OEK定期初登場の #デイヴィッド・アサートン さんによる英国音楽とベートーヴェンの7番。お国ものの素晴らしさは当然として,交響曲での自然な風格に溢れた音楽にも聞き惚れました #oekjp
11月後半のOEKのフィルハーモニー定期公演には,OEK初登場となる,デイヴィッド・アサートンさんが登場しました。アサートンさんは英国出身で,ロンドン・シンフォニエッタの指揮者としても知られた方です。個人的には,「今シーズン屈指の公演になるに違いない」と期待していたプログラムでした。
プログラムの方は,前半が「お国もの」の英国の音楽,後半では,OEKが何回も演奏してきたベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されました。協奏曲が入らないプログラムということで,どちらかというと地味目のプログラムと言えますが,期待通りの充実した音楽を楽しむことができました。
前半の英国音楽については,OEKはこれまであまり演奏してこなかったのですが,こうやってまとめて聞いてみると,実に味わい深いなと思いました。押しつけがましいところはないのに,しっとりとした情感がホール全体に染みわたりました。アサートンさんは,思ったよりも立派な体格の方で,その「かくしゃく」とした指揮ぶりが印象的でした。そして,その音楽には,何ともいえない風格が滲み出ていました。
最初に演奏された,エルガーの「夜の歌」と「朝の歌」は,2曲セットになった親しみやすい作品で,夕べの祈りから爽やかな朝へと,心地よく情感が推移していきました。バートウィッスル作曲のヴィルレーは,この日演奏された曲の中では唯一21世紀の作品でしたが,古い時代の曲を基に作られていただけあって,ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」をより先鋭にしたような,古いのか新しいのか分からない,不思議な雰囲気を味わうことができました。
ディーリアスの劇付随音楽「ハッサン」~間奏曲,セレナードもまた,「英国音楽って本当にいいものですねぇ」と言いたくなるような作品でした。最初の音を聞いた瞬間から,「ポエムだなぁ」という感じになり,ホールの空気が一転しました。クリアだけれども不思議なサウンドは,どこか武満徹の曲を思わせるような味があると思いました。そのまま「セレナード」の部分になるのですが,ここでは,この日のゲスト・コンサートマスターだったジェームズ・カドフォードさんのソロが大活躍していました。静かに澄みきった世界が続き,このままずーっと,ディーリアスの世界に浸ってたいたいなと思いました。
前半最後は,ブリテンのシンプル・シンフォニーでした。名前からすると軽く見られがちな曲ですが,実は,第3楽章の「センチメンタルなサラバンド」を中心に,とても聞きごたえのある曲です。アサートンさんの作る音楽は,基本的には,力み過ぎることのない,余裕のある音楽だったのですが,随所に若々しく新鮮な気分が溢れており,素晴らしいなぁと思いました。第2楽章での精彩に満ちたノリ良く,軽やかなピツィカート。鮮烈に聞かせる第3楽章。ビシッと力強く聞かせた第4楽章。前半の最後に相応しい充実した音楽でした。
前半は,結構曲数が多く,しかも曲ごとに編成が違っていたので,ステージマネージャーさんが大活躍でした。英国音楽の多様性を感じさせてくれると同時に,全体に通底するような,英国的品の良さやユーモアを感じさせてくれるような素晴らしいプログラミングだったと思いました。
後半のベートーヴェンの交響曲第7番も,虚飾を排しつつも,随所で味わい深さを感じさせてくれる,ベテラン指揮者ならではの演奏だったと思います。アサートンさんの指揮には大げさに盛り上げようとする感じはないのですが,全曲を通じて,自然ににじみ出てくるような熱さがありました。そして,風格がありました。
第1楽章の序奏部から,そのストレートな音楽がとても気持ちよく感じました。この気持ち良さは,全曲を通じて一貫していたと思いました。快速でキリッと引き締まった第4楽章を中心に音楽全体が実に若々しく,OEKメンバーが敬意を持って,アサートンさんの指揮に反応しているなぁと思いました。第4楽章のコーダは,大変ノリが良く,しっかりコントロールされつつも,勢いに溢れた素晴らしい音の流れを作っていました。
この曲の隠れたチェックポイントである,第1楽章と第4楽章のコーダに出てくる,バッソ・オスティナートの部分も素晴らしいな,と思いました。低音部が執拗に同じ音型を繰り返す上に高音部で緊張感を高めていく部分ですが,威力抜群でした。ヴィオラのダニール・グリシンさん,チェロのルドヴィート・カンタさん,コントラバスのマルガリータ・カルチェヴァさんを中心とした低音部の迫力は室内オ―ケストラとは思えないほどでした。
というようなわけで,今回初顔合わせだったアサートンさんとOEKとの組み合わせはとても良いと思いました。アサートンさんについては,現代音楽が得意ということで,もっと冷たい雰囲気の方かと予想していたのですが,音楽の奥には,常に熱さを秘めていると思いました。特に前半の英国プログラムについては,これまで「盲点」のようになっていましたので,是非,続編を期待したいと思います。CDなどで聞くと地味な印象なのは確かなのですが,実演で浸って聞くと格別,という気がしました。
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以前、闘病生活を送っていた頃、エルガーの朝の歌をくりかえし聴いたものです。ですので、朝の歌には「健康で自由に生活できることの喜び」というイメージを抱いています。
昨晩も、朝の歌を聴いた瞬間に、こうして演奏会に集える喜び、感謝(普段は忘れてしまっている)を改めて感じました。
ご指摘通り、前半のステージ・マネージャーの手際のよいお仕事ぶりに、思わず拍手を送りたかったですね。
それと弦の配置ですが、チェロ、バスを右に配置する、いわゆるステレオ配置がとても懐かしい感じでしたね。
確かにベト7の強め低弦を堪能するには、あの配置がベスト、という指揮者の意図がよく伝わりました。
投稿: めの・もっそ | 2017/12/01 10:18