ハーディング&OEK定期。全然いばったところのない,魅力満載の運命らしからぬ運命!永遠に新鮮なベートーヴェン。堂々と渡り合ったシン・ヒョンスのヴァイオリンもお見事。素晴らしい定期公演でした#oekjp
ダニエル・ハーディング指揮OEKによる,オール・ベートーヴェン・プログラムは,期待どおりの素晴らしい演奏会でした。昨日は「これまで経験したことのないような大雨」でしたが,この日の公演では,「これまで経験したことのないベートーヴェン」を堪能させてくれました。
やはり何と言っても後半に演奏された「運命」の方にハーディングさんらしさが顕著に現れていました。「運命」という標題とは全く関係なく,「苦悩を越えて勝利へ」という常套文句とも違い,「運命を越えて自由へ」という感じの演奏でした。もはや,古楽奏法とか,原典に忠実といったレベルではなく,ハーディングさんらしさが隅から隅まで行きわたった演奏でした。それでいて押しつけがましいところはなく,音楽は最初から最後まで,非常にスムーズに流れ,OEKの自主性が全開になっていました。
第1楽章から,ストレートに音楽は流れ,時に前のめりに曲は進んで行きます。生き生きとしたニュアンスが豊かで,重苦しさよりは,軽やかさを感じさせてくれました。第2楽章の冒頭のチェロの演奏などは,ヴィブラートをしっかりかけて演奏しており,非常に艶やかでした。ニュアンスに自然な変化が付けられており,何ともいえない瑞々しさに溢れていました。
第3楽章はかなりの高速で演奏されており,コントラバスをはじめ,弦楽器は大変だったと思いますが,全く悲壮感はなく(OEKの素晴らしさだと思います),生気に満ちた音の絡み合いを聞かせてくれました。第4楽章は非常に華やかに始まった後,万華鏡のように音の表情が変わって行きました。通常は力こぶが入るような部分が,非常にソフトに演奏されていたり,ファンタジーの世界に入ったような気分でした。最後の部分では,シャキッとした雰囲気に戻り,若々しく締めてくれました。全体を振り返ってみると,大きな流れを重視した演奏で,スケールの大きさも感じさせてくれました。
深刻ぶった重いベートーヴェンとは正反対だったかもしれませんが,これだけ聞きなれた作品から新鮮な響きを引き出してくれるハーディングさんの才能には感嘆するばかりです。それと,ハーディングさんの要求に見事に答えたOEKも本当に見事でした。ハーディングさんの指揮はマーラー・チェンバー・オーケストラで過去2回聞いたことがありますが,それに全く劣らない,ハーディングさんの要求をしっかり表現した見事な演奏だったと思います(これは是非,再共演を望みたいところです)。
前半のシン・ヒョンスさんとのヴァイオリン協奏曲も素晴らしい演奏でした。独奏者と指揮者の音楽性は,正直なところかなりズレていた気がするのですが,ハーディングさんの指揮の懐の深さもあり,スリリングなやり取りに満ちた,聞きごたえのある演奏を楽しませてくれました。
ハーディングさんの方は,ストレートに音楽を流そうとしたそうでしたが,シン・ヒョンスさんの方は,濃い表現にこだわり,かなり遅めのテンポを志向していました。特に高音部でのバシッと決まった美音が印象的でした。ヴァイオリン独奏の部分になると,非常にゆっくりとしたテンポになり,オーケストラだけの部分になると音楽に勢いが出るのですが,チグハグなところはなく,曲が自然に息づいていたのがお見事でした。最終楽章は,かなりラプソディックで,シンさんの演奏は時々荒っぽくなる部分もありましたが,ライブならではの「丁々発止」といった演奏になっていました。何よりも,全曲を通じて,ハーディングさんと堂々と渡り合っていたのが素晴らしいと思いました。
シン・ヒョンスさんは,「毎年夏に金沢でヴァイオリンの勉強をしていたアーティスト」ということで,個人的に特に親しみを感じています。これからも是非,時々,金沢に戻ってきてほしいアーティストの一人です。
この日ですが,サイン会も行われました。超人気指揮者のハーディングさんといいうことで,サイン会はないかな,とも思ったのですが,ハーディングさんは,席から立ち上がって,自らお客さんの方に向かって,サインをして回るというサービスぶりでした(そういえば,前回もそうだったことを思い出しました。)。
というわけで,最近のOEKの演奏会の中でも特にすばらしい演奏会になったと思います。ハーディングさんには,是非,再度OEKを指揮して頂きたいと思います。マーラー・チェンバー・オーケストラとの合同演奏にも期待したいと思います(結構,可能性が高い気もしています。いかがでしょうか?)。
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