N響若手メンバー(宮川奈々,中村翔太郎,市寛也,岡本潤)と鶴見彩によるピアノ五重奏@金沢蓄音器館。ヴォーン・ウィリアムズの名曲を発見。「ます」はシューベルティアーデ気分で楽しめました
敬老の日を含む3連休は台風などの影響もあり,全国的に雨だったようです。金沢も午前中は大雨警報が出るほどでした。その中,「N響若手メンバーと鶴見彩によるピアノ五重奏」と題された演奏会が金沢蓄音器館で行われたので聞いてきました。
金沢蓄音器館での演奏会は,収容人数が少ないこともあり,どれも人気なのですが,今回のピアノ五重奏公演は特に人気が高かったようで,会場は満席でした。
この日のメンバーは,金沢市出身のコントラバス奏者,岡本潤さんを含む,NHK交響楽団の弦楽器メンバー4名と金沢ではお馴染みのピアニスト,鶴見彩さんでした。コントラバス入りの室内楽ということになると,かなりレパートリーは限定され,ピアノ五重奏となると,シューベルトの「ます」の五重奏曲しか思い浮かばなかったのですが,ちゃんと同じ編成の曲もあるんですね。前半は「ます」と同じ編成のヴォーン・ウィリアムズのピアノ五重奏曲が演奏されました。
もちろん聞くのは今回が初めてでしたが,名曲を新発見した気分です。調性がハ短調ということで,ベートーヴェンの交響曲第5番をどうしても思い出してしまうのですが,実際,暗い雰囲気の楽章で始まった後,最後の方は明るく盛り上がる感じで,暗と明の対比を楽しむことができました。
近現代の音楽としては保守的で,ラフマニノフの曲あたりに通じるような暗いロマンも感じさせてくれました。各楽章とも途中盛り上がった後,静かに終わるあたり,どこか奥ゆかしいところがあり,落ち着いた気分で楽しむことができました。
N響若手メンバーによる演奏は,音がピタリと揃っていて,ハーモニーが美しいと思いました。蓄音器館は残響がほとんどなく,音がダイレクトに聞こえてくるのですが,そのことにより,かえって水準の高さをしっかり味わうことができました。
後半の「ます」はお馴染みの作品です。こちらも素晴らしい演奏でした。個人的には,第1楽章の冒頭,「ジャーン」と鳴った後,ピアノだけ音が残って,上向していく部分とか,その直後,コントラバスがしっかりと低音の持続音を効かせる部分とか...好きな部分だらけの曲です。鶴見さんのピアノは相変わらず鮮やか,岡本潤さんのコントラバスの音もしっかりと低音を聞かせてくれました。各楽器の音ががっちり組み合わさっている感じもくっきりと聞こえ,室内楽の面白さをしっかりと感じさせてくれるような演奏だったと思います。
考えてみると,シューベルトが私的に行っていた「シューベルティアーデ」と呼ばれていた小規模なコンサートは,丁度こんな雰囲気だったのかもしれません。第4楽章の変奏での楽し気なテンポの揺れ,第5楽章の和気あいあいとしたムード。シューベルトの曲を聞くのにぴったりのシチュエーションだったのでは,という気がしました。
この岡本さんを中心とした4人は,今日の昼間は金沢市内の「茶室」で演奏会を行ったようで(抹茶付き),そちらも満席だったとのことです。
これを機会に,「蓄音器館でシューベルティアーデ」といった新シリーズができると面白い気がしました。蓄音器館のピアノは,メイソン・アンド・ハムリンというメーカーのものです。ピアノ・ロール用も兼ねているようで,とても軽やかな音なので,小さな会場で聞くには特にぴったりなのではないかと思います。
N響若手メンバーによる室内楽シリーズの続編にも是非期待したいと思います。
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