マティアス・バーメルト指揮OEK定期。ベテランらしい見事な音楽の運びで渋いプログラムを楽しませてくれました。アレクサンダー・クリュッヒェルさんの知的センス溢れる美しい演奏も見事 #oekjp
2016年になって2回目のOEK定期公演は,OEK初登場となるマティアス・バーメルトさん指揮,アレクサンダー・クリッヒェルさんのピアノによるマイスター・シリーズでした。今シーズンのマイスターシリーズには,「ショパンと友人たち」というテーマがあり,毎回ショパンのピアノ協奏曲的作品が取り上げられています。今回は協奏曲ではなく,実演で聞く機会の少ない,「お手をどうぞ」の主題による変奏曲と演奏会用ロンド「クラコヴィアク」」が演奏されました。
メインに演奏されたのは,メンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」ということで,渋い感じのプログラムの印象だったのですが,どの曲も本当に素晴らしい内容でした。
まず,アレクサンダー・クリッヒェルさんの演奏したショパンの2曲ですが,何よりも音が素晴らしくクリアで明晰で,塵一つ落ちていないような透明度の高い演奏を聞かせてくれました。ショパンらしく,細かい音符がキラキラと続くのですが,それが明晰であると同時に安定しており,技巧的な華やかさだけが浮き上がる感じでないのが見事でした。
演奏された2曲は,似たタイプの曲でしたが,特に「お手をどうぞ」の主題による変奏曲の方が変化に富んだ音楽で楽しめました。この曲を聞いたシューマンが「諸君!脱帽しなさい,天才だ」と絶賛したとプログラムの解説に書いてありましたが,この言葉をそのままクリュッヒェルさんに贈りたいと思います。クラコヴィアクの方は,ピアノ協奏曲第1番の第3楽章の別バージョンといった感じの軽快な気分が印象的な曲でした。
アンコールで,自作のララバイという曲が演奏されました。ちょっと坂本龍一などの映画音楽を思わせるようなメロディアスな曲でしたが,俗っぽくなることがなく,クリュッヒェルさんの美意識のようなものが詰まっているように思えました。
クリュッヒェルさんは,プロフィールを読む限りではコンクール歴はなく,数学者としての一面も持つということで,かなり異色のピアニストなのですが,その健康的な音楽と知的なセンスの溢れる音楽を聞いて,才能が溢れていると感じました。
バーメルトさんの指揮で,まず,ブリテンのシンプル・シンフォニー,最後にメンデルスゾーンの宗教改革が演奏されました,どちらもさすがベテラン指揮者という演奏でした。大げさな演奏ではないのですが,音楽の運びが巧く,どちらの曲も,室内オーケストラらしく軽妙に聞かせる部分と,大きく盛り上げるクライマックスとがしっかりと描き分けられていました。
特に「宗教改革」は,ずしりとした聞きごたえの残る,素晴らしい演奏でした。第1楽章と第4楽章にコラールが出てくるのですが(第1楽章の方はワーグナーの「パルシファル」にも出てくるものですね),その効果が素晴らしいと思いました。弦楽器の清澄さ,トロンボーンやテューバを含む神を称えるような落ち着きのある明るさ,ティンパニの力強さ...地に足を付けながら,天を称えるという感じでした。
第2楽章の軽妙さもとても良いアクセントになっていました。第3楽章の静かで悲しい表情から第4楽章へと移行する辺りでは,岡本さんのフルートのソロをきっかけにどんどん光が差してくるように高揚していくのが感動的でした。そして,コーダの部分では,ブルックナーの交響曲を思わせるようなオルガンを思わせる響きを聞かせてくれました。ティンパニの音がオルガンのペダルのようで,力強い響きの後,それがスッと消えるように終わるのが宗教的だなぁと感じました。
アンコールでは,大変軽妙かつ味わい深いモーツァルトの小品が演奏されました。もしかしたらバーメルトさんの得意の曲かもしれません。演奏会全体の雰囲気にもぴったりでした。
というわけで,一見地味なプログラムをしっかりと楽しませてくれる,OEKらしさを堪能させてくれた公演でした。
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