OEKのベートーヴェン交響曲シリーズ,第3弾は井上道義指揮による第4番と第5番。キリっと引き締まった自信に満ちた見事な演奏は「トスカニーニもびっくり」の素晴らしさ。権代敦彦「クロノス」は3.11を前にした祈りの音楽 #oekjp
今日の朝,起きてみると雪が積もっていました。今年の金沢の冬は,積雪量が少なかったので,「もう降らないだろう」と思っていたので,一瞬「おっ」と思いました。が,交通に影響するほどでもなくかえって金沢の風情を増してくれるような「3月の雪」でした。
その中,OEKの定期公演マイスターシリーズ:ベートーヴェン全交響曲シリーズの3回目を聞いてきました。チクルス的にも真ん中ですが,演奏された曲も真ん中の「4番」と「5番」でした。この2曲が一つの演奏会で取り上げられるのは,かなり珍しいことだと思いますが,今回の井上道義さんのアプローチを聞いてなかなか良い取り合わせだと思いました。
井上さんの指揮は,非常に正統的で,両曲とも古典的な交響曲として捉えていたと思います。しっかりと凝縮した密度の高さと,「形の良さ」がありました。それに「熱い魂」がしっかり籠っていました。井上さんは,5番の演奏が終わった後のアンコールの前で「今日の4番の演奏は本当に良かった」とステージ上で語っていました。
このこと自体珍しいのですが,両曲ともOEKメンバーの演奏に自信に裏打ちされた積極性が感じられ,「言うことなし」の演奏だと感じました。この日のフルートは工藤重典さんでしたが,その他の木管のメンバーの演奏も生き生きと音が前に出てきていて,古典的な枠はあるのに,かえって自由と感じさせてくれるようなところがありました。
第4番では,生き生きとしたスピードにのって各楽器が次々ソリスティックに活躍する第4楽章が特に印象的でした。第5番は,名曲中の名曲ということで,どこを取っても素晴らしかったのですが,やはり第4楽章に入る前の「革命前の静けさ」的な気分と第4楽章に入ってからの晴朗さが印象的でした。
第3楽章では,マルガリータ・カルチェヴァさんとルドヴィート・カンタさんを中心とした低弦グループによるフーガの部分も圧倒的な迫力を持っていました。最終楽章はピッコロが加わり,その音ばかりが目立つ,ということもあるのですが,今日の演奏は,その音が非常によく溶け合っていたのも素晴らしいと思いました。
このチクルスでは,現代曲を1曲加えるのが定番になっています。今回は,権代敦彦さんの「クロノス-時の裂け目」が演奏されましたが,これが全体の「要」になるように,4番-クロノス-5番という順に演奏されました。この配置も良かったと思います。
プレトークで権代さんは,この曲は「ミ♭ レ ド」という3つの音から成る下行するモチーフばかりでできている,と仰られていましたが,第5番は,「ソソソミ♭ー ファファファレー」の積み重ねですので,発想としては共通する部分があります。オーケストラの演奏会としては異例の5人編成の曲でしたが(ピアノ,ホルン,バスクラリネット,打楽器,チェロ),あまり違和感なくベートーヴェンの曲と組み合わさっていたと思います。
この曲は2012年のラ・フォル・ジュルネ用に書かれた曲で,「震災」「原発」などについての権代さんの思い・祈りが込められているとのことです。重くのしかかるようなモチーフの繰り返し,軋むような音の重なり合い(チェロのソンジュン・キムさんの激しい演奏が特に印象的でした)の後,最後の方では祈りを象徴するように,鐘の音が入っていました。
「クロノス」というのは「時の刻み」ということで,アンコールでは「時の刻み」を表現したベートーヴェンの交響曲第8番の第2楽章がアンコールで演奏されました。
終演後のサイン会で井上さんに「第4番は本当に良かったですよ」と言ってみたところ,「今日のような演奏は滅多に聞けないよ。トスカニーニの演奏よりも凄い」と,結構熱く語ってくれました。”トスカニーニ”という名前が出てきて,ちょっと意外だったのですが,言われてみると今日の演奏の方向性はまさにトスカニーニ的だった気がしました。井上さんの思い通りの演奏が実現できた演奏会だったのだと思います。
残念ながら,この第4番が聞けるのは今回だけですが,第5番の方は,明日の輪島公演,3月24日の東京公演,そして,ラ・フォル・ジュルネ金沢の開幕公演直後の軽井沢公演でも演奏されます。是非ご期待ください(と,宣伝をさせていただきました)。明日の輪島公演では,工藤重典さんのフルート独奏も楽しめすので行ってみたいところですが....ラ・フォル・ジュルネ金沢までお楽しみは取っておきたいと思います。
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