井上道義OEK+北村朋幹によるマイスター定期はシリーズ最後に相応しい名曲の名演の連続。キラールの作品もOEKにぴったり! #oekjp
「ショパンと友人たち」というテーマで,ショパンの協奏曲的作品とその同世代の作曲家の作品を取り上げて来た今シーズンのマイスター・シリーズ。最終回は,ショパンのピアノ協奏曲第2番とメンデルスゾーンの交響曲第3番で締められました。指揮は井上道義OEK音楽監督,ソリストとして登場したのが若手ピアニストの北村朋幹さんでした。
どちらも名曲ですが,その魅力を十分に引き出した,100点満点の演奏だったと思います。北村さんは,複数の国際的なコンクールに入賞後,こだわりのコンセプトを持った選曲のCD録音をリリースし,高い評価を得ています。
今回のショパンでも,美しい音色をしっとりと聞かせると同時に,何とも言えぬ奥行を持った演奏を聞かせてくれました。しっかりとした主張を感じさせつつ,それが押しつけがましくなく,マイルドにスーッと音楽が染み渡るような感じでした。この曲では,3楽章のコーダ直前のホルンの信号が印象的ですが,この日はエキストラの根本さんが颯爽とした音を聞かせてくれました(演奏後,井上さんは一番に褒めていました)。その後の北村さんとOEKの音楽の流れも素晴らしく,大変気持ちよく締めてくれました。
最後に演奏された「スコットランド」は,いつも,スケールの大きな流麗な音楽を聞かせてくれる井上さんにぴったりの作品ですが,この日の演奏は特に素晴らしかったと思います。この日のコンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングさんでしたが,ヤングさんは,スコットランドのグラスゴー出身。全曲を通じて第1ヴァイオリンは,憂いを持った滴るような美しさでしたが,ヤングさんのリードが効いていたのかな,と思いました。
第2楽章は,スコットランド風のメロディが遠藤さんのクラリネットで伸びやかに始まった後,キビキビと音楽が続いて行きました。この曲は,もともと「4楽章一気に」演奏することになっています。この日の演奏もそのとおりで,それぞれに魅力的な4つの楽章が滑らかに続いていました。第3楽章の品格の高さを持った落ち着き,第4楽章のシャキッとした躍動感。本当に良い曲だと思いました。
そして,お待ちかねの第4楽章のコーダです。そこまでのほの暗い雰囲気から一転して,雲が晴れたように転調します。この部分での非常に自然な高揚感が見事でした。トランぺットとホルンの力強い響きが音楽をぐっと盛り上げ,感動を噛みしめるように全曲を締めてくれました。
さて,この2曲の前に演奏されたキラールのオラヴァという謎の作品ですが...とんでもなく面白い作品でした。終演後のサイン会の時,井上さんに「この曲はどこで見つけてきたのですが?」と尋ねてみたところ,「OEKにぴったりだろ?」としてやったりという表情をされていました。実は,この曲は指揮者なしで,ヤングさんのリードで,15人編成の弦楽器だけで演奏されました。
曲は,バルトークがミニマルミュージックになったような感じでした。ヴァイオリン2本ぐらいで,ちょっと民族的な感じのする音型を繰り返し演奏していくうちに,音がどんどんと増えていき,絡み合い,厚みを増し...という感じで展開していきます。基本的にとても聞きやすい曲なのですが,突然,ノイズが入るように不協和音が入ったり...聞いていて大変スリリングな面白さのある作品でした。そして最後,音が熱狂的に盛り上がった後,「ヘイ!(多分)」とメンバーの掛け声が入って終了しました。この演奏は盛り上がりました。
OEKメンバーは,5×3列にきっちりと隊列を組み,その前でヤングさんがリードしていたので,まさにヤング隊長という感じでした。井上さんが言われたとおり,OEKにぴったりの曲でしたので,シュニトケのMOZ-ARTに引き続いて,OEKの持ちネタ(?)に加えて欲しいと思いました。
さて,この日の演奏会ですが,5月21日のマイスター定期で菊地裕介さんがキャンセルになったため演奏されなかった,ショパン/ポーランドの歌による幻想曲が,今回のプログラムに先立って演奏されました。演奏されること自体非常に珍しい作品ですが,今回は,さらに演奏前に「この曲の作曲当時のショパンの境遇」などを説明するような,門田宇さんによる語りが入っていました。曲自体は,ショパンのピアノ協奏曲の2楽章と3楽章をくっつけたような感じの曲で,協奏曲に比べるとやや密度が低い気はしましたが,協奏曲同様,北村さんが見事な演奏を聞かせてくれました。その後,10分の休憩が入りましたので,最初の1曲だけで,独立した世界を作っているようでした。
というわけで,定番名曲2つに加え,驚きの作品,滅多に聞けない作品を100%堪能できた演奏会でした。
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