OEKシーズン最後の定期公演は秋山和慶指揮。バルトークの弦チェレはよくできた曲と再認識。名曲です。郷古廉とのブラームスは深い思索とキレの良い運動が交錯する燃焼度の高い演奏 #oekjp
OEKの今シーズン最後の定期公演PHには,ベテラン指揮者の秋山和慶さんが登場しました。本来,井上道義音楽監督が指揮するはずだった公演で,最初と最後の曲目はそのまま踏襲したのですが,前半に演奏された郷古廉さんとのヴァイオリン協奏曲は,シューマンからブラームスに変更されました。井上さん自身,シューマンの協奏曲は「是非,自分と」という思いが強かったようです。
この井上さんの代役で登場した秋山さんですが,素晴らしい音楽を聞かせてくれました。ストラヴィンスキー,バルトークといった,指揮するのがやっかいそうな曲を冷静かつ鮮やかにまとめてくれました。ただ,まとめるだけでなく,正真正銘クラシック音楽としての,ゆるぎのない安定感を感じさせてくれました。
最初のストラヴィンスキーが管楽器だけ,最後のバルトークが弦楽器,打楽器(鍵盤系を含む)だけ。2つ合わせると,フル編成というアイデアは井上さんのものですが,その面白さをしっかりも楽しませてくれました。
特に最後に演奏されたバルトークの弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽(弦チェレ)が素晴らしい演奏でした。この曲は,CDだと,私にとっては「どうしても楽しめない曲」でした。非常に暗く地味に聞こえます。それが実演だと大違いです。
第1楽章で,どんどん弦楽器が増えていくダイナミクス。クライマックスでバスドラムが,ドンと入る臨場感。第2楽章や第4楽章でのビートの効いたジャズを思わせる感覚(今回の落ち着いたテンポだと,特に効果的でした)。チェレスタなどが動きまわり,ワーッという感じで意外に華やかに盛り上がる3楽章など,どの楽章も全く退屈しませんでした。
# この曲の名前ですがピアノも結構活躍するのに,なぜ曲には「ピアノ」が入っていないのでしょうか?ピアノは打楽器の一種だが,チェレスタはチェレスタとしか呼びようがない,ということでしょうか?
OEKがこの曲を石川県立音楽堂で演奏するのは,もしかしたら今回が初めてかもしれません。以前,岩城さん時代に聞いた時は(どのホールだったか忘れましたが),もっと現代音楽っぽい,尖った印象を持ったのですが,このホールで聞くと実に音楽的に響くと感じました。終演後のサイン会の時,「バルトーク,本当に素晴らしかったです」と言ってみたところ,「名曲だからねぇ」と答えてくれました。この曲はCDだとよく分からないけれども,本当によくできた名曲だと初めて実感できた演奏でした。
前半の最後に演奏された郷古さんとのブラームスのヴァイオリン協奏曲も素晴らしい演奏でした。序奏部のオーケストラの響きから,安定感と清潔感が共存しており,秋山さんとOEKらしいと思いました。そこにスリムだけれども強靭さのある郷古さんのヴァイオリンが加わります。
郷古さんの演奏には,華やかに技巧を見せようというような部分はなく(そもそもそういう曲ではないですね),楽章が進むにつれで,内面に深く入り込んでくるようなところがありました。非常に美しい高音,キレの良い技巧と深く沈潜するような,思い悩んだような表情とが交錯し,いかにも若い演奏家らしい,思い切りの良い演奏を聞かせてくれました。
OEKの演奏も第2楽章での管楽器のサポートをはじめ,暖かく若いソリストを包み込むようでした。第3楽章終盤での,ソリストとオーケストラが一体になっての熱い盛り上がりはライブならでだったと思います。
今回の公演では,秋山和慶さんは,井上道義さんの代理で登場したのですが,その完成度の高い演奏はさすがだと思いました。その一方,井上さんがバルトークを指揮していたら,きっと違った雰囲気になっていたと思います。復帰後のために取ってある「シューマンのヴァイオリン協奏曲」ともども,是非,井上道義さんの指揮でもバルトークの名曲を聴いてみたいと思いました。
PS. 本日のコンサートマスターは神奈川フィルのコンサートマスターの石田泰尚さんでした。バルトークでは第1ヴァイオリンをはじめ,オーケストラ全体を左右2つに分かれていました。第2オーケストラの方は,OEKの松井さんがリーダーでしたので,「石田組」と「松井組」の抗争を秋山さんが仲裁している,といったところでしょうか。
ここで思いついたのですが「オーケストラ・アンサンブル・カナガワ」です(紛らわしすぎか?)。石田さん率いる神奈川フィルとOEKとが,左右2グループに分かれて,この曲を合同演奏するという趣向です。
その他,石田さんとOEKの坂本さん,グリシンさん,大澤さんが弦楽四重奏を組むと,見るからにハードボイルドな感じがします。この4人にOEKのコントラバスのカルチェヴァさんが紅一点で加わった弦楽五重奏というのは,さらにグッドかも。というわけで,色々と期待しています。
PS2. バルトークの第3楽章の直前,ヴィオラのグリシンさんが一旦退場し,「...これからどうなる?」という緊張が走りましたが...一体何があったのでしょうか?しばらくして「申し訳ない」という感じで戻ってこられました。ここで緊張感が途切れなかったのが,さすが秋山さんとOEKだと思いました。
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