OEK+エッセン市立歌劇場バレエ団 バレエ・ウィーク第2弾はプロコフィエフ「シンデレラ」。先週末とは対照的にモダンで鮮烈なパフォーマンス #oekjp
先週末の「くるみ割り人形」公演に続き,OEKとエッセン市立歌劇場バレエ団によるプロコフィエフのバレエ「シンデレラ」を観てきました。こちらは金沢歌劇座で行われただけあって,よりダイナミックなパフォーマンスを楽しむことができました。
ダンサーたちの動きは,伝統的なバレエの動作とは全然違い,腰を曲げた状態で足を高く上げて,ダイナミックに歩き回る...といった,一種異様な動きが中心でした。その動きが,固有の文法に基づいているような感じで一貫しており,段々とこの異様な世界にはまっていくような面白さがありました。
「くるみ割り人形」のファンタジー溢れる美しい音楽とは違い,プロコフィエフの音楽にも,どこか暗く,ひんやりとした感触があります。特に前半はとっつきにくい部分もありましたが,今回のかなりモダンな振付・演出には,むしろぴったりと思いました。
「シンデレラ」といえば,カボチャの馬車,舞踏会,王子と王女,門限12時,ディズニーランドにあるような城...といったイメージがありますが,今回の演出では,こういったものが全く出てきませんでした。オリジナルのストーリーを大胆に変更し,前半は継母が来るまでの親子3人の幸せだった過去と荒んだ感じの現在とを対比していました。特に前半最初で,家族3人を額縁のように区切った枠の中にポートレートのような形で鮮やかに映し出す効果が見事した
途中,レトロな感じの音楽がスピーカーから流れてくる部分があったり,どう解釈すればよいのか分からない部分も多かったのですが,照明や衣装による色彩感覚が面白く,飽きずに楽しむことができました。前半,シンデレラは地味な水色の服で登場。途中で鮮やかな赤のドレスに変わり,そこで王子と出会うのですが,その後,引き離され,最後に水色の衣装に戻って,王子と再会する...という感じです。途中,緑のカーペットや壁面が出てきたり,オレンジが出てきたり...すべてが何かを象徴しているようでした。
登場人物では,継母とその子供2人がいつも3人セットで動いており,親子というよりは狂言回し3人組という感じでした。運動量的には,この3人がいちばんよく動き回っていたと思います。
音楽的には,後半(この日は,前半が第1幕,後半は通常の第2幕と第3幕を連続して上演という形でした。数曲はカットしていたようです)の方が印象的でした。シンデレラと王子が出会う場面のワルツの美しさであるとか,二人が引き裂かれるときに流れる「真夜中の時計」の音楽の強烈さなどプロコフィエフならではだと思いました。特に12時の鐘を描いた部分は,低音の金管楽器と打楽器の効果が鮮やかでした。ただし,今回の演出では「12時」ということにこだわっていなかったので,音楽で時計を描く意味合いが薄い気がしました。
その後,王子がシンデレラを探す部分でのスピーディでエキゾティックな音楽の連続も印象的でした。この部分は,一種,ディヴェルティスマン的な扱いになっており,各国の踊りが続いていました。
最後に二人が再会するのですが,この部分の音楽も素晴らしいものでした。ここまで,ひねった感じの曲が多く,シンプルな曲は少なかったのですが,この最後の部分は透き通った響きになり,最後の最後の部分で,ドレミファソラシドとグロッケンが音階を演奏して終わります。二人の思いが成就したことが鮮明に伝わってくる見事なエンディングでした。
ストーリー全体としてみると,前半の「崩壊した家族」と後半の「シンデレラと王子の出会いと再会」のつながりが分かりにくい気がしました。また,プロコフィエフの曲の持つイメージとパフォーマンスとが繋がらないような部分もあったと思います(上述の「12時」の部分など)。そういった部分も含め,冒険的な演出だったと思います。王子に選ばれるのを待つシンデレラというよりは,双方が対等な感じで,多様な人に溢れる「世界」の中から,運命の2人が巡り合ったという,不思議な愛の力みたいなものを最後の部分で描いていたのではないかと思います。
個人的には「普通のシンデレラも見たい」という気持ちもありましたが,金沢では滅多に見られないような作品を尖鋭的なパフォーマンスで楽しめたことは,OEKとエッセンのバレエ団との継続的な連携の成果だと思います。
さて,今後のバレエですが,取りあえず同じプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」(全曲)などをしっかり堪能してみたいものです。期待しています。
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