#ミヒャエル・ザンデルリンク 指揮OEK定期公演M。前月のヴラダーさんとは一味違う,ずしっとした味わいのモーツァルト。フェッターさんの優雅なピアノもお見事 #oekjp
もう金沢の冬も間近といった雰囲気の雨の中,ミヒャエル・ザンデルリンクさん指揮によるOEK定期公演マイスターシリーズを聴いてきました。今シーズンのマイスターシリーズのテーマは,「ドイツ,音楽の街」」ということで,ドイツの色々な都市にちなんだ音楽や演奏家が登場するという趣向ですが...今回の「フランクフルト」については,どういうつながりがあったのか,実はよく分かりませんでした。
ただし内容の方は素晴らしいものでした。10月のシュテファン・ヴラダーさん指揮のフィルハーモニー定期でもモーツァルトのピアノ協奏曲と交響曲が取り上げられましたので,その続編のようなところがあったのですが,今回のザンデルリンクさん指揮のモーツァルトは全く別の味わいを出していました。同じ洋食でもシェフによって味付けや盛り付けが違っているのを楽しむような,定期会員ならではの贅沢さを味わうことができました。
先月のヴラダーさんのモーツァルトは筋肉質に引き締まった感じがあったのですが,ザンデルリンクさんの方は,もう少し肉付きがよく,現役の大相撲で言うところ豪栄道ぐらいの(変なたとえですみません)バランスの良さを感じました。
最後に演奏された交響曲第39番は,実は,個人的に今いちばん好きな交響曲です。第1楽章の冒頭のテンポ感は,もはやカラヤン,ベームといった時代の重いテンポではないのですが,古楽奏法を意識した演奏に多い,さらっと軽く乾いた感じはなく,昔ながらのモーツァルトに近い,ずっしりとした重みを感じさせてくれるような演奏でした。このことが,まず私の波長にピタリと合いました。
第1楽章の展開部に入ったところで,これまで聴いたこともないような大きな休符が入り,なんとも言えない深淵な雰囲気が漂いました。ところどころこういう感じでニュアンスの変化を際立てたり,音楽のエネルギーがぐっと高まったりするところが素晴らしいと思いました。表面的には古典派らしく整っているけれども,大きな力や豊かな歌を感じさせてくれるような,聴き応えを感じました。
第3楽章などは,軽快なメヌエットというよりは,しっかりと踊れそうなドイツ舞曲といった趣きがあり,「やはりこのテンポだ」と思いました。その中からクラリネットの歌がしっかりとわき上がってきて,なんとも言えない幸福感を感じました。
1曲目に演奏されたメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」でも,静かな部分と激しい部分の対比がかなり明確に付けられているのが特徴的でした。音楽が内側から盛り上がり,それに応じてテンポも速くなるような感じがあり,(これはかなり的外れな感想かもしれませんが)フルトヴェングラーが室内オーケストラを指揮して,もっと現代的にしたらこんな感じなのかなとも思ったりしました。
2曲目に演奏されたモーツァルトのピアノ協奏曲第18番では,ソフィー=マユコ・フェッターさんがソリストとして登場しました。フェッターさんのピアノもザンデルリンクさん同様,前月のヴラダーさんとは対照的で,現代的な優雅さのようなものを感じさせてくれました。余裕をもったテンポ感で,各楽章ともに透明感だけではなく,品の良い香りが漂うような素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
この18番については,CDなどで聴いた印象だと,第1楽章がタンタカ・タン・タンと始まるパターンは,天才アマデウスにしては,「ワンパターン」過ぎでは,17番や19番と「区別がつかない」などと思っていたのですが,本日の演奏を聴いて初めて好きになりました。第2楽章の憂いに満ちた透明感も最高でした。
フェッターさんはアンコールでスクリャービンの左手のためのノクターンを演奏しましたが(この曲,結構,アンコールで出てきます),この時,ドレスの上に羽織っていたパーツ(何と呼ぶのでしょうか?カーディガン?)をステージ上で脱ぎ捨てて(?)演奏を始めました。落語のような感じだなと一瞬思ったのですが,黒と赤のドレスだったのが,真っ赤のドレスに変わり,会場は「オッ,魅せてくれるなぁ」という雰囲気になりました。こういうのも生の演奏会ならではの楽しみだと思います。
3曲目には,日本初演となる弦楽合奏のみによるヨスト作曲の「ゴースト・ソング(2017年)」が演奏されました。この曲は大変聞きやすい曲で,バルトークやペルトなど,これまでOEKが演奏してきた20世紀の弦楽合奏曲につながるような,リズムの面白さや神秘的な雰囲気を楽しむことができました。
OEKの定期公演では,「プログラムの3曲目に弦楽合奏の新曲が入る」パターンが多い気がします。しかも面白い曲が多いですね。というわけで,この枠で演奏される曲も密かに楽しみにしています。
この日のコンサートミストレスは,ベルリンフィルのヴァイオリン奏者の町田琴和さんでしたが,この日のOEKは,非常にしなやかで,ザンデルリンクさんの要求にしっかりと応えていたと思いました。
ザンデルリンクさんについては,単純に新しいスタイルを追求するだけではなく,色々な過去の演奏スタイルを踏まえた上で,いちばん自分の表現に合ったスタイルを選んでいるように感じました。これからどういう指揮者になっていくのか見守る楽しみもある指揮者だと思います。是非,再度OEKに客演して欲しいものです。
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