金聖響/OEKの第9:ベートーヴェン・チクルス完結
先日,OEKのアーティスティック・パートナーに就任したばかりの金聖響さん指揮によるベートーヴェンの第9を聞いてきました。これで,ベートーヴェン・チクルスが完結したことになります。今回の定期公演は,ライブ録音も行っており,Avexから出ている,ベートーヴェン交響曲全集のレコーディングもこれで完結したことになります。
今回の演奏ですが,聖響さんらしい「こだわりの音作り」をしっかりと楽しませてくれました。これまで同様,弦楽器はノンヴィブラートで透明で室内楽的な響きを主体とし,ところどころ,おやっと思わせる管楽器の音や内声部の音を聞かせたりするような演奏でした。今回は,特にこのことが徹底していたと思います。
まず,第3楽章までは,非常に速いテンポで,すっきりとした古典派交響曲としての形を聞かせてくれました。特にこのところすっかりお馴染みとなったティンパニの菅原淳さんの迫力のある音が見事でした。ホルンも大活躍していました。惜しいところで,ミスをしていた部分があったのですが,日頃聞きなれないような変わった音がどの楽章からも聞こえてきました。
第4楽章は,フルトヴェングラーとかバーンスタインのような,「感動した!」というタイプの演奏と敢えて正反対の方向を目指した演奏になっていたと思います。この辺は,恐らく,好みが分かれたと思います。フルトヴェングラーの有名な録音では,「...vor Gott!」という歌詞の後,もの凄い間を入れているのですが,今日の演奏は,この間が全くありませんでした。ちょっと慌しいかな,という気はしたのですが,金聖響さんらしいと思いました。楽章の最後もフルトヴェングラーは,もの凄いアッチェレランドをかけますが,今日の演奏では,それほど熱狂的にはならず,余裕たっぷりにバチっと締めてきました。
合唱団は大阪フィル合唱団の皆さんでした。こちらも熱狂的に盛り上がるというよりは,美しい響きをしっかり聞かせてくれるような歌唱でした。4人のソリストの中では,森麻季さんと押見朋子さんの女声2人の声がとてもしっとりとしており,特に気に入りました。テノールの吉田さんの声は,ソロの部分は非常に格好良かったのですが,重唱の部分になると,ちょっとバランスが悪いような気がしました。
前半は,レオノーレ序曲第3番が演奏されました。これも第9同様,「こだわり」の響きを持った演奏でした。ただし,前半はこれ1曲で休憩になったで,ちょっと軽すぎるかなという気もしました。
金聖響さんとOEKは,明日は大阪で同様の公演を行いますが,チクルスの最後を締めくくるのに相応しい,意欲的な公演になることでしょう。
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コメント
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聖響さん、かっこよかったです。
コンサートのとき、いつも思うのはホルンって難しい楽器なんだなってことです。大変ですね。
あと、いつも専ら車の中で聴いてるので小さい音量の箇所はあーこんなだったのかぁって。
明日は大阪に行きます。楽しみです。
投稿: なお | 2009/12/12 22:00
こんばんは。やや遅いコメントです。
実は何て書こうかちょっと悩んでました。
はっきり書きましょう。非常に物足りない第九でした。・・・こう書いてしまうと、お前、もっと具体的に書けよ!と言われそうで怖いです。
でも正直、そうとしか言えないもので。
第九というと、もっと熱くグングンと盛り上がって欲しかった。月並みな期待でしょうか?とにかく私としては終始期待はずれだったのです。
まあ、これまでの金聖響さんのベートーヴェン・シリーズを聴いてきて、そんな期待するのもどうよ?と、自身で矛盾に突っ込み入れてしまうのですが。(先の私の金さんへのコメント参照)
家内に言ったら、アンタの耳が古くなった証拠よ、と一蹴されましたね。
投稿: めの・もっそ | 2009/12/17 21:58
なおさん,めの・もっそさん
こんにちは。このところOEKの演奏会が立て込んでいた上,忘年会やら,積雪やらでかなり忙しい1週間になってしまいました。
金聖響さんのベートーヴェンについては,確信犯的に新しいものにしてやろう,という意気込みがあったように思えます。ただし,各楽章の多様性に加え,合唱,独唱など,規模が大きい分,その意図をストレートに反映するのは,なかなか難しかったかもしれないですね。
それと,ライブとはいえ,レコーディングを行うかどうかで,演奏の質も違ってくると思います。というわけで,同じ演奏でも大阪公演の方が真にライブ的だったのかもしれません。そういう意味で,2月に白山市で行われる金聖響さん指揮の第9がどういう演奏になるのか期待したいと思います。
投稿: 管理人hs | 2009/12/20 14:10
かなり遅れてのコメントになりますが、私もめの・もっそさんに同感です。
何だか物足りなかったです。説得力ある感じでもありませんでしたし、後日フルトヴェングラーの第9を聴き直しました。
金聖響氏が何を目指したのかがよく分からなかったので、ベートーヴェンの交響曲について述べた本を読みたくなりました。原典主義なのか、はたまたそれに独自の解釈が加えられているかよく分かりません。
もしかしたら今までの他の指揮者が振る第9に慣れてしまっているので、何だかロックのテイストを加えたようなこの斬新な第9には抵抗を感じたのかもしれません。
まぁ賛否が分かれる演奏でしょうね。
投稿: Toru | 2009/12/31 00:16
Toruさん,あけましておめでとうございます。
金聖響さんの第9については,賛否両論あるようですね。金さんの著書の第9のところを読んでいてもそのようなことが書かれていたので,”確信犯”的に伝統的な解釈と違った演奏を行っているのだと思います。
ただし,それが説得力があるかどうかは,また別かもしれませんね。今回の金沢公演の場合,CD録音を行うという目的があったので,私も心なしか慎重な演奏だった気がしました。
というわけで,可能ならば2月に白山市で行われる”もう一つの第9”の方も聞いてみたいなと思っています。
それでは,今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 管理人hs | 2010/01/02 00:18