同時に,フィンランド的な風味で統一感のある見事なプログラミングだったと感じました。何よりも,ムストネンさんの多彩な才能をしっかり実感できました。ムストネンさんには,是非またOEKに客演して欲しいと思います。OEKメンバーとの室内楽公演なども期待したいと思います。

2018/11/25

#鈴木織衛 指揮OEK他によるヴェルディ #リゴレット 金沢初公演@金沢歌劇座。#青山貴 さんと#森麻季 さんを中心に聴き応え十分の人間ドラマ

本日の午後は,金沢で全曲を上演するのが今回が初めてとなる,ヴェルディの歌劇「リゴレット」の公演が金沢歌劇座で行われたので聴いてきました。金沢では,ここ数年,全国のいくつかの公共ホールとの共同企画によるオペラを毎年のように行ってきましたが,今回の公演は,金沢独自企画とのことです。プログラムに書かれていた山田正幸プロデューサの言葉によると「遠慮なく作品を選べた」ということで,個人的には大歓迎です。

「リゴレット」は,ヴェルディの出世作として知られていますが,今日の感覚からすると差別的な表現や役柄が出てくるせいもあるのか,国内ではなかなか上演されないとのことです。が,本日の公演を聴いて,主要キャストの重唱を中心に進んでいく,聴き応え十分の人間ドラマだと改めて実感しました。特にタイトルロールの青山貴さんの輝きのある威力十分の声,リゴレットの娘,ジルダ役の森麻季さんの丁寧でしなやかな声は,それぞれの役柄にぴったりのはまり役と感じました。

その他の役柄もキャラクターが分かりやすく,現代の演劇などに通じる「わかりやすさ」を感じました。特に殺し屋スパラフチーレは,数あるオペラの中でも,いちばんクールな役柄ではと思いました。高岡出身の森雅史さんが,グッと広がるような低音で存在感を示していました。

唯一の問題点は(というかかなり大きな問題だったのですが),マントヴァ公爵役のアレクサンドル・バディアさんの体調不良のため,かなり歌唱が不安定だった点です。第2幕の最初に山田プロデューサが「最後までつとめますので...」という異例のエクスキューズが入りました。特に第1幕の最初の方は,高音が出ない部分があったりして,かなり不安でした。その後,山田さんの言葉どおりの熱のこもった歌で,見せ場の「女心の歌」(かなり独特の歌い回しでした)が出てくる第3幕まで,何とか歌いきってくれました。

この作品については,虐げられた存在であるリゴレットと正反対のキャラとしてマントヴァ公爵が位置づけられており,何でも思いのままに楽々と生きている感じを出すことが作品の一つのポイントだと思うので,「苦労している公爵」というのは少々残念でした。機会があれば,「リベンジ」を期待したいものです。

それにしても,リゴレットとジルダのアリアは,聴き応えがありました。リゴレットには,他人を傷つける道化の面と愛情たっぷり(過剰?)な父親の2面がありますが,特に第2幕の「悪魔め鬼め」での深い表現が素晴らしいと思いました。ジルダの方は,コロラトゥーラ・ソプラノの名曲として有名な「慕わしい人の名は」での美しさも素晴らしかったのですが,やはり同じ第2幕に出てくる「日曜日に教会で見かけてから...」とこれまでの恋愛の一部始終を語るようなアリアでの情感の豊かさが素晴らしいと思いました。

そして,第3幕での四重唱。4人の思惑が絡まりつつ,音楽の方がワクワクと高まっていく感じが最高でした。その後,ジルダが「予定変更」で殺害されることになるのですが,実はその「キャスティング・ボード」を握っていたのが,殺人者の妹のマッダレーナでした。藤井麻美さんの声には,その重役に相応しい,聴き応えがありました。

ドラマの起点となるのが,第1幕の最初の方のモンテローネ伯爵の「呪い」なのですが,李宗潤さんの威力のある声も良かったと思います。ドラマの要所要所にくさびを打ち込んでいる感じでした。

鈴木織衛さん指揮OEKのオーケストラも雄弁で流れの良い音楽を聴かせてくれました。ヴェルディならではのオーケストレーションも面白く(スパラフチーレが出てくる時のヴィオラやチェロの伴奏,嵐の中の殺人の場でのフルートなどによる描写的な音楽...),名曲だなぁと思いました。

合唱団の方は,今回は男声合唱のみでしたが,公爵の宮殿の場での軽妙な感じ,,嵐の場の恐怖感をハミング(?)で盛り上げたり,大活躍だったと思います。何より「ヴェルディあるある」的な楽しげな行進曲が出てくると嬉しくなりますね。

舞台の方は,比較的簡潔で回り舞台の上に可動式のついたてのようなものを組み合わせて,色々な場面を作っていました。ジルダの場については,「籠の鳥」のような形で取り囲んだり,天井から「ブランコ」が降りてきたり,色々な工夫がありました。特にブランコについては,ジルダの「揺れる気持ち」を象徴しているようで,効果的だったと思いました。

このオペラのストーリーは,「リゴレットの悲劇」なのですが,自ら死を選んだ形になるジルダ側から見ると,「ジルダの自立」とも言えるのかなとも思いました。ストーリーの細部を見ると,「どこか変?」といった部分もあるのですが,音楽の持つ迫力と合わせて聞くと,色々と深読みをしたくなる作品だなぁと感じました。

というわけで,公演に携わった多くの皆さんに感謝をしたいと思います。

2018/11/22

#夜のクラシック アフターセブンコンサート2018 その第1回にはヴァイオリニストの #三浦文彰 さんが登場。特製カクテルに負けない,「大人の香りと落ち着き」のある演奏を聞かせてくれました。#加羽沢美濃 さんの司会も期待どおりでした。

「夜のクラシック:アフターセブンコンサート2018」と題された,19:15開始の新演奏会が石川県立音楽堂で始まりました。コンセプトとしては,「大人向けの極上の音楽を,トークを交えて休憩なしで楽しむ」というものです。その第1回の主役は,若手ヴァイオリニストの三浦文彰さん。案内役は作曲家の加羽沢美濃さん,ピアノは小森谷裕子さんでした。

開始時間が15分遅くなっただけだったのですが,確かにその効果はあったと思います。OEKの定期公演などとは一味違った,リラックスした空気がありました。これは,加羽沢さんのリラックスした進行の力も大きかったと思います。第1回とは思えない安定感と親しみやすさがありました。そして華やかさもありました。

演奏時間も1時間程度と短めでしたが,演奏会全体の充実感も十分でした。三浦文彰さんが今回演奏した作品は,ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番,タルティーニのヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」,サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチョーソということで,静かな曲から技巧的な曲へと少しずつ盛り上がっていくような構成でした。

三浦さんのヴァイオリンの音について,加羽沢さんは「色気がある」と語っていましたが,そのとおりで,どの曲についてもしっとりとした香りと大人の落ち着きのようなものを感じました。しっかりとヴィブラートを効かせた,温かみのある音を聞くだけで,幸福感を感じました。

途中,加羽沢さんと三浦さんとのトークが入りましたが,さすが加羽沢さんだと思いました。NHKの「らららクラシック」などでもお馴染みの,リラックスしていながら,しっかりとした内容のあるお話を引き出していました。さらには「三浦文彰」さんのイメージを即興的にピアノ小品として演奏。さりげなく「真田丸」のテーマを入れたり(私にも分かりました),トリルを入れたり,色々な隠し味のある演奏でした。

タルティーニの曲では,ピアノのトリルとヴァイオリンのトリルを聞き比べたり,重音のトリルが「悪魔のトリル」であることを説明したり,なるほどというお話を楽しむことができました。

タルティーニの「悪魔のトリル」では,終盤,かなり長いカデンツァがあり,堂々たる貫禄を感じさせる,伸びやかさのある音楽を楽しませてくれました。最後に演奏された,序奏とロンド・カプリチョーソも,全くバタバタした感じになることなく,しっかりとした歌と速い音の動きの中から立ち上るロマンの香りのようなものを楽しませてくれました。

アンコールでは,「真田丸」のテーマが演奏されたのですが,テレビなどで使われていたバージョンではなく,ヴァイオリン独奏用のバージョンでした。何というか,「もしもパガニーニが真田丸を演奏したら?」といった趣きのある,技巧的で力感のある演奏を楽しませてくれました。

というわけで,この「夜のクラシック(略して「夜クラ」)第1回は期待どおりの内容でした。末永く続くシリーズになって欲しいものです。

PS.途中,「悪魔のトリル」と題した,ANAクラウンプラザホテルのバーテンダーの方によるカクテルがステージ上に登場しました。これは飲んでみたかったですね。終演後,音楽堂のお隣のANAクラウンプラザホテルのラウンジで楽しめますということでしたが...飲酒運転になるので断念。本日は「大人のカクテル」の雰囲気とはほど遠い,雨合羽+自転車で来たのですが,今後は「その辺」も意識して来ないといけないかもしれませんね。

2018/11/17

吉井健太郎さんによる,無伴奏チェロによるミニリサイタルを石川県立歴史博物館で聞いてきました。じっくり平常心で演奏された第1番全曲と各曲のプレリュードさわり集。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。終演後はCDも購入。こちらは教会での収録

本日は,元ウィーン交響楽団の首席チェロ奏者だった,吉井健太郎さんによる無料のミニリサイタルが,石川県立歴史博物館(歴博)で行われたので聞いてきました。実は,今朝までは行く予定ではなかったのですが,今朝,ツイッターで流れてきた演奏会情報を見た後,「どうしようかな?」と少し思案をして,10:30頃に出かけることに決めました。

開演の11:00少し前に会場に到着したのですが,こういうことができるのも,市街地がコンパクトな金沢ならではですね。それと自転車ならではです。天候が段々と良くなってきたので,本日は歴博まで自転車で出かけてきました。

今回の公演については,バッハの無伴奏チェロ組曲が演奏されるのは分かっていたのですが,どの曲が演奏されるのかについては,よく知らずに出かけました。大学の教授を思わせる(貧困な発想ですが...),落ち着いた雰囲気で吉井さんが登場。無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードが始まりました。

速すぎず,遅すぎず,平常心そのものの雰囲気で演奏が始まりました。間近で聞く吉井さんのチェロの音には温かみがあり,じっくりとバッハの世界に浸ることができました。まさにベテランの味といった感じでした。プレリュードの後,一旦,軽くトークが入るかな,と思い私も拍手をしたのですが,ここではトークはなし。そのまま,組曲第1番の全曲が演奏されました。

お客さんの方は,チェロ組曲に慣れていなかった人が多かったのか,アルマンド,クーラントと1曲ごとに拍手が入りました。この辺は致し方がなかったかもしれません。やはり,事前に何の曲を演奏するかアナウンスがあった方が良かったですね。プレリュード以下の曲も,声高に騒ぐことなく,じっくりとバッハの音楽の美しさを吉井さん自身が味わうように聞かせてくれました。

その後,吉井さんのトークが入り,バッハの無伴奏チェロ組曲集について,「何のために書かれたか分からない。もしかしたら自分のためののかもしれない」という説明があった後,1曲ごとに性格が違うことが,各曲のプレリュードの「さわり」を演奏しながら紹介されました。バッハの「無伴奏」については,ルドヴィート・カンタさんの演奏で全曲演奏を何回か聞いたことはあるのですが,「プレリュードばかり」を聞き比べるのは,始めてかもしれません。吉井さんの説明では次のとおりでした。
第1番 皆さんご存じの曲
第2番 いちばん寂しい気分の曲
第3番 ハ長調です
第4番 メロディがあるのかないのかユニークな曲
第5番 途中からフガートに。作曲家は書きたがるけれども,奏者の方はハラハラ。
第6番 幾何学的な雰囲気のある曲

ヨコに流れているものを,タテに切ったような感じで,各曲の性格の違いを鮮やかに感じ取ることができました。逆に言うと,「プレリュードが肝」と言えそうです。吉井さんは,「バッハについては難しい印象をもたれますが,とても簡単です。きれいな水を見ていると思えば良い」とおっしゃっていましたが,「なるほど!」と思いました。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。チェロ1本による無伴奏は,確かに「1本の川の流れ」のようなものです。各曲の性格が,浅野川と犀川の違いのようなものなのかもしれませんね。

どの曲も途中まで演奏して終了しましたので,「もう少し聞きたい」という気分になりました。というわけで...会場で販売していた,吉井さんの無伴奏全曲のCDを購入してしまいました。さらにはサイン会も行っていたので,サインもいただきました。

吉井さんの演奏会は,11月17日は午後から石川県立伝統産業館で同様の公演があった後,18日は日中湯涌自然音楽祭2019で,19:30からはクラシックカフェ ヤギヤで公演が行われます。その後,全国いくつかで公演を行うようです。「チェロを持った渡り鳥」といったところでしょうか。

PS.帰宅後,入手したCDを聞いてみました。今回の会場とは違い,教会で収録されたものでホールトーンがしっかりと入っていました。全部聞くのが楽しみです。

2018/11/11

#池辺晋一郎 クラシック講座 #シェイクスピアと音楽 を #石川県立音楽堂 で聞いてきました。#三輪えり花 さんとともに,シェイクスピア作品の魅力が多面的に語られました。

本日は午後から,「池辺晋一郎クラシック講座 シェイクスピアと音楽」を聞いてきました。ゲストは,シェイクスピアの戯曲の演出などを沢山手がけている「舞台人」(プログラムに書かれていた肩書です。「シアトリスト」の日本語訳のようです),三輪えり花さんで,お二人が関わったシェイクスピア作品の話を中心に,シェイクスピア作品の魅力を語るという趣向でした。また,途中,池辺さんがシェイクスピア作品用に書いた歌曲が,女声三重唱などで演奏されました。

池辺さんは,日本のクラシック音楽の作曲家の中でも特に戯曲用の音楽を書いている方で,シェイクスピアだけで40作も音楽を書いているそうです。特に「マクベス」や「ハムレット」については別の演出家のために,各6,7回も書いているとのことです。こういうことができるのは,自分の個性を殺してでも「演出家の注文に応じて作曲すること」に喜びを感じることができるから,と語っていました。芝居好きの作曲家でないとできないことであると当時に,池辺さんに「職人的気質」があるから可能なことだと思います。

今回は,喜劇,悲劇などジャンルごとに紹介されました。私自身,池辺さんが音楽を書いた作品に限らず,過去30年ほどの間にかなり沢山,シェイクスピア作品を観てきたので,「そのとおり」というお話ばかりでした。シェイクスピアの戯曲の魅力として,「現代的にアレンジしても変わらないセリフの普遍性」「声で読んだ時のリズムの良さ」などが上げられていました。

途中,三輪さんが「マクベス」の中のセリフを英語で朗読する場面がありましたが,本物の迫力がありました。「明日,明日,明日」で始まるセリフで,読んで気持ち良いだけでなく,リアルな実感のこもった迫力のあるセリフだったので,後で調べてみたいと思います。

反対に現代上演する時の問題点として,「長いこと(ある程度カットしないといけない)」「言葉が難しい場合がある」「そのままだと残酷過ぎる場がある」といったことがありました。その他,プロローグでストーリーを説明する人がいたり,道化役が重要な役割をになっていることなどもシェイクスピア作品の特徴です。

作曲家の立場からすると,「ファンファーレを作曲するのが大変」「亡霊が出てくるときの音楽を毎回作るのが大変」など,何作も作曲してきた池辺さんならではのお答えが面白かったですね。

これまで私が観たことのあるシェイクスピア作品は,「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「リア王」「オセロ」「リチャード3世」「冬物語」「十二夜」「お気に召すまま」「ウィンザーの陽気な女房たち」など(仲代達矢,平幹二朗で観たものが中心です。)。

この日は,俳優座のために池辺さんが音楽を書いた「お気に召すまま」の中の曲が2曲歌われたのですが,この曲は30年近く前に一度聞いているはずです。さすがに思い出すことはできませんでしたが,1970年代のミュージカルを思わせる曲調を聞いて,さすが池辺さんと改めて思いました。

三輪さんと池辺さんとの関わりでは,兵庫県立ピッコロ劇団のために演出した「十二夜」で接点があるそうです。最後にその中の曲が歌われてお開きとなりました。兵庫県については,県立の劇団とオーケストラがあるため,この作品は,オーケストラメンバーによる「生演奏」が可能になったそうです。

石川県の場合,能登演劇堂という無名塾が本拠地のようにして使っている立派な劇場とOEKというオーケストラがありますので,池辺さんが仲介役となって,無名塾公演にOEKが参加するようなシェイクスピア公演などができると面白いのではないかと思います。池辺さんは,「「冬物語」は好きな作品だが,まだ音楽を書いたことはない」と語っていましたので,是非,無名塾による「冬物語」に期待したいと思います。

2018/11/10

#石川県立音楽堂 で #左手のピアニストの為の公開オーディション を聞いてきました。6人の個性と左手のみによる表現の幅広さを実感てきました。#ガル祭 での再会を楽しみにしています

本日は,いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2019の関連企画として行われた「左手のピアニストの為の公開オーディション」を聞いてきました。このオーディションは,「ピアニストを目指していたが,右手の病気や障がいなどで両手での演奏が困難になった人を対象に。世界に呼びかけ開かれた未来を創るお手伝いをする」ことを趣旨として行われたもので,優秀者は,来春の楽都音楽祭で,オーケストラと協奏曲を共演またはソリストとして出演することができます。位置づけとしては,オリンピックに対してのパラリンピックに該当するようなオーディションということになります。

音楽の世界とスポーツの世界が同様なのかは,人によって考え方は違うと思いますが,レパートリーが限られる「左手のピアニスト」のために機会を提供することは意義のあることだと思います。ただし,今回審査委員長を務めた,舘野泉さんの講評にも出てきたとおり,左手のピアニストということを過度に強調する必要もありません。左手のピアニストだからこその,「思いの強さ」であるとか「表現意欲」というものが感じられるのでは...と思い,今回聞きに行くことにしました。

今回登場したのは6人のピアニストでした。国際的に参加者を募集をしていたこともあり,地元出身は1名で,海外からの参加者も1名ありました。そのこともあり,大変水準の高い演奏ばかりだったと思います。

課題曲はマグヌッソン「アイスランドの風景」という組曲の中の「鳥の目から見た高地」「オーロラの舞」の2曲。それに各自が選んだ自由曲を加え,合計15分程度で演奏するというものです。自由曲の方は,「左手のためのピアノ曲」の定番である,スクリャービンのop.9-2を演奏した人が3人いました。それ以外の方は,シュールホフ,吉松隆,サンカンの作品を自由曲で演奏しました。

ほとんど聞いたことのない作品ばかりを連続して聞くことになったのですが,全く退屈することがありませんでした。左手だけで弾くことによるシンプルなメロディの美しさと,両手で演奏している?と思わせるような幅広い音域を使った急速のパッセージの対比など,大変変化に富んだ演奏を楽しむことができました。

課題曲は6回同じ曲を聞き,スクリャービンも3回聞いたのですが,それぞれの個性というか演奏の味わいの違いがあるのも面白かったですね。オーディションをテーマにしたミュージカルに「コーラスライン」という名作があります。このミュージカルでは,それぞれ名も無い応募者たちが,自分の過去を語っていくシーンがありますが,今回,プログラムのプロフィールに書かれた「左手で演奏する理由」という項目を読みながら,6人の奏者の「人生」を思い浮かべ,それと重ね合わせて聞いてしまいました。

今回面白かったのは(これはオーディションやコンクール全般に言えるのかもしれませんが),審査員の講評を生の声で聞けたことです。今回の審査員は,舘野泉さんに加え,作曲家の一柳慧さん,吉松隆さんという豪華メンバーでしたが,それぞれの「聴き方」が分かり,「へぇ,そうなのか」と感じる部分がありました。特に舘野さんは,「細かい部分にこだわりすぎず,大きな音楽を作って欲しい」ということを語っており,そのことが審査にも反映していたようです。

今回の結果ですが,車椅子に座ったまま演奏された,月足さおりさん(音がとても美しいと思いました)と瀬川泰代さん(明るい笑顔にぴったりの演奏でした)が最優秀に選ばれ。次点のような感じで,児島顕一郎さんが最優秀審査員賞(個人的にはこの方の自由曲の演奏がいちばん印象に残りました),Stefan Warzyckiさんが優秀賞に選ばれました。

それ以外にも「左手のため」の「この作品」については,誰にも負けないという思いの強さを感じる箇所がいくつかありました。選考された結果については,私が感じた結果とは少し違っていたのですが,来春のガル祭でどういう演奏を聞かせてくれるのか楽しみにしたいと思います。「左手のための協奏曲」も演奏されるようですが,どの協奏曲が演奏されるのかも楽しみですね。

2018/11/07

久しぶりに 石川県立音楽堂に登場した井上道義さん指揮OEK等による洋邦コラボレーションコンサート。ペルトのフラトレス,若林千春の新曲,ストラヴィンスキーのアポロ。新しいアートを作り出す楽しさと芸術の神への感謝の思いが伝わってくるような演奏会でした。

本日は,久しぶりに石川県立音楽堂に登場した,井上道義さん指揮OEKメンバー等による,「洋邦コラボレーション」と題された演奏会を聞いてきました。井上さんは,OEK初代音楽監督の岩城宏之さん同様,クラシック音楽と邦楽とが一体になったような演奏会を何回か行って来ましたが,本日の演奏会は,井上さんの「やりたいこと(orやりのこしたこと)」が隅々まで徹底した,総決算的な内容だったと思います。

演奏されたのは,茶道のお手前+能舞とペルトのフラトレスのコラボレーション,若林千春さん作曲による「ゆにわ/しま IV-b」という独奏フルート,独奏チェロ,能管,小鼓,大鼓のための作品(初演)。そして,ストラヴィンスキーの「ミューズを率いるアポロ」の3曲でした。特に前半の2曲は,通常のクラシック音楽のコンサートの雰囲気とは一味違う,シアターピース的な作品で,井上さんらしさが溢れていました。後半のストラヴィンスキーも素晴らしい作品の素晴らしい演奏でした。

最初に演奏されたペルトのタブラ・ラサは,2楽章構成の作品で,ステージ奥でOEKの弦楽合奏が静かで神秘的なムードを醸し出す中,山根一仁さんとアビゲイル・ヤングさんのヴァイオリンが,掛け合いをしていきます。繰り返しがとても多いので,次第に陶酔的な気分になっていく作品です。

その中で,上手側で渡邊荀之助さんが能を舞い,下手側で奈良宗久さんがお茶を煎れる動作をします。ステージの照明は暗目で,2人にスポットライトが当たるようになっていましたので,この2人の動作にどんどん引き込まれていきました。ただし...その意味まではよく分かりませんでした。

第1楽章の後半で,照明が点滅し,その後,渡邊さんが奈落の底に落ちていったり(ステージの床がエレベータのように下がっていくということですが),奈良さんの方は,茶道の道具を全部片付けた後,第2楽章になって再度登場して,お茶を煎れる動作をしたり...なかなか難解でした。曲が終わった後,井上さんが,表現していたストーリーを解説してくれて,「そういうことだったのか」と了解できた部分もあったのですが...少々懲りすぎだったかもしれません。

音楽の方は,第2楽章はさらにシンプルでゆっくりとした曲想になりました。井上さんによると「空」を表現していたということです。この時空の感覚がなくなるような感じはペルトの音楽ならではの魅力だと思いました。

次の若林さんの新曲の方は,音楽的にはかなり前衛的で,メロディが全くないような作品でしたが,武満徹の作品であるとか,能そのもののスタイルを思わせる雰囲気があり,とても楽しめました。

最初,大鼓と小鼓が静かに応答しあうような和の雰囲気で始まった後,途中,独奏チェロの細井唯さんと独奏フルートの松井さやさんが入場してきて,特殊奏法満載の不思議で強烈な世界が続きました。チェロの方は不協和音というよりは,故意にギシギシ言わせるような音が続出,フルートの方は息だけの音を使ったり,ウワオーという感じで半分声を出しながら演奏したり,伝統に刃向かうムードたっぷりの音楽が続きました。

ただし,このお二人による集中力のある演奏で聞くと,目が離せないという感じになり,強くひかれました。舞台奥の紗幕の後ろに,能に登場する邦楽器が3つ配置し,その前に少し距離を置いてチェロとフルートが,能のシテとワキといった感じで並んでいましたので,この舞台で能を表現しているように思いました。終了間際に能管が,ピーッと強く音を出していたのも能に通じると思いました。

邦楽器と洋楽器のコントラストを聞かせる二重協奏曲という点では,武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を思わせる要素もあると思いました。尺八がフルートに,琵琶がチェロに置き換わったようなイメージです。最初と最後が邦楽器中心で,中間部にチェロとフルートによる長いカデンツァが入っているようにも思えましたが,この構成もノヴェンバー・ステップスと似ていると思いました。何より「どういう楽譜になっているのだろう?」と思わせるほど不思議な音が続いていたのも同様でした。

タイトル自体も謎だったのですが,今回のテーマの洋と邦のコラボというテーマに相応しい作品だったと思いました。この作品は,井上さんが主催している「是阿観作曲家コンクール」の第1回優秀作品に選ばれた作品です。2021年に上演を計画している新作能に向けた,3年計画のコンクールということで,今後どういう作品が登場してくるのか期待したいと思います。

後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「ミューズを率いるアポロ」が,弦楽合奏で演奏されました。これは普通のクラシック音楽のコンサートのスタイルで演奏されましたが,井上さんの原点である,バレエを意識しての選曲となっていました。

実演で聞くのは初めての曲でしたが,ストラヴィンスキーの曲の中でも特に心地良い響きのする作品だと思いました。古代ギリシャの気分を伝えるような晴朗な気分にあふれていました。単純にシンプルなわけでなく,「実は複雑そう」という面もありましたが,「芸術の神アポロ」に対する素直な賛美,井上さんの「アートの世界」に対する信頼や演奏できることの喜びのようなものがストレートに伝わってきました。

特に前半のプログラムは,色々と冒険的な試みをしており,「一体どうなったのだろう?」といったスリリングな面もありましたが,「新しいアート」を作り出す楽しさを存分に伝えてくれるような演奏会だったと思います。

«OEK初登場の #鈴木雅明 さん指揮による定期公演。「疾走する哀しみはとまらない」といった感じのモーツァルト40番。そして #RIAS室内合唱団 等との共演によるメンデルスゾーンの宗教音楽2曲。晴れやかな気分が残る,生きる力が湧いてくるような演奏でした。

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