音楽堂室内楽シリーズ2014 第5回は小林道夫さんによるクラヴィコードの演奏会。演奏もトークも抑制の効いた穏やかさの中に知的な味わいが溢れていました。
音楽堂室内楽シリーズ2014 第5回はベテラン鍵盤楽器奏者の小林道夫さんによるクラヴィコードの演奏会でした。過去,小林さんがチェンバロを演奏するのを聞いたことはありますが,クラヴィコードの演奏を聞くのは初めてのことでした。今回はこのクラヴィコードで,J.S.バッハとC.P.E.バッハという2人のバッハの作品を楽しむという趣向でした。
クラヴィコードは,ホールでの演奏会用の楽器というよりは,少人数向けの家庭内で使うのが相応しい楽器ということで, 通常のようにステージ上の奏者を客席で聞くというスタイルではなく,ステージ上のクラヴィコードを取り囲むように座り,同じステージ上で聞くという形でした。音楽堂のコンサートホールのステージの上に乗ること自体めったにないことですが,その上でクラヴィコードを聞くというのは,さらに珍しい経験だと思います。
今回の演奏会は,小林道夫さんのトークを交えて進められました。楽器のこと,両バッハの作品のこと,各作品の作曲にまつわるエピソードなど,次から次へと興味深い話題が続き,全く飽きることなく,クラヴィコード作品を楽しむことができました。
クラヴィコードの音量は,ステージ上で聞いていてもかなり小さいもので,どうしても耳を澄まして聞くという形になります。しかし,曲が進んでいくにつれて,段々と耳の方も研ぎ澄まされていくような感じになり,それほど気にならなくなります。小音量に耳の方が最適化されていく,といったところでしょうか。小林さんのトークの穏やかなトーンとの相性もぴったりでした。
演奏された曲の中では,前半の大バッハの曲も,それぞれ選りすぐりの曲で良かったのですが,後半に演奏された,これまでほとんど聞いたことのなかった,C.P.E.バッハの作品がどれも面白いものでした。クラヴィコードは,鍵盤楽器のくせにヴィブラートを掛けることができるのですが,その機能を生かしたソナタであるとか,ちょっとミステリアスな悲しみの表情をたたえたロンドであるとか,大バッハにない,しみやすい情感があると思いました。
クラヴィコードの場合,本当は「自分で演奏する」ぐらいの距離感がいちばん良さそうですが,この楽器の魅力の一端に接することのできた演奏会でした。
それにしても,小林道夫さんは,昔からお変わりがありません。かなりご高齢のはずですが,演奏もトークも,弛緩したようなところが全くなく,抑制の効いた穏やかさの中に知的な味わいが溢れていました。演奏自体に加え,そのユーモアのある冷静さにも感嘆しました。今回は,ほぼレクチャーコンサートという感じでしたが,小林さんのトークによる,今回のようなスタイルの(今度はチェンバロでもよいと思います)演奏会は,是非,シリーズ化してほしいな,と思いました。
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