直江学美&黒瀬恵デュオ・コンサートVol.3 篠崎史紀さんをゲストに迎え,20世紀末の音楽を核として統一感のあるプログラムを楽しませてくれました。
金沢を中心に活躍しているソプラノ歌手の直江学美さんとオルガン奏者の黒瀬恵さんは,年1回この時期にデュオコンサートを行っています。その3回目のコンサートを聞いてきました。毎年,NHK交響楽団コンサートマスターの篠崎史紀さんをゲストに招いているのが「目玉」の一つです。今回も篠崎さんのヴァイオリンやトークを交えたステージとなりました。
ソプラノとオルガンとヴァイオリンという組み合わせのコンサートは,滅多にないのですが,オルガンという楽器はピアノのような伴奏もできれば,オーケストラの代用もできますので,一種「何でもできる」編成ではないかと思いました。今回もバロック音楽,リヒャルト・シュトラウスのオリジナルはオーケストラ伴奏版歌曲,クライスラーのヴァイオリン曲,日本の歌曲・唱歌,そして,オルガンの独奏曲と色々な時代の色々な編成の曲を楽しむことができました。それがバラバラな印象を残すのではなく,オルガンの響きを核として,全体の雰囲気がしっかりまとまっていたのが良かったと思いました。
特に良いなぁと思ったのは,ソプラノ,ヴァイオリン,オルガンで演奏したリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」の中の「夕映えに」でした。オリジナルはオーケストラ伴奏で,一度実演で聞いてみたい曲だったのですが,そのスケール感をしっかり楽しむことができました。直江さんの声はとても落ち着いた気分があるので,人生の末期を描いたこの曲の気分にぴったりでした。ソプラノに絡み合ってくる篠崎さんの繊細なヴァイオリンも雰囲気にぴったりでした。
篠崎さんのヴァイオリンでは,前半の最後に演奏されたクライスラー作曲のプニャーニの様式による前奏曲とアレグロがお見事でした。「さすが」という貫禄と技巧を楽しませてくれました。もともと,クライスラーならではの,バロック風を模したような曲なのですが,それに黒瀬さんの重厚なオルガンが加わり,「オペラ座の怪人」がヴァイオリンを弾いているような,どこか妖しい(?)気分たっぷりでした。
後半の最初の方では,篠崎さんと直江さんを中心としたトークコーナーがありました。毎年この時期に忙しい篠崎さんが金沢でのこの演奏会に来ているのは...実は...カニが目的(の一つ)だったとか,篠崎さんのヴァイオリン関係グッズとして,いろいろな和風の工芸品を使っているとか,「へぇ」という感じの楽しいトークを楽しむことができました。
この日は耳で音楽を楽しむだけではなく,視覚的に楽しませようという試みもありました。シュトラウスの歌曲では,夕映えの気分を出すように,徐々に照明を暗くしていったり,ヴィドールのオルガン交響曲第5番のトッカータでは,目まぐるしく動く曲想に合わせて,パイプオルガンのパイプに当てられた照明が変化したり,各曲ごとに趣向が凝らされていました。照明については,もう少し鮮やかな方が効果的かなという気もしましたが,先日,しいのき迎賓館で行われて人気を集めたプロジェクション・マッッピングを思い出しました。
後半では,シンプルな美しさを持った日本歌曲も印象的でした。ピアノ伴奏で聞くのとは一味違った,イマジネーションの広がりを感じさせてくれるような演奏でした。
この演奏会については,第1回目から「聞いてみたいな」と思っていたのですが,今回初めて聞いてみて,その魅力を実感できました。ソプラノ,オルガン,ヴァイオリンという独特の組み合わせであるからこそ,趣向を凝らす必要があり,そのことが,演奏の新鮮さにつながっているのだと思います。こういう演奏会が金沢出身のアーティストが中心となって継続している点が素晴らしいと思います。是非,「第4回」の企画に期待したいと思います。
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