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2017年8月

2017/08/27

山下一史指揮OEK+合唱団OEKとやま+藤原歌劇団のソリスト4人によるヴェルディのレクイエム(北陸初演)を富山で聞いてきました。さすがヴェルディ!という名曲。たっぷり楽しんできました #oekjp

昨年まで,毎年のように夏にOEKと共演してきた「合唱団おおやま」が,名称を「合唱団OEKとやま」と変え,ヴェルディの「レクイエム」をOEKと共演するということで,夏休み最後の日曜日,金沢から富山に出向いて,この大作を聞いてきました。1時間30分近くかかる大作ということで,私自身,これまで実演で聴いたことはありません。それどころか,今回が北陸初演ということです。

この曲については,強烈な4つの和音で始まる「怒りの日」の最初の方だけは,テレビの効果音などで,非常によく耳にするのですが,実演での全曲となるとなかなか聞く機会はありません。私の場合,大昔,FM放送からエアチェックをしていた時代には,何となく全曲を聞いた記憶はあるのですが(アバド指揮ミラノスカラ座のライブ録音とか),CD時代になってからは,なぜか聞かなくなってしまい,今回,久しぶりにじっくりと予習をしてから,聞きにいきました。

今回初めて実演を聞いた感想は,「ヴェルディの気合い入りまくりの曲だ!すごい」と,この曲の良さを,初めて肌で実感できました。私にとっては,CDやカセットテープ(古くてすみません)だと,何故か聞き通せない曲だったのですが,実演だと全く退屈することなく,オペラ風味をもった壮大な宗教曲を丸ごと楽しむことができました。

その理由は,今回の演奏の水準の高さによると思います。そして,そのいちばんの原動力になったのは,山下一史さんと「合唱団OEKとやま」の皆さんの長年の信頼関係の力だと思います。プログラムによると2002年の「合唱団おおやま」の第7回演奏会以降,山下さんとは14回目の共演とのことです。この強いつながりが,集中力と熱気を持った演奏のエネルギーになっていたと感じました。

そして,藤原歌劇団に在籍する,砂川涼子,鳥木弥生,所谷直生,伊藤貴之の4人のソリスト,兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)のメンバーを加えて増強されたOEK。これらが一丸となって,「合唱団OEKとやま」のデビューコンサートに相応しい,充実感のある演奏を生んでいました。

今回の会場は,富山市役所のすぐ向かいにある,富山県民会館でした。以前に一度来たことがあるのですが,ホール全体がきれいにリニューアルされていました。音楽専用のホールではなく,多目的ホールなので,残響は少な目で,今回の大編成にしては,やや小さいと感じましたが,その分,迫力たっぷりの生々しい音楽をクリアに楽しむことができました。

有名な「怒りの日」については,大太鼓(OEKの渡邉さんが担当されていました)の音が壮絶に響き,弦楽器の細かい音の動きなども,くっきり聞こえました。大きな音の部分だけでなく,例えば,「怒りの日」の後半に出てくる,合唱のソット・ヴォーチェの部分(文字通り,声をひそめてソット歌う部分。この部分,個人的に好きな部分です)など,非常に生々しく聞こえ,ゾクゾクしました。曲の冒頭部も,CDでは,「小さすぎてよく聞こえない」ようなところもあるのですが,実演だと,そのエネルギー量が全然違うと感じました。

第2曲の「怒りの日」は,「怒りの日」から「涙の日」までが連続的に演奏されるセクエンツィアなのですが,この部分が,オペラの一つの幕を見るように多彩な音楽が詰め込まれていて,「やはり,ヴェルディはすごい」と思いました。

「怒りの日」は,熱狂的に荒れ狂う感じではなく,しっかりと迫力のある声の力を聞かせてくれました。改めて,100人以上からなる合唱団のパワーは素晴らしいと思いました。その後の「トゥーバ・ミルム」では,トランペットの別動隊が楽しみだったのですが,ホールの両袖の上の方(お客さんからは見えない場所)に居たようです。山下さんは,半分以上,客席の方に体の向きを変えて指揮されていました。この部分での,爽快に音が広がる立体感も素晴らしいと思いました。今回,オーケストラのメンバー表が付いていなかったのが残念だったのですが,恐らく,PACオケの方が活躍されていたのだと思います。

その後は,ソプラノとメゾソプラノによる二重唱,テノールの独唱など,「ほとんどオペラ?」みたいな部分が続々と出てきました。4人のソリストは,みなさん本当に素晴らしかったのですが(この4人でヴェルディのオペラを何か聞いてみたいものです),このセクエンツィアでは,金沢ではお馴染みのメゾ・ソプラノ,鳥木弥生さんの存在感が特に大きかったと思いました。鳥木さんの声には,聞いた瞬間,「ヴェルディのオペラだ」的な充実感がありました。特に「涙の日」での,文字通り泣かせる歌は素晴らしいと思いました。

そして,この「涙の日」の最後の部分の雰囲気が実にいいなぁと思いました。ちょっと明るく転調して,静かに終わる感じが,いかにも「ヴェルディのオペラにありそう」で,終結感と期待感が混ざったような後味を残してくれました。
第3曲から後も,「ヴェルディの総決算」のような色々な曲が続きました。「サンクトゥス」は合唱だけ,「アニュス・デイ」はユニゾン中心の素朴な感じの曲。「ルクス・エテルナ」は,ミサの中心である聖体拝領の場に相応しい神秘的な雰囲気がありました。

そして,最後の「リベラ・メ」では,レクイエム全体を回想するような,聞きごたえがありました。この部分では,ソプラノの砂川涼子さんの声が見事でした。「リアルな朗誦」のようなソロも印象的でしたが,合唱とソプラノが一体になった時の,中から浮き上がってくるような,高揚した声の力も素晴らしいと思いました。

最後の方で,「怒りの日」が再現したり,二重フーガが出てきたリ,合唱団の皆さんには,最後まで,エネルギーと集中力が必要だったと思いますが,素晴らしい盛り上がりを聞かせてくれました。二重フーガの部分では,ヴェルディの音楽がいちいち「ジャン,ジャン」と念を押すよう感じで,結構,泥臭い(?)感じもしたのですが,それが音楽全体の熱さにつながっていたと思いました。

今日の演奏については,休憩なしで一気に演奏されたのですが,先に書いたとおり,充実した時間を楽しむことができました。一気に演奏して良かったと思いました。

今年の夏は,7月中旬,大阪で聞いた井上道義さん指揮大阪フィルによるバーンスタインの「ミサ」で始まり,8月末の富山でのヴェルディのレクイエムで終わった感じです。とても良い「夏の思い出」となりました。本日の演奏を聞いて,「合唱団OEKとやま」の今後の活躍がますます楽しみになりました。毎年,夏の思い出作りに富山に来たいなと思います。

その一方,富山県民会館は,100人編成だとやや小さい気がしたので,残響の豊かな石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてみたい気もします。ヴェルディのレクイエムは,北陸初演というほどには大編成ではなかったと思いますので(トランペットは大勢必要ですが),是非機会があれば,「金沢初演」にも期待したいと思います。

2017/08/22

IMA&OEKチェンバーコンサート 4曲のフランス系の室内楽作品をたっぷり楽しみました。特にレジス・パスキエさんの気迫がこもったフランクのピアノ五重奏曲が感動的

いしかわミュージックアカデミー(IMA)期間中に行われる,アカデミーの講師たちとOEKメンバーによる室内楽公演もすっかり定着しました。毎年,熱のこもった,講師の面目躍如たる演奏を楽しむことができるのですが,今年のプログラムは特に素晴らしい演奏の連続だったと思います。

今年はフランス音楽中心のプログラムで(後半に演奏されたフランクはベルギー生まれですが,フランスで活躍した人なのでフランスの作曲家といっても間違いはない気はします),演奏会全体としての統一感があったのに加え,IMAの講師であるヴァイオリン奏者たちが4曲に分散しており,それぞれの個性を楽しむことができました。

1曲目のラヴェルの弦楽四重奏曲は,原田幸一郎さん中心の演奏でした。原田さんといえば,東京クワルテットの初代第1ヴァイオリンとして知られていますが,弦楽四重奏のメンバーとして聞く機会は,近年は意外に少ない気がします。冒頭から柔らかな響きが素晴らしかったのですが,特に弱音器を付けたヴァイオリンの音の何とも表現できないような,くすんだ音が素晴らしいと思いました。キビキビとした若々しい表現との対比も鮮やかでした。

2曲目は,ロラン・ドガレイユさんと鈴木慎崇さんによる,ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタでした。この曲では,ドガレイユさんの音の引き出しの多さに感激しました。最初の音から,フランスの香りと言ってもよさそうな。高級感がありました。その一方,強い音を出す時には,ほとんど飛び跳ねるように演奏し,ダイナミックで切れ味の良さを感じさせてくれました。それでいて声高に叫ぶような感じにはならず,常に微笑みをたたえているような暖かみがありました。お見事!という感じの演奏でした。

前半最後は,ラヴェルの「序奏とアレグロ」が演奏されました。弦楽四重奏にハープ,フルート,クラリネットが加わった7人編成の曲で,この日演奏された曲の中ではいちばん大きな編成でしたが,印象としては,いちばん静かな感じでした。

この曲では,各楽器の音の溶け合い方が本当に素晴らしいと思いました。フルートの岡本さんとクラリネットの遠藤さんがハモるような部分が多かったのですが,違う楽器だとは思えないほど,しっかりと溶け合っていました。第1ヴァイオリンはホァン・モンラさんでしたが,神谷美千子さんの第2ヴァイオリンやOEKの石黒さん,大澤さんと一体となった繊細で心地よい響きを作ってくれました。

そして,この曲では何といってもハープの平尾祐紀子さんの上品なきらびやかさが印象的でした。初めて聞く曲でしたが,ミステリアスで詩的な雰囲気があり,どこかドビュッシーや武満徹の曲を思わせるムードがあるのが面白いと思いました。

後半演奏された,レジス・パスキエさんを中心としたフランクのピアノ五重奏曲は,特に熱気のある演奏でした。パスキエさんはかなり高齢なはずですが,ビシッと締まった硬質の音が素晴らしく,冒頭の和音から一気に聴衆をフランクの世界に引き込んでくれました。「魂のヴァイオリン」といった趣きがあり...感動しました。

この日は,非常に前の方の席で聞くことができたのですが,パスキエさんの使っている譜面の紙は古く,ボロボロ。この曲を若い頃から弾き込んでいるのだな,ということが伝わってきました。他の奏者たちも,このパスキエさんの気迫にしっかりと応えていました。

ユニゾンで演奏する部分での音の迫力,所々入れていた大きな間での緊迫感。最初から最後まで,緊張感が途切れず,曲の終盤に行くほど,大きく盛り上がっていくのが素晴らしいと思いました。

その一方,全体を支えるハエスン・パイクさんのピアノの音には,どこか艶っぽい美しさがあり,曲全体のイメージに膨らみを持たせているようでした。

というわけで,違った編成の4曲のそれぞれの魅力を最大限に楽しませてくれた演奏会でした。そして,間近で聞く室内楽の面白さ(CDで聞くのとは全く違った印象)をしっかりと味わうことができました。IMA受講生によるライジングスターコンサートも凄かったのですが,講師による室内楽公演はそれとは別の方向で,素晴らしいと思いました。

2017/08/20

IMAライジングスターコンサート2017 今回も水準の高い演奏の連続。ヴァイオリンの弦が切れるハプニングもありましたが,奏者ごとの多彩な表現力とエネルギーを間近で味わってきました。

今年で20周年となる,いしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞いてきました。このコンサートは,前年度のIMA音楽賞受賞者を中心とした若手奏者が続々と登場するコンサートです。IMA音楽賞受賞者からは,毎年必ず,国際的な音楽コンクールでの上位入賞者を輩出しています。恐らく,今日聞いた人の中からも,世界的に活躍する奏者が出てくることでしょう。

今回は次の皆さんが出演しました。
  • ヴァイオリン:外村理紗, ドンミン・イム, シューハン・リー, ナキョン・カン
  • チェロ:金子遥亮
  • ピアノ:ユリ・ノ
  • IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(ヴァイオリン),牟田口遥香(チェロ),渡邉朋恵(ピアノ))
今回も水準の高い演奏の連続でした。どの奏者も,技巧的に不安定なところはなく,表現力,技の切れ味,音の迫力...といった一段階上のレベルで聴き比べをするような聴きごたえ十分の演奏会でした。

今回の奏者の中では,韓国のドンミン・イム(ヴァイオリン)さん,台湾のシューハン・リー(ヴァイオリン)さんについては,演奏した曲自体,技巧が前面に出る曲だったこともあり,その音の迫力と技巧の切れ味の良さ間近で体感できました。2人とも平然と弾いているところが心憎いところです。特にドンミン・イムさんの方は,途中で弦が切れるハプニングがあり,再度,途中から弾き直すハプニングがありましたが,これもまた,演奏の強靭さを裏付けているように感じました。非常に激しくビブラートを掛けていましたので,切れても不思議でないかなと思わせるほどでした。

ただし,強靭だから良いというわけでもなく,金子遥亮さんの自然な表情の動きを持ったチェロの演奏を聞いて,実に人間的だなぁと感じました。最初に演奏した,外村理沙さんのヴァイオリン独奏によるバッハの無伴奏ソナタ第1番にも,内面から溢れてくる,しみじみとした味わいと暖かみが感じられました。各奏者が,演奏した曲に応じて,適切な表現で演奏しているのが素晴らしいと思いました。

後半に登場したナキョン・カンさんは,15歳に満たない方でしたが,全ての点でバランス良く,高い水準でまとまっているのが凄いと思いました。この方だけは,過去のIMA音楽賞受賞者ではないのですが,今後,「天才少女」として注目を集めるようになるのかもしれません。

ピアニストとしては,韓国のユリ・ノさんだけが登場しましたが,この方のラヴェル「ラ・ヴァルス」もお見事でした。前半のミステリアスな雰囲気から,華麗なワルツに変化し,ダイナミックに盛り上がっている曲想を非常にクリアに再現していました。

演奏会の最後は,吉江美桜さん(ヴァイオリン),牟田口遥香さん(チェロ),渡邉朋恵さん(ピアノ)による,ブラームスのピアノ三重奏曲第1番の第1楽章でした。ソロ演奏が続いた後,最後に室内楽で締めるというのは落ち着きますね。ヴァイオリンとチェロの2トップの音のハモリが大変心地よく,ピアノがそれをしっかりと支えていました。若々しさと同時に落ち着きを感じさせてくれる,トリに相応しい演奏だったと思います。

IMAのコンサートについては,22日に講師の先生方とOEKメンバーによる室内楽コンサートが行われます。それとの比較も大変楽しみです。

2017/08/19

明日8/20に行われるIMAライジングスターコンサート2017の内容が分かったのでお知らせします。 #いしかわミュージックアカデミー

毎年,若手奏者たちによる水準の高い演奏の競演となっている,「IMAライジングスターコンサート」ですが,本日のコンサートで配布されたパンフレットに内容が書いてありましたのでお知らせしましょう。

# 印刷されているのならば,Webサイトの方にも掲載できるはずだと思うのですが...以下のページには相変わらず情報がないですね。

http://ishikawa-ma.jp/concert.html

日時:2017年8月20日(日)18:00~
場所:石川県立音楽堂交流ホール

外村理紗(ヴァイオリン)
バッハ, J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調,BWV.1001

ドンミン・イム(ヴァイオリン)
ヴィェニャフスキ/創作主題による変奏曲, op.15

シューハン・リー(ヴァイオリン)
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35~第3楽章

金子遥亮(チェロ)
ベートーヴェン/魔笛の主題による7つの変奏曲変ホ長調, WoO.46

ナキョン・カン(ヴァイオリン)
フバイ/カルメンによる華麗な幻想曲,op.3-3

ユリ・ノ(ピアノ)
ラヴェル/ラ・ヴァルス

IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(Vn),牟田口遥香(Vc),渡邉朋恵(Pf))
ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番ロ長調, op.8~第1楽章

#IMA いしかわミュージックアカデミー20回目を記念したスペシャルコンサートを聞いてきました。#新倉瞳 #辻彩奈 #神尾真由子 3人の卒業生による個性的で堂々たる演奏を楽しんできました。

夏休み期間中,金沢市で行われている若手演奏会のための講習会「いしかわミュージックアカデミー(IMA)」も今年で20回目となります。それを記念して「スペシャルコンサート」が行われたので,聞いてきました。

IMAは,ヴァイオリン奏者を中心に,世界的な音楽コンクールでの上位入賞者を続々と輩出していますが,今回はその”代表”として,チェロの新倉瞳さん,ヴァイオリンの神尾真由子さん,辻彩奈さんという3人の「卒業生」が登場し,IMA全体の監督でもある,原田幸一郎さん指揮OEKと協奏曲を共演しました。

この日は最初,IMAの実行委員会会長でもある谷本石川県知事のあいさつがあった後,原田さんと神尾さんのインタビューがありました。

その後,新倉瞳さんが登場し,ハイドンのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。新倉さんは,IMAを8回受講されたとのことで,「8月=金沢」という青春時代(?)を過ごされたことになります。この日は,3人の若い女性ソリスト3人が登場するとあって,ドレスの競演のようなところもありました。新倉さんは,水色の涼し気なドレスで登場しました。

ハイドンのこの曲は一見地味なのですが,第3楽章をはじめ,非常に技巧的な曲です。新倉さんは,原田さん指揮OEKの安定感のある演奏と一体となって,技巧を誇示することなく,ナチュラルでしなやかな演奏を聞かせてくれました。第2楽章での艶のある美音も魅力的でした。第3楽章は快適なビート感のある演奏で,速いパッセージがとても心地よく感じられました。

続いて,今年度の受講生でもある辻彩奈さんが登場しました。辻さんも,IMAに参加するのは,今年で8回目ということです。ちなみにドレスの色は,紫でした。ただし,時々,色合いが青?に変化する不思議な色でした。辻さんの演奏の方も,このドレス同様に,大変ニュアンス豊かでした。

辻さんの音には,真摯さと同時に密度の高さがあります。そして,ヴァイオリンの歌わせ方に,常にテンションの高さが秘められているのが素晴らしいと思います。今回のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番でも,昨年までライジングスターコンサートで聞いて来た難技巧の独奏曲と同様の充実感のある演奏を聞かせてくれました。

モーツァルトのシンプルな曲の中に,絶妙のニュアンスの変化が付けられており,プロの奏者によるモーツァルトだなぁと実感しました。第2楽章での陶酔感のある美音も印象的でした。第3楽章は,中間部で「トルコ風」に変化しますが,この部分を中心として,ドラマを感じさせるような雄弁な演奏を楽しませてくれました。

前半の2曲は,OEKの方は,実は全く同じ編成(弦五部+オーボエ2+ホルン2)でした。演奏後の新倉さんと辻さんへのインタビューの時に,「原田先生と一緒に演奏できることがうれしい」とお2人は語っていましたが,両曲とも,その雰囲気通りのどっしりとした暖かみと包容力のある演奏を聞かせてくれました。ちなみにこの日のコンサートミストレスは,松浦奈々さんでしたが,松浦さんもIMA出身者です。

後半は神尾真由子さんが登場し,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。神尾さんは,OEKとは何回か共演していますが,メンデルスゾーンをOEKと演奏するのを聞くのは今回が初めてです。

神尾さんは,IMAの講師としても参加しているのですが,今回の演奏も,既に若手奏者による演奏という雰囲気ではなく,女王様的な貫禄のある聞きごたえたっぷりの演奏となっていました。裾の長い,鮮やかな青のドレスで登場した神尾さんの雰囲気は,大物女優的なオーラを漂わせているようでした。

第1楽章の冒頭部から,通常聞くこの曲とはかなり違った雰囲気の歌わせかたをしていました。ヴィブラートをしっかり聞かせ,かなり弱い音から入っていたので,どこかギクシャクした感じに聞こえたのですが,次第に音量がアップし,神尾さん独特の凛とした鋭い響きが出てきたり,スケール感たっぷりの雰囲気になってきました。

メンデルスゾーンのこの曲については,個人的には叙情的にサラリと演奏する方が良いような気もするので,強弱を変化を強調し,クライマックスで大見得を切るような演奏は,「やり過ぎ」のような気もしましがた,聴衆の耳をぐっと引き付けるアピール力は素晴らしいと思いました。

反対に第2楽章は抑制した美しさ,第3楽章は軽やかな躍動感を感じさせてくれました。ただし,どの楽章のどの部分について,「神尾さんの意識」が隅々まで行きわたっている感じで,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲というよりは,神尾さんのヴァイオリン協奏曲といった演奏に感じられました。

少々好みが分かれる演奏だった気はしましたが,神尾さんの音の迫力と個性の強さを感じることのできる演奏だったと思います。

アンコールでは,お得意のパガニーニのカプリースの中から,いちばん有名な第24番が鮮やかに演奏されました。

この日は夏休み中ということもあり,親子連れのお客さんや中高生のグループが大勢聞きにきていました。今日の演奏を機会に,未来のIMA受講生が出てくることを期待したいと思います。

2017/08/11

オペラ版「死神」を落語版と2本立てで鑑賞。特に沢崎恵美さんの死神は,カルメンを思わせる悪女の魅力。千変万化の合唱団も大活躍でしたね。8/11も同一公演があります。涼しくなりたい方はどうぞ #oekjp

今晩は,落語「死神」をオペラ版「死神」と合わせて楽しむという,石川県立邦楽ホールならではの企画があったので聞いてきました。

もともと落語「死神」の方は三遊亭圓朝の落語で,ブラックユーモアの味わいのある名作なのですが,これをもとに映画監督として有名だった今村昌平さんが脚本を書き,お馴染み池辺晋一郎さんが音楽を付けてオペラ化したのが,オペラ版です。

そのいちばんの違いは,オペラ版では,死神が艶っぽい女性になっていた点です。そのことによって,ドラマ全体に華やかさが増し,人間の生命力(特に女性の生命力)が強調されたいたように感じました。

池辺さんによるオペラ版や約2時間かかるもので,死神役のソプラノの沢崎恵美さんと葬儀屋役のバリトンの泉良平さんを中心に物語が進みます。儲からない(?)葬儀屋をたぶらかし,死神の言う通りにやっているうちに葬儀屋は,「難病でも治す名医」のようになりお金持ちになっていきます。その展開は落語と共通するのですが,オペラ「カルメン」を観るように,どんどんと風采の上がらない男性が女性にのめり込んでいく感じはオペラならではの面白さでした。

何といっても死神役の沢崎さんのシュッして妖艶な感じが,このキャラクターにぴったりでした。第2幕の最初に1つアリアがありましたが(この曲以外は特にアリアはなかったと思います),この曲を中心に魅力を発散していました。瑞々しさのある声も大変魅力的でした。ただし,本当の悪女というよりは,落語が原作という味も残っており,どこかユーモラスな雰囲気も出していました。

泉さんの方は,凶暴な(?)妻に支配されてい,風采のあがらない。「○○○な」(この部分が大人向けの理由でしょうか)葬儀屋役で,前半はそのとおりの雰囲気があったのですが,死神と接しているうちに,段々と自信が出てきて,格好良く見えてくる辺りが面白いと思いました。泉さんの堂々たる声は,オリジナルが落語と思えない,スケール感を作品に加えていました。

最後,死神の手先になっていることへの罪悪感に目覚めるあたりは,「落語」にない部分です。さらに,色っぽい死神のお蔭(?)で○○○は治ったようで,妻に「子ども」が出来ていました。ただし,この「子ども」の父親は,妻が若い葬儀屋との間の子ども(?)という可能性もあり,謎を残した形になっていました。

この辺の葬儀屋の妻の「たくましさ」というのは,考えてみると死神と同様とも言え,やはり男性より女性の方が絶対に生命力はあるなぁと感じました。この葬儀屋の妻約の二渡加津子さんの迫力のある歌と演技も印象的でした。

このオペラ全体としては,合唱団が大活躍していました。色々な職業の人を含む街の人びと,ヤクザ役,医者役,看護婦役,キャバレーのシーン...これだけ多彩な役柄で登場することも珍しいのではないかと思います。

池辺さんの音楽は,特に沢崎さんの歌う曲などには,ちょっとシュプレッヒシュティンメを思わせる難解な感じの曲が多かったのですが,合唱団の曲には,「ふしぎだな,ふしだな」など,親しみやすく分かりやすい曲が比較的多く,オペラ全体が暗くなるのを防いでいたと思いました。それと,今村さんの脚本自身がそうなのだと思いますが,「どこか昭和」な雰囲気が感じられ(例えば,交通事故の件数などは,現在よりずっと多かったはずです),それが味となって感じれました。

池辺さんの音楽には,現代音楽風のシリアスさと昭和風の分かりやすさが混在させることで(途中,懐メロが1曲入りましたね),オペラ全体を観やすくかつ,深みのあるものにしていたと思いました。松井慶太さん指揮の小編成のOEKも,打楽器やピアノなど多彩な楽器が加わることで,ドラマに彩りと緊迫感を加えていました。

そして,最後の場ですが,やはり,落語同様,沢山のろうそくが出てきました。人間の生命をロウソクに例えるというのは,やはり,外すわけにはいきませんね。この部分での背景に「死神マスク」がうごめく中での「ロウソク沢山」という雰囲気は,やはりこのオペラのいちばんの見せ場だと思いました。

このオペラは,何回も色々な編成で再演されてきているそうですが,人間の生命力のはかなさと逞しさの両方を感じさせてくれる点で,落語同様に名作といっても良いのではないかと思います。

前半の古今亭志ん輔さんによるオリジナル版も素晴らしいものでした。志ん輔さんの声は,口跡が良く,落語を滅多に聞かない私のようなものにも,この落語のストーリーがくっきりと伝わってきました。語り口に軽さと渋みとが両立しており,死を扱っているにも関わらず,重苦しくなくなることなく,生命のはかなさのようなものを実感できました。

というわけで,オリジナルのシンプルな味,オペラ版のスケール感の両方を楽しめた今回のような機会は大変貴重だったのではないかと思います。少々終演時間が遅くなりましたが(21:45頃,「夏休み前」特別公演といったところでしょうか),落語にぴったりの,石川県立音楽堂邦楽ホールならではの好企画だったと思いました。

PS.ロウソクは生命のたとえによく使われるのですが,実際に染色体の一部に「テロメア」というロウソクのような部分があるそうです。次のような番組で取り上げられています。個人的に,結構感心があります。

2017/08/06

東京大学音楽部管弦楽団サマーコンサート2017金沢公演。充実のロシアプログラムを三石精一さん指揮で見事に聞かせてくれました。

本日は,東京大学音楽部管弦楽団のサマーコンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われて来たので聞いてきました。東京大学音楽部管弦楽団は,数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢に出演されたことがありますが,演奏旅行(学生オーケストラでツァーというのがまず,凄いのですが)で金沢に来られたのは...初めてのことかもしれません。

今回聞きに行こうと思ったのは,やはりラ・フォル・ジュルネ金沢での好印象が残っているからです(それと,ツイッターの力です)。調べてみると2011年の「シューベルト」の時に来られています。その時も,聞いているうちに「大学生が演奏している」ということを忘れそうでしたが,今回も同様でした。どのパートにも不安定なところはなく,ロシア音楽を集めた充実のプログラムをしっかり楽しむことができました。

最初のグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲は,プログラムの解説には「速弾きの練習の成果をお楽しみに」と書かれていましたが,そこまで猛烈な速さではなかったと思います。しっかりと音を鳴らし切った余裕のある演奏でした。冒頭からティンパニの野性的な強打が素晴らしく,低弦を中心とした重心の低いサウンドがグリンカにぴったりだと思いました。

2曲目のショスタコーヴィチの交響曲第9番は,今回,特に楽しみにしていた曲です。もともとディヴェルティメント風の軽さのある曲ですが,第1楽章の冒頭から気負ったところのない,脱力感が素晴らしいと思いました。今回の指揮者は,東大のオーケストラを長年指揮されている,超ベテラン指揮者の三石精一さんでしたが,その落ち着きのある指揮ぶりが,自然な「軽み」を生んでいたと思いました。

この曲には,ソリスティックな部分も沢山出てきます。要所で出てくるピッコロの存在感。印象的な音型を「お呼びでない?」という感じで何回も演奏するトロンボーンのとぼけた味。切れ味良く演奏されていたコンサートマスターのソロ。どれもイメージどおりの演奏でした。

さらには,しっとりした味のある第2楽章でのクラリネット,第3楽章でのトランペットの気持ちの良い音,第4楽章でのトロンボーンとテューバの荘重なファンファーレ。どれも充実した演奏でした。そして第5楽章への導入となるファゴット。このソロは,とても長く,意味深のものでしたが,見事に聞かせてくれました。

第5楽章では,後半,タンブリンなどのパーカッションが盛大に加わって,ちょっとチープな感じで盛り上がった後,本当に軽やかに締めてくれました。東大メンバーの演奏も素晴らしかったのですが,三石さんの若々しさも素晴らしいと思いました。

後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」でした。チャイコフスキーの交響曲については,アマチュア・オーケストラが頻繁に取り上げるレパートリーですが,熟練の演奏という感じで,特に安心して楽しむことができました。

この曲についても,第1楽章の冒頭から深刻になり過ぎることなく,しっかりとした美しい音を楽しませてくれました。特にヴィオラの音が美しいなぁと思いました。第2主題も甘く成り過ぎることなく,ロマンの香りをほのめかせつつ,美しく聞かせてくれました。ppppppの弱音の後に始まる強烈な展開部も神経質になり過ぎることなく,鮮やかに決めてくれました(今回は,プログラムの曲目解説が非常に充実していたので,それを見ながら書いています)。その後,金管が炸裂する部分は,一瞬ちょっとヒヤリとする部分がありましたが,凄味のある盛り上げを聞かせてくれました。

第2楽章の暖かみのあるチェロの音と中間部でのちょっと不吉な雰囲気のあるヴァイオリンも良い味わいを出していました。第3楽章は堂々たる演奏でした。安定感のあるテンポでクリアに始まった後,次第に熱くなり過ぎることなく,巨大に盛り上がって行きました。この部分では,個人的には大太鼓の腹に応える強打とシンバルの強打の連携をいつも楽しみにしているのですが,迫力と鋭さのある素晴らしい音で◎でした。

楽章の後,間違って「拍手がはいるかな?」とも思ったのですが,無事入りませんでした。そのお蔭で,楽章の後の「静寂」をたっぷり味わうことができました。プログラムには第3楽章最後の部分の楽譜が掲載されていましたが,最後に休符が入っていることの意味が分かりました。祭りの後の静寂のような気分になりました。

そして,第4楽章に入っていきますが,クールかつ盛大に盛り上がった第3楽章の後だと,大変情感豊かでウェットに響いていました。見事なコントラストでした。クライマックスの部分では,ミュートを付けたホルンの不気味な音が大変効果的でした。銅鑼の音は大変静かでした。その後,しんみりとした気分になっていきます。最後部分での力をふり搾るように続く,コントラバスの鼓動のような音も印象的でした。

最後,東大オーケストラ伝統となっているアンコールがありました。プログラムの裏表紙に「歌声ひびく野に山に」というドイツ民謡の譜面が印刷されていたので,何かあるな?と思っていたのですが,最後にこれを会場のお客さんと一緒に輪唱をするという楽しい趣向でした。こういう「伝統」があるのも良いですね。

今回の演奏会については,東大オーケストラのツイッターの宣伝の力で聞きに行こうと思ったようなところもあるのですが,SNSの活用については,恐らく,プロオーケストラの方が学ぶべきところが多いと思いました。北陸新幹線の開通後は,東京と金沢の距離も縮まったので,機会があれば,また金沢公演を期待したいと思います。

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