石川県立音楽堂室内楽シリーズで平均律+展覧会の絵を上杉春雄さんのピアノを聞いてきました。自信に満ちた明晰な演奏に加え,トークも大変充実
本日は音楽堂室内楽シリーズとして行われた上杉春雄さんのリサイタルを聞いてきました。上杉さんは,医師でありながら,ピアニストとしての活動も続けている異色のピアニストですが,その演奏は正攻法で,長年に渡り,作品に真摯に向き合っていることがしっかりと伝わってくるような演奏を聞かせてくれました。
今回のプログラムは前半がバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の1~8番,後半がムソルグスキーの「展覧会の絵」全曲でした。今回の公演は,石川県立音楽堂交流ホールで行われたのですが,そのステージと客席との距離の近さを生かし,上杉さんのトーク(というよりはレクチャーでしょうか)を聞いた後,曲を楽しむという構成でした。それが大変良かったと思います。
今回の上杉さんによる曲目解説が素晴らしく,バッハのこの曲集が4曲単位で一つのまとまりになっていることや,「展覧会の絵」が「殻をつけたひな鳥の踊り」を中心にシンメトリカルに曲が配列されていることなど,なるほどという情報が満載の内容でした。
それに加え,上杉さんのトークの内容も充実していました。しっかりとした形のある美術と何かとらえどころのない時間芸術である音楽との関係であるとか,知的な好奇心を刺激してくれるような内容を大変分かりやすく,穏やかな口調で語って頂きました。
その後に聞く音楽も聞きごたえがありました。
前半のバッハでは,4曲目,8曲目の短調作品が特に聞きごたえがありました。4曲目は,コンパクトにまとまった受難曲であるとか,8曲目は深い諦観の伝わってくるようなサラバンドであるとか,この取っつきにくそうな曲集の各曲ごとの個性を感じ取ることができました。上杉さんは,平均律の全曲演奏をライフワークとされているとのことですので,是非,9曲目以降も上杉さんの解説付きで聞いてみたいものです。
後半の展覧会の絵は,上杉さんが14歳(!トークではそう語っていました)の頃からずっと弾き続けている曲で,完全に手の内に入った見事な演奏を聞かせてくれました。上杉さんのピアノには,大げさな身振りはなく,衒いなく曲の核心に迫ろうとする率直さがあります。間近で聞くピアノの音には引き締まった力感があり,「絵画」というよりは,彫りの深い,大理石のギリシャ彫刻を間近で見るような,惚れ惚れとするような鮮やかさがありました。
きっと,医師を続けているからこそ実現できるような表現もあるのだと思います。その幅広い教養に支えられたような演奏は,独自の境地と言って良いものかもしれません。この続編企画として,平均律パート2にも期待したいと思います。アンコールでゴルトベルク変奏曲のアリアが演奏されましたが,この変奏曲の全曲,というのも聞いてみたいものです。
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