OEKのCD

2018年11月
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2018/11/17

吉井健太郎さんによる,無伴奏チェロによるミニリサイタルを石川県立歴史博物館で聞いてきました。じっくり平常心で演奏された第1番全曲と各曲のプレリュードさわり集。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。終演後はCDも購入。こちらは教会での収録

本日は,元ウィーン交響楽団の首席チェロ奏者だった,吉井健太郎さんによる無料のミニリサイタルが,石川県立歴史博物館(歴博)で行われたので聞いてきました。実は,今朝までは行く予定ではなかったのですが,今朝,ツイッターで流れてきた演奏会情報を見た後,「どうしようかな?」と少し思案をして,10:30頃に出かけることに決めました。

開演の11:00少し前に会場に到着したのですが,こういうことができるのも,市街地がコンパクトな金沢ならではですね。それと自転車ならではです。天候が段々と良くなってきたので,本日は歴博まで自転車で出かけてきました。

今回の公演については,バッハの無伴奏チェロ組曲が演奏されるのは分かっていたのですが,どの曲が演奏されるのかについては,よく知らずに出かけました。大学の教授を思わせる(貧困な発想ですが...),落ち着いた雰囲気で吉井さんが登場。無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードが始まりました。

速すぎず,遅すぎず,平常心そのものの雰囲気で演奏が始まりました。間近で聞く吉井さんのチェロの音には温かみがあり,じっくりとバッハの世界に浸ることができました。まさにベテランの味といった感じでした。プレリュードの後,一旦,軽くトークが入るかな,と思い私も拍手をしたのですが,ここではトークはなし。そのまま,組曲第1番の全曲が演奏されました。

お客さんの方は,チェロ組曲に慣れていなかった人が多かったのか,アルマンド,クーラントと1曲ごとに拍手が入りました。この辺は致し方がなかったかもしれません。やはり,事前に何の曲を演奏するかアナウンスがあった方が良かったですね。プレリュード以下の曲も,声高に騒ぐことなく,じっくりとバッハの音楽の美しさを吉井さん自身が味わうように聞かせてくれました。

その後,吉井さんのトークが入り,バッハの無伴奏チェロ組曲集について,「何のために書かれたか分からない。もしかしたら自分のためののかもしれない」という説明があった後,1曲ごとに性格が違うことが,各曲のプレリュードの「さわり」を演奏しながら紹介されました。バッハの「無伴奏」については,ルドヴィート・カンタさんの演奏で全曲演奏を何回か聞いたことはあるのですが,「プレリュードばかり」を聞き比べるのは,始めてかもしれません。吉井さんの説明では次のとおりでした。
第1番 皆さんご存じの曲
第2番 いちばん寂しい気分の曲
第3番 ハ長調です
第4番 メロディがあるのかないのかユニークな曲
第5番 途中からフガートに。作曲家は書きたがるけれども,奏者の方はハラハラ。
第6番 幾何学的な雰囲気のある曲

ヨコに流れているものを,タテに切ったような感じで,各曲の性格の違いを鮮やかに感じ取ることができました。逆に言うと,「プレリュードが肝」と言えそうです。吉井さんは,「バッハについては難しい印象をもたれますが,とても簡単です。きれいな水を見ていると思えば良い」とおっしゃっていましたが,「なるほど!」と思いました。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。チェロ1本による無伴奏は,確かに「1本の川の流れ」のようなものです。各曲の性格が,浅野川と犀川の違いのようなものなのかもしれませんね。

どの曲も途中まで演奏して終了しましたので,「もう少し聞きたい」という気分になりました。というわけで...会場で販売していた,吉井さんの無伴奏全曲のCDを購入してしまいました。さらにはサイン会も行っていたので,サインもいただきました。

吉井さんの演奏会は,11月17日は午後から石川県立伝統産業館で同様の公演があった後,18日は日中湯涌自然音楽祭2019で,19:30からはクラシックカフェ ヤギヤで公演が行われます。その後,全国いくつかで公演を行うようです。「チェロを持った渡り鳥」といったところでしょうか。

PS.帰宅後,入手したCDを聞いてみました。今回の会場とは違い,教会で収録されたものでホールトーンがしっかりと入っていました。全部聞くのが楽しみです。

2018/11/11

#池辺晋一郎 クラシック講座 #シェイクスピアと音楽 を #石川県立音楽堂 で聞いてきました。#三輪えり花 さんとともに,シェイクスピア作品の魅力が多面的に語られました。

本日は午後から,「池辺晋一郎クラシック講座 シェイクスピアと音楽」を聞いてきました。ゲストは,シェイクスピアの戯曲の演出などを沢山手がけている「舞台人」(プログラムに書かれていた肩書です。「シアトリスト」の日本語訳のようです),三輪えり花さんで,お二人が関わったシェイクスピア作品の話を中心に,シェイクスピア作品の魅力を語るという趣向でした。また,途中,池辺さんがシェイクスピア作品用に書いた歌曲が,女声三重唱などで演奏されました。

池辺さんは,日本のクラシック音楽の作曲家の中でも特に戯曲用の音楽を書いている方で,シェイクスピアだけで40作も音楽を書いているそうです。特に「マクベス」や「ハムレット」については別の演出家のために,各6,7回も書いているとのことです。こういうことができるのは,自分の個性を殺してでも「演出家の注文に応じて作曲すること」に喜びを感じることができるから,と語っていました。芝居好きの作曲家でないとできないことであると当時に,池辺さんに「職人的気質」があるから可能なことだと思います。

今回は,喜劇,悲劇などジャンルごとに紹介されました。私自身,池辺さんが音楽を書いた作品に限らず,過去30年ほどの間にかなり沢山,シェイクスピア作品を観てきたので,「そのとおり」というお話ばかりでした。シェイクスピアの戯曲の魅力として,「現代的にアレンジしても変わらないセリフの普遍性」「声で読んだ時のリズムの良さ」などが上げられていました。

途中,三輪さんが「マクベス」の中のセリフを英語で朗読する場面がありましたが,本物の迫力がありました。「明日,明日,明日」で始まるセリフで,読んで気持ち良いだけでなく,リアルな実感のこもった迫力のあるセリフだったので,後で調べてみたいと思います。

反対に現代上演する時の問題点として,「長いこと(ある程度カットしないといけない)」「言葉が難しい場合がある」「そのままだと残酷過ぎる場がある」といったことがありました。その他,プロローグでストーリーを説明する人がいたり,道化役が重要な役割をになっていることなどもシェイクスピア作品の特徴です。

作曲家の立場からすると,「ファンファーレを作曲するのが大変」「亡霊が出てくるときの音楽を毎回作るのが大変」など,何作も作曲してきた池辺さんならではのお答えが面白かったですね。

これまで私が観たことのあるシェイクスピア作品は,「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「リア王」「オセロ」「リチャード3世」「冬物語」「十二夜」「お気に召すまま」「ウィンザーの陽気な女房たち」など(仲代達矢,平幹二朗で観たものが中心です。)。

この日は,俳優座のために池辺さんが音楽を書いた「お気に召すまま」の中の曲が2曲歌われたのですが,この曲は30年近く前に一度聞いているはずです。さすがに思い出すことはできませんでしたが,1970年代のミュージカルを思わせる曲調を聞いて,さすが池辺さんと改めて思いました。

三輪さんと池辺さんとの関わりでは,兵庫県立ピッコロ劇団のために演出した「十二夜」で接点があるそうです。最後にその中の曲が歌われてお開きとなりました。兵庫県については,県立の劇団とオーケストラがあるため,この作品は,オーケストラメンバーによる「生演奏」が可能になったそうです。

石川県の場合,能登演劇堂という無名塾が本拠地のようにして使っている立派な劇場とOEKというオーケストラがありますので,池辺さんが仲介役となって,無名塾公演にOEKが参加するようなシェイクスピア公演などができると面白いのではないかと思います。池辺さんは,「「冬物語」は好きな作品だが,まだ音楽を書いたことはない」と語っていましたので,是非,無名塾による「冬物語」に期待したいと思います。

2018/11/10

#石川県立音楽堂 で #左手のピアニストの為の公開オーディション を聞いてきました。6人の個性と左手のみによる表現の幅広さを実感てきました。#ガル祭 での再会を楽しみにしています

本日は,いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2019の関連企画として行われた「左手のピアニストの為の公開オーディション」を聞いてきました。このオーディションは,「ピアニストを目指していたが,右手の病気や障がいなどで両手での演奏が困難になった人を対象に。世界に呼びかけ開かれた未来を創るお手伝いをする」ことを趣旨として行われたもので,優秀者は,来春の楽都音楽祭で,オーケストラと協奏曲を共演またはソリストとして出演することができます。位置づけとしては,オリンピックに対してのパラリンピックに該当するようなオーディションということになります。

音楽の世界とスポーツの世界が同様なのかは,人によって考え方は違うと思いますが,レパートリーが限られる「左手のピアニスト」のために機会を提供することは意義のあることだと思います。ただし,今回審査委員長を務めた,舘野泉さんの講評にも出てきたとおり,左手のピアニストということを過度に強調する必要もありません。左手のピアニストだからこその,「思いの強さ」であるとか「表現意欲」というものが感じられるのでは...と思い,今回聞きに行くことにしました。

今回登場したのは6人のピアニストでした。国際的に参加者を募集をしていたこともあり,地元出身は1名で,海外からの参加者も1名ありました。そのこともあり,大変水準の高い演奏ばかりだったと思います。

課題曲はマグヌッソン「アイスランドの風景」という組曲の中の「鳥の目から見た高地」「オーロラの舞」の2曲。それに各自が選んだ自由曲を加え,合計15分程度で演奏するというものです。自由曲の方は,「左手のためのピアノ曲」の定番である,スクリャービンのop.9-2を演奏した人が3人いました。それ以外の方は,シュールホフ,吉松隆,サンカンの作品を自由曲で演奏しました。

ほとんど聞いたことのない作品ばかりを連続して聞くことになったのですが,全く退屈することがありませんでした。左手だけで弾くことによるシンプルなメロディの美しさと,両手で演奏している?と思わせるような幅広い音域を使った急速のパッセージの対比など,大変変化に富んだ演奏を楽しむことができました。

課題曲は6回同じ曲を聞き,スクリャービンも3回聞いたのですが,それぞれの個性というか演奏の味わいの違いがあるのも面白かったですね。オーディションをテーマにしたミュージカルに「コーラスライン」という名作があります。このミュージカルでは,それぞれ名も無い応募者たちが,自分の過去を語っていくシーンがありますが,今回,プログラムのプロフィールに書かれた「左手で演奏する理由」という項目を読みながら,6人の奏者の「人生」を思い浮かべ,それと重ね合わせて聞いてしまいました。

今回面白かったのは(これはオーディションやコンクール全般に言えるのかもしれませんが),審査員の講評を生の声で聞けたことです。今回の審査員は,舘野泉さんに加え,作曲家の一柳慧さん,吉松隆さんという豪華メンバーでしたが,それぞれの「聴き方」が分かり,「へぇ,そうなのか」と感じる部分がありました。特に舘野さんは,「細かい部分にこだわりすぎず,大きな音楽を作って欲しい」ということを語っており,そのことが審査にも反映していたようです。

今回の結果ですが,車椅子に座ったまま演奏された,月足さおりさん(音がとても美しいと思いました)と瀬川泰代さん(明るい笑顔にぴったりの演奏でした)が最優秀に選ばれ。次点のような感じで,児島顕一郎さんが最優秀審査員賞(個人的にはこの方の自由曲の演奏がいちばん印象に残りました),Stefan Warzyckiさんが優秀賞に選ばれました。

それ以外にも「左手のため」の「この作品」については,誰にも負けないという思いの強さを感じる箇所がいくつかありました。選考された結果については,私が感じた結果とは少し違っていたのですが,来春のガル祭でどういう演奏を聞かせてくれるのか楽しみにしたいと思います。「左手のための協奏曲」も演奏されるようですが,どの協奏曲が演奏されるのかも楽しみですね。

2018/11/07

久しぶりに 石川県立音楽堂に登場した井上道義さん指揮OEK等による洋邦コラボレーションコンサート。ペルトのフラトレス,若林千春の新曲,ストラヴィンスキーのアポロ。新しいアートを作り出す楽しさと芸術の神への感謝の思いが伝わってくるような演奏会でした。

本日は,久しぶりに石川県立音楽堂に登場した,井上道義さん指揮OEKメンバー等による,「洋邦コラボレーション」と題された演奏会を聞いてきました。井上さんは,OEK初代音楽監督の岩城宏之さん同様,クラシック音楽と邦楽とが一体になったような演奏会を何回か行って来ましたが,本日の演奏会は,井上さんの「やりたいこと(orやりのこしたこと)」が隅々まで徹底した,総決算的な内容だったと思います。

演奏されたのは,茶道のお手前+能舞とペルトのフラトレスのコラボレーション,若林千春さん作曲による「ゆにわ/しま IV-b」という独奏フルート,独奏チェロ,能管,小鼓,大鼓のための作品(初演)。そして,ストラヴィンスキーの「ミューズを率いるアポロ」の3曲でした。特に前半の2曲は,通常のクラシック音楽のコンサートの雰囲気とは一味違う,シアターピース的な作品で,井上さんらしさが溢れていました。後半のストラヴィンスキーも素晴らしい作品の素晴らしい演奏でした。

最初に演奏されたペルトのタブラ・ラサは,2楽章構成の作品で,ステージ奥でOEKの弦楽合奏が静かで神秘的なムードを醸し出す中,山根一仁さんとアビゲイル・ヤングさんのヴァイオリンが,掛け合いをしていきます。繰り返しがとても多いので,次第に陶酔的な気分になっていく作品です。

その中で,上手側で渡邊荀之助さんが能を舞い,下手側で奈良宗久さんがお茶を煎れる動作をします。ステージの照明は暗目で,2人にスポットライトが当たるようになっていましたので,この2人の動作にどんどん引き込まれていきました。ただし...その意味まではよく分かりませんでした。

第1楽章の後半で,照明が点滅し,その後,渡邊さんが奈落の底に落ちていったり(ステージの床がエレベータのように下がっていくということですが),奈良さんの方は,茶道の道具を全部片付けた後,第2楽章になって再度登場して,お茶を煎れる動作をしたり...なかなか難解でした。曲が終わった後,井上さんが,表現していたストーリーを解説してくれて,「そういうことだったのか」と了解できた部分もあったのですが...少々懲りすぎだったかもしれません。

音楽の方は,第2楽章はさらにシンプルでゆっくりとした曲想になりました。井上さんによると「空」を表現していたということです。この時空の感覚がなくなるような感じはペルトの音楽ならではの魅力だと思いました。

次の若林さんの新曲の方は,音楽的にはかなり前衛的で,メロディが全くないような作品でしたが,武満徹の作品であるとか,能そのもののスタイルを思わせる雰囲気があり,とても楽しめました。

最初,大鼓と小鼓が静かに応答しあうような和の雰囲気で始まった後,途中,独奏チェロの細井唯さんと独奏フルートの松井さやさんが入場してきて,特殊奏法満載の不思議で強烈な世界が続きました。チェロの方は不協和音というよりは,故意にギシギシ言わせるような音が続出,フルートの方は息だけの音を使ったり,ウワオーという感じで半分声を出しながら演奏したり,伝統に刃向かうムードたっぷりの音楽が続きました。

ただし,このお二人による集中力のある演奏で聞くと,目が離せないという感じになり,強くひかれました。舞台奥の紗幕の後ろに,能に登場する邦楽器が3つ配置し,その前に少し距離を置いてチェロとフルートが,能のシテとワキといった感じで並んでいましたので,この舞台で能を表現しているように思いました。終了間際に能管が,ピーッと強く音を出していたのも能に通じると思いました。

邦楽器と洋楽器のコントラストを聞かせる二重協奏曲という点では,武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を思わせる要素もあると思いました。尺八がフルートに,琵琶がチェロに置き換わったようなイメージです。最初と最後が邦楽器中心で,中間部にチェロとフルートによる長いカデンツァが入っているようにも思えましたが,この構成もノヴェンバー・ステップスと似ていると思いました。何より「どういう楽譜になっているのだろう?」と思わせるほど不思議な音が続いていたのも同様でした。

タイトル自体も謎だったのですが,今回のテーマの洋と邦のコラボというテーマに相応しい作品だったと思いました。この作品は,井上さんが主催している「是阿観作曲家コンクール」の第1回優秀作品に選ばれた作品です。2021年に上演を計画している新作能に向けた,3年計画のコンクールということで,今後どういう作品が登場してくるのか期待したいと思います。

後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「ミューズを率いるアポロ」が,弦楽合奏で演奏されました。これは普通のクラシック音楽のコンサートのスタイルで演奏されましたが,井上さんの原点である,バレエを意識しての選曲となっていました。

実演で聞くのは初めての曲でしたが,ストラヴィンスキーの曲の中でも特に心地良い響きのする作品だと思いました。古代ギリシャの気分を伝えるような晴朗な気分にあふれていました。単純にシンプルなわけでなく,「実は複雑そう」という面もありましたが,「芸術の神アポロ」に対する素直な賛美,井上さんの「アートの世界」に対する信頼や演奏できることの喜びのようなものがストレートに伝わってきました。

特に前半のプログラムは,色々と冒険的な試みをしており,「一体どうなったのだろう?」といったスリリングな面もありましたが,「新しいアート」を作り出す楽しさを存分に伝えてくれるような演奏会だったと思います。

2018/11/01

OEK初登場の #鈴木雅明 さん指揮による定期公演。「疾走する哀しみはとまらない」といった感じのモーツァルト40番。そして #RIAS室内合唱団 等との共演によるメンデルスゾーンの宗教音楽2曲。晴れやかな気分が残る,生きる力が湧いてくるような演奏でした。

今年も早くも11月です。11月最初のOEK定期公演は,OEK初登場となる鈴木雅明さんの指揮で,モーツァルトとメンデルスゾーンを中心としたプログラムが演奏されました。鈴木さんといえば,バッハ・コレギウム・ジャパンの音楽監督として世界的に有名な方です。今回は,バッハよりはもう少し時代的には新しい古典派から初期ロマン派にかけての作品が取り上げられましたが,「さすが」という説得力十分の演奏を聞かせてくれました。特に演奏会の後半,今回のもう一つの目玉である,RIAS室内合唱団との共演で演奏されたメンデルスゾーンの宗教音楽は,知られざる名曲を再発掘してくれるような,素晴らしい演奏だったと思います。

演奏会の最初は,「スウェーデンのモーツァルト(何となくキダ・タローさんを思わせるキャッチフレーズですが...)」と呼ばれることのある,クラウスという作曲家のシンフォニアで始まりました。実質的には,序奏部とフーガからなる序曲といった感じの作品でしがが,OEKの響きがすっかり「鈴木雅明仕様」に変わっていたのがすごいと思いました。

弦楽器の音は軽やかで透明。しかしサラサラと流れすぎる感じではなく,しっかりと各声部が絡み合う壮麗さのある音楽を聞かせてくれました。ヴィブラートも控えめですっきりとした感じでしたが,極端に過激な古楽奏法という感じではなく,現代のオーケストラによる古典派音楽の演奏に相応しいバランスの良さを感じました。この日のティンパニは菅原淳さんでしたが,そのバロック・ティンパニの引き締まった音も印象的でした。響きが軽くなる分,ビシッと曲を引き締めているようでした。

続いて演奏されたのは,おなじみのモーツァルトの交響曲第40番でした。今回は,クラリネットが入らない初稿で演奏されたのですが,そのこともあるのか,甘い感じは消え,弦楽器を主体としたシリアスさが際立っていました。今回の演奏で特徴的だったのは,そのテンポの速さです。どの楽章も大変速いテンポでした。

ただし,どの楽章も繰り返しをきっちりと行っていましたので(第4楽章の後半も繰り返すのは,かなり珍しいと思います),演奏時間的には30分ぐらい掛かっていたと思います。その結果,全4楽章を通じて,どこまで行ってもクールな哀しみがヒタヒタと迫ってくるような感じになっていました。「疾走する哀しみはとまらない」といった感じの演奏だったと思います。

その一方で,単純に走るだけの演奏ではなく,要所要所でテンポを落として,ドキッとするような陰影を感じさせてくれる部分がありました。特に第4楽章のシンコペーションのリズムの部分など,「押しの強さ」があり,独特の深さが後に残りました。

鈴木さんの指揮に接するのは今回が初めてだったのですが,大変エネルギッシュな指揮ぶりが印象的でした。透明感のある響きと,裏に秘めた熱さとのバランスがどの曲も素晴らしいと思いました。

後半は,どちらも初めて聞く,メンデルスゾーンの宗教曲2曲が演奏されました。タイトルだけを見ると,「難解そう?渋そう?」という印象を持ったのですが,さすがメンデルスゾーン。両曲とも,初めて聞いても「良い曲だなぁ」と実感できる作品でした。

オラトリオ「キリスト」については,構想としては,ヘンデルの「メサイア」同様,キリストの生涯を3部に分けて描くはずだったのですが,メンデルスゾーンが早逝してしまったため,「キリストの誕生」と「キリストの受難」までしかできていません。その点では「未完成」なのですが,音楽自体はしっかり完成していると思いました。

それほど長い作品ではなく,ヘンデルの「メサイア」第1部の要素とバッハの「マタイ受難曲」の要素とが,うまく合わさったような充実感を感じました。特に第2部の方は,「10分で楽しむマタイ受難曲」といった感じで,大変魅力的な合唱曲(そのまま,演歌としても行けそうな感じ?)の後,コラールで締められていました。オーケストラは,ほぼフル編成で,その響きには,ロマン派音楽的な雰囲気もありましたので,バッハやヘンデルの作品以上に親しみやすい作品になっていたと思いました。

テノールの櫻田亮さんの役割は,受難曲の福音史家同様レチタティーヴォ中心で,その凜とした声は,宗教音楽にぴったりでした。RIAS室内合唱団もまた,素晴らしい声を聞かせてくれました。「室内」という名称が付いているとおり,音量で圧倒するという感じではなかったのですが,その声はビシッと締まっており,十分なボリューム感と素晴らしい安定感がありました。特に輝きのある高音が印象的でした。

演奏会の最後に演奏された,同じくメンデルスゾーンの詩編42番「鹿が谷の水を慕いあえぐように」の方は,タイトル的にはさらに渋そうな感じでしたが,実際には大変聞きやすく,気持ちの良い作品でした。

この曲では,ソプラノのリディア・トイシャーさんも活躍していました。その清潔感と伸びやかさのある声は,櫻田さん同様,宗教曲にぴったりでした。加納さんのオーボエと絡むように歌われる曲がありましたが,どちらにも芯のある強さがあり,聞き応えがありました。

この曲は,「神を待ち望まん Harre auf Gott!」というフレーズがキャッチフレーズのように繰り返される曲で,終曲に向かって力強く盛り上がって終わります。オーケストラと合唱団が一体となった,晴れ渡ったような輝きが素晴らしく,「生きる勇気」を与えてくれるようでした。

この日は,後半に知名度の低い曲を持ってくる冒険的なプログラムでしたが,見事に締めてくれました。

今回,初めて鈴木雅明さんの指揮に接したのですが,予想したよりもエネルギッシュで,透明感と同時に根源的な力強さを持った音楽を聞かせてくれる方だと思いました。機会があれば金沢で,鈴木さんの指揮による,バッハの作品も聞いてみたいものだと思いました。

2018/10/13

#oekjp #ユベール・スダーン 指揮OEKの10月の定期公演は,シューベルト,モーツァルト,ハイドンの作品。「太鼓連打」の引き締まった力強さをはじめ,自信に溢れた立派な演奏。久しぶりの #堀米ゆず子 さんとは,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番を共演。こんなに良い曲だった!と曲の魅力を再発見

ユベール・スダーン指揮OEKの10月のマイスター定期公演は,シューベルトの交響曲第5番,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番,ハイドンの交響曲第103番「太鼓連打」というウィーン古典派の作品集でした(シューベルトの5番も古典派と言っても良いでしょう)。9月の川瀬賢太郎さん指揮によるフィルハーモニー定期もウィーン古典派特集だったので,丁度セットになるようなプログラムだったと思います。

スダーンさんとOEKの組み合わせについては,9月上旬に行われた岩城メモリアルコンサートで,その相性の良さは証明済みでしたが,今回のプログラムでは,さらにスダーンさんらしさが徹底した充実した音楽を聞かせてくれたと思います。

最初に演奏された,シューベルトの交響曲第5番は,OEKのベーシックなレパートリーの1つで過去何回も演奏してきている曲です。今回の演奏は,基本的にテンポは速めでインテンポでしたので,コンパクトでかっちりとまとまった古典的な曲という印象が残りました。シューベルトの曲らしい叙情味を要所要所に聞かせてくれながら,曲全体としては,揺るぎない構築感を感じさせてくれる素晴らしい演奏でした。

2曲目は,ベテランのヴァイオリン奏者,堀米ゆず子さんをソリストに迎えてのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番でした。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲については,圧倒的に3番と5番。その次に4番が演奏される機会が多いのですが,第1番を実演で聞くのは...初めてのような気がします。

CDなどでは,やはり3,4,5番の印象が強く,どういう曲か覚えていなかったのですが,今回,堀米さんによる演奏を聞いて,良い曲だなぁと思いました。堀米さんがOEKと共演するのは,20数年ぶりのことです。その音色には自然に円熟味が漂っており,モーツァルト19歳の時の作品を,味わい深く聞かせてくれました。両端楽章などは,速いパッセージを鮮やかに聞かせてくれたのですが,そこには常に余裕がありました。第2楽章のアダージョは音楽自体に深みがあり,底光りするような美しさを感じさせてくれました。

今シーズン,OEKはフォルクハルト・シュトイデさんとの共演で,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番も演奏しますが,この際,第2番もどなたかと演奏してもらい,「全集」にしてもらたいものです。

後半はハイドンの交響曲第103番「太鼓連打」1曲でした。編成的には,実はこの曲がいちばん大きいので,今回のプログラムの場合,トリにぴったりでした。何よりも,スダーンさんの作る音楽に折り目正しさと同時に力感が溢れ,壮麗さすら感じさせる気分の中で演奏会を締めてくれました。

この曲については,ニックネームが付けられているとおり,第1楽章冒頭などに出てくる「太鼓連打」がまず聞き所になります。英語だと「Drum Roll」となりますが,まさに本日の演奏はバロック・ティンパニによる,コロコロコロ...といった心地良いロールのクレシェンド,デクレッシェンドで始まりました。第1楽章は,このロールにしっかり縁取られて,躍動感溢れる音楽を聞かせてくれました。

変奏曲形式の第2楽章も大変力強い歩みでした。その間にサイモン・ブレンディスさんによる鮮やかなソロが活躍していました。第3楽章のメヌエットもゴツゴツとした感じで始まりましたが,トリオの部分は対照的に夢見るような心地よさ。クラリネットの音がとろけるように響いていました。そしてホルンの信号で始まる,推進力のある第4楽章。改めて,ハイドンは良いなぁと思いました。どの曲を聞いても楽しめるというのは,実はとてもすごいのでは,と思っています。

というわけで,9月に続いて,スダーンさんとOEKの強い信頼感に結ばれたような充実の演奏を楽しむことができました。

ちなみに,この日は,客演の首席チェロ奏者として,マルタ・スドゥラバさんが参加していました。コントラバスのルビナスさん,ヴィオラのグリシンさんと合わせて,クレメラータ・バルティカ出身のメンバーで低弦が支えられていた形になります。今回,とても低音が充実して感じられたのは,このこともあったのかなと思いました。

2018/10/09

#石川県立音楽堂 室内楽シリーズ 木管アンサンブルの響き。OEKの木管メンバーを中心とした「木管祭り」。オリジナル・アレンジの「牧神の午後」,「スペイン奇想曲」をはじめ,木管アンサンブルの多彩な魅力を伝えてくれました。#oekjp

今晩は,石川県立音楽堂室内楽シリーズ「木管アンサンブルの響き」を聞いてきました。昨年度までの室内楽シリーズは,交流ホールで行われることが多かったのですが,今年度はコンサートホールで行う方針になったようで,ゆったりと楽しんで来ました。つくづく,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の木管パートの音色は美しいなぁと思いました。交流ホールの方がステージが近いメリットはありますたが,やはり,響きの美しさの点では,コンサートホールが上回っていますね。

今回の編成は,OEKの松木さん,加納さん,遠藤さん,柳浦さん,金星さんによる「木管五重奏」がベースで,そこに,クラリネット(各種)担当の松永彩子さん,アルト・サックスの角口圭都さん,ピアノの倉戸テルさんが加わっていました。

今回のプログラムで素晴らしかったのが,7曲全部,楽器編成が違っていた点です。最初のハイドンのディヴェルティメントは,基本メンバー5人。その後,クラリネットを中心としたメンデルスゾーンの曲,フルートのソロで始まるドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」の編曲版,オーボエを中心としたピアソラの「アディオス・ノニーノ」。そして後半は,ヤナーチェクの木管六重奏曲「青春」,最後に全員勢揃いのリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」の編曲版。曲目の傾向もバラエティに富んでおり,木管アンサンブルの楽しさを味わうのに絶好の演奏会だったと思います。

今回の目玉だったのは,やはり今回の編成のために,松永彩子さんが編曲した「牧神の午後への前奏曲」と「スペイン奇想曲」だったと思います。通常の木管五重奏にアルト・サックスやバス・クラリネット。さらにはピアノやパーカッションも加わり,オリジナルのオーケストラ版とは一味違った,柔らかな響き,明快な躍動感...などを楽しませてくれました。

「牧神の午後」は,フルートの松木さやさんのソロで始まりましたが,その音を聞いただけで,別世界に連れて行ってくれるようでした。編曲者の松永さんへのインタビューでは,管楽器は弦楽器のようなロングトーンは苦手なので,いくつかの楽器に分担させた,といったことを語っていました。その色々な音の積み重ねや切り替わりも面白いと思いました。

ヤナーチェクの「青春」は,少々つかみ所のない雰囲気のない作品でしたが,管楽アンサンブル版の「スペイン奇想曲」は,オーケストラ版とは違った鮮やかさとまろやかさがあり,演奏会全体を楽しく締めてくれました。

最後,アンコールとして,ちょっとビッグ・バンド風の趣きのある,「アイ・ガット・リズム」が演奏されてお開きとなりました。この曲では,ソロを演奏した,角口圭都さんのアルト・サックスの柔らかく艶のある音も印象的でした。

このシリーズでは,メンバーのトークが入るのも楽しみですが,今回は「入れ替わり立ち替わり」だったのも,OEKファンには嬉しかったですね。そういったことも含め,「OEK木管祭り」といった明るい雰囲気に包まれ,会場全体にリラックスした空気があったのがとても良かったと思います。この木管シリーズは,是非,続編を期待したいと思います。

2018/10/08

石川フィルハーモニー交響楽団第31回定期演奏会を聞いて来ました。鶴見彩さんとのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第5番。自信に溢れた充実の演奏会でした。

本日は午後から,石川フィルハーモニー交響楽団の第31回定期演奏会を聞いて来ました。演奏されたのは,金沢を中心に活躍されているピアニスト,鶴見彩さんをソリストに迎えてのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第5番ということで,人気曲を組み合わせた,王道を行くようなプログラムでした。

ラフマニノフの方は,超人気曲ですが,金沢では比較的実演で演奏される機会の少ない作品です。開演時間の13:15に石川県立音楽堂コンサートホールに行ったところ,既に長蛇の列ができていましたが,この曲目当てだった人も多かったのではいかと思います。演奏の方も,この期待に応える,充実したものでした。特にチャイコフスキーの方は,指揮の花本康二さんと石川フィルのつながりの強さを示すような,自信に溢れた名演だったのではないかと思います。

前半のラフマニノフは,「さすが鶴見さん」という立派な演奏でした。鶴見さんについては,色々なアーティストとの共演がとても多いので,近年は「室内楽の人」という印象があったのですが,協奏曲の演奏でも,その実力は存分に発揮されていました。特に両端楽章での技巧が鮮やかで(最後の部分など,腕の動きが速く,「何本あるのだろう?」という感じでしたね),各楽章の見せ場をしっかりと聞かせてくれました。

所々で出てくる,ラフマニノフならではの息の長いメロディについては,石川フィルの演奏ともども,とても気持ちよく流れていました。プレトークの時,花本さんは,第1楽章は浅田真央,第3楽章は(花本さんの世代では)伊藤みどりのフィギュアの曲としてお馴染みと語っていましたが,それを聞いたせいか,第1楽章の終盤などは,手拍子を入れてしまいたくなりました。じっくりとテンポを落とした堂々とした歩みが印象的でした。

第2楽章の端正な叙情性は,室内楽で色々なアーティストとの共演が多い,鶴見さんのキャラクターにぴったりだと思いました。第3楽章では,終盤,ティンパニの音が1発入った後,オーケストラが第2主題をうねるように歌い出す感じが大好きですが,この日の演奏もイメージどおりの演奏で,プレトークで話を聞いてこともあり,しっかりと伊藤みどりさんのパフォーマンスが蘇ってきてしまいました。

後半のチャイコフスキーの交響曲第5番は,ここ数年,何回も聞いている曲ですが,何回聞いても良い曲だなぁと実感させてくれる作品です。全体的なテンポ設定は,慌てる感じの部分はなかったのですが,オーケストラの音が常に引き締まっており,ピリッとした充実感を感じさせてくれました。円熟の演奏という印象を持ちました。

第1楽章から,要所要所で「運命のモチーフ」が出てくるのですが,これを主に担当していたトランペット等の金管楽器の音が素晴らしく,「チャイコフスキー5番はこれでなくては」と改めて思いました。チャイコフスキーならではの,甘いメロディの歌わせ方も大変丁寧で,「チャイコフスキーはこうでなくては」と思いました。キビキビとした運びとの対比も鮮やかでした。

そして第2楽章のホルンの独奏です。これもまたお見事でした。イメージどおりの,穏やかかつまろやかな音でじっくりと聞かせてくれました。この見事なソロの後,オーケストラのテンションがさらにアップした気がしました。

第4楽章も力感に溢れた演奏でした。ここでも金管セクションのまとまりの良い音が素晴らしく,充実のサウンドを楽しませてくれました。コーダに入る前の大きな間の部分では,.少しパラパラと拍手が入ってしまいましたが,「これも仕方がないだろう」という感じの充実感のある響きでした。

コーダの部分も晴れやかでした。最後の最後の部分は,慌てた感じになることなく,確信に満ちた「ジャジャジャジャン」で鮮やかに締めてくれました。

アンコールでは,「くるみ割り人形」の中の曲が演奏されました。組曲に入っていない「ジゴーニュ小母さんと道化たち」という気楽に楽しめる曲で,曲が始まった途端,「おっ」と思いました。OEKの公演では,小母さんの巨大なスカートの中に小さな子供たちが沢山潜んでいる,という設定の曲だったと思います。色々と聞かせどころが詰まっており,アンコールにぴったりの曲だと思いました。

というわけで,連休最後の午後,台風一過の気持ちよい気候の中で,オーケストラ音楽を存分に楽しませてくれる内容だったと思います。

2018/10/06

OEK小松定期公演「秋」は #田中祐子 さん指揮によるフランス・プログラム。#サン=サーンス の2番,#松木さや さんの独奏によるイベールのフルート協奏曲といった隠れた名曲を凜々しい演奏で楽しみました。#辰巳琢郎 さんの語りによる絵本風 #動物の謝肉祭 も良い味わい #oekjp

半年に一度,春と秋に行われている小松定期公演の「秋」を聞いてきました。「春」の方は,川瀬賢太郎さん指揮によるチャイコフスキー・プログラムでしたが,今回は,田中祐子さん指揮によるフランス音楽プログラムでした。演奏されたのは,辰巳琢郎さんのナレーションを交えた,サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」,OEKのフルート奏者,松木さやさんの独奏によるイベールのフルート協奏曲,そして最後に,サン=サーンスの交響曲第2番イ短調が演奏されました。

今回の「動物の謝肉祭」は,絵本のような雰囲気のストーリーだったのに対し,他の2曲は金沢でも滅多に演奏されない曲ということで,「子供からマニア(?)まで」楽しめる内容ということになります。

最初に演奏された「動物の謝肉祭」は,少年が夢の中で動物園を一回りするという,「くるみ割り人形」を思わせるような,「夢落ち」のストーリーになっていました。田中祐子さんの指揮にも,元気の良さだけでなく,どこかファンタジーを思わせる気分がありました。

今回は,総勢十人程度の,オリジナルの室外楽編成による演奏でした。今回のメンバーは,ブレンディスさん,江原千絵さんのヴァイオリン,グリシンさんのヴィオラ,カンタさんのチェロ,ルビナスさんのコントラバス,岡本さんのフルート...ということで,各曲ごとにOEKメンバーのソロを楽しむことができました。お馴染み,田島睦子さんと松井晃子さんのピアノも息がぴったりで(例の「ピアニスト」では,故意にずらしていましたが),「OEKファミリー=気心の知れた仲間たち」による,謝肉祭を楽しむことができました。

やはり,聞きものの「白鳥」は,カンタさんならではの,しっとりとした詩的な演奏でした。今回のファンタジー風「謝肉祭」にぴったりでした。ピアノ2台伴奏による,オリジナルの「白鳥」は意外に聞く機会がないのですが,やはり,良いですねぇ。

辰巳さんの語りは,とても落ち着きのあるもので,子供向けファンタジー的な内容にも関わらず,大人が聞いても自然に楽しむことができました。「生の辰巳さん」を見るのは,初めてだったのですが(百万石まつりに出演されていたのを見たかも...),テレビで見るよりもずっとスマートで長身に見えました。辰巳さんもそろそろ「還暦」とのことでしたが,そうは見えず,「やさしいお父さん」が読み聞かせをするような若々しさを感じました。

後半はまず,イベールのフルート協奏曲から始まりました。実は,今回の公演のお目当てはこの曲でした。第1楽章の最初の方は,ちょっととっつきにくい感じもありましたが,ラヴェルの「パヴァーヌ」辺りに通じるようなしっとりとした気分のある第2楽章,無窮動のような第3楽章と,松木さんの安定感抜群のくっきりとした気持ちのよいフルートを楽しむことができました。田中祐子さんの生き生きとした指揮ぶりと合わせ,凜々しさを感じさせてくれる演奏だったと思います。

演奏会の最後は,サン=サーンスの交響曲第2番でした。演奏される機会の少ない作品ですが,OEKの編成とキャラクターにぴったりの作品で,演奏会全体をキリっと締めてくれました。サン=サーンスの曲らしく,短調でありながら,本気で暗くなるような感じはなく,古典的な構成の中で,心地良い躍動感と流動性を感じさせてくれました。

第2楽章の静かで豊かな歌,ちょっとフランス風味のある第3楽章スケルツォ,そして,タランテラを思わせるような最終楽章と,楽章ごとのキャラが大変分かりやすく,初めてこの曲を聞く人にも十分に楽しむことができたのではないかと思います。滅多に演奏されない曲ですが,数年に1回ぐらいは,OEKの定期公演で取り上げて欲しい曲だと思いました。

この日は,各曲の演奏時間自体はそれほど長くなかったので(3曲合わせても1時間程度だったと思います),その分,辰巳さんと田中さんのトーク,さらにはフルートの松木さんへのインタビューもありました。個人的には,松木さんがフルートを始めたきっかけのお話などが特に興味深く感じました。

というわけで,これで2回連続で小松定期公演を聞いたことになります。こまつ芸術劇場は,石川県立音楽堂コンサートホールよりもコンパクトなホールで,演奏者が身近に感じられますので,金沢での定期公演とはまた違った魅力があると思います。都合がつけば,是非,また聞きに期待と思います。

2018/09/23

9/20の定期に行けなかったので,本日は大阪 #ザ・シンフォニー・ホール まで遠征し #川瀬賢太郎 指揮OEKを聞いてきました。筋肉質で引き締まってクリア,全身全霊を込めたベートーヴェン「運命」。さすがとしか言えない #小山実稚恵 さんのモーツァルト。大満足です。 #oekjp

9月20日に石川県立音楽堂コンサートホールで行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2018/19シーズンの開幕の定期公演に残念ながら行けませんでしたので,大阪への日帰り小旅行を兼ねて,ザ・シンフォニー・ホールでの大阪公演を聞いて来ました。指揮は,9月からOEKの常任客演指揮者に就任した川瀬賢太郎さん,ピアノ独奏は,日本を代表するピアニストの一人,小山実稚恵さんでした。

本当は,金沢の定期公演がそのまま大阪公演に振り替えてもらえるとともて良かったのですが,金沢公演のチケットを返却して音楽堂マネーに交換した上で,改めてチケットぴあで購入しました。その席ですが,私自身,これまで座った中でも「最高!」と思える席になってしまいました(自分で選んだのですが...)。図らずも,OEKの素晴らしさと同時に,日本初のクラシック音楽専用ホールの素晴らしさも実感できました。

今回のプログラムですが,常任客演指揮者に就任した川瀬さんの,ご挨拶がわりのプログラムであると同時に,OEKファンからすると,川瀬さんはOEKのコアなレパートリーであるウィーン古典派の作品でどういう解釈を聞かせてくれるのだろうか,という試金石のような内容でした。そしてその結果は...期待を上回るような,素晴らしさでした。

メインで演奏されたのは,クラシック音楽のコア中のコアである,ベートーヴェンの交響曲第5番でしたが,冒頭の「運命のモチーフ」からスリムに引き締まっており,無骨だけれども新鮮さのある音を聞かせてくれました。テンポはそれほど速い感じではなく,最終楽章などでは,じっくり,しっかりと音を鳴らし切りましょう,といったメッセージが指揮全体から伝わってきました。そして,実際,そのとおりの音が出ていました。

演奏後,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんが,疲れ切った感じで川瀬さんと握手をしていましたが,見ていて(今回,かなり近くの席だったのです),音に対する集中度の高さとそこから出てくる熱量の高さが凄いと思いました。それでいて,音楽全体としては,がっちりと無骨にまとまった古典派の交響曲を聞いたなぁという実感が残りました。

OEKメンバーの個人技を聞かせる部分もしっかり作り(オーボエの加納さんの演奏など,協奏曲のカデンツァを思わせるボリューム感がありました),要所要所では,パンチ力とスパイスを効かせていました。第4楽章のピッコロなど,ピリーッとしていましたね。

この作品については,「今さら「運命」?」と思われることもあるかもしれませんが(ただし,トロンボーン3本とコントラファゴットが入るので,OEKは比較的演奏していないかもしれません),改めて,OEKの中心レパートリーとなる重要な作品だなぁと思いました。

最初に演奏されたハイドンの交響曲第90番についても,基本的なコンセプトは,「運命」と同じで,例えば,第1楽章に出てくる「タタタタタタ」という基本モチーフが,緻密にクリアに演奏されて,音楽ががっちりかつ瑞々しく構築されていくのが心地良かったですね。この曲では,いつものことながら,フルートの松木さんの高級なシルクの肌触り(...何となく書いているのですが)といった感じの音が素晴らしかったですね,聞く人の気持ちを幸せにするような音でした。

そしてこの曲の最大のポイントは最終楽章です。ここではネタをばらしてしまいますが,「終わった!」と見せかけて,「まだ続くよー」というハイドンならではのユーモアが入っています。川瀬さんはご丁寧に「終わりましたよー」と客席を振り返る動作を見せ,しっかり拍手が入ったのを確認した後,「ノーノーノー...実はまだ続くんです」という動作を見せて,曲を再開。この時の,オーボエの水谷さんによる「引っかかりましたねヘッヘッヘー(私にはそう聞こえました)」という感じのユーモラスな演奏も最高でした。「川瀬さん,おぬしも人が悪いのぉ」と言いたくなるような役者ぶりでした。

さらに「今度こそおしまい」と思わせて,再度拍手が入ったのですが...再度「ノーノーノー」の動作。楽譜の指定がどうなっているのか知らないのですが,いつもより多めに騙された感じです。というわけで,今回のハイドンの90番にニックネームを付けるならば,「二度あることは三度ある」「三度目の正直」もしくは「人間不信」といったところでしょうか。大変楽しいパフォーマンスに1曲目から大きく盛り上がりました。

そして2曲目には,小山実稚恵さんのソロを交えてのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番が演奏されました。小山さんについては,ラフマニノフの大曲などもバリバリ弾きこなすロマン派の大曲がレパートリーのメインのピアニストだと思っていたのですが,今回のモーツァルトもお見事でした。

モーツァルトならではのシンプルなメロディをさらりと弾くだけで味がありました。この曲については,ベートーヴェンがカデンツァを書いており,ほぼデフォルトになっています(この日もこのカデンツァでした)。曲全体にもベートーヴェンに通じる気分が漂っています。小山さんのしっかりとした強さのあるタッチは,そのムードにぴったりでした。第1楽章,第3楽章終盤のカデンツァから終結部にかけての,音の迫力が特に素晴らしいと思いました。

その一方,第2楽章で聞かせてくれた軽みのある清潔感のある歌も印象的でした。小山さんはアンコールで,バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の第1曲のプレリュードを本当に美しいタッチで聞かせてくれましたが,古典回帰,バロック回帰の新境地を築きつつあるのかもしれません。というわけで,この曲もまた大満足でした。

今回の公演では,ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェンの3人の大作曲家の「持ち味」を聞かせつつ,その上に川瀬さんらしさ,小山さんらしさも楽しませてくれました。10月の定期公演でも,ユベール・スダーンさん指揮,堀米ゆず子さんのヴァイオリンで,ウィーン古典派の曲を中心としたプログラムが取り上げられます。ミンコフスキさん指揮による,フランス音楽なども楽しみですが,OEKで古典派の曲を聞き比べる楽しみも期待できそうです。

PS.大阪のザ・シンフォニー・ホールに来たのは...恐らく15年ぶりぐらいだと思います。日本初のクラシック音楽専用ホールとして1980年代前半に開館した後,とても良い感じでエイジングが進んでいると思いました。日常生活としっかりと切り離された,良い意味での「敷居の高さ」があるホールだなぁと思いました。

2018/09/16

#木米真理恵 ピアノ・リサイタル #石川県立音楽堂 コンサートホールで開かれた意欲的な演奏会。弦楽四重奏伴奏版のピアノ協奏曲第1番をはじめ,留学の総決算となるようなオール・ショパンプログラム。しっかり最新CDにサインをいただいてきましたもゲットしました

9月の3連休の真ん中の日曜日の午後,金沢市出身のピアニスト,木米真理恵さんのピアノ・リサイタルが,石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。このリサイタルですが,色々な点で,型破りでした。

金沢で活動しているピアニストの場合,大体,金沢市アートホールか石川県立音楽堂交流ホールでリサイタルを行うことが多いのですが,今回は何とコンサートホールでのリサイタルでした。また,リサイタルといいながら,後半にはOEKメンバーによる弦楽四重奏が加わり,ショパンのピアノ協奏曲第1番の弦楽四重奏伴奏版の全曲を演奏。さらには,最近発売されたご自身のCDを販売し,終演後にサイン会を開催。

恐らく,木米さん自身の企画力なのだと思いますが,その「素晴らしい心意気」にひかれて,聞きにいってきました。木米さんは,中学校まで金沢で学んだ後,東京の音楽大学付属高校に進み,さらに,ポーランドの音楽大学などで学んでいます。今回は,8年半に渡る「音楽修行」を終えた帰国記念公演だったのですが,音楽的に研鑽を積むだけでなく,自ら活躍する場を広げていく積極性も身につけてこられたのではないかと,頼もしく感じました。

演奏の方は,北陸新人登竜門コンサートやガル祭などでの活躍で,何回か演奏を聞かせていただいたことがありますが,そのとき同様の,非常に安定感のある演奏でした。今回は,ポーランドで留学してきた成果を披露するかのように,オール・ショパンプログラムでした。ショパンの曲の場合,協奏曲以外については,もう少し小さめのホールの方が良いのかな,という気もしましたが。いずれも曲の美しさをしっかりと伝えてくれるような演奏ばかりでした。

前半のプログラムは,舟歌,幻想ポロネーズなど,「小品」というよりは,「中品(こんな言葉はありませんが)」と言った方が良い,しっとり系の曲を軸に,「革命」のエチュードやタランテラなど,運動性の高い曲を交えるといった,バランスの良いものでした。

この中では,4曲セットで演奏された,マズルカ作品30が特に良いなぁと思いました。プログラムを見た時,各曲の間にインターバルを入れるのかなと思ったのですが,実際には一気に演奏されました。短調と長調が交錯するのですが,その推移がとても自然で,幻想ポロネーズや舟歌に対応するような,しっとり系の「中品」になっていました。

後半は,ピアノ協奏曲第1番の室内楽伴奏版が演奏されました。8月末には,いしかわミュージックアカデミー(IMA)の講師,ピオトル・パレチニさんとOEKメンバーとでほぼ同様(このときは弦楽四重奏ではなく弦楽四重奏+コントラバスとの共演でした)の演奏で聞いたばかりだったので,2ヶ月連続ということになります。これは非常に珍しいことです。

その時は,交流ホールで聞いたのですが,今回はコンサートホールでの演奏ということで,より開放感のある雰囲気の中で楽しむことができました。木米さんの演奏は,前半同様,安心して曲の美しさに浸らせてくれるような演奏でした。特に第1楽章の第2主題や,第2楽章など,シンプルなメロディを率直かつしっとりと歌わせるような部分が良いなぁと思いました。

弦楽四重奏伴奏版だと,オーケストラ版とは一味違った「シリアスさ」と「透明感」があります。オーケストラ版に出てくる音が出てこないと,少々物足りない気はしましたが(ホルンとかファゴットとかトランペットとか...),「秋の気分」で聞くには良いと思いました。

第2楽章をオーケストラ版で聞くと,「春の宵」みたいな気分になりますが,弦楽四重奏版だと,「秋の夜」といった気分になります(個人の感想です)。澄んだ夜空に,中秋の名月が出ているといったところでしょうか。木米さんの清潔感のある演奏を,OEKがしっかりと盛り上げていました。第3楽章はオーケストラ版で聞く以上に軽快でした。細かい装飾的な音型も鮮やかに演奏しており,軽快なポーランド舞曲の世界を楽しむことができました。

盛大な拍手に応えて,アンコールが2曲演奏されました。遺作のノクターンは,アンコールの定番曲ですね。演奏前に木米さんは,お客さんに向かって「ご挨拶」をされていましたが,この感謝の気持ちがピアノによる歌となって表れたような,温かみのある演奏でした。そして,さらにもう1曲,おなじみの英雄ポロネーズが演奏されました。大げさに荒々しく聞かせるのではなく,端正さと立派さのある見事な演奏でした。

終演後,木米さんのCDを購入し,サインをいただいて来たのですが,OEKの定期公演の時同様,大勢のお客さんが列を作っていました。木米さんの演奏自体の見事さに加え,木米さんの活動を盛り上げようと,色々な人が協力しているのだなぁと実感しました。木米さんは,これから全国各地で,リサイタルを行う予定があるようですが,息長く,金沢で活動していって欲しいと思います。

2018/09/08

OEKのプリンシパル・ゲストコンダクターに就任した #ユベール・スダーン 指揮による,正真正銘の #岩城宏之メモリアルコンサート。#吉田珠代 さんの上質な声,#池辺晋一郎 作曲の新作 #この風の彼方へ 。どちらも素晴らしいと思いました #oekjp

本日は9月上旬恒例の「岩城宏之メモリアルコンサート」を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。このコンサートでは,毎回,その年の岩城宏之音楽賞受賞者とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が共演していますが,今年は,福井県出身のソプラノ歌手,吉田珠代さんが登場しました。さらに今回の注目は,9月からOEKのプリンシパル・ゲストコンダクターに就任したばかりの,ユベール・スダーンさんが指揮をすることです。そしてOEKのコンポーザー・オブ・ザ・イヤーである,お馴染み池辺晋一郎さんの新作が初演されました。

新作の初演,新しいアーティストの発掘というだけで岩城さんらしいのですが,今回は,その他に演奏された曲が,プロコフィエフの古典交響曲とモーツァルトのハフナー交響曲ということで,岩城&OEKの「お家芸」と言ってよい作品が並びました。過去の「メモリアルコンサート」の中でももっとも,岩城さんらしさの漂う演奏会になりました。

まず,ユベール・スダーンさんの指揮が素晴らしかったと思います。古典交響曲もハフナー交響曲も,既にOEKと何回も演奏してきたような自然さで,気負ったところのない正統的な演奏を聞かせてくれました。

最初に演奏された古典交響曲は,風刺を効かせて,結構毒のある感じで演奏することもできると思いますが,スダーンさんの指揮は,どっしりと聞かせる部分と,さらりと聞かせる部分のメリハリが効いており,「正調・古典交響曲」といった感じでした。

ハフナー交響曲の方は,ガル祭の時にリッカルド・ミナーシさん指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による,盛大に花火を打ち上げるような感じの演奏もありましたが(これはインパクトのある演奏でした),スダーンさんの指揮は,古典交響曲同様に楽章間のバランスがよく,現代のスタンダードといった感じの洗練されたモーツァルトを聞かせてくれました。

第2楽章については,ロマンティックに演奏されるのも実は好きなのですが(私の原点はブルーノ・ワルターの指揮の録音なので),今回は「文字通りアンダンテです」というリズム感を感じさせる演奏で,とても新鮮に感じました。第3楽章のメヌエットも速めの演奏でしたが,中間部では時々,人を食ったように長~く伸ばす部分があったり余裕たっぷりのウイットを感じました。曲全体に感じられる,神経質になりすぎない,緻密さも素晴らしいと思いました。

これから,スダーンさんはOEKと,ウィーン古典派の曲を多く取り上げてくれると思いますが,「万全の演奏を聞かせてくれそう。安心」という期待感が湧きました。

ソプラノの吉田珠代さんとの共演もモーツァルトの作品でした。「どうしてあなたを忘れられましょう」というコンサート・アリアだったのですが(初めて聴く曲でした),ソプラノに加え,第2のソリストという感じでピアノが加わる変わった編成の作品でした。最初しっとりとした弦楽器の演奏に続いて,吉田さんの声が入ってくるのですが,その音にぴったりのしっとり感で,「素晴らしい!」と思いました。上質な声といった余裕と品の良さのを感じました。

後半は華やかさを増してくるのですが,コロラトゥーラ的な要素は,ピアノにお任せしている感じで,全曲を通じて,落ち着いた美しさを感じさせてくれました。ピアノは居福健太郎さんという方が担当していましたが,吉田さんの声にしっかりと絡み,曲を盛り上げてくれました。

そして,池辺さんの新作です。これもまた,素晴らしい作品でした。「この風の彼方へ」ということで,ちょっと武満徹の曲のタイトルを思わせる感じでしたが,詩的な要素を素材にしている点でも共通する部分があると思いました。

曲の最初の部分はピチカートっぽい弦楽器の音と打楽器各種が混ざったような音で始まり,フルートやクラリネットがそれぞれ,意味深でソリスティックなフレーズを演奏します。この出だしの部分から,強くひかれました。その後も色々な楽器のソロが出てきたりしましたが,池辺さん自身が演奏前に語っていたとおり,OEKのメンバーの顔をイメージして書いたのではと思わせるほど,OEKにフィットした音を聞かせてくれました。

曲の後半では,弦楽器が不協和音でザッザッザッザッザッ....といった「春の祭典」を思わせるようなリズムで演奏する部分があったり,池辺さん自身プログラムノートで「3.11以降の僕のライトモチーフ」と書かれていた,何かを深く語りかけるようなフレーズが出てきたり,現代の社会に漂う漠然とした不安をしっかり伝えてくれるような「力」を感じました。

演奏前のトークで,「スダーンさんはとても細かく練習を行っていたので,イメージどおりの音が響いた。一音も修正の必要がなかった」と池辺さんは語っていましたが,池辺さんの会心の作品ではないかと思いました。この作品は,機会があれば,再演していって欲しいものです。

というわけで,プログラム的には一見地味目で,時間的にも短めでしたが,メモリアル・コンサートの趣旨にぴったりの内容だったと思います。特にスダーンさんの指揮が素晴らしかったですね。岩城メモリアルであると同時に,スダーンさんへの期待がさらに広まる,「襲名披露」公演だったと思いました。

2018/08/26

OEK富山特別公演 今年はベートーヴェンの #ミサ・ソレムニス。#山下一史 さんの指揮,#合唱団OEKとやま の歌唱はバランスよく爽快。ゲストコンサートマスター #荒井英治 さんのソロもお見事 #oekjp

本日は富山市で行われた,合唱団OEKとやまとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)富山特別公演を聞いてきました。昨年はヴェルディのレクイエムが演奏されましたが(あれから早くも1年なんですね),今年はそれに匹敵する大作ベートーヴェンのミサ・ソレムニスが演奏されました。

金沢では,石川県音楽文化協会の合唱団が毎年12月に第9とセットでこの曲を演奏していますので,個人的にはお馴染みの作品ですが(この年末公演のおかげで大好きな作品になりました),オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)にとっては,演奏するのは久しぶりだと思います。

今回は,「富山での夏のミサ」公演ではお馴染みの山下一史さん指揮でこの大曲が演奏されました。大曲といいつつ,実は,本日の演奏は,予想以上にテンポの速い演奏で,CD1枚に収まるテンポだったと思います。会場での事前アナウンスでは80分を予定と言っていましたが,75分ぐらいだったと思います。その一方で,慌てた感じはなく,じっくりとこの曲を楽しませてくれた,という実感が残りました。

山下さんは,若い頃,往年の大巨匠,ヘルベルト・フォン・カラヤンのアシスタントをされていましたが,その師匠譲りの充実感の残るミサだったと思います(カラヤンはこの曲を何回もレコーディングしていますね)。冒頭「キリエ」の和音から,合唱のボリューム感がホールのサイズにぴったりで,バランスよく,しっかりと祈りの音楽へと導いてくれました。

ソリストの方は,昨年同様,藤原歌劇団の皆さんでしたが,ソプラノの川越塔子さんとテノールの中鉢聡さんについては,「押しが強すぎ」といったところがあり,ややバランスが悪い気がしました。恐らく,オペラならば丁度良かったと思うのですが,声がダイレクトに飛び込んでくる富山県民会館で聞くと,特に川越さんの声は,かなり大仰な感じに聞こえました。その一方,お馴染みメゾ・ソプラノの鳥木弥生さんの声は,最終楽章の「ミゼレーレ」の部分をはじめ,染みこむような声を聞かせてくれました。バリトンの豊嶋祐壹さんは,他の3人に比べると,ややインパクトが弱い印象でした。

今回の演奏では,グローリアやクレドの後半に出てくる,フーガの部分のテンポの速さが特徴だったと思います。その点で「合唱団OEKとやま」の皆さんは大変だったと思うのですが,その躍動感のある表現からは,「晩年のベートーヴェン」というよりは,「フランス革命の時代のベートーヴェン」といった前向きの気分伝わってきました。

今回の公演のMVPと言っても良いのは,サンクトゥスの途中「ベネディクゥス」の部分に出てくる,コンサートマスターのヴァイオリン・ソロだったかもしれません。プログラムに名前がクレジットされていなかったのが大変残念だったのですが,東京フィルのコンサートマスターの荒井英治さんがゲストコンサートマスターで(だったと思います),安定感たっぷりの「至上のオブリガード」を聞かせてくれました。最初はフルートと一緒に出てくるのですが,OEKの岡本さんとの息もぴったりで,天井から精霊がそっと降りてくるようなミステリアスな美しさのある音楽を聞かせてくれました。

最終楽章の「平和への祈り」は,もしかしたら「8月に聞く」のに相応しいのかもしれません。ティンパニとトランペットがフランス革命的なムードを盛り上げた後に続く,平和への祈りを込めた音楽は,ベートーヴェンの作品の中でも特に好きな部分です(交響曲第6番「田園」の最終楽章と通じる気分があると思います)。本日の演奏には,爽快な爽やかさを感じました。

というわけで,今年もまた「大曲」をしっかりと楽しむことができました。OEKの夏休み企画として,是非,これからも定着していって欲しいと思いました。

PS. 本日はせっかく富山市に来たので,演奏会の前に,富山県水墨美術館にも寄ってきました。平屋建ての贅沢さを感じさせる,大人向けの素晴らしい美術館でした。これにつては,また別途ご紹介しましょう。

2018/08/21

#IMA × OEKチェンバーコンサート。前半は,#ロラン・ドガレイユ,#レジス・パスキエ,#毛利伯郎 といったIMA講師陣による,知られざる名曲の名演。後半は #ピオトル・パレチニ 先生とOEKメンバーによる室内楽版,ショパンの協奏曲1番

8月恒例の,いしかわミュージックアカデミー(IMA)が今年も石川県立音楽堂を中心に行われています。このIMAの講師とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーとが共演する室内楽公演が行われたので聞いてきました。

毎年この公演では,ピアノの入るやや大きめの室内楽曲がメインで演奏されるのですが,今年は,ショパンのピアノ協奏曲第1番の室内楽版が演奏されました。滅多に演奏される機会がない曲であることに加え,ソリストはIMAの講師で,ショパン国際ピアノコンクールの審査委員でありショパン音楽大学教授である,ピオトル・パレチニさんということで,まずは,この曲を目当てに聞きに行きました。

前半に演奏される曲は...実はよく分かっていなかったのですが,この2曲が本当に素晴らしい曲・演奏でした。

最初に演奏された,トゥリーナのピアノ三重奏曲第2番は,ロラン・ドガレイユさんのヴァイオリン,毛利伯郎さんのチェロ,草冬香さんのピアノによる演奏でした。まず,トゥリーナという作曲者自体,よく知らない人だったのですが(ギター曲を作っていたはず...ぐらいの知識),とても良い作品でした。スペインの作曲家ということもあるのか,短調の作品であるにも関わらず,どこか陽光が差してくるような明るさがありました。メロディも大変親しみやすく,ドガレイユさんを中心に3人の奏者も大変楽しそうに演奏されていました。各楽器の「対話」と「ハモリ」が素晴らしく,熟練の室内楽の楽しさを満喫させてくれるような演奏でした。

次に演奏された,エネスコのヴァイオリン・ソナタ第3番も初めて聞く曲でした。ルーマニアの民俗様式でというサブタイトルがあったので,ルーマニア狂詩曲のような,楽しげな曲かなと予想していたのですが,曲が進むにつれて,どんどん狂気が増してくるような,すごい作品でした。これは,大ベテラン・ヴァイオリニスト,レジス・パスキエさんのすごさにもよると思います。曲全体として,ミステリアスな雰囲気が漂い,楽章の中で緩急の変化が大きい点で,ヤナーチェクやバルトークの曲と似た感じもあったのですが,それともひと味違う,迫力と魅力のある作品でした。

パスキエさんの演奏は,時々音がかすれたり,揺れたりしていましたが,それがまたこの曲の雰囲気にぴったりで,第3楽章の最後などでは,三又瑛子さんのピアノと一体となって(この曲のピアノ・パートも大変難しいのではないかと思いました),スリリングな盛り上がりを作っていました。

というわけで,まず,IMA講師による前半の2曲だけで大満足でした。

後半に演奏されたショパンのピアノ協奏曲第1番(室内楽版)の方は,やはり,管弦楽版に親しみ過ぎているせいか,個人的には結構違和感を感じてしまいました。ここはファゴットが伴奏しているはず,ホルンが出てこない,トランペットが聞こえない...という感じで,ついつい頭の中で音を補いながら聞いてしまいました。

パレチニさんは,見るからに「立派な先生」という雰囲気の方で,その演奏にも堂々たる貫禄がありました。室内楽版ということで,ピアノを激しく叩くような感じはなく,弦楽五重奏(弦楽四重奏+コントラバス)とバランスの取れた演奏を聞かせてくれました。速いパッセージでのショパンならではのキラキラした音の美しさ,第2楽章でのノクターン風の気分など,イメージどおりのショパンを聞かせてくれました。

「協奏曲」ということでOEKメンバーは,がっちりとした演奏を聞かせてくれたのですが,交流ホールの場合,かなり音がデッド(というかダイレクトに聞こえすぎる)なので,弦楽五重奏の音がかなり硬く聞こえました。その分,ピアノに弦楽器の音が薄く重なるような部分(2楽章など)では,ちょうど良い感じに聞こえました。

というわけで,この室内楽版については,コンサートホールで聞いたらまた印象が変わるのではないかと思いました。実は,9月16日に金沢出身のピアニスト,木米真理恵さんが,石川県立音楽堂コンサートホールで,この曲を弦楽四重奏との共演で演奏する公演が行われます。たまたま,同じ曲の競演ということになってしまったのだと思いますが,個人的には,是非,聞き比べをしてみたいなと思っています。

というわけで,今年のIMA関連の室内楽公演も,充実した選曲&演奏を楽しむことができました。

2018/08/19

本日は石川県立音楽堂で講談&オペラ「卒塔婆小町」(神田松之丞+田中祐子指揮OEK,家田紀子,小林由樹他)とIMAライジングスター・コンサートをハシゴ

本日は午後から久しぶりに石川県立美術館に出かけ,講談&オペラ「卒塔婆小町」といしかわミュージック・アカデミー(IMA)のライジングスター・コンサートをハシゴしてきました。

石川県立音楽堂の邦楽ホールでは,年1回ぐらいのペースで,「日本人作曲家による室内オペラ」の上演を行っています。昨年は,落語の「死神」と池辺晋一郎さん作曲によるオペラ版「死神」を組み合わせた公演がありましたが,今年は,「卒塔婆小町」がテーマです。

この作品は,もともとは能として作られたものですが,三島由紀夫が「近代能楽集」の1つとして戯曲に翻案したものもあります。今回のオペラも,この三島版に基づいたもので,作曲者は石桁眞禮生です。演奏時間は45分程度ということで,それと組み合わせる形で,前半では,講談師の神田松之丞さんによる,新作講談「卒塔婆小町」が披露されました。

この松之丞さんの講談ですが,オリジナルの能を翻案したものでした。この点については,すべて松之丞さんに「お任せ」になっていたようで,その辺の裏話(1週間前に完成!)が,「アフター・トーク」で披露されました(アフター・トークは,演劇の後に行われることが近年増えているのですが,とても良い企画だと思いました)。

講談を聞く機会は,金沢では非常に少ないのですが,まず松之丞さんの声に惹かれました。マイクは使っていましたが,小さな声の部分でもクリアに染み渡るようにセリフが聞こえました。「講談は,ストーリーを克明に表現するもの」と説明されていましたが,まさにそのとおりでした。スラスラとセリフが連なっていくのを聞くのが心地良かったですね(「男はつらいよ」の寅さんのイメージ)。要所要所で,台をパンパンと叩くのも講談ならではの手法です。これもまた新鮮でした。「ストーリーの流れを作り,盛り上げていく」という点で,オペラに共通する部分もあると思いました。

ストーリーの方は,オリジナルの能に基づいているだけあって,ひんやりとした感触のある深さのようなものを感じました。マクラの部分は,落語を聞くような面白さでしたが,その後は,しっかりと古典を聞いたような充実感が残りました。

後半のオペラの方は,小編成のOEKがピットに入り,かなりしっかりとした大道具のある舞台で演じられました。衣装の方も現代風になったり鹿鳴館風になったり,変化に富んでいました(1回だけの上演にはもったいないぐらい)。全体は1幕構成でしたが,途中,鹿鳴館時代にワープする(この辺の時空を超える辺りが,能と共通する部分ですが)場が入っていましたので,全体は3部構成という感じでした。

音楽の方は,覚えやすいメロディが出てくる感じではなかったので,「現代音楽」風の難解さもありましたが,特に中間の鹿鳴館の場では,ワルツが出てきたり(男女ペアのダンサーも登場していました),小町と詩人の熱い歌が出てきたり,聞き応えがありました。歌手については,この小町(老婆)役の家田紀子さんと詩人役の小林由樹さんを中心に迫力のある声を聞かせてくれました。コンパクトな大きさの邦楽ホールならではの良さだと思います。特に家田さんの方は,最初と最後は老婆役,中間部ではドレスを来た「小町」役ということで,45分の間で,若さと老いと演じ分けており見事でした。

田中祐子さん指揮のOEKは,小編成の割に打楽器と沢山使っていたこともあり,大変ダイナミックで色彩的なサウンドを聞かせてくれました。邦楽ホールでのオペラ上演は,この点でもメリットがあると思います。

「三島作品を通して存在する「命」とそこにつながる「愛と美」を考えさせてくれる」と演出の知久晴美さんは,プログラムに書かれていました。実のところ,なかなかそこまで理解できなかったので,講談の内容と合わせて,今からしっかりと反芻してみようと思います。

アフタートークの中で,講談とオーケストラのコラボのことが半分冗談交じりで語られていましたが,実際,この邦楽ホールに特にぴったりだと思うので,実現することを期待したいと思います。既存のオペラを講談+室内オペラに編曲するというのもありだと思います(「ガル祭」の企画でも良いかも)。

アフタートークの後,今度は交流ホールに移動し,IMAライジングスターコンサートを聞いてきました。このコンサートも毎年恒例です。今年も,IMAで講習を受けている,日本と韓国等の若手演奏家たちの水準の高い演奏を楽しむことができました。

今回登場したのは次の人たちです。
ナキョン・カン,外村理紗,エイミー・M・オ,吉江美桜,ドンヒュン・キム(ヴァイオリン),牟田口遙香(チェロ),ジュヒ・イム(ピアノ)

昨年に続いて登場した方も多かったのですが,技術的には全く問題がなく,安心してその表現を楽しむことができました。特に印象に残ったのは,吉江美桜さんが演奏した,エルンストの「魔王」でした。シューベルトの「魔王」の歌唱部分と伴奏部分を一人で演奏するような凄い曲です。以前にも聞いたことはありますが,ヴァイオリンの作り出す多彩な音を駆使した音のドラマになっていました。

最後に演奏されたショーソンの「詩曲」も,このコンサートによく出てくる曲ですが,次第に熱気を帯びてくるように盛り上がるドンヒュン・キムさんの演奏は迫力十分でした。

IMAについては,あさって火曜日に,講師の先生方による室内楽公演があるので,こちらも聞きに行こうと思います。

«#マルク・ミンコフスキ 指揮OEKの ドビュッシー #ペレアスとメリザンド 公演@石川県立音楽堂。ボルドー直輸入の映像の力が圧倒的。歌手も万全。謎は謎のままだけれども説得力十分の演奏。 #oekjp

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