OEKのCD

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2017/12/10

12月恒例のOEKと北陸聖歌合唱団による #メサイア 公演はダグラス・ボストックさん指揮。これぞスタンダードという感じの「大人のメサイア」だったなぁと思いました。 #oekjp

12月恒例の北陸聖歌合唱団とOEKによるクリスマス・メサイア公演を聞いてきました。今年の指揮者は,英国出身のダグラス・ボストックさんでした。OEK指揮をされるのは,数年前の定期公演以来のことだと思います。「メサイア」の歌詞が英語なのですが,考えてみるとこの年末メサイア公演に英国出身の指揮者が登場するのは,初めてかもしれません。

そのせいもあるのか,今年の「メサイア」は,非常にスタンダードで紳士な雰囲気があると思いました。我が家にある「メサイア」のCDは,トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサートの録音で,いつの間にかこれがデフォルトになってしまっているのですが,その気分に近いと感じました。第1曲の序曲から,歪みの少ない,イメージどおりメサイアを聴いたなぁという実感が残るような演奏でした。

ハレルヤ・コーラスにしても,最後のアーメン・コーラスにしても,非常に率直で,大げさなテンポの変化はなく,ストレートに「主をほめたたえる」気分が伝わってきました。トランペットが加わって,壮麗さが加わる曲では,過去,音楽堂のパイプオルガンのステージで演奏するケースもありましたが,今回は通常の「1階席」でオーケストラの一員として演奏していました。オーケストラとしっかり溶け合いつつ,音全体として壮麗さを増しているようでした。OEKによる「メサイア」も20回近くになっているはずですが,今回の公演は,「大人のメサイア」という感じで,公演自体成熟してきているなぁと感じました。

「メサイア」の前に,いつも演奏しているOEKエンジェルコーラスの合唱は,榊原栄さん編曲によるおなじみのクリスマス・ソングメドレーというのが定番で,個人的には大変好きなアレンジだったのですが,今年は,オルガンの伴奏による宗教的な気分のある合唱曲が3曲でした。今回の「大人のメサイア」の気分にぴったりだったと思いました。

今回,ボストックさんは,ソリストの入る曲の時は指揮棒なし,合唱曲の時は指揮棒ありで指揮されていました。この方針は非常に明確でした。その音楽も大変明快でした。北陸聖歌合唱団の皆さんをしっかりコントロールしつつ,いつもにも増してまとまりのよい歌を聞かせてくれたと思います。英国というと合理的と連想してしまうのですが,音楽全体に,健全な合理性のようなものが感じられ,聞いていて,「メサイア」という曲がベースとして持っている,希望や安らぎに向けてのベクトルがしっかりと最短距離で伝わってきました。

独唱者の皆さんは,毎年素晴らしいメンバーが揃っているのですが,今年も声の饗宴のような素晴らしさでした。テノールの鈴木准さんの若々しく,清々しい声,バリトンの久保和範さんの威厳と慈愛に溢れた声。池田香織さんの余裕のある深く輝かしい声。そして,金沢の「メサイア」には無くてはならない朝倉あづささんの可憐な声。プログラムによると,今年が26回目のメサイア公演ということで,まさにエバーグリーンの声だと思います。というわけで,ソリストの方もまた,私にとっての「デフォルト」でした。

残念だったのは,第2部を中心にカットが多かったことでしょうか。特にいちばん長い,メゾ・ソプラノのアリアがないと,「受難の気分」が薄まるかなと思いました。

というわけで,この「大人のメサイア」で是非,一度,全曲を聞いてみたいと思いました。期待をしています。

2017/12/09

#ミッシャ・マイスキー と #広上淳一 指揮OEKが共演したPFU創立30周年記念クリスマス・チャリティコンサート。マイスキーさんのニュアンス豊かで情熱を秘めた音をしっかり味わってきました。 #oekjp

毎年12月恒例のPFU主催のクリスマス・チャリティコンサートも,今年で30周年となります。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立当初からずーっと毎年のように開催されている伝統ある演奏会です。今回は記念の年ということで,スペシャル版となり,世界でもっとも有名なチェリストの一人,ミッシャ・マイスキーと広上淳一指揮OEKが共演しました。定期公演でも実現していない,夢の共演が実現しました(ただし,調べてみると,海外公演ではマイスキーさんとOEKは共演しているようですね)。

前半後半とも,マイスキーさんの独奏が入る曲が最後に演奏されていたので,「マイスキーさんが主役」という内容の演奏会でしたが,曲の雰囲気に統一感があったので,とてもまとまりの良い構成になっていました。

私自身,マイスキーさんの演奏を生で聴くのは,今回が3回目だったのですが,過去2回については,結構後ろの座席で聞いたせいか,実はあまり印象が残っていません。今回もそれほど聞きやすい席ではなかったのですが(今回,座席は自分では選ぶことができず,少々苦手な(斜めに聞くのが苦手なのです)バルコニー席でした),音の方はよく聞こえました。改めて,素晴らしいチェリストだと思いました。そのニュアンス豊かで情熱を秘めた音をしっかり味わうことができました。

前半のハイドンのチェロ協奏曲第1番は,「地味にすごい曲」です。第1楽章は,屈託なく始まるのですが,さりげなく技巧的で,特に第3楽章は,超絶技巧的な感じになります。マイスキーさんのチェロの音には輝きがあり,特にぐっと音を弱くして意味深さを感じさせてくれるのが印象的でした。第2楽章ではしっかりとした歌を聞かせてくれました。呼吸が深く,息長く続くチェロの歌を堪能できました。第3楽章は,挑みかかるような速いテンポで,広上さん指揮OEKと一体になって,野性味のある演奏を聞かせてくれました。部分的にはちょっと粗いかなと感じさせる部分もありましたが,どの楽章についても,表現意欲とニュアンスの多彩さ,そして歌に溢れた演奏を聞かせてくれました。

後半最後に演奏された,チャイコフスキーの「ロココ変奏曲」は,さらにこなれた「十八番」といった演奏でした。広上/OEKによる,センシティブで憧れに満ちた序奏に続いて,くっきりと確信に満ちた主題が始まりました。この古典的な明快さに続いて,さり気なく深い表情を持った変奏が続きました。この曲でも弱音でじっくりと演奏される変奏での意味深さが素晴らしいと思いました。急速なテンポで演奏された,最後の変奏は,さすがに演奏するのは大変そうでしたが,最後の最後の部分では,少しテンポを落としており,歌舞伎の名優が見得を切って,決め台詞を言うような語り口の上手さを堪能できました。

マイスキーさんの髪の毛のボリュームは相変わらずでしたが,色の方はすっかり真っ白になっていました。その一方で,演奏の方は,気力に満ちており,円熟味を増しているなと感じました。こういうマイスキーさんとOEKの共演を聞くことができ,とても良かったと思いました。

その他のOEK単独で演奏された曲も楽しめました。

最初に演奏されたモーツァルトの「劇場支配人」序曲は,現在の「題名のない音楽会」で,テーマ曲として使っている曲です。意外に実演では聞く機会のない曲ですね。広上さんのテンポ設定は,大変どっしりとしたもので,大船にのった気分で,「ゴージャスに開幕」といった気分を伝えてくれました。

後半最初に演奏された,チャイコフスキーの「モーツァルティアーナ」は,チャイコフスキーがモーツァルトの曲をオーケストラ用に編曲した組曲です。最初の3曲が短く,4曲目だけが10分以上かかる変奏曲という,少々変わった構成の曲です。「ロココ変奏曲」の方も,古典志向の曲でしたので,取り合わせはとても良いと思いました。

とても聞きやすい曲でしたが,オーケストレーションすることによって,言葉は少々悪いですが,「のんべんだらり」とした緩い雰囲気の曲だと思いました。特に最後の変奏曲がそういう感じでした。しかし,そこがまた良いところで,木管楽器を中心とした各楽器の語らいを楽しむことができました。特に最後の変奏での,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんの独奏はかなり長大なもので,聞きごたえがありました。そして,曲が終わる直前に「ちょっと待ったー」という感じで入る,クラリネットの遠藤さんによる,鮮やかなソロも見事でした。広上さんの慌てない指揮ぶりで,堂々たるスケール感も伝わってきました。

アンコール曲は,マイスキーさんとオーケストラの共演で2曲演奏されました。1曲目は,チャイコフスキーのノクターンでした。ストレートにマイスキーさんのチェロの音の美しさとセンチメンタルな歌の味わいに浸ることのできる演奏でした。

2曲目は,サン=サーンスの白鳥が演奏されました。弦楽合奏とハープ伴奏版で聞くのは珍しいことですが,息の長い歌に酔わせてくれました。そして,弦楽合奏+ハープの伴奏ということで,聞いているうちに,マーラーの「アダージェット」と似た浮遊感があるなぁと思いました。

以上のとおり,マイスキーさんの魅力だけではなく,OEKらしさも感じられる曲が並んでいました。マイスキーさんについては,大編成のオーケストラと共演するよりは,小編成での演奏の方が個性を強く味わうことのできるアーティストではないかと思いました。というわけで,機会があれば是非,OEKとの再共演や音楽堂での室内楽公演を期待したいと思います。

2017/11/30

OEK定期初登場の #デイヴィッド・アサートン さんによる英国音楽とベートーヴェンの7番。お国ものの素晴らしさは当然として,交響曲での自然な風格に溢れた音楽にも聞き惚れました #oekjp

11月後半のOEKのフィルハーモニー定期公演には,OEK初登場となる,デイヴィッド・アサートンさんが登場しました。アサートンさんは英国出身で,ロンドン・シンフォニエッタの指揮者としても知られた方です。個人的には,「今シーズン屈指の公演になるに違いない」と期待していたプログラムでした。

プログラムの方は,前半が「お国もの」の英国の音楽,後半では,OEKが何回も演奏してきたベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されました。協奏曲が入らないプログラムということで,どちらかというと地味目のプログラムと言えますが,期待通りの充実した音楽を楽しむことができました。

前半の英国音楽については,OEKはこれまであまり演奏してこなかったのですが,こうやってまとめて聞いてみると,実に味わい深いなと思いました。押しつけがましいところはないのに,しっとりとした情感がホール全体に染みわたりました。アサートンさんは,思ったよりも立派な体格の方で,その「かくしゃく」とした指揮ぶりが印象的でした。そして,その音楽には,何ともいえない風格が滲み出ていました。

最初に演奏された,エルガーの「夜の歌」と「朝の歌」は,2曲セットになった親しみやすい作品で,夕べの祈りから爽やかな朝へと,心地よく情感が推移していきました。バートウィッスル作曲のヴィルレーは,この日演奏された曲の中では唯一21世紀の作品でしたが,古い時代の曲を基に作られていただけあって,ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」をより先鋭にしたような,古いのか新しいのか分からない,不思議な雰囲気を味わうことができました。

ディーリアスの劇付随音楽「ハッサン」~間奏曲,セレナードもまた,「英国音楽って本当にいいものですねぇ」と言いたくなるような作品でした。最初の音を聞いた瞬間から,「ポエムだなぁ」という感じになり,ホールの空気が一転しました。クリアだけれども不思議なサウンドは,どこか武満徹の曲を思わせるような味があると思いました。そのまま「セレナード」の部分になるのですが,ここでは,この日のゲスト・コンサートマスターだったジェームズ・カドフォードさんのソロが大活躍していました。静かに澄みきった世界が続き,このままずーっと,ディーリアスの世界に浸ってたいたいなと思いました。

前半最後は,ブリテンのシンプル・シンフォニーでした。名前からすると軽く見られがちな曲ですが,実は,第3楽章の「センチメンタルなサラバンド」を中心に,とても聞きごたえのある曲です。アサートンさんの作る音楽は,基本的には,力み過ぎることのない,余裕のある音楽だったのですが,随所に若々しく新鮮な気分が溢れており,素晴らしいなぁと思いました。第2楽章での精彩に満ちたノリ良く,軽やかなピツィカート。鮮烈に聞かせる第3楽章。ビシッと力強く聞かせた第4楽章。前半の最後に相応しい充実した音楽でした。

前半は,結構曲数が多く,しかも曲ごとに編成が違っていたので,ステージマネージャーさんが大活躍でした。英国音楽の多様性を感じさせてくれると同時に,全体に通底するような,英国的品の良さやユーモアを感じさせてくれるような素晴らしいプログラミングだったと思いました。

後半のベートーヴェンの交響曲第7番も,虚飾を排しつつも,随所で味わい深さを感じさせてくれる,ベテラン指揮者ならではの演奏だったと思います。アサートンさんの指揮には大げさに盛り上げようとする感じはないのですが,全曲を通じて,自然ににじみ出てくるような熱さがありました。そして,風格がありました。

第1楽章の序奏部から,そのストレートな音楽がとても気持ちよく感じました。この気持ち良さは,全曲を通じて一貫していたと思いました。快速でキリッと引き締まった第4楽章を中心に音楽全体が実に若々しく,OEKメンバーが敬意を持って,アサートンさんの指揮に反応しているなぁと思いました。第4楽章のコーダは,大変ノリが良く,しっかりコントロールされつつも,勢いに溢れた素晴らしい音の流れを作っていました。

この曲の隠れたチェックポイントである,第1楽章と第4楽章のコーダに出てくる,バッソ・オスティナートの部分も素晴らしいな,と思いました。低音部が執拗に同じ音型を繰り返す上に高音部で緊張感を高めていく部分ですが,威力抜群でした。ヴィオラのダニール・グリシンさん,チェロのルドヴィート・カンタさん,コントラバスのマルガリータ・カルチェヴァさんを中心とした低音部の迫力は室内オ―ケストラとは思えないほどでした。

というようなわけで,今回初顔合わせだったアサートンさんとOEKとの組み合わせはとても良いと思いました。アサートンさんについては,現代音楽が得意ということで,もっと冷たい雰囲気の方かと予想していたのですが,音楽の奥には,常に熱さを秘めていると思いました。特に前半の英国プログラムについては,これまで「盲点」のようになっていましたので,是非,続編を期待したいと思います。CDなどで聞くと地味な印象なのは確かなのですが,実演で浸って聞くと格別,という気がしました。

2017/11/21

音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションⅡで,木管五重奏の多彩な世界を堪能してきました。みなさま,お疲れ様でした。 #oekjp

「音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションⅡ」が石川県立音楽堂交流ホールで行われたので聞いてきました。今年度のこのシリーズでは,OEKの各パートをしっかり活用した「やや大きめの室内楽曲」が取り上げられることが多いようです。今回は,木管五重奏曲と木管五重奏+ピアノの曲ばかりが並んだ,充実のプログラムでした。

登場したのは,次の皆さんでした。
  • ファゴット:柳浦 慎史
  • ホルン:金星  眞
  • フルート:松木 さや
  • オーボエ:加納 律子
  • クラリネット:遠藤 文江
  • ピアノ:鶴見彩
余談ですが,プロフィールを読みながら「東京芸大の出身者が6人中5人だなぁ」と変なところに注目してしまいました。この日は,上の階(コンサートホール)では,神尾真由子さん,平野加奈さんとロシアの交響楽団がチャイコフスキーの協奏曲を共演する演奏会が行われていましたので,そちらに敢えて行かなかったお客さんばかりということになります(私の場合,経済的な理由もありますが)。今回のメンバーとプログラムの「豪華さ」を理解するお客さんばかりということで,とても暖かな雰囲気があったと感じました。

木管五重奏は,弦楽器を中心とした室内楽曲に比べるとあまり親しまれていないと思いますが,今回のプログラムを聞いて,その多彩さをしっかり感じることができました。司会のOEKファゴット奏者の柳浦さんが「プログラムのメインになるような曲を4つ並べた。演奏する方も聞く方も大変です」と語ったとおり,充実感のあるプログラムでした。

今回演奏されたのは,次の4曲でした。
  • ヒンデミット:小室内音楽
  • トゥイレ:六重奏曲
  • ニールセン:木管五重奏曲
  • プーランク:六重奏曲
このうち,トゥイレとプーランクには,ピアノが入りました。4曲の中では,いちばん知られていない作曲家,トゥイレの曲がいちばん聞きやすく,オーソドックスなまとまりのある曲だったと思いました。この曲を聞くのは2回目ですが,ブラームスの曲を思わせるようなシンフォニックな気分がありました。4楽章構成で全体で30分ほどかかりましたが,爽やかな空気に満たされたような気持ち良さがあり,全く退屈することなく楽しむことができました。この分野では,屈指の名曲ではないかと思いました。

ヒンデミットの作品は,タイトルどおり,もう少し小さく凝縮されたような雰囲気の音楽でした。一つのモチーフが何回も繰り返されて,がっちりと積み重ねられていく感じが,ヒンデミットらしいなと思いました。

ニールセンの曲については,柳浦さんは晩年はやや精神を病んでいたと言われていたと語っていたのですが,曲の中にもそのことが反映されていた気がしました。のどかな気分かと思ったら急に激しく叫ぶような感じになったり,少々捉えどころのない作品でした。最後の楽章の変奏の部分なども,かなり感情の変化の起伏が大きかったのですが,逆にその点に現代性を感じました。個人的に妙に引かれる作品でした。

最後に演奏されたプーランクの六重奏曲は,今回のプログラムの中でいちばん有名な曲で,私自身,唯一CDを持っている曲です。冒頭の部から,生き生きした音の動きと,ちょっと野性味を持った迫力と,甘く夢見るような雰囲気とが交錯し,プーランクの作品の中でも特に素晴らしい作品だと思います。生演奏で聞くと,特にその音の動きの面白さが生々しく伝わってきます。キラキラするようなフルート,オーボエ,クラリネットの高音も印象的でしたが,低音からグッと盛り上がってくるようなホルンやファゴットの音も良いなと思いました。

曲の最後の部分は,テンポをぐっと落とし,余韻をたっぷりと楽しむ雰囲気になりました。もしかしたら,演奏する方にとっても非常に大変だった今回のプログラムの余韻を皆さんしっかりと噛みしめていたのかもしれませんね。みなさま,お疲れ様でした。

アンコールでは,ラヴェルの「クープランの墓」の終曲の一部が演奏されましたが,木管五重奏の世界はまだまだレパートリーがありそうなので,是非続編に期待したいと思います。とりあず,「クープランの墓」の全曲に期待したいと思います。


今回の編成と同じ室内楽グループでは,「レ・ヴァン・フランセ(フランスの風)」が有名ですが,この際,何かグループ名を付けて活動して欲しいぐらいです。「金沢の空(Le ciel de Kanazawa)」とかどうでしょうか。

2017/11/18

#ミヒャエル・ザンデルリンク 指揮OEK定期公演M。前月のヴラダーさんとは一味違う,ずしっとした味わいのモーツァルト。フェッターさんの優雅なピアノもお見事 #oekjp

もう金沢の冬も間近といった雰囲気の雨の中,ミヒャエル・ザンデルリンクさん指揮によるOEK定期公演マイスターシリーズを聴いてきました。今シーズンのマイスターシリーズのテーマは,「ドイツ,音楽の街」」ということで,ドイツの色々な都市にちなんだ音楽や演奏家が登場するという趣向ですが...今回の「フランクフルト」については,どういうつながりがあったのか,実はよく分かりませんでした。

ただし内容の方は素晴らしいものでした。10月のシュテファン・ヴラダーさん指揮のフィルハーモニー定期でもモーツァルトのピアノ協奏曲と交響曲が取り上げられましたので,その続編のようなところがあったのですが,今回のザンデルリンクさん指揮のモーツァルトは全く別の味わいを出していました。同じ洋食でもシェフによって味付けや盛り付けが違っているのを楽しむような,定期会員ならではの贅沢さを味わうことができました。

先月のヴラダーさんのモーツァルトは筋肉質に引き締まった感じがあったのですが,ザンデルリンクさんの方は,もう少し肉付きがよく,現役の大相撲で言うところ豪栄道ぐらいの(変なたとえですみません)バランスの良さを感じました。

最後に演奏された交響曲第39番は,実は,個人的に今いちばん好きな交響曲です。第1楽章の冒頭のテンポ感は,もはやカラヤン,ベームといった時代の重いテンポではないのですが,古楽奏法を意識した演奏に多い,さらっと軽く乾いた感じはなく,昔ながらのモーツァルトに近い,ずっしりとした重みを感じさせてくれるような演奏でした。このことが,まず私の波長にピタリと合いました。

第1楽章の展開部に入ったところで,これまで聴いたこともないような大きな休符が入り,なんとも言えない深淵な雰囲気が漂いました。ところどころこういう感じでニュアンスの変化を際立てたり,音楽のエネルギーがぐっと高まったりするところが素晴らしいと思いました。表面的には古典派らしく整っているけれども,大きな力や豊かな歌を感じさせてくれるような,聴き応えを感じました。

第3楽章などは,軽快なメヌエットというよりは,しっかりと踊れそうなドイツ舞曲といった趣きがあり,「やはりこのテンポだ」と思いました。その中からクラリネットの歌がしっかりとわき上がってきて,なんとも言えない幸福感を感じました。

1曲目に演奏されたメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」でも,静かな部分と激しい部分の対比がかなり明確に付けられているのが特徴的でした。音楽が内側から盛り上がり,それに応じてテンポも速くなるような感じがあり,(これはかなり的外れな感想かもしれませんが)フルトヴェングラーが室内オーケストラを指揮して,もっと現代的にしたらこんな感じなのかなとも思ったりしました。

2曲目に演奏されたモーツァルトのピアノ協奏曲第18番では,ソフィー=マユコ・フェッターさんがソリストとして登場しました。フェッターさんのピアノもザンデルリンクさん同様,前月のヴラダーさんとは対照的で,現代的な優雅さのようなものを感じさせてくれました。余裕をもったテンポ感で,各楽章ともに透明感だけではなく,品の良い香りが漂うような素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

この18番については,CDなどで聴いた印象だと,第1楽章がタンタカ・タン・タンと始まるパターンは,天才アマデウスにしては,「ワンパターン」過ぎでは,17番や19番と「区別がつかない」などと思っていたのですが,本日の演奏を聴いて初めて好きになりました。第2楽章の憂いに満ちた透明感も最高でした。

フェッターさんはアンコールでスクリャービンの左手のためのノクターンを演奏しましたが(この曲,結構,アンコールで出てきます),この時,ドレスの上に羽織っていたパーツ(何と呼ぶのでしょうか?カーディガン?)をステージ上で脱ぎ捨てて(?)演奏を始めました。落語のような感じだなと一瞬思ったのですが,黒と赤のドレスだったのが,真っ赤のドレスに変わり,会場は「オッ,魅せてくれるなぁ」という雰囲気になりました。こういうのも生の演奏会ならではの楽しみだと思います。

3曲目には,日本初演となる弦楽合奏のみによるヨスト作曲の「ゴースト・ソング(2017年)」が演奏されました。この曲は大変聞きやすい曲で,バルトークやペルトなど,これまでOEKが演奏してきた20世紀の弦楽合奏曲につながるような,リズムの面白さや神秘的な雰囲気を楽しむことができました。

OEKの定期公演では,「プログラムの3曲目に弦楽合奏の新曲が入る」パターンが多い気がします。しかも面白い曲が多いですね。というわけで,この枠で演奏される曲も密かに楽しみにしています。

この日のコンサートミストレスは,ベルリンフィルのヴァイオリン奏者の町田琴和さんでしたが,この日のOEKは,非常にしなやかで,ザンデルリンクさんの要求にしっかりと応えていたと思いました。

ザンデルリンクさんについては,単純に新しいスタイルを追求するだけではなく,色々な過去の演奏スタイルを踏まえた上で,いちばん自分の表現に合ったスタイルを選んでいるように感じました。これからどういう指揮者になっていくのか見守る楽しみもある指揮者だと思います。是非,再度OEKに客演して欲しいものです。

2017/11/11

#松田華音 ピアノリサイタル@北國新聞赤羽ホール。オール・ロシア・プログラムをのびのびと,そして完成度の高い演奏で楽しませてくれました

北國新聞赤羽ホールで,松田華音さんのピアノリサイタルが行われたので聞いてきました。松田さんは6才の時にロシアに渡ってピアノの勉強をし,現在,モスクワ音楽院に在籍されている方です。学生とはいえ,すでにCDアルバムを2枚発売し(しかもドイツ・グラモフォンから),テレビ等にもよく出演されています。注目の若手ピアノ奏者と言えます。

その松田さんによるオール・ロシア・プログラムということで,これまでロシアで研鑽を積んできた成果をしっかりと聞かせてくれるような素晴らしいリサイタルとなりました。

プログラムは,松田さんの最新のCDと同じ内容で,前半がチャイコフスキーとプロコフィエフの編曲もの。後半がムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」でした。
https://www.japanarts.co.jp/news/news.php?id=2671

松田さんはまだ若い方で,名前の雰囲気どおり,華やかで可憐な雰囲気があったのですが,ステージ上での視線には強さがありました。演奏にも,しっかりと曲の本質を射貫くような強さと説得力がありました。硬質で引き締まった低音,切れ味の良い打鍵,きらめくような高音...どの曲についても,大変バランスの良い,完成度の高い演奏を聞かせてくれました。

特に良いと思ったのは音です。一般にプロコフィエフの曲については,打楽器的で冷たい感じがあり,それが魅力でもあるのですが,松田さんの音については,硬質感一辺倒ではない,ふくよかさのようなものや奥行きを感じました。

今回は,10曲ぐらいなる組曲が前半と後半に演奏されるという独特のプログラムでしたが,松田さんの演奏からは,曲想の多彩な描き分けと同時に一本筋の通った統一感を感じました。散漫な感じは無く,前半後半ともに,ロシアの大曲を聞いたという充実感が広がりました。

特に後半に演奏された「展覧会の絵」では,若々しく始まったプロムナードの後,思う存分,かつ丁寧に各曲を弾き切っており,すがすがしさを感じました。「キエフの大門」の最後の方はもう少しテンポが速い方が今の華音さんには合っているかなとも思いましたが,曲の勢いとすみずみまで磨かれた精緻さとが両立した素晴らしい演奏だったと思います。

アンコールの1曲目にムソルグスキーの「古典様式による間奏曲」というマイナーだけれども非常に「聞かせる曲」が演奏された後,2曲目としてパッヘルベルのカノン(藤満健編曲版)が演奏されました。しっかりと華が開く,華麗な「華音」となっていました。こういう名刺代わりになるような曲があるのは良いですね。

今回,お客さんの数があまり多くなかったのが少々意外で,残念でしたが,これからどんどん活躍の場を広げていくことを期待したいと思います。リサイタルに加え,特にロシアものの室内楽公演が金沢で行われることに期待したいと思います。

2017/11/08

#河瀬直美 演出,#広上淳一/OEK「#トスカ 」金沢公演。スケールの大きさと情感の豊かさ,そして,鮮やかな映像美を楽しめる素晴らしい公演でした。 #oekjp

OEKはほぼ年1回のペースで,「全国共同制作プロジェクト」という形でオペラ公演に参加しています。全国各地のコンサートホール等を使って行うオペラということで,セットなどはそれほど大規模ではありませんが,それを補う形で,色々と工夫のされた設定や,斬新な演出での上演されています。

今年は,映画監督の河瀬直美さん演出による「トスカ」でした。「トスカ」は,本来はローマを舞台とした作品ですが,河瀬さんの演出では,古代の「牢魔」という場所が舞台になっていました。1日の出来事を描くという点はオリジナルと同じでしたが,役名が「トス香」「カバラ導師」になるなど,舞台全体としては,和風~無国籍風のテイストがありました。

こういう一ひねりのある設定の「トスカ」でしたが,全曲を通じて,河瀬さんの美意識と作品に込められた豊かなドラマとがストレートかつ丁寧に表現された見事な舞台になっていたと感じました。

河瀬さんの演出は,映画監督らしく映像をふんだんに活用したものでした。舞台の背景あたりに巨大な暖簾のような形のスクリーンを設置し,そこに各幕ごとに美しい映像を投影していました。第1幕は富士山,第2幕は水のイメージ,第3幕(第2幕から連続していました)は月がメインになっており,各幕の気分が鮮やかに切り替わっていました。

このスクリーンは暖簾のようになっているので,そこをくぐる形で人物が出入りするのですが,ステージ奥から常に強い光が出ているので,登場するたびに,非常に大きなシルエットがスクリーンいっぱいに登場します。これも効果的でした。特に悪役スカルピアの登場の場は,音楽の迫力と相俟って,格好良さと怖さを兼ね備えた雰囲気を作り上げていました。

その他,曲の雰囲気に合わせて,急に花の絵に変わったり,トスカがスカルピアを殺害する瞬間は,花火の映像に切り替わったり,幕切れではスクリーン一面がローソクになったり,非常に効果的に映像を使っていました。

また演出の意図として,「悲惨で救いのない感じにならないように」という方向性があったようで,スカルピアとトスカの死については,リアリズムの演出とは一味違う,幻想味がありました(詳細はレビューで紹介しましょう)。この辺は賛否の分かれる部分だと思いますが,こういうのも「あり」と私は思いました。

音楽面では,何といっても広上淳一さん指揮OEKの作り出す,じっくりと丁寧に情感を描くような音楽が素晴らしいと思いました。「歌に生き恋に生き」「星はきらめき」の2大名曲は,どちらもこれまで聞いたこともないくらい,じっくりとしたテンポでスケール感たっぷりに歌われました。
ただし,「星はきらめき」の方は,背景に大きな大きな月が出ていたので,「月はきらめき」という感じでした。


主役トスカのルイザ・アルブレヒトヴァさんの声には,常にドラマを内面に秘めたような暗さと強さがあり,この役柄にぴったりだと思いました。カバラドッシ役のアレクサンドル・バディアさんの方は,やや声が薄い感じがして,存在感ではトスカに負けている気がしましたが,その分,悲運の青年といった感じがよく出ていたと思いました。

スカルピア役の三戸大久さんは,素晴らしく包容力のある,瑞々しさのある声で,素晴らしいと思いました。ドロドロした悪役というよりは,むしろ二枚目的な雰囲気のあると思ったのですが,これがとても新鮮でした。スタイリッシュな映像中心の「トスカ」にぴったりのスカルピアだと思いました。

脇役の歌手たちも,実力のある人が揃っており,安心して楽しむことができました。もしかしたら,それぞれにカバラドッシやスカルピアを演じられる人たちばかりだった気がしました。

合唱団の皆さんの出番では,やはり第1幕後半の「テ・デウム」の部分のスケール感が素晴らしいと思いました。最近絶好調の広上さんらしい,エネルギーが充満した巨匠的な迫力を秘めた幕切れでした。

今回の「トスカ」は,広上さんとOEKの作り出す,スケールの大きさと情感の豊かさを持った演奏と河瀬さんによる鮮やかなインパクトを残す映像が全体の基調を作り,その上で歌手たちが生き生きと活躍する,大変完成度の高い公演になっていたと思います。あと2公演残っていますので,お近くの方は是非,ご覧になってください。

2017/11/03

待望の #アマデウスLIVE 日本初公演を石川県立音楽堂で堪能。映画版以上に堪能できます。OEKと合唱団の皆さん,そして指揮者の #辻博之 にブラーヴォ! #oekjp

本日は海外で人気を集めている #アマデウスLIVE の日本初公演が行われたので,午後からたっぷり3時間,石川県立音楽堂でどっぷりと堪能してきました。この企画は,1984年に作られた,モーツァルトの生涯を,当時のライバル作曲家だったサリエリの視点から,ドラマティックに描いた名作映画「アマデウス」の音楽部分を生で演奏してしまう,というすごい企画です。


サウンドトラックのうち,一人の歌手が歌っているパートやチェンバロなどを独奏している部分などをのぞき,オーケストラと合唱が関わっているような部分は,全部,OEKと特別編成の合唱団が吹き替えてしまうといった趣向です。

すでに完成されている映像に後から音を入れるということで,一体どうなるのだろう,と思ったのですが...驚くほど違和感を感じませんでした。これは私の座席が,いわゆる「スターライト席」(3階のバルコニー席)だったことにもよるのかもしれませんが,大変良いバランスでした。そのため,うっかり(?)映画のストーリーにのめり込んで,生演奏だということを忘れてしまいそうな部分もありました。

私にとっての唯一の問題点は,やはりバルコニー席だった点で,約3時間斜めになって「台形補正」しながらスクリーンを観るというのは,少々辛いところがありました。ちなみに,映画の中で,サリエリがオペラを観る時はいつもバルコニーだったので,良く言えば「サリエリ気分」を味わったとも言えます。

まずはこの職人芸的なアフレコをした辻博之さん指揮OEKと特別編成合唱団に大きな拍手を送りたいと思います。恐らく,映像にぴったり合わせることが主眼になるので,「手かせ,足かせ」が掛けられたような状態だったのかもしれませんが,その制限を逆手に取ったようなビシッと締まった響きを聞かせてくれました。

特に合唱団(東京芸術大学声楽家卒業生ということで,当然といえば当然ですが)のビシッとした力感のある精度の高い響きは後半のレクイエムの雰囲気にぴったりでした。

やはり生演奏ということで(マイクが沢山並んでいたので,多少増幅していたのかもしれませんが...詳細は分かりません),場面によっては,台詞が埋もれてしまう部分もありましたが,もともと「日本語吹き替え字幕」がついているので,その点では問題はありませんでした。

それにしても,この映画はよくできた作品だと再認識できました。もともとのピーター・シェーファーの戯曲が面白いのだと思いますが,モーツァルトの天才性を言葉だけで語るのではなく,実際の音楽が次々と証明していくような作りになっているのが,音楽映画ならではです。例えば,次のようなエピソードです。
  • アイネ・クライネ・ナハトムジークのメロディを口ずさんで...その曲なら知っています!...だけどサリエリの曲ではない
  • グランパルティータの緩徐楽章の楽譜をたまたま見てしまい...凄さを実感。ただし,凄さが分かるのは自分だけ!
  • サリエリが一生懸命作った行進曲を,モーツァルトは一瞬で記憶し,即興で再現し,さらに変奏。もっとインスピレーションにあふれた曲に修正
  • 奥さんのコンスタンツェがアマデウスのオリジナル楽譜を束ねたポートフォリオを持参して,サリエリのところに売り込みに...オリジナルなのに書き直しがない!完成度の高さ!・・・
こういうエピソードがジャブのように前半続き,物語に弾みがつく一方,サリエリの凡庸さが対比され,天才性をいちばん理解できる耳を持っていることの悲劇が蓄積されて行きます。
ただし,これはストーリーをドラマティックにするためのフィクションであり,サリエリの作品にも良い作品はあったと思います。 例えば,映画の途中,サリエリのオペラを上演し,皇帝から褒められるシーンがありましたが,実際,とても聞き映えする良い曲だと思いました。

「後宮からの誘拐」「フィガロの結婚」などのオペラのエピソードが続いた後,前半の最後で父レオポルドの死亡。これが後半のドラマの伏線となります。そして,そのレオポルドとの格闘を描いたような「ドン・ジョヴァンニ」で前半は閉められました。

ここで20分の休憩が入りました。

この映画については,過去,2回映画館で鑑賞し,衛星放送で録画したものを数回見ていますが,以上のとおり,本当にエピソードの積み重ねが見事だと思います。そして,それぞれのエピソードにぴったりの音楽が使われていることに感嘆します。

音楽的には,上記の「グランパルティータ」の部分と「オリジナル楽譜のポートフォリオ」の音楽の部分が大好きなのですが,今回の生演奏版を聞いて,さらに臨場感たっぷりにアマデウスの天才性を実感できました。OEKの木管楽器の皆さんの神妙さと精緻さと精彩のある演奏あってのシーンだったと思います。

特にポートフォリオの部分は,いわゆる「ザッピング」のような感じで,短い単位で音楽が切り替わるので,実演で対応するのは至難の技だと思います。オリジナル・サウンドトラックと区別が付かない精度の高さで,今回の奏者たちの職人芸に感激しました。

それ以外にも,ピアノ協奏曲22番の第3楽章が,フッと出てくる部分での透明な明るさも以前から気に入っています。モーツァルトがウィーンの街中で「ピアノ弾き振り」をする場です。軽快なロンド主題が終わり,優しい主題に切り替わった後,モーツアルトの指が一瞬アップになるのですが,この「手の感じ」が何故か好きなのです(非常にマニアックなことを書いてしまいましたが...)。

映画の後半は,最後の1時間です。父と同じ仮装マスクをかぶった謎の人物(実はサリエリ)からレクイエムの作曲を依頼され,最終的に死に至ります。このレクイエムの作曲シーンについては,誰もが引き込まれる名シーンの連続ですね。各パートごとに譜面を記載していくシーンということで,モーツアルトの作曲のプロセスにお客さんの方も参加しているような感じになります。サリエリ自身も芸術家魂に火が付いた感じで引き込まれていくのですが,お客さんも引き込まれていき,「すごい」ということになります。この引き込まれ具合が,映画で観る時以上だったと思います。誰もがレクイエムを全部聞きたくなると思います。
映画で作曲過程がクローズアップされていた「呪われた者」の性急な音楽が,そのまま,「愛想を尽かして温泉地に静養に出かけていた妻コンスタンツェの胸騒ぎの音楽」にもなっていることにも感嘆します。

このレクイエムの作曲に先立ち,狂気じみてくるモーツァルトの様子が描かれますが,こちらの方は「魔笛」の序曲の主部に出てくる,印象的な細かい音の連続で表現されています。これもまたぴったりです。

最後は,レクイエムの作曲途中で,力尽きてしまいモーツァルトが亡くなります。サリエリが
殺したと明確に言えるのかどうか分かない状況だったと思います。サリエリとしては,最後の作品の作曲に立ち会い,生で「神に愛された天才」に触れられたことの喜びと,その天才が永遠に消えてしまった悲しみに呆然としているという状況だったと思います。

それにしても,この映画でずっと積み重ねられてきた「天才性」の華やかさと最後の埋葬シーンでの寂しさを対比すると悲しくなりますね。レクイエムの中のラクリモーサが背後に流れているのですが,その気分にぴったりの音楽です。

しかし,その後,「モーツァルトの音楽はずっと生きている...」という感じでピアノ協奏曲第20番の第2楽章がさりげなく開始します。このシンプルな美しさを聞いて,クールダウンしながら,モーツァルトの素晴らしさを反芻して映画全編が終了します。

映画でモーツアルトとサリエリの人生を堪能した感じです。そして,今回のLIVEでは,映画で観たとき以上に深く堪能できたと思いました。

繰り返しになりますが,OEKと合唱団の皆さん,そして指揮者の #辻博之 にブラーヴォです。来年春の音楽祭のテーマは「モーツァルト」とのことですが,是非,この「アマデウスLIVE」メンバーによるアンコール公演などを期待したいと思います。

2017/10/21

いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2017 秋の陣 を聞いてきました。 前半は石川公美,水上絵梨奈,近藤洋平,門田宇,OEKエンジェルコーラス,白河俊平(Pf)の皆さんによるベートーヴェン物語。後半は菊池洋子さんの公開レッスン+地元奏者との連弾+ソナタ第13番

今年の春の連休期間中に行われた「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭」の関連公演として「秋の陣」と題した演奏会が石川県立音楽堂邦楽ホールで行われたので聞いてきました。


この音楽祭のテーマは,ベートーヴェンということで,公演の前半は「ベートーヴェン物語」と題して,北陸を中心に活躍する若手声楽家,ピアニストとOEKエンジェルコーラスの皆さんがベートーヴェンとその前後の作曲家たちの作品を演奏しました。「~物語」とあるとおり,ベートーヴェンの生涯を石川公美さんの語りを交えてたどりながら,声楽曲やピアノ曲を聞くという構成になっていました。

石川公美さんの語りはとても分かりやすく,全体の流れもとてもスムーズでした。ソナタの全曲を聞くという形ではなかったので,「ベートーヴェン入門編」のような感じで,「石川県のクラシック音楽のすそ野を広げる」といったことを意図するような公演と感じました。

ただし,この日の演奏は,どの曲も素晴らしく,しかも,意外に演奏される機会のない,ベートーヴェンの声楽曲を楽しむことができました。テノールの近藤洋平さんによる「アデラーデ」,バリトンの門田宇さんによる「君を愛す」,石川公美さん,水上絵梨奈さん,,近藤さん,門田さんによる「自然における神の栄光」など,どの曲も若手歌手たちの瑞々しい声を間近で楽しむことができました。

OEKエンジェルコーラスの方は,少々お行儀が良過ぎのような気もしましたが,ウィーンの音楽に児童合唱はぴったりだと思いました。

白河俊平さんのピアノの音は,とても滑らかで美しいものでした。ベートーヴェンの「悲愴」2楽章,「月光」1楽章,シューベルトの即興曲op.90-3の雰囲気にぴったりでした。特にシューベルトの即興曲は個人的に大好きな曲だったので(この曲が演奏されると知らなかったので),得した気分になりました。

前半最後は4人の声楽家によって「歓喜の歌」が歌われて,締められました。

後半はモーツァルトのピアノ曲ばかりが演奏されました。金沢でもお馴染みの菊池洋子さんによる公開レッスン及び菊池さんと地元奏者による連弾の後,菊知さんのソロで,ピアノ・ソナタ第13番が演奏されました。

後半のステージも,「地元の子供たち」を絡めた企画ということで,「クラシック音楽のすそ野を広げる」ような内容でしたが,こちらも大変面白いものでした。

最初にモーツァルトの4手のためのピアノ・ソナタK.381の第1楽章について,菊池さんが公開レッスンを行いました。最初に2人の子供たちの連弾で演奏されたのですが...これが本当にしっかりとした演奏で驚きました。これ以上,どう指導されるのだろうか?と思ったのですが,さすが菊池さん。「2人の演奏はしっかり仕上がっている。これは一つの考え方だけれども...」と前置きをした後,もしかしたらモーツァルト演奏の「ツボ」につながるようなアドバイスをされました。次のような感じです。
  • どの音もきっちりと弾き過ぎているかも。
  • モーツァルトについては,軽やかさの欲しい部分がある。力を抜くところは抜く。
  • トレモロについてはそれほどしっかり弾く必要はなく,響きを作る感じで。
  • 軽やかに弾くときは,それに合った指使いに変えると良い。
  • モーツァルトの場合,ひじを回して演奏する必要はあまりない。

抽象的なアドバイスではなく,技術的なアドバイスになっているのが素晴らしいと思いました。

その後,菊池さんと地元のピアニストによる,4手のためのソナタが2曲演奏されました。こちらは,菊池さんが低音に加わることで,どこか大船に乗ったような幸福感が感じられました。

ちなみに,今回レッスンに使われたK,381の第1楽章ですが,一瞬,「フィガロの結婚」のケルビーノのアリア「恋とはどんなものかしら」を思わせるメロディがふっとよぎり,ちょっと嬉しくなります。今回の演奏を聞いて,好きな曲になりました。

最後は,K.333のピアノソナタが菊池さんのソロで演奏されました。やはり連弾で演奏する場合よりは,自由度が高く,より柔軟で流れるような気持ち良さと健やかさをもった演奏を聞かせてくれました。平穏な世界が段々と深まって行くような第2楽章。クッキリとした明快で陰影のある世界が広がる第3楽章。この曲も良い曲だな,と思いました。

アンコールで,ちょっとアドリブ的な音が入った「トルコ行進曲」が快適なテンポで演奏されて,演奏会は終了しました。

菊池さんのトークによると,「来年の音楽祭のテーマは...モーツァルトなのかもしれませんね」とのことでした。こじんまりとした感じで行われた「秋の陣」でしたが,来春のエリア・コンサートはこれで万全と思わせるような内容でした。

2017/10/18

OEK定期公演は#シュテファン・ヴラダー の弾き振りによるハ長調,ハ短調,ハ長調のオール・モーツァルト・プログラム。1カ月前の「ジュピター」と全く違う,ものすごく引き締まった演奏に感嘆。主張がすっきり伝わってくる素晴らしい公演 #oekjp

10月のOEKの定期公演フィルハーモニーシリーズは,「常連」になりつつあるシュテファン・ヴラダーさんによるモーツァルトのみによるプログラムでした。OEKの定期公演の場合,古典と現代曲を組み合わせることが多いので,「全部モーツァルト」というのは,意外に珍しいことです。今回はヴラダーさんが登場するということで,前半は弾き振りの形になっていました。

まずプログラムの並びが面白いと思いました。ピアノ協奏曲第21番→24番→交響曲第41番ということで,ハ長調→ハ短調→ハ長調という見事なシンメトリーになっていました。実は,「ジュピター」は,9月にも井上道義さん指揮OEKで聞いたばかりなので,2カ月連続の演奏だったのですが,これがまた,ガラッと違った雰囲気になっていました。

今回の公演はこの,指揮者によってガラッと変わってしまうOEKの適応力の素晴らしさに感動しました。この日のOEKは,バロック・ティンパニを使い,弦楽器のヴィブラートがほとんどない,古楽的な奏法が特徴的で,特に後半に演奏された「ジュピター」では,第1楽章の冒頭からハッとさせるような,体脂肪率ほとんどゼロといった感じの筋肉質で引き締まった演奏を聞かせてくれました。

井上さん指揮による「ジュピター」も,OEKによる演奏の一つの典型だった思いますが,それとは全く違うアプローチで,生気と力感に溢れる「ジュピター」を聞かせてくれたヴラダーさんの手腕は素晴らしいと思いました。

これはこの日演奏されたどの曲にも言えたのですが,指揮者の主張がスッと伝わってくるような論理的な明快さのようなものを感じました。情緒的に甘く溺れるようなところが全くなく,基本的に速目のテンポでビシッと引き締まった中に美しさのある音楽を聞かせてくれました。特に両端楽章は,これまでに聞いた「ジュピター」の中でも特に快速の演奏だったと思います。

ただし,第1楽章,第4楽章に加え,第2楽章も繰り返しを行っていたような感じで(多分),演奏時間は30分以上掛かっていたと思います。全く弛緩することのないクールさと明晰さに,ライブならではのスリリングさが加わった見事な演奏でした。第4楽章の最後の音が短くバシッと終わっていたのも実に爽快でした。

前半のピアノ協奏曲2曲も同様に速いテンポによる演奏でした。特に第21番はとても速いテンポだったと思います。個人的には,この曲については,第2楽章を中心に少々ロマンティックな甘さのある演奏が「デフォルト」になっているので,もっとおっとりとした演奏が好みではあるのですが,速いパッセージが続いても崩れることのない,一本筋のとおったような演奏も素晴らしいと思いました。

第24番の方は,よりベートーヴェン的な響きのする曲で,ヴラダーさんの演奏の硬質な感じにぴったりだと思いました。この曲も基本的に速いテンポで,甘さに溺れるようなところはありませんでした。それに加え,OEKの木管楽器とピアノとの「対話」が素晴らしく,短調と長調の陰影のコントラストだけではなく,ピアノと管楽器のコントラストも楽しむことができました。

ヴラダーさんはお客さんに背を向け,ピアノの蓋を全部取り外す形で演奏していました。そのせいもあるのか,ピアノの音は,オーケストラとしっかりと溶け合い,全体として室内楽的な雰囲気があると感じました。弾き振りならではの演奏だったと思います。

演奏後は,お客さんから盛大な拍手が起こると同時に,OEKメンバーも大歓迎しているようでした。OEKの音を,メンバーと一緒になって「自分の音」に変えたヴラダーさんの指揮者としての素晴らしさを楽しむことのできた演奏会でした。この日は,特にアナウンスはなかったのですが,ステージ上にマイクロフォンがかなり沢山並んでいました。もしかしたら何かの収録かレコーディングを行っていたのかもしれません。是非もう一度,聞いてみたい,完成度の高い演奏でした。

2017/10/15

ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 特別演奏会で,花本康二&山口泰志指揮石川フィル+石川公美(S),糸賀修平(T)によるオペラアリアなどとブラームスの交響曲第1番を聞いてきました。

2年に一度,秋に行われている「ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」の特別演奏会として,石川フィルハーモニー交響楽団の演奏会が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので,聞いてきました。近年の石川フィルの演奏会では,マーラーやラフマニノフの交響曲など,ロマン派~近代の大曲を演奏することが多かったのですが,今回は前半にオペラアリアが入るなど,「ビエンナーレ」という「お祭り」により相応しい内容となっていました。

前半は,まず,ヴェルディの「運命の力」序曲が演奏されました。花本康二さん指揮で演奏されました。OEKが演奏する機会は少ないので,実演で聞くのは久しぶりだったのですが,冒頭のファンファーレから聞いていると,力が湧いてきますね。がっちりとまとまった充実した演奏だったと思います。
その後は,指揮が山口泰志さんに代わり,ソプラノの石川公美さん,テノールの糸賀修平さん,石川県合唱協会の合唱との共演で,アリアや合唱曲が演奏されました。ヴェルディの「椿姫」の中の3曲が中心で,特に石川公美さんによる,「ああ,そはかのひとか~花から花へ」が大変聞きごたえがありました。まさに脂が乗った声という感じで,その声を聞くだけでヴェルディのオペラの世界が広がりました。前半は重くしっとりと,「花から花へ」の部分は,技巧的に軽やかに飛翔,という構成なので,一人の歌手が歌うのは,大変難しい曲だと思うのですが,その難曲に挑戦する意気込みが演奏の迫力となって迫ってきました。「花から花への」最後の部分での,「超高音」は出していませんでしたが(ただし,出さない方がオリジナルですね),大満足の歌唱でした。
この曲では,「遠くからテノールの声が聞こえる」という設定ですが,テノールの糸賀さんは,パイプオルガンのステージから歌っており,立体感のある効果を視覚的にも出していました。
糸賀さんの声は,大変軽やかで,どんな高音も楽々と出せる感じでした。ヴェルディの「女心の歌」や,最後に歌われた,レハールのオペレッタのアリアの曲想にぴったりの歌唱でした。石川県合唱協会の合唱も,暖かみのある声を聞かせてくれました。
後半は,再度指揮者が花本さんに代わり,ブラームスの交響曲第1番が演奏されました。花本さんと石川フィルによる演奏は,毎年のように聞いているのですが,今回の演奏は,特に立派さのある演奏だったと思いました。全体に慌てることのないテンポ設定で,しっかりと深みのある音を聞かせてくれました。
第1楽章冒頭の柔らかさと芯の強さの絶妙のバランスの取れた音(これは石川県立音楽堂の良さもあるとい思います),第2楽章から第3楽章に掛けての味わい深さ,第4楽章のコーダでの全体のバランスを壊すことのない自然な盛り上がり。要所要所での充実感が特に素晴らしいと思いました。
今後もこの組み合わせによる,交響曲の演奏に期待をしたいと思います。
PS. 今回指揮者として登場した,花本さんと山口さんは同級生で,金沢大学フィルの時に,今回のように,2人で分担して演奏会を行ったことがあるそうです。30数年後,こういう形で,また2人で分け合って登場する,というのは,「なんか良い話」だなぁと思いました。私も金大フィルの演奏は長年聞いているので,当時のプログラムなど残っていないか探してみたいと思います。

2017/09/20

OEK定期公演2017/2018シーズン開幕。井上道義指揮による総決算の「田園」。神尾真由子と四つに組んだ壮大なスケール感のあるヴァイオリン協奏曲。拍手からも熱さが伝わってくる演奏会でした #okejp

OEK定期公演2017/2018シリーズは,井上道義音楽監督指揮による,ベートーヴェン中心のプログラムで開幕しました。今年の春に行われた,ガル祭のテーマは,「ベートーヴェン」で,その時にヴァイオリン協奏曲と交響曲第6番「田園」も演奏されたのですが,井上さんは参加していませんでしたので,その「アンコール」を井上音楽監督の指揮で楽しむといった位置づけになるのかもしれません。ただし,「田園」については,1年前の「ナチュール」がテーマだった,最後の「ラ・フォル・ジュルネ金沢」の時に井上さんが取り上げていますので,そのアンコールとも言えます。

この演奏会ですが,やはり井上さんとOEKの「田園」は最高だなぁと思いました。ベートーヴェンの交響曲については,OEKの演奏で何回も聞いており,井上さん指揮の「田園」も聞くのは3回目ですが(確か),その度にこの曲に対する「愛」のようなものを感じます。

第1楽章の冒頭から,「田園に着いたばかりの新鮮な気持ち」が溢れ,何回聞いても新鮮な気分を味わわせてくれます。第2楽章は,ベースとなる「流れるような」雰囲気も素晴らしいのですが,その上で絡み合うOEKの各パートの音の動きを聞いているだけで飽きません。この楽章を聞くたびに,隠されている自然の音を発見する喜びがあると感じます。

第3楽章以降は,音による祭り・自然・感謝の気持ちの描写音楽です。1年前のラ・フォル・ジュルネ金沢の時も同様だったのですが,3楽章途中に「嵐」のメンバー6人(ジャニーズではなくトランペット2名,トロンボーン2名,ティンパニ,ピッコロ奏者の皆さんです)が上手側から入って来て,視覚的にもドラマを印象付けていました。

第4楽章から第5楽章に掛けては,前回聞いた時よりもスマートな感じに思えましたが,第5楽章の途中,曲想が盛り上がってきて,井上さんが大きく両手を広げるのを見ると,「井上さんの田園だなぁ」と熱い気分になります。そして最後の部分の名残り惜しさ。繰り返しになりますが,井上さんの「田園」はやっぱりいいなぁと思います。

前半はまず,ペルトのベンジャミン・ブリテンへの追悼歌が演奏されました。振り返ってみると,井上さんは,ペルトの曲を取り上げる機会も多かったですね。神秘的な和音がベルの音に合わせて最初から最後まで続いているだけ,といった曲なのですが,演奏会の最初に演奏されると,日常生活の空気から,アートの空気へと切り替える,緩衝地帯になっているような気がしました。この古いのか新しいのか分からないムードは癖になりそうです。

前半では,金沢でがすっかりおなじみのヴァイオリン奏者,神尾真由子さんとの共演で,ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。神尾さんについては,先月8月19日,ほぼ1カ月前にOEKとメンデルゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏したばかり。さらには,11月21日には,ロシア国立ウリャノフスク交響楽団との共演でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏します。この短期間の間に金沢で,いわゆる「3大ヴァイオリン協奏曲」を1人の奏者が全部演奏する,というのは(たまたまこうなったのだと思いますが),「金沢史上初」なのではないかと思います。

今回のベートーヴェンについても,井上/OEKと神尾さんとがじっくりと四つに組んで,じっくりと聞かせてくれる聞きごたえのある演奏でした。雰囲気としては,1カ月前に聞いたメンデルスゾーン同様,「演歌的」と言って良いほど,滴るような音を聞かせてくれる演奏で,個人的にはロマンティック過ぎるかな(結構,チャイコフスキー的なベートーヴェンだな,と思ったりしました)と思ったのですが,「さすが神尾さん」とも思いました。

神尾さんの場合,音や歌いまわしを聴けば「神尾さんの演奏だ」と分かる,しっかりとした個性を持っていると思います。どの楽章もゆっくり目のテンポで,存分にこの曲の中に潜んでいる「情感」と「歌」をしっかりと引き出していました。井上/OEKによる,非常に気合いの入った充実した演奏と組み合わさることで,この曲のもつスケールの大きさ(45分以上かかっていたと思います)をしっかりと体感させてくれました。

この日のお客さんの拍手からは,いつもにも増して熱いものが伝わって来ました。今シーズンは,この公演を含めて,井上さんは3回OEKの定期公演に登場します。本日の演奏を聞いて,その1回1回で,総決算のような演奏が期待できると感じました。

このプログラムと同様の内容で,次のとおり国内演奏旅行が行われます。是非お近くの方は,お聞きになってください。

名古屋定期公演 9月22日(金) 19:00開演 三井住友海上しらかわホール
大阪定期公演 9月23日(土) 14:00開演 ザ・シンフォニーホール
三原公演 9月24日(日) 14:00開演 三原市芸術文化センター ポポロ
※三原公演のみ,ヴァイオリン独奏は,三浦文彰さんです。

2017/09/16

#金沢ジャズ・ストリート2017 オープニングコンサート@石川県立音楽堂 伝説的なジャズピアニスト #秋吉敏子 さんのソロ,#マッズ・トーリング &村上寿昭/OEKの共演による独創性あふれる「ヴァイオリン協奏曲」を楽しんできました #oekjp

金沢市内で毎年9月に行っている「金沢ジャズ・ストリート2017」のオープニングコンサートにOEKが登場し,ジャズ・ヴァイオリン奏者のマッズ・トーリングと共演。さらには伝説的なジャズピアニスト,秋吉敏子も登場するということで,秋の3連休の初日の午後,石川県立音楽堂コンサートホールに聞きに行ってきました。

金沢ジャズ・ストリート(KJS)も今年で9回目で,ラ・フォル・ジュルネ金沢とほぼ同様の歴史を持っているのですが,実はこれまで1回も有料コンサートを聞いたことがありませんでしたが,OEKが出演するとなると,OEKファンとしては聞きにいかないわけにはいきません。

KJSは,ラ・フォル・ジュルネのように,45分単位でハシゴをするようなスタイルではなく,有料公演については通常の公演ぐらいの長さ(ジャズの演奏会の長さはよく知らないのですが...)があります。この日の公演も,前半が秋吉さんのソロ,後半がトーリングさんとOEKの共演から構成された,約2時間の公演でした。

前半に登場した秋吉敏子さんは,日本のジャズピアニストで初めて世界的に活躍された方です。年齢のことを言うのは失礼かもしれませんが,クラシック音楽のピアニストで言うと,イェルク・デームスあたりと同世代になります。80代のピアニストが現役で活躍されているというだけで,素晴らしいのですが,その演奏も味わい深いものでした。

秋吉さんは,トークをまじえつつ,全部で7曲演奏されました(配布されたプログラムは8曲になっていましたが,一部省略したようです)。今日は,3階で聞いたこともあり,やや音圧的には遠く感じ(ピアノの蓋をあまり開けていなかったせいもあるかもしれません),速いパッセージについてはスムーズでない部分はあった気はしましたが,特にしっとりとした雰囲気をもった曲での,淡々とした語り口が実に味があると思いました。

「毎回,演奏会の最後に演奏しています」という「ホープ」という曲(広島や長崎への原爆投下に関する秋吉さんの自作の曲でデューク・エリントンに捧げた長い曲の最後の部分,という説明をされていたと思います)が,今回も最後に演奏されたのですが,この曲での,どこか爽快さと前向きな気分のある演奏は素晴らしいと思いました。

後半は,デンマーク出身のヴァイオリニスト,マッヅ・トーリングさんが登場し,村上寿昭指揮OEKと共演しました。こちらの方は,OEKの定期公演で言うところの,ファンタスティク・オーケストラコンサートのような雰囲気があると思いました。トーリングさんはのヴァイオリンについては,バランスが悪くならない程度にPAを使っており,リラックスした余裕のある音がしっかりとホール全体に広がっていました。

演奏の技巧的にも素晴らしく,時折,「粋なポルタメント」のような奏法を交える以外では,通常のクラシックの演奏会と大きな違いはないと感じました。その点で,ジャズの本道(?)という感じではなく,クロスオーバー的な雰囲気がありました。

その点については,トーリングさん自身も意識しており,「餅アイスクリーム(どこで食べたのでしょうか?私も好きです)」のように,色々な音楽をフュージョンするのが私の音楽と語っていました(英語で言っていたので細かい部分は分かりませんが)。

特にデンマーク出身という北欧のテイストや民族音楽的な親しみやすさの要素が入っているのが大きな個性になっていると思いました。特に最後に25分ぐらいかかる「Begejstring(デンマーク語で「心からの喜び,熱狂」といった意味)というタイトルを持った,3楽章からなるヴァイオリン協奏曲的大曲が非常に面白い作品でした。

通常の協奏曲のように,堂々と始まった後,中間楽章で叙情的になり,最終楽章は大きく盛り上がるというクラシカルな構成でしたが,前述のとおり,色々なジャンルの要素を巧く盛り込んでおり,飽きることなく楽しめる作品となっていました。OEKの定期演奏会で演奏してもおかしくない曲かな,と思いつつ聞いていたのですが,最終楽章のカデンツァ風の部分になって,やはりこれは即興性を重視する何でもありのジャズだなと感じました。

トーリングさんの足元に何か機械が置いてあるのは気になっていたのですが,これを足で操作しながら,事前に仕込んでおいた音源(テンポが結構変化していました)が流れ,それに合わせて,トーリングさんが熱狂的に弾きまくります。各楽章ごとに面白い聴きどころがあったのです,やはりこの部分が全曲の見せ場だったかもしれません。

この曲はトーリングさん自身の作曲ということで,クラシック音楽の作曲家としても,とても面白い存在だと思いました。トークの雰囲気からもどこか知的な雰囲気を感じさせてくれ,今後さらに,国際的にもジャンル的にも,色々な境界を乗り越えて活躍するアーティストとして活躍していくのではないかと感じました。

そして,最後に秋吉さんが再度登場し,トーリングさんとの「50歳差デュオ」で大変リラックスした雰囲気のある演奏を聞かせてくれてお開きとなりました。

全体として,石川県立音楽堂コンサートホールは,ジャズを聞くホールとしてはやや大きすぎる印象でした。結構,お客さんはマジメというか,クラシック音楽のコンサートとほぼ同じ雰囲気だったと思いました。ジャズについては,お客さんの方がもっとリアクションを示しながら聞くのかと思っていたのですが,やはり,音楽堂という場所だとクラシックと同様になってしまうのかもしれませんね。特に秋吉さんの演奏については,聴衆との一体感が感じられるような場所の方が本当は良かったのかなと思いました。

ただし,私としては,いつものOEKの演奏会と同様の気分で2人のアーティストの演奏を楽しめた演奏会でした。

2017/09/03

北國新聞赤羽ホールで行われた「若き才能の輝き『いしかわ国際ピアノコンクール』から世界に羽ばたく」という演奏会で,4人の若手ピアニスト(塚田尚吾,中川真耶加,小嶋稜,竹田理琴乃)の力の入った演奏の競演を楽しんできました

本日は,北國新聞赤羽ホールで行われた「若き才能の輝き『いしかわ国際ピアノコンクール』から世界に羽ばたく」という4人の若手ピアニストが登場する演奏会を聞いてきました。登場したのは,過去,このコンクールに登場し,優秀な成績を収めたことのある,塚田尚吾 さん(富山出身),中川真耶加さん (愛知県出身),小嶋稜さん (大阪府出身),竹田理琴乃さん (石川県出身)の4人でした。

塚田さんと竹田さんについては,今年の春に行われたガルガンチュア音楽祭でのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏に参加するなど,金沢の音楽ファンにはお馴染みの方です。今回聞きに行こうと思ったのは,塚田さんや竹田さんと同世代の実力のある若手が一気に聞けることと,演奏された曲の渋さにあります。今回演奏された曲を並べると次のとおりだったのですが,「さすらい人」幻想曲を除くと,かなりマニアックな雰囲気の曲ばかりです(塚田さんの演奏した「死の舞踏」は,以前,塚田さんの演奏でどこかで聞いたことがあります)。

塚田尚吾 (富山)
メンデルスゾーン/幻想曲 嬰ヘ短調「スコットランド・ソナタ」op.28
リスト/死の舞踏:怒りの日のパラフレーズによるS.525/R.188

中川真耶加 (愛知)
ショパン/マズルカ op.50
バーバー/ピアノソナタ

小嶋 稜 (大阪)
J.S.バッハ:トッカータ ホ短調
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.760「さすらい人」

竹田理琴乃 (金沢)
ヴェルディ=リスト/「アイーダ」より 神前の踊りと終幕の二重唱 S.436/R.269
ブラームス /7つの幻想曲 op.116~第1,2,3番

個人的には,未知の曲を開拓していくことと,未知の演奏者を聞くことが大好きなので,その両方を目当てに聞いてきました。

今回特徴的だったのは,各奏者が自分自身のことや選んだプログラムについて,5分程度のスピーチを行ったことです。このコンクールでも曲についてのスピーチを行ってもらっているようですが(他に例はあまりない?),スピーチとセットで聞くと,楽しみが増すなぁと思いました。お客さんが喜ぶような話をしたり,曲についての説明をすることは,一種,「常識的な発想」が必要になります。「アーティストは演奏の内容だけで勝負」というのが理想だとは思いますが,日常的にお客さんがほとんど予備知識を持っていないクラシック音楽(特に今回のようなマニアックなプログラムの場合)を聞かせるという場合,演奏者によるトークはかなり重要だと思います。今回の演奏を聞いて改めてそう思いました。

今回の演奏は,4人とも大変水準が高く,どの演奏も面白く聞くことができました。塚田さんの演奏では,最初に演奏されたメンデルスゾーンの「スコットランド・ソナタ」という曲がいいなと思いました。スコットランドのひんやりとした空気を感じさせてくれるような,良い曲だと思いました。「死の舞踏」の方は,もはや十八番という感じだと思いました。

中川さんは,しっとりとした落ち着きのある流れをもったマズルカに続いて,バーバーのピアノ・ソナタが演奏されました。中川さんのトークの解説の後に聞いたこともあり,一見,難解そうな作品(ホロヴィッツが演奏していた曲だそうです)をとても面白く聞くことができました。各楽章に際立った個性のある曲で,大変鮮やかな演奏だったと思います。今回の演奏会のいちばんの収穫でした。

小嶋さんの演奏は,かなり個性的な歌わせ方をするピアノだったと思います。シューベルトの「さすらい人」幻想曲は,シューベルトの曲の中でも特にダイナミックで技巧的な作品ということもあり,速いパッセージでは少々窮屈な感じに聞こえる部分がありましたが,第2楽章に当たる部分でのメロディの歌わせ方が素晴らしいと思いました。

最後の竹田さんについては,毎回毎回レベルの高い演奏を聞かせてくれて感心するばかりです。最初の曲は,ヴェルディの歌劇「アイーダ」の中のメロディをリストがパラフレーズしたものでした。初めて聞く曲でしたが,ちょっとエキゾティックなメロディを豊かな情感を伴って鮮やかに演奏しており,一気に曲の世界に引き込まれました。ブラームスのop.116の中からの3曲についても,一見地味な印象のある曲の中から,くっきりとした情感の動きが引き出されていました。

4人の演奏を聞いて,演奏者それぞれに,音楽の流れのようなものを持っているなぁと思いました。演奏者それぞれに,呼吸のタイミングのようなものがあり,それが演奏全体に反映していると感じました。それは曲によっても変わるし,誰が良いというものでもないのですが,その違いを楽しめることが,こういった複数の奏者が登場する演奏会の楽しみだと感じました。

いしかわ国際ピアノコンクールについては,やはり,もう少し広報に力を入れてもらい,ピアノに関心がない人にもピアノ演奏に目を向けてもらう機会になれば,良いなと思います。4人それぞれに30分以上演奏していたので,トータルで2時間30分ぐらいかかりましたが,定期的に行っても良い企画だと思いまいした。

PS. 演奏会のサブタイトルに「百万石歴史のみち交流祭」と書いてありました。これが少々謎でした。

2017/09/02

今年の岩城宏之音楽賞は受賞者なし。その分,岩城宏之メモリアル・コンサートの方は,井上道義+OEKらしさをたっぷりある楽しめる内容に。やっぱり「ジュピター」は良い曲です。 #oekjp

毎年この時期に行われている岩城宏之メモリアル・コンサートでは,その年の岩城宏之音楽賞受賞者とOEKが競演するのが恒例だったのですが,今回は受賞者は不在で,過去の受賞者の中から,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさん(10回岩城宏之音楽賞受賞者)と首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタ(第4回岩城宏之音楽賞受賞者)さんがソリストとして登場し,井上道義指揮OEKと共演しました。

演奏したのは,サン=サーンスの「ミューズと詩人」という曲でした。ヴァイオリン、チェロ、管弦楽のための二重協奏的作品で,OEKが演奏するのは今回初めてです。ほとんど知られていない作品ですが,何といってもサン=サーンス。メロディが美しく,とても気持ちよく楽しめる作品でした。ややセンチメンタルな雰囲気もあったのですが,ヤングさんとカンタさんが演奏すると,ちょっと抑えの効いた大人のロマンといった雰囲気になります。ハープの入った,品の良い色彩感のあるOEKの演奏と合わせて,曲の魅力をしっかり伝えてくれました。こういう知られざる佳曲の発掘というのは,是非,これからも継続していって欲しいと思います。

今回の公演のもう一つのポイントは,最初に演奏された,邦楽器とオーケストラが共演する,三木稔「序の曲」でした。OEKは岩城さんの時代から邦楽器との共演を伝統的に行ってきましたが,この曲では,尺八,二十五絃箏,太棹三味線という3つの楽器が登場しました。邦楽器とオーケストラによる協奏的作品というと,武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を思い出しますが,あの曲のような,緊迫感溢れる作品ではなく,「序の曲」というタイトルどおり,大きく盛り上がる前のイントロダクション的な雰囲気を持った作品でした。

実際,「序の曲」「破の曲」「急の曲」の三部作の最初の曲ということで,ちょっとインパクトが弱い印象はありましたが,まるでハープのようにオーケストラと溶け合って艶やかな気分を出していた野坂操壽さんの二十五絃箏。豊かさを感じさせてくれた本條秀慈郎さんの太棹三味線。そして,通常より大きめの楽器で曲全体にアクセントを付けていた三橋貴風さんの尺八(オーケストラも弦楽器だけだったので,唯一の管楽器でした)。これらが一体となって,スケール感と暖かみを感じさせる演奏を楽しませてくれました。

そして最後にモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」が演奏されました。いうまでもなく,モーツァルトの交響曲の総決算のような堂々たる作品です。そして,今回の演奏もこれまで築いてきた井上/OEKのつながりの強さをしっかり感じさせてくれるような,堂々たる構えと余裕を持った演奏でした。

冒頭部から,適度な柔らかさと芯の強さを持ったオーケストラの響きが最高でした。石川県立音楽堂に最適化された音という感じでした。きっちりと締めつつも,OEKの柔軟性も生かした演奏で,ちょっとした間の取り方,ニュアンスの変化など,この組み合わせならではの表情の豊かさがありました。井上さんは,アンコールの時,「希望を感じさせる曲だ」と仰っていましたが,まさにそういう演奏だったと思います。「ジュピター」を聞くのは,意外に久しぶりの気がしますが,改めて完成度の高い作品だと思いました。

そして,楽しく,爽快な,モーツァルトらしいアンコールが2曲演奏されました。このアンコールについては,後日レビューでご紹介しましょう。井上さんのトークを聞きながら,来年からは,こういう雰囲気を味わう機会が減ってしまうんだな,と少々淋しくなりました。

井上さんはアンコールの時のトークの中で「何事にも終わりがある。だからこそ,そこまでは一生懸命やりたい」(不正確かもしれません)といった言葉をおっしゃられていましたが,このことは,音楽についても言えるし,人生についても言えるし...井上さんとOEKとの関係についても言える言葉だと感じました。

色々な点で名残惜しさを感じた演奏会でした。

«山下一史指揮OEK+合唱団OEKとやま+藤原歌劇団のソリスト4人によるヴェルディのレクイエム(北陸初演)を富山で聞いてきました。さすがヴェルディ!という名曲。たっぷり楽しんできました #oekjp

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