OEKのCD

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2017/03/11

3.11東日本大震災の発生日に行われた井上道義指揮OEK定期公演。モーツァルトのレクイエムは大騒ぎすることのない抑制された演奏。ダニール・グリシンさん独奏のバルトークのヴィオラ協奏曲ともども音楽自体の美しさが伝わってきました #oekjp

3.11東日本大震災の発生した日に行われたOEKの定期公演マイスターシリーズは,井上道義さん指揮による,モーツァルトのレクイエムを中心としたプログラムでした。後から気付いたことですが,この大災害で亡くなられた方の魂を鎮めるための選曲と言えます。

ただし,演奏会の方は特に震災を意識したものではなく,演奏の方も大げさに感動を盛り上げるようなものではなく,しっかりと抑制の効いた質実さを感じさせるものでした。この日の演奏は,バイヤー版によるものとのことでしたが,その辺も関係していたのかもしれません(ただし,どの部分が違っていたのが,通常のジュスマイヤー版との違いは私にはよく分かりませんでした)。

特にOEKの演奏には,全曲を通してキビキビとした折り目正しさと透明感があり,宗教音楽に相応しい清潔感を感じました。OEK合唱団の方は,その上に情感のこもった歌を聞かせてくれました。こちらも大げさに叫ぶような部分はなく,全体的にしっかりと抑制された演奏の印象を持ちました。そのことが音楽自体の美しさが際立ち,感動をさらに深めていたと思いました(もっとドラマティックな音楽を期待していた人には,やや淡白に思えた面があったかもしれませんね)。

独唱者では,森麻季さんが,やや本調子でない気はしましたが,相変わらず天から降ってくるような軽やかで滑らかな声を聞かせてくれました。その他の3人も安定感のある声を聞かせてくれました。特にテノールの笛田博昭さんは,声自体の凛とした強さが素晴らしく,ひと際光っているようなでした。笛田さんの歌では,以前,「トロヴァトーレ」のいくつかのアリアを聞いたことがありますが,そのうち,OEKとの共演でのイタリア・オペラあたりを期待したいと思います。

この日のもう一つのハイライトは,ダイール・グリシンさんのヴィオラ独奏による,バルトークのヴィオラ協奏曲でした。この曲をOEKが演奏するのは初めてだと思いますが,グリシンさんの存在感のある豊かな音でしっかりと堪能させてくれました。曲の構成としては,静かな楽章2つの後,動きのある楽章で締める,ということで,バーバーのヴァイオリン協奏曲とちょっと似た部分もあると思いました(もちろん,バーバーの曲ほど親しみやすくななく,センチメンタルな部分も無いのですが)。

「ヴィオラは,人間の声にいちばん近い楽器」というのを何かの音楽番組でやっていましたが,グリシンさんの音はまさに人間の声のようで,一見晦渋な雰囲気の中から,親しみやすい情感であるとか,諦観のようなものが伝わってきました。

ちなみにこの日は,ヴィオラの客演の首席奏者として須田祥子さんも参加していました。グリシンさんと2人並んだモーツァルトの方は大変豪華メンバーでした。

モーツァルトとバルトークの最晩年の遺作を並べたプログラムでしたが,鎮魂の気持ちと同時に,人間らしい情感の豊かさや,生きていることのありがたみのようなことの伝わってくる公演だったと思います。

さて,この日ですが,予想通り井上道義さんとグリシンさんによるサイン会がありました。それを予想して,井上道義さん指揮による,日比谷公会堂でライブ録音した話題のショスタコーヴィチ交響曲全集を持参してみました。井上さんは大喜びでした。これについては,また別に紹介しましょう。

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