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2016年9月

2016/09/19

N響若手メンバー(宮川奈々,中村翔太郎,市寛也,岡本潤)と鶴見彩によるピアノ五重奏@金沢蓄音器館。ヴォーン・ウィリアムズの名曲を発見。「ます」はシューベルティアーデ気分で楽しめました

敬老の日を含む3連休は台風などの影響もあり,全国的に雨だったようです。金沢も午前中は大雨警報が出るほどでした。その中,「N響若手メンバーと鶴見彩によるピアノ五重奏」と題された演奏会が金沢蓄音器館で行われたので聞いてきました。

金沢蓄音器館での演奏会は,収容人数が少ないこともあり,どれも人気なのですが,今回のピアノ五重奏公演は特に人気が高かったようで,会場は満席でした。

この日のメンバーは,金沢市出身のコントラバス奏者,岡本潤さんを含む,NHK交響楽団の弦楽器メンバー4名と金沢ではお馴染みのピアニスト,鶴見彩さんでした。コントラバス入りの室内楽ということになると,かなりレパートリーは限定され,ピアノ五重奏となると,シューベルトの「ます」の五重奏曲しか思い浮かばなかったのですが,ちゃんと同じ編成の曲もあるんですね。前半は「ます」と同じ編成のヴォーン・ウィリアムズのピアノ五重奏曲が演奏されました。

もちろん聞くのは今回が初めてでしたが,名曲を新発見した気分です。調性がハ短調ということで,ベートーヴェンの交響曲第5番をどうしても思い出してしまうのですが,実際,暗い雰囲気の楽章で始まった後,最後の方は明るく盛り上がる感じで,暗と明の対比を楽しむことができました。

近現代の音楽としては保守的で,ラフマニノフの曲あたりに通じるような暗いロマンも感じさせてくれました。各楽章とも途中盛り上がった後,静かに終わるあたり,どこか奥ゆかしいところがあり,落ち着いた気分で楽しむことができました。

N響若手メンバーによる演奏は,音がピタリと揃っていて,ハーモニーが美しいと思いました。蓄音器館は残響がほとんどなく,音がダイレクトに聞こえてくるのですが,そのことにより,かえって水準の高さをしっかり味わうことができました。

後半の「ます」はお馴染みの作品です。こちらも素晴らしい演奏でした。個人的には,第1楽章の冒頭,「ジャーン」と鳴った後,ピアノだけ音が残って,上向していく部分とか,その直後,コントラバスがしっかりと低音の持続音を効かせる部分とか...好きな部分だらけの曲です。鶴見さんのピアノは相変わらず鮮やか,岡本潤さんのコントラバスの音もしっかりと低音を聞かせてくれました。各楽器の音ががっちり組み合わさっている感じもくっきりと聞こえ,室内楽の面白さをしっかりと感じさせてくれるような演奏だったと思います。

考えてみると,シューベルトが私的に行っていた「シューベルティアーデ」と呼ばれていた小規模なコンサートは,丁度こんな雰囲気だったのかもしれません。第4楽章の変奏での楽し気なテンポの揺れ,第5楽章の和気あいあいとしたムード。シューベルトの曲を聞くのにぴったりのシチュエーションだったのでは,という気がしました。

この岡本さんを中心とした4人は,今日の昼間は金沢市内の「茶室」で演奏会を行ったようで(抹茶付き),そちらも満席だったとのことです。

これを機会に,「蓄音器館でシューベルティアーデ」といった新シリーズができると面白い気がしました。蓄音器館のピアノは,メイソン・アンド・ハムリンというメーカーのものです。ピアノ・ロール用も兼ねているようで,とても軽やかな音なので,小さな会場で聞くには特にぴったりなのではないかと思います。

N響若手メンバーによる室内楽シリーズの続編にも是非期待したいと思います。

2016/09/17

OEK2016/2017定期公演シーズンはウラディーミル・アシュケナージ指揮で開幕。古典交響曲,武満,シューベルト+ジャン=エフラム・バウゼさんとのモーツァルト。OEKらしさ満載のプログラムを爽やかに楽しませてくれました #oekjp

2016/2017シーズンのOEK定期公演シリーズは,ウラディーミル・アシュケナージさんの指揮によるフィルハーモニーシリーズで始まりました。プログラムには,OEKの原点に立ち返ったような作品ばかりが並びました。プロコフィエフの古典交響曲は,設立当初以来,繰り返し演奏してきた作品。シューベルトの交響曲第5番もOEKの編成や規模にぴったりの交響曲です。モーツァルトのピアノ協奏曲は,OEKが取り上げる協奏曲的作品の核とも言えます。そして,岩城さんが繰り返し演奏してきた武満作品。

アシュケナージさんの指揮ぶりは,決してスマートな感じはなく,どこか慌ただしい感じもするのですが,出てくる音楽の方は,とてもまとまりの良い,中庸の美といった雰囲気を感じさせてくれるものでした。プロコフィエフの古典交響曲は,OEK十八番の曲ということで,出てくる音に特に充実感がありました。その中に暖かみが漂っているのがアシュケナージさんらしいところだと思いました。

続いて,ピアニストのジャン=エフラム・バウゼさんをソリストに迎え,モーツァルトのピアノ協奏曲第17番が演奏されました。バウゼさんは個性を前面に出すというよりは,オーケストラと一体となってアンサンブルを作っていくような感じで,第1楽章はやや大人しいかな,とも思ったのですが,特に第2楽章などで,フッと短調に変わる部分での味わい深さが素晴らしいと思いました。

第3楽章は変奏曲形式で,管楽器と絡んで音楽が進んでいくあたりディヴェルティメントの中の1つの楽章を聞くようでした。また,フィナーレの部分でテンポを上げる辺りは,オペラのアンサンブル・フィナーレを見るような楽しさがありました。というようなわけで,アシュケナージさんと一体となって,生き生きとしたモーツァルトを楽しませてくれました。

後半は,没後20年の武満徹の弦楽のためのレクイエムで始まりました。OEKの設立当初,この曲を初めて聞いた時,難解な曲だなぁと思った記憶があるのですが,本日この曲を聞いて感じるのは,すっかり現代の古典なったなぁということです。もちろん晦渋さは残っているのですが,音にとげとげしい感じがなく,大変こなれた演奏だと思いました。OEKの積み重ねてきた歴史と同時に,自分自身の耳の変化も感じさせてくれる演奏でした。

プログラムの最後は,シューベルトの交響曲第5番でした。この曲で締めるというのは,いかにもOEKらしいところです。まず,音楽が瑞々しいのに感激しました。アシュケナージさんは,80歳近くですが,弛緩したところはなく,ストレートにこの曲の持つみずみずしさを伝えてくれました。アシュケナージさんの指揮の動作を見ていると,大巨匠というよりは,音楽が好きでたまらない少年,といった感じがします。その雰囲気は,シューベルトの交響曲第5番にはぴったりです。気持ち良い作品を気持ちよく聞かせてくれた素晴らしい演奏だったと思います。

アンコールでは,シューベルトの楽興の時第3番を弦楽合奏に編曲したものが演奏されました。こうやって聞くと,ロザムンデのバレエ音楽第2番によく似た感じになるなぁと面白く聞くことができました。

OEK2016/2017シーズン開幕の定期公演は,アシュケナージらしさとOEKらしさが融合した素晴らしい公演だったと思います。

2016/09/10

岩城宏之メモリアルコンサート 没後10年。山田和樹指揮OEK+東京混声合唱団による真摯で成熟したフォーレのレクエム。ヤングさんのバーバーの協奏曲も期待通りのすばらしさ #oekjp

9月はオーケストラの新シーズンが始まる月ですが,OEKの場合,前音楽監督の故岩城宏之さんの誕生日が9月ということもあり,この時期に「岩城宏之メモアリアルコンサート」を行っています。例年は,その年の岩城宏之音楽賞受賞者との共演を中心とした内容となっていますが,今年は岩城さんの没後10年ということもあり,岩城さんと縁の深い合唱団,東京混声合唱団がゲスト出演しました。

指揮は,岩城さん同様,世界各地のオーケストラの指揮しながら,東京混声合唱団の音楽監督を務めている山田和樹さんでした。山田さんは2年前のこのメモリアルコンサートに登場したことはありますが,東京混声合唱団と一緒に石川県立音楽堂のステージに立つのは今回が初めてです。

今年の岩城宏之音楽賞を受賞されたのは,OEKのコンサート・ミストレス,アビゲイル・ヤングさんでした。「身内の受賞」は,チェロのカンタさんに続いて2人目です。ここ数年のOEKに対する貢献度や,ソリストとしての活躍(武満徹のノスタルジアは,何回も演奏されていると思います)をを考えると当然といえます。

演奏会に先立って,ヤングさんに賞状と副賞が渡された後,1曲目のリゲティの無伴奏合唱曲,ルクス・エテルナが演奏されました。

ちなみに,この日,授賞式に井上道義さんが出席されていました。指揮をせずにステージに登場する井上さんというのは,かなり珍しいケースではないかと思います。

さて,このルクス・エテルナですが,大変型破りの作品でした。東混のメンバーはオルガンステージに並び,上の方からほとんどヴォカリーズのような感じで声が降り注いできました。メロディのようなものはなく,ほとんど動きのない(時々,超高音や低音が出てきましたが),一定の高さの音が16声部にも分かれて歌われました。その雰囲気は,まさに声で光を表現しているようでした。客席をかなり暗くしていたこともあり,オルガンステージだけが,宇宙空間の中で柔らかく光っているように思えました。この曲は,映画「2001年宇宙の旅」の中で使われたそうですが,冷たくも暖かくもない感じが,SF映画にはぴったりだと思いました。

続いて,アビゲイル・ヤングさんが登場し,バーバーのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。実は,この曲が大好きです。編成は,OEKの基本編成とほぼ同じなのですが,OEKがこの曲を演奏するのは,恐らく,竹澤恭子さんが尾高忠明指揮OEKと共演して以来のことだと思います。

バーバーのこの作品は,クールで自然なロマンティシズムが大変魅力的です。冒頭,ピアノのポロンという音に続いてヤングさんが,しっとりと息の長いメロディを聞かせてくれました。ちなみに,本日のピアノですが,エキストラとして,岩城さんの奥様の木村かをりさんが担当していました。これは嬉しかったですね。ピアノの音はCDで聞いているとあまりよく分からないのですが,実演だと大変効果的で,この音が加わることで,透明感が増しているようでした。

第2楽章は加納さんのオーボエに続いて,ほの暗い音楽が続きます。ヤングさんの演奏には,いつも真摯さと自然な熱さがあります。そして,常に安心して演奏を聞くことができます。本当に頼りになるコンサートマスターだなぁと思います。この日のお客さんの多くも,ヤングさんのことを誇りに思っているのではないかと思います。

第3楽章は,うってかわって,延々と独奏ヴァイオリンが演奏を続ける,急速な楽章になります。前半の2つの楽章と全く曲想が違う「バランスの悪さ」は,賛否両論ありそうですが,実演で聞くとなると,こういう楽章がある方が盛り上がりますね。こういう楽章でもヤングさんの演奏には安定感があり,ちょっとしたウィットのようなものさえ感じさせてくれました。管楽器などが合いの手を入れるように華やかに盛り上げ,最後は切れ味よく終わりました。

その後,大変盛大で暖かい拍手に応え,ヤングさんの故郷のスコットランドの愛の歌が演奏されました。しばらく前のNHK連続ドラマ「マッサン」辺りに出てきそうな,親しみやすく,爽やかな曲でした。

後半は,東京混声合唱団とOEKの共演で,フォーレのレクイエムが演奏されました。この演奏を聞いて,山田和樹さんは,成熟した音楽を楽しませてくれるなぁと改めて実感しました。無理な音楽運びは全くなく,合唱とオーケストラの表現の幅の広さを堪能させてくれました。

この曲を実演で聞くと,オーケストラの編成がかなり変則的だということが分かります。ヴィオラの人数が非常に多く(2部に分かれていた?),その分,ヴァイオリンの人数が少なくなっていました。また,オーボエも編成に入っていませんでした。

そのことにより,オーケストラの音がくすんだ感じになり,フォーレのレクイエム独特の音世界を築いていました。パイプオルガンも補助的な役割なのですが,この日の演奏では,時にしっかりと主張している部分もあり,敬虔な気分を盛り上げてくれました。

東京混声合唱団は,山田さんの指揮の下,素晴らしい歌を聞かせてくれました。フランス音楽に相応しく,重苦しくなるところはなく,透明感があるのですが,芯の強さのようなものがあり,常に心地よい充実感がありました。

バリトン独唱の与那城敬さんは,若々しさのある声で,大変清潔感のある歌を聞かせてくれました。ソプラノの吉原圭子さんの出番は「ピエ・イエス」の1曲だけでしたが,その登場の仕方が印象的でした。この曲の時だけオルガンステージに登場し,パイプオルガン奏者の伴奏に寄り添うように暖かみのある声を聞かせてくれました。曲の丁度真ん中で,ホールの上の方に登場するということで,非常に象徴的な歌唱となっていました。

というわけで,大好きなフォーレのレクイエムとバーバーのヴァイオリン協奏曲を中心に,真摯で透明感のある音楽を堪能できた素晴らしい演奏会でした。

2016/09/04

坂口昌優ヴァイオリン・リサイタル。フランクのソナタを中心に素晴らしいプログラム。曲の美しさがストレートに伝わってきました。

8月後半から頻繁に演奏会に出かけており,少々バテ気味なのですが,本日もまた楽しみな演奏会があったので聞いてきました。金沢を中心に活躍している坂口昌優さんのヴァイオリン・リサイタルです。共演のピアニストは,おなじみの鶴見彩さんでした。

この演奏会については,何といってもフランクのヴァイオリン・ソナタを実演で聞けるというのが楽しみでした。この曲は,ヴァイオリン・ソナタの名曲中の名曲なのですが,金沢では,ヴァイオリン・リサイタルの数自体が少ないので,この曲を実演で聞く機会はほとんどありません。しかも坂口さんは,フランクの出身地であるベルギーに留学されていたということで,いわゆる「本場の演奏」を聞いてみたいと思い聞きに行くことにしました。

プログラムは,フランク以外に,同じくベルギーの作曲家であるイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ2曲,それにクライスラーのコレルリの主題による変奏う曲とモーツァルトのホ短調のヴァイオリン・ソナタが演奏されました。聞きたい曲満載の素晴らしいプログラムでした。

最初のクライスラーの作品は,序曲のような感じで非常に健康的に伸びやかに演奏された後,モーツアルトの短調作品が演奏されました。第1楽章での,ちょっとくすんだような音色,第2楽章の途中で絶妙の間を取って,ほのかに明るくなる感じなど,魅力的な作品が実に魅力的に演奏されました。

ベルギー系のヴァイオリニストといえば,アルテュール・グリュミオーという往年の名ヴァイオリニストがいます。この方もモーツァルトのヴァイオリン・ソナタを録音していたなぁ,といったことを思い出しながら,聞いていました。

イザイの無伴奏は,今回のプログラムの中では,金沢ではいちばんよく演奏されている気がします。特に第3番のバラードは,アンコール曲などでもお馴染みの曲です。第5番の方は,ちょっと捉えどころのない雰囲気があったのですが,その神秘的なムードが面白いと思いました。第3番の方は,非常にエネルギッシュな曲ですが,それでも乱れた感じにならず,ストレートに聞かせてくれたのが良かっと思いました。

後半は,お待ちかねのフランクのヴァイオリン・ソナタが演奏されました。前半の途中で,坂口さんのトークが入り,「この曲はこれからもずっと演奏されたい」と語っていましたが,現在の坂口さんらしい,誠実でストレートに曲の美しさを聞かせてくれる演奏だったと思います。個人的には,もう少し踏み外した部分があっても良いかな,と思う部分はあったのですが,曲は盛り上がるけれども,重苦しく,熱くなり過ぎない感じがこの曲のムードにぴったりだと思いました。この辺が「ベルギー的」なのかもしれませんね。

この曲以外でもそうだったのですが,鶴見さんのピアノの安定感と音の美しさも特筆すべきものだったと思います。フランクの場合,最終楽章をはじめとして,ヴァイオリンとピアノの対話のような部分があるのですが,息のぴったりあった演奏を聞かせてくれました。

金沢にもいろいろな作曲家のヴァイオリン・ソナタの名曲を実演で聞いてみたいという音楽ファンも多いと思うので,是非,今後の坂口さんの活動に期待したいと思います。

2016/09/03

石川県立音楽堂開館15周年記念 井上道義指揮OEK+野村萬斎によるシン・ボレロ(?)。創意に満ちたパフォーマンス。鈴木行一「勧進帳」も音楽堂にぴったりの作品。そしてOEK十八番のハフナー! #oekjp

石川県立音楽堂が開館したのは,アメリカで起こった同時多発テロと同じ日です。2001年9月11日ということで,この9月で開館15周年となります。それを祝うための特別公演が行われたので聞いてきました。

石川県立音楽堂の建物のいちばんの特徴は,何といってもOEK用のコンサートホールと邦楽公演等に使える邦楽ホールが一つの建物の中に入っているということです。今回の公演も,この「和洋どっちも」という点を意識した内容となっていました。

メインは,井上道義指揮OEKによるラヴェルの「ボレロ」を野村萬斎さんと共演する最後のステージで,会場は満席でした。完売御礼という案内まで出ていました。「ボレロ」は,OEKのサイズには合っていない曲ですので,滅多に演奏されたことはありませんが(OEKが演奏するのは...本多の森ホールや金沢歌劇座での公演は記憶にあるのですが...音楽堂では初めて?),あらゆる点で「滅多にない」な気分満載の演奏になっていました。

まずステージですが,通常のステージの上に,能舞台ぐらいの大きさの正方形の台が置かれていました。その上に薄い赤色の布が敷かれ,萬斎さんはこの上で踊りました。オーケストラの配置も変わっており,この舞台を囲むように,ソロを取る管楽器が出てくる順番に前の方に並んでいました。そのソロが登場するたびに,スポットライトが当たる形になっていました。数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢の時の井上道義さん指揮のフランスのオーケストラによる演奏でも似たような配置を取っていましたが,その時は最後列だったかもしれません。それをさらに徹底させた感じでした。

今回の大きな特徴は照明の変化を多用していたことです。ボレロは,基本的にはクレッシェンドの曲なので,照明の方も暗→明という変化でしたが,踊りの意図を補強するかのように,寒色系になったり,暖色系になったりしていました。最後,クライマックスでパッと転調する印象的な部分では,照明の方が「昼間のような明るさ」に一瞬変化し,ドラマを盛り上げてくれました。

萬斎さんですが,若々しい雰囲気と同時にスターの貫禄のようなものをしっかりと感じさせてくれました。まず,登場の仕方が格好よかったですね。今回はステージ正面のいつもは開けていない扉を開放し,そこから萬斎さんが登場しました。最初は会場全体が真っ暗で,扉側から客席に向けて強烈なライトで照らし,萬斎さんのシルエットだけが浮き上がる,というものでした。音楽がしばらく進んでから,動きだしメインの舞台に登場。白い着物(これは何という着物でしょうか?陰陽師という雰囲気の着物です)で頭には何も被っておらず,素顔のままでした。

その雰囲気が若々しく,ヴァイオリンが加わる部分辺りから,ドンという足踏みを入れ始めて,元気さを増していきます。曲の最後の部分では,ステージからジャンプし,照明が暗転して鮮やかに終わっていました。一体どこに行ったのだろう,と思って照明が明るくなると客席の最前列に。未来への広がりを感じさせるような「シン・ボレロ」だったと思います。

この日の公演のもう一つの注目は,鈴木行一作曲の「勧進帳」です。演奏時間的には40分以上ある大曲で,歌舞伎十八番の「勧進帳」をカンタータのような感じで聞かせる重量感のある作品です。

これも石川県立音楽堂のコンセプトにぴったりの作品で,OEKと邦楽器のアンサンブルである素囃子とが,ドラマの進行に添って,交替しながら演奏し,さらにはOEK合唱団による合唱も加わっていました。

10年以上前に演奏されたことがあり,私も聞いたことはあるのですが,この曲についても照明での演出を加え,より分かりやすい内容になっていたと思いました。曲の雰囲気としては,暗い現代オペラといったムードがあるのですが,途中,弁慶が例の「勧進帳」を読む場面(そーれつらつら...と架空の文章を読み上げる見せ場)では,黛敏郎の涅槃交響曲のような雰囲気になり,素晴らしい緊迫感を出していました。

素囃子の方は,最後,無事安宅の関を通り抜ける部分で,見事な合奏を聞かせてくれました。曲全体からすると,カデンツァのような感じの盛り上がりを作っていました。邦楽器とオーケストラの共演といえば,武満徹のノヴェンバー・ステップスが代表曲ですが,邦楽器の合奏とオーケストラの共演というのは...ほとんどないと思います。

素囃子は,金沢が誇る伝統芸能の一つということで,新旧アンサンブルの共演ということになりました。この金沢らしい作品で,15周年を祝うというのは,今回の公演のコンセプトにぴったりだと思いました。

この日は,この2曲の橋渡しとして,モーツアルトの「ハフナー」交響曲が演奏されました。「歌舞伎十八番」ならぬ「OEK十八番」の曲で,特に井上道義さんは,この曲を愛しているのではないかと思います。力んだところのない,ゆったりとした演奏で,安心して聞くことのできる演奏でした。OEKファン的には,「ふだん使いの食器に愛着がわく」といった感じの演奏だったと思います。

さて,石川県立音楽堂も創立15周年ですが,このOEKfanの方も15周年ということになります。日常的には何かと生きにくいことの多い世の中ですが,アートの世界に浸らせてくれる音楽堂の中に居る時は,世間とは別次元のルールで動いている世界に入ることができます。そういう時間を提供し続けていただけていることに,改めて感謝をしたいと思います。

PS. 萬斎さんといえば「シン・ゴジラ」に出演されているようですが(まだ観ていません),これを機会に,伊福部昭の曲に合わせて踊るというのをやってくれないでしょうかねぇ?井上さんも伊福部さんの音楽が大好きなので,是非期待したいと思います。

2016/09/01

モーツァルト室内楽の旅27 ヴァイオリンソナタ5(金沢蓄音器館)。パリ・ソナタのうち3曲を大村俊介さんの味わい深い演奏とトークで楽しみました。鶴見彩さんのクリアなピアノもお見事

本日は久しぶりに金沢蓄音器館に出かけ,大村俊介さんのヴァイオリンと鶴見彩さんのピアノで,モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ3曲などを聞いてきました。元OEKのヴァイオリン奏者の大村さんによる,「モーツァルト室内楽の旅」シリーズも回を重ね,2006年から始まった弦楽四重奏シリーズの13回と合わせると,今回で40回目になります。まさに汲めどもつきないモーツァルトの室内楽の世界です。

最近はヴァイオリン・ソナタを取り上げていらっしゃるようですが,今回は鶴見彩さんのピアニストに迎え,「パリ・ソナタ」とか「プファルツ選帝侯ソナタ」とか「マンハイム・セット」と呼ばれる6曲の中の3曲が演奏されました。

このシリーズは,毎回,大村さんが演奏する曲について,曲の背景となる知識を含め,丁寧に説明をしていただけるのが素晴らしいところです。今回の説明では,「モーツァルトはヴァイオリン・ソナタを生涯を通じて書き(全部で43曲にもなります),その要所要所でヴァイオリン・ソナタで勝負を掛けてきた」と仰られていたのが印象的でした。

モーツァルトの他のジャンルの曲に比べると,少々印象が薄い面もあったのですが,このことを頭に置いて,1曲ずつじっくり聞くと,どの曲も大変味わい深いと思いました。これは,大村さんのヴァイオリンの暖かみのある演奏にもよると思います。それと今回は何といっても,鶴見彩さんのピアノが素晴らしいと思いました。

至近距離での演奏ということもあり,音が大変くっきり聞こえました。さらに音の粒が気持ちよく揃っており,速いパッセージで,タタタタタ...と見事に音が連なっているのが素晴らしいと思いました。演奏全体をくっきりとしたものにしていました。

今回は,第18番(第25番)ト長調,第19番(第26番)変ホ長調,第20番(第28番)ハ短調の3曲が演奏されましたが,静かな感じでスッと終わる数曲あり,「こういうのも良いなぁ」と思いました(番号については,偽作を入れるかどうかで2通りの番号付けがあるようです)。

その他,モーツァルトがこのシリーズを作曲するにあたって影響を受けた,シュスターの作品(「このシリーズでないと聞けない作品(大村さん談)」)や同時期に書かれたモーツァルトのピアノ・ソナタ第9番も演奏されました。

大村さんの深い音楽的教養に裏打ちされたこのシリーズですが,鶴見さんが加わり,さらにパワーアップしたのではないかと思います。演奏前にワインも一口楽しめるし,夜になって虫の声が盛大に聞こえる季節にはぴったりの,味わい深い演奏会でした。

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