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2017年11月

2017/11/30

OEK定期初登場の #デイヴィッド・アサートン さんによる英国音楽とベートーヴェンの7番。お国ものの素晴らしさは当然として,交響曲での自然な風格に溢れた音楽にも聞き惚れました #oekjp

11月後半のOEKのフィルハーモニー定期公演には,OEK初登場となる,デイヴィッド・アサートンさんが登場しました。アサートンさんは英国出身で,ロンドン・シンフォニエッタの指揮者としても知られた方です。個人的には,「今シーズン屈指の公演になるに違いない」と期待していたプログラムでした。

プログラムの方は,前半が「お国もの」の英国の音楽,後半では,OEKが何回も演奏してきたベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されました。協奏曲が入らないプログラムということで,どちらかというと地味目のプログラムと言えますが,期待通りの充実した音楽を楽しむことができました。

前半の英国音楽については,OEKはこれまであまり演奏してこなかったのですが,こうやってまとめて聞いてみると,実に味わい深いなと思いました。押しつけがましいところはないのに,しっとりとした情感がホール全体に染みわたりました。アサートンさんは,思ったよりも立派な体格の方で,その「かくしゃく」とした指揮ぶりが印象的でした。そして,その音楽には,何ともいえない風格が滲み出ていました。

最初に演奏された,エルガーの「夜の歌」と「朝の歌」は,2曲セットになった親しみやすい作品で,夕べの祈りから爽やかな朝へと,心地よく情感が推移していきました。バートウィッスル作曲のヴィルレーは,この日演奏された曲の中では唯一21世紀の作品でしたが,古い時代の曲を基に作られていただけあって,ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」をより先鋭にしたような,古いのか新しいのか分からない,不思議な雰囲気を味わうことができました。

ディーリアスの劇付随音楽「ハッサン」~間奏曲,セレナードもまた,「英国音楽って本当にいいものですねぇ」と言いたくなるような作品でした。最初の音を聞いた瞬間から,「ポエムだなぁ」という感じになり,ホールの空気が一転しました。クリアだけれども不思議なサウンドは,どこか武満徹の曲を思わせるような味があると思いました。そのまま「セレナード」の部分になるのですが,ここでは,この日のゲスト・コンサートマスターだったジェームズ・カドフォードさんのソロが大活躍していました。静かに澄みきった世界が続き,このままずーっと,ディーリアスの世界に浸ってたいたいなと思いました。

前半最後は,ブリテンのシンプル・シンフォニーでした。名前からすると軽く見られがちな曲ですが,実は,第3楽章の「センチメンタルなサラバンド」を中心に,とても聞きごたえのある曲です。アサートンさんの作る音楽は,基本的には,力み過ぎることのない,余裕のある音楽だったのですが,随所に若々しく新鮮な気分が溢れており,素晴らしいなぁと思いました。第2楽章での精彩に満ちたノリ良く,軽やかなピツィカート。鮮烈に聞かせる第3楽章。ビシッと力強く聞かせた第4楽章。前半の最後に相応しい充実した音楽でした。

前半は,結構曲数が多く,しかも曲ごとに編成が違っていたので,ステージマネージャーさんが大活躍でした。英国音楽の多様性を感じさせてくれると同時に,全体に通底するような,英国的品の良さやユーモアを感じさせてくれるような素晴らしいプログラミングだったと思いました。

後半のベートーヴェンの交響曲第7番も,虚飾を排しつつも,随所で味わい深さを感じさせてくれる,ベテラン指揮者ならではの演奏だったと思います。アサートンさんの指揮には大げさに盛り上げようとする感じはないのですが,全曲を通じて,自然ににじみ出てくるような熱さがありました。そして,風格がありました。

第1楽章の序奏部から,そのストレートな音楽がとても気持ちよく感じました。この気持ち良さは,全曲を通じて一貫していたと思いました。快速でキリッと引き締まった第4楽章を中心に音楽全体が実に若々しく,OEKメンバーが敬意を持って,アサートンさんの指揮に反応しているなぁと思いました。第4楽章のコーダは,大変ノリが良く,しっかりコントロールされつつも,勢いに溢れた素晴らしい音の流れを作っていました。

この曲の隠れたチェックポイントである,第1楽章と第4楽章のコーダに出てくる,バッソ・オスティナートの部分も素晴らしいな,と思いました。低音部が執拗に同じ音型を繰り返す上に高音部で緊張感を高めていく部分ですが,威力抜群でした。ヴィオラのダニール・グリシンさん,チェロのルドヴィート・カンタさん,コントラバスのマルガリータ・カルチェヴァさんを中心とした低音部の迫力は室内オ―ケストラとは思えないほどでした。

というようなわけで,今回初顔合わせだったアサートンさんとOEKとの組み合わせはとても良いと思いました。アサートンさんについては,現代音楽が得意ということで,もっと冷たい雰囲気の方かと予想していたのですが,音楽の奥には,常に熱さを秘めていると思いました。特に前半の英国プログラムについては,これまで「盲点」のようになっていましたので,是非,続編を期待したいと思います。CDなどで聞くと地味な印象なのは確かなのですが,実演で浸って聞くと格別,という気がしました。

2017/11/21

音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションⅡで,木管五重奏の多彩な世界を堪能してきました。みなさま,お疲れ様でした。 #oekjp

「音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションⅡ」が石川県立音楽堂交流ホールで行われたので聞いてきました。今年度のこのシリーズでは,OEKの各パートをしっかり活用した「やや大きめの室内楽曲」が取り上げられることが多いようです。今回は,木管五重奏曲と木管五重奏+ピアノの曲ばかりが並んだ,充実のプログラムでした。

登場したのは,次の皆さんでした。
  • ファゴット:柳浦 慎史
  • ホルン:金星  眞
  • フルート:松木 さや
  • オーボエ:加納 律子
  • クラリネット:遠藤 文江
  • ピアノ:鶴見彩
余談ですが,プロフィールを読みながら「東京芸大の出身者が6人中5人だなぁ」と変なところに注目してしまいました。この日は,上の階(コンサートホール)では,神尾真由子さん,平野加奈さんとロシアの交響楽団がチャイコフスキーの協奏曲を共演する演奏会が行われていましたので,そちらに敢えて行かなかったお客さんばかりということになります(私の場合,経済的な理由もありますが)。今回のメンバーとプログラムの「豪華さ」を理解するお客さんばかりということで,とても暖かな雰囲気があったと感じました。

木管五重奏は,弦楽器を中心とした室内楽曲に比べるとあまり親しまれていないと思いますが,今回のプログラムを聞いて,その多彩さをしっかり感じることができました。司会のOEKファゴット奏者の柳浦さんが「プログラムのメインになるような曲を4つ並べた。演奏する方も聞く方も大変です」と語ったとおり,充実感のあるプログラムでした。

今回演奏されたのは,次の4曲でした。
  • ヒンデミット:小室内音楽
  • トゥイレ:六重奏曲
  • ニールセン:木管五重奏曲
  • プーランク:六重奏曲
このうち,トゥイレとプーランクには,ピアノが入りました。4曲の中では,いちばん知られていない作曲家,トゥイレの曲がいちばん聞きやすく,オーソドックスなまとまりのある曲だったと思いました。この曲を聞くのは2回目ですが,ブラームスの曲を思わせるようなシンフォニックな気分がありました。4楽章構成で全体で30分ほどかかりましたが,爽やかな空気に満たされたような気持ち良さがあり,全く退屈することなく楽しむことができました。この分野では,屈指の名曲ではないかと思いました。

ヒンデミットの作品は,タイトルどおり,もう少し小さく凝縮されたような雰囲気の音楽でした。一つのモチーフが何回も繰り返されて,がっちりと積み重ねられていく感じが,ヒンデミットらしいなと思いました。

ニールセンの曲については,柳浦さんは晩年はやや精神を病んでいたと言われていたと語っていたのですが,曲の中にもそのことが反映されていた気がしました。のどかな気分かと思ったら急に激しく叫ぶような感じになったり,少々捉えどころのない作品でした。最後の楽章の変奏の部分なども,かなり感情の変化の起伏が大きかったのですが,逆にその点に現代性を感じました。個人的に妙に引かれる作品でした。

最後に演奏されたプーランクの六重奏曲は,今回のプログラムの中でいちばん有名な曲で,私自身,唯一CDを持っている曲です。冒頭の部から,生き生きした音の動きと,ちょっと野性味を持った迫力と,甘く夢見るような雰囲気とが交錯し,プーランクの作品の中でも特に素晴らしい作品だと思います。生演奏で聞くと,特にその音の動きの面白さが生々しく伝わってきます。キラキラするようなフルート,オーボエ,クラリネットの高音も印象的でしたが,低音からグッと盛り上がってくるようなホルンやファゴットの音も良いなと思いました。

曲の最後の部分は,テンポをぐっと落とし,余韻をたっぷりと楽しむ雰囲気になりました。もしかしたら,演奏する方にとっても非常に大変だった今回のプログラムの余韻を皆さんしっかりと噛みしめていたのかもしれませんね。みなさま,お疲れ様でした。

アンコールでは,ラヴェルの「クープランの墓」の終曲の一部が演奏されましたが,木管五重奏の世界はまだまだレパートリーがありそうなので,是非続編に期待したいと思います。とりあず,「クープランの墓」の全曲に期待したいと思います。


今回の編成と同じ室内楽グループでは,「レ・ヴァン・フランセ(フランスの風)」が有名ですが,この際,何かグループ名を付けて活動して欲しいぐらいです。「金沢の空(Le ciel de Kanazawa)」とかどうでしょうか。

2017/11/18

#ミヒャエル・ザンデルリンク 指揮OEK定期公演M。前月のヴラダーさんとは一味違う,ずしっとした味わいのモーツァルト。フェッターさんの優雅なピアノもお見事 #oekjp

もう金沢の冬も間近といった雰囲気の雨の中,ミヒャエル・ザンデルリンクさん指揮によるOEK定期公演マイスターシリーズを聴いてきました。今シーズンのマイスターシリーズのテーマは,「ドイツ,音楽の街」」ということで,ドイツの色々な都市にちなんだ音楽や演奏家が登場するという趣向ですが...今回の「フランクフルト」については,どういうつながりがあったのか,実はよく分かりませんでした。

ただし内容の方は素晴らしいものでした。10月のシュテファン・ヴラダーさん指揮のフィルハーモニー定期でもモーツァルトのピアノ協奏曲と交響曲が取り上げられましたので,その続編のようなところがあったのですが,今回のザンデルリンクさん指揮のモーツァルトは全く別の味わいを出していました。同じ洋食でもシェフによって味付けや盛り付けが違っているのを楽しむような,定期会員ならではの贅沢さを味わうことができました。

先月のヴラダーさんのモーツァルトは筋肉質に引き締まった感じがあったのですが,ザンデルリンクさんの方は,もう少し肉付きがよく,現役の大相撲で言うところ豪栄道ぐらいの(変なたとえですみません)バランスの良さを感じました。

最後に演奏された交響曲第39番は,実は,個人的に今いちばん好きな交響曲です。第1楽章の冒頭のテンポ感は,もはやカラヤン,ベームといった時代の重いテンポではないのですが,古楽奏法を意識した演奏に多い,さらっと軽く乾いた感じはなく,昔ながらのモーツァルトに近い,ずっしりとした重みを感じさせてくれるような演奏でした。このことが,まず私の波長にピタリと合いました。

第1楽章の展開部に入ったところで,これまで聴いたこともないような大きな休符が入り,なんとも言えない深淵な雰囲気が漂いました。ところどころこういう感じでニュアンスの変化を際立てたり,音楽のエネルギーがぐっと高まったりするところが素晴らしいと思いました。表面的には古典派らしく整っているけれども,大きな力や豊かな歌を感じさせてくれるような,聴き応えを感じました。

第3楽章などは,軽快なメヌエットというよりは,しっかりと踊れそうなドイツ舞曲といった趣きがあり,「やはりこのテンポだ」と思いました。その中からクラリネットの歌がしっかりとわき上がってきて,なんとも言えない幸福感を感じました。

1曲目に演奏されたメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」でも,静かな部分と激しい部分の対比がかなり明確に付けられているのが特徴的でした。音楽が内側から盛り上がり,それに応じてテンポも速くなるような感じがあり,(これはかなり的外れな感想かもしれませんが)フルトヴェングラーが室内オーケストラを指揮して,もっと現代的にしたらこんな感じなのかなとも思ったりしました。

2曲目に演奏されたモーツァルトのピアノ協奏曲第18番では,ソフィー=マユコ・フェッターさんがソリストとして登場しました。フェッターさんのピアノもザンデルリンクさん同様,前月のヴラダーさんとは対照的で,現代的な優雅さのようなものを感じさせてくれました。余裕をもったテンポ感で,各楽章ともに透明感だけではなく,品の良い香りが漂うような素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

この18番については,CDなどで聴いた印象だと,第1楽章がタンタカ・タン・タンと始まるパターンは,天才アマデウスにしては,「ワンパターン」過ぎでは,17番や19番と「区別がつかない」などと思っていたのですが,本日の演奏を聴いて初めて好きになりました。第2楽章の憂いに満ちた透明感も最高でした。

フェッターさんはアンコールでスクリャービンの左手のためのノクターンを演奏しましたが(この曲,結構,アンコールで出てきます),この時,ドレスの上に羽織っていたパーツ(何と呼ぶのでしょうか?カーディガン?)をステージ上で脱ぎ捨てて(?)演奏を始めました。落語のような感じだなと一瞬思ったのですが,黒と赤のドレスだったのが,真っ赤のドレスに変わり,会場は「オッ,魅せてくれるなぁ」という雰囲気になりました。こういうのも生の演奏会ならではの楽しみだと思います。

3曲目には,日本初演となる弦楽合奏のみによるヨスト作曲の「ゴースト・ソング(2017年)」が演奏されました。この曲は大変聞きやすい曲で,バルトークやペルトなど,これまでOEKが演奏してきた20世紀の弦楽合奏曲につながるような,リズムの面白さや神秘的な雰囲気を楽しむことができました。

OEKの定期公演では,「プログラムの3曲目に弦楽合奏の新曲が入る」パターンが多い気がします。しかも面白い曲が多いですね。というわけで,この枠で演奏される曲も密かに楽しみにしています。

この日のコンサートミストレスは,ベルリンフィルのヴァイオリン奏者の町田琴和さんでしたが,この日のOEKは,非常にしなやかで,ザンデルリンクさんの要求にしっかりと応えていたと思いました。

ザンデルリンクさんについては,単純に新しいスタイルを追求するだけではなく,色々な過去の演奏スタイルを踏まえた上で,いちばん自分の表現に合ったスタイルを選んでいるように感じました。これからどういう指揮者になっていくのか見守る楽しみもある指揮者だと思います。是非,再度OEKに客演して欲しいものです。

2017/11/11

#松田華音 ピアノリサイタル@北國新聞赤羽ホール。オール・ロシア・プログラムをのびのびと,そして完成度の高い演奏で楽しませてくれました

北國新聞赤羽ホールで,松田華音さんのピアノリサイタルが行われたので聞いてきました。松田さんは6才の時にロシアに渡ってピアノの勉強をし,現在,モスクワ音楽院に在籍されている方です。学生とはいえ,すでにCDアルバムを2枚発売し(しかもドイツ・グラモフォンから),テレビ等にもよく出演されています。注目の若手ピアノ奏者と言えます。

その松田さんによるオール・ロシア・プログラムということで,これまでロシアで研鑽を積んできた成果をしっかりと聞かせてくれるような素晴らしいリサイタルとなりました。

プログラムは,松田さんの最新のCDと同じ内容で,前半がチャイコフスキーとプロコフィエフの編曲もの。後半がムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」でした。
https://www.japanarts.co.jp/news/news.php?id=2671

松田さんはまだ若い方で,名前の雰囲気どおり,華やかで可憐な雰囲気があったのですが,ステージ上での視線には強さがありました。演奏にも,しっかりと曲の本質を射貫くような強さと説得力がありました。硬質で引き締まった低音,切れ味の良い打鍵,きらめくような高音...どの曲についても,大変バランスの良い,完成度の高い演奏を聞かせてくれました。

特に良いと思ったのは音です。一般にプロコフィエフの曲については,打楽器的で冷たい感じがあり,それが魅力でもあるのですが,松田さんの音については,硬質感一辺倒ではない,ふくよかさのようなものや奥行きを感じました。

今回は,10曲ぐらいなる組曲が前半と後半に演奏されるという独特のプログラムでしたが,松田さんの演奏からは,曲想の多彩な描き分けと同時に一本筋の通った統一感を感じました。散漫な感じは無く,前半後半ともに,ロシアの大曲を聞いたという充実感が広がりました。

特に後半に演奏された「展覧会の絵」では,若々しく始まったプロムナードの後,思う存分,かつ丁寧に各曲を弾き切っており,すがすがしさを感じました。「キエフの大門」の最後の方はもう少しテンポが速い方が今の華音さんには合っているかなとも思いましたが,曲の勢いとすみずみまで磨かれた精緻さとが両立した素晴らしい演奏だったと思います。

アンコールの1曲目にムソルグスキーの「古典様式による間奏曲」というマイナーだけれども非常に「聞かせる曲」が演奏された後,2曲目としてパッヘルベルのカノン(藤満健編曲版)が演奏されました。しっかりと華が開く,華麗な「華音」となっていました。こういう名刺代わりになるような曲があるのは良いですね。

今回,お客さんの数があまり多くなかったのが少々意外で,残念でしたが,これからどんどん活躍の場を広げていくことを期待したいと思います。リサイタルに加え,特にロシアものの室内楽公演が金沢で行われることに期待したいと思います。

2017/11/08

#河瀬直美 演出,#広上淳一/OEK「#トスカ 」金沢公演。スケールの大きさと情感の豊かさ,そして,鮮やかな映像美を楽しめる素晴らしい公演でした。 #oekjp

OEKはほぼ年1回のペースで,「全国共同制作プロジェクト」という形でオペラ公演に参加しています。全国各地のコンサートホール等を使って行うオペラということで,セットなどはそれほど大規模ではありませんが,それを補う形で,色々と工夫のされた設定や,斬新な演出での上演されています。

今年は,映画監督の河瀬直美さん演出による「トスカ」でした。「トスカ」は,本来はローマを舞台とした作品ですが,河瀬さんの演出では,古代の「牢魔」という場所が舞台になっていました。1日の出来事を描くという点はオリジナルと同じでしたが,役名が「トス香」「カバラ導師」になるなど,舞台全体としては,和風~無国籍風のテイストがありました。

こういう一ひねりのある設定の「トスカ」でしたが,全曲を通じて,河瀬さんの美意識と作品に込められた豊かなドラマとがストレートかつ丁寧に表現された見事な舞台になっていたと感じました。

河瀬さんの演出は,映画監督らしく映像をふんだんに活用したものでした。舞台の背景あたりに巨大な暖簾のような形のスクリーンを設置し,そこに各幕ごとに美しい映像を投影していました。第1幕は富士山,第2幕は水のイメージ,第3幕(第2幕から連続していました)は月がメインになっており,各幕の気分が鮮やかに切り替わっていました。

このスクリーンは暖簾のようになっているので,そこをくぐる形で人物が出入りするのですが,ステージ奥から常に強い光が出ているので,登場するたびに,非常に大きなシルエットがスクリーンいっぱいに登場します。これも効果的でした。特に悪役スカルピアの登場の場は,音楽の迫力と相俟って,格好良さと怖さを兼ね備えた雰囲気を作り上げていました。

その他,曲の雰囲気に合わせて,急に花の絵に変わったり,トスカがスカルピアを殺害する瞬間は,花火の映像に切り替わったり,幕切れではスクリーン一面がローソクになったり,非常に効果的に映像を使っていました。

また演出の意図として,「悲惨で救いのない感じにならないように」という方向性があったようで,スカルピアとトスカの死については,リアリズムの演出とは一味違う,幻想味がありました(詳細はレビューで紹介しましょう)。この辺は賛否の分かれる部分だと思いますが,こういうのも「あり」と私は思いました。

音楽面では,何といっても広上淳一さん指揮OEKの作り出す,じっくりと丁寧に情感を描くような音楽が素晴らしいと思いました。「歌に生き恋に生き」「星はきらめき」の2大名曲は,どちらもこれまで聞いたこともないくらい,じっくりとしたテンポでスケール感たっぷりに歌われました。
ただし,「星はきらめき」の方は,背景に大きな大きな月が出ていたので,「月はきらめき」という感じでした。


主役トスカのルイザ・アルブレヒトヴァさんの声には,常にドラマを内面に秘めたような暗さと強さがあり,この役柄にぴったりだと思いました。カバラドッシ役のアレクサンドル・バディアさんの方は,やや声が薄い感じがして,存在感ではトスカに負けている気がしましたが,その分,悲運の青年といった感じがよく出ていたと思いました。

スカルピア役の三戸大久さんは,素晴らしく包容力のある,瑞々しさのある声で,素晴らしいと思いました。ドロドロした悪役というよりは,むしろ二枚目的な雰囲気のあると思ったのですが,これがとても新鮮でした。スタイリッシュな映像中心の「トスカ」にぴったりのスカルピアだと思いました。

脇役の歌手たちも,実力のある人が揃っており,安心して楽しむことができました。もしかしたら,それぞれにカバラドッシやスカルピアを演じられる人たちばかりだった気がしました。

合唱団の皆さんの出番では,やはり第1幕後半の「テ・デウム」の部分のスケール感が素晴らしいと思いました。最近絶好調の広上さんらしい,エネルギーが充満した巨匠的な迫力を秘めた幕切れでした。

今回の「トスカ」は,広上さんとOEKの作り出す,スケールの大きさと情感の豊かさを持った演奏と河瀬さんによる鮮やかなインパクトを残す映像が全体の基調を作り,その上で歌手たちが生き生きと活躍する,大変完成度の高い公演になっていたと思います。あと2公演残っていますので,お近くの方は是非,ご覧になってください。

2017/11/03

待望の #アマデウスLIVE 日本初公演を石川県立音楽堂で堪能。映画版以上に堪能できます。OEKと合唱団の皆さん,そして指揮者の #辻博之 にブラーヴォ! #oekjp

本日は海外で人気を集めている #アマデウスLIVE の日本初公演が行われたので,午後からたっぷり3時間,石川県立音楽堂でどっぷりと堪能してきました。この企画は,1984年に作られた,モーツァルトの生涯を,当時のライバル作曲家だったサリエリの視点から,ドラマティックに描いた名作映画「アマデウス」の音楽部分を生で演奏してしまう,というすごい企画です。


サウンドトラックのうち,一人の歌手が歌っているパートやチェンバロなどを独奏している部分などをのぞき,オーケストラと合唱が関わっているような部分は,全部,OEKと特別編成の合唱団が吹き替えてしまうといった趣向です。

すでに完成されている映像に後から音を入れるということで,一体どうなるのだろう,と思ったのですが...驚くほど違和感を感じませんでした。これは私の座席が,いわゆる「スターライト席」(3階のバルコニー席)だったことにもよるのかもしれませんが,大変良いバランスでした。そのため,うっかり(?)映画のストーリーにのめり込んで,生演奏だということを忘れてしまいそうな部分もありました。

私にとっての唯一の問題点は,やはりバルコニー席だった点で,約3時間斜めになって「台形補正」しながらスクリーンを観るというのは,少々辛いところがありました。ちなみに,映画の中で,サリエリがオペラを観る時はいつもバルコニーだったので,良く言えば「サリエリ気分」を味わったとも言えます。

まずはこの職人芸的なアフレコをした辻博之さん指揮OEKと特別編成合唱団に大きな拍手を送りたいと思います。恐らく,映像にぴったり合わせることが主眼になるので,「手かせ,足かせ」が掛けられたような状態だったのかもしれませんが,その制限を逆手に取ったようなビシッと締まった響きを聞かせてくれました。

特に合唱団(東京芸術大学声楽家卒業生ということで,当然といえば当然ですが)のビシッとした力感のある精度の高い響きは後半のレクイエムの雰囲気にぴったりでした。

やはり生演奏ということで(マイクが沢山並んでいたので,多少増幅していたのかもしれませんが...詳細は分かりません),場面によっては,台詞が埋もれてしまう部分もありましたが,もともと「日本語吹き替え字幕」がついているので,その点では問題はありませんでした。

それにしても,この映画はよくできた作品だと再認識できました。もともとのピーター・シェーファーの戯曲が面白いのだと思いますが,モーツァルトの天才性を言葉だけで語るのではなく,実際の音楽が次々と証明していくような作りになっているのが,音楽映画ならではです。例えば,次のようなエピソードです。
  • アイネ・クライネ・ナハトムジークのメロディを口ずさんで...その曲なら知っています!...だけどサリエリの曲ではない
  • グランパルティータの緩徐楽章の楽譜をたまたま見てしまい...凄さを実感。ただし,凄さが分かるのは自分だけ!
  • サリエリが一生懸命作った行進曲を,モーツァルトは一瞬で記憶し,即興で再現し,さらに変奏。もっとインスピレーションにあふれた曲に修正
  • 奥さんのコンスタンツェがアマデウスのオリジナル楽譜を束ねたポートフォリオを持参して,サリエリのところに売り込みに...オリジナルなのに書き直しがない!完成度の高さ!・・・
こういうエピソードがジャブのように前半続き,物語に弾みがつく一方,サリエリの凡庸さが対比され,天才性をいちばん理解できる耳を持っていることの悲劇が蓄積されて行きます。
ただし,これはストーリーをドラマティックにするためのフィクションであり,サリエリの作品にも良い作品はあったと思います。 例えば,映画の途中,サリエリのオペラを上演し,皇帝から褒められるシーンがありましたが,実際,とても聞き映えする良い曲だと思いました。

「後宮からの誘拐」「フィガロの結婚」などのオペラのエピソードが続いた後,前半の最後で父レオポルドの死亡。これが後半のドラマの伏線となります。そして,そのレオポルドとの格闘を描いたような「ドン・ジョヴァンニ」で前半は閉められました。

ここで20分の休憩が入りました。

この映画については,過去,2回映画館で鑑賞し,衛星放送で録画したものを数回見ていますが,以上のとおり,本当にエピソードの積み重ねが見事だと思います。そして,それぞれのエピソードにぴったりの音楽が使われていることに感嘆します。

音楽的には,上記の「グランパルティータ」の部分と「オリジナル楽譜のポートフォリオ」の音楽の部分が大好きなのですが,今回の生演奏版を聞いて,さらに臨場感たっぷりにアマデウスの天才性を実感できました。OEKの木管楽器の皆さんの神妙さと精緻さと精彩のある演奏あってのシーンだったと思います。

特にポートフォリオの部分は,いわゆる「ザッピング」のような感じで,短い単位で音楽が切り替わるので,実演で対応するのは至難の技だと思います。オリジナル・サウンドトラックと区別が付かない精度の高さで,今回の奏者たちの職人芸に感激しました。

それ以外にも,ピアノ協奏曲22番の第3楽章が,フッと出てくる部分での透明な明るさも以前から気に入っています。モーツァルトがウィーンの街中で「ピアノ弾き振り」をする場です。軽快なロンド主題が終わり,優しい主題に切り替わった後,モーツアルトの指が一瞬アップになるのですが,この「手の感じ」が何故か好きなのです(非常にマニアックなことを書いてしまいましたが...)。

映画の後半は,最後の1時間です。父と同じ仮装マスクをかぶった謎の人物(実はサリエリ)からレクイエムの作曲を依頼され,最終的に死に至ります。このレクイエムの作曲シーンについては,誰もが引き込まれる名シーンの連続ですね。各パートごとに譜面を記載していくシーンということで,モーツアルトの作曲のプロセスにお客さんの方も参加しているような感じになります。サリエリ自身も芸術家魂に火が付いた感じで引き込まれていくのですが,お客さんも引き込まれていき,「すごい」ということになります。この引き込まれ具合が,映画で観る時以上だったと思います。誰もがレクイエムを全部聞きたくなると思います。
映画で作曲過程がクローズアップされていた「呪われた者」の性急な音楽が,そのまま,「愛想を尽かして温泉地に静養に出かけていた妻コンスタンツェの胸騒ぎの音楽」にもなっていることにも感嘆します。

このレクイエムの作曲に先立ち,狂気じみてくるモーツァルトの様子が描かれますが,こちらの方は「魔笛」の序曲の主部に出てくる,印象的な細かい音の連続で表現されています。これもまたぴったりです。

最後は,レクイエムの作曲途中で,力尽きてしまいモーツァルトが亡くなります。サリエリが
殺したと明確に言えるのかどうか分かない状況だったと思います。サリエリとしては,最後の作品の作曲に立ち会い,生で「神に愛された天才」に触れられたことの喜びと,その天才が永遠に消えてしまった悲しみに呆然としているという状況だったと思います。

それにしても,この映画でずっと積み重ねられてきた「天才性」の華やかさと最後の埋葬シーンでの寂しさを対比すると悲しくなりますね。レクイエムの中のラクリモーサが背後に流れているのですが,その気分にぴったりの音楽です。

しかし,その後,「モーツァルトの音楽はずっと生きている...」という感じでピアノ協奏曲第20番の第2楽章がさりげなく開始します。このシンプルな美しさを聞いて,クールダウンしながら,モーツァルトの素晴らしさを反芻して映画全編が終了します。

映画でモーツアルトとサリエリの人生を堪能した感じです。そして,今回のLIVEでは,映画で観たとき以上に深く堪能できたと思いました。

繰り返しになりますが,OEKと合唱団の皆さん,そして指揮者の #辻博之 にブラーヴォです。来年春の音楽祭のテーマは「モーツァルト」とのことですが,是非,この「アマデウスLIVE」メンバーによるアンコール公演などを期待したいと思います。

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