OEKのCD

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2017年8月6日 - 2017年8月12日

2017/08/11

オペラ版「死神」を落語版と2本立てで鑑賞。特に沢崎恵美さんの死神は,カルメンを思わせる悪女の魅力。千変万化の合唱団も大活躍でしたね。8/11も同一公演があります。涼しくなりたい方はどうぞ #oekjp

今晩は,落語「死神」をオペラ版「死神」と合わせて楽しむという,石川県立邦楽ホールならではの企画があったので聞いてきました。

もともと落語「死神」の方は三遊亭圓朝の落語で,ブラックユーモアの味わいのある名作なのですが,これをもとに映画監督として有名だった今村昌平さんが脚本を書き,お馴染み池辺晋一郎さんが音楽を付けてオペラ化したのが,オペラ版です。

そのいちばんの違いは,オペラ版では,死神が艶っぽい女性になっていた点です。そのことによって,ドラマ全体に華やかさが増し,人間の生命力(特に女性の生命力)が強調されたいたように感じました。

池辺さんによるオペラ版や約2時間かかるもので,死神役のソプラノの沢崎恵美さんと葬儀屋役のバリトンの泉良平さんを中心に物語が進みます。儲からない(?)葬儀屋をたぶらかし,死神の言う通りにやっているうちに葬儀屋は,「難病でも治す名医」のようになりお金持ちになっていきます。その展開は落語と共通するのですが,オペラ「カルメン」を観るように,どんどんと風采の上がらない男性が女性にのめり込んでいく感じはオペラならではの面白さでした。

何といっても死神役の沢崎さんのシュッして妖艶な感じが,このキャラクターにぴったりでした。第2幕の最初に1つアリアがありましたが(この曲以外は特にアリアはなかったと思います),この曲を中心に魅力を発散していました。瑞々しさのある声も大変魅力的でした。ただし,本当の悪女というよりは,落語が原作という味も残っており,どこかユーモラスな雰囲気も出していました。

泉さんの方は,凶暴な(?)妻に支配されてい,風采のあがらない。「○○○な」(この部分が大人向けの理由でしょうか)葬儀屋役で,前半はそのとおりの雰囲気があったのですが,死神と接しているうちに,段々と自信が出てきて,格好良く見えてくる辺りが面白いと思いました。泉さんの堂々たる声は,オリジナルが落語と思えない,スケール感を作品に加えていました。

最後,死神の手先になっていることへの罪悪感に目覚めるあたりは,「落語」にない部分です。さらに,色っぽい死神のお蔭(?)で○○○は治ったようで,妻に「子ども」が出来ていました。ただし,この「子ども」の父親は,妻が若い葬儀屋との間の子ども(?)という可能性もあり,謎を残した形になっていました。

この辺の葬儀屋の妻の「たくましさ」というのは,考えてみると死神と同様とも言え,やはり男性より女性の方が絶対に生命力はあるなぁと感じました。この葬儀屋の妻約の二渡加津子さんの迫力のある歌と演技も印象的でした。

このオペラ全体としては,合唱団が大活躍していました。色々な職業の人を含む街の人びと,ヤクザ役,医者役,看護婦役,キャバレーのシーン...これだけ多彩な役柄で登場することも珍しいのではないかと思います。

池辺さんの音楽は,特に沢崎さんの歌う曲などには,ちょっとシュプレッヒシュティンメを思わせる難解な感じの曲が多かったのですが,合唱団の曲には,「ふしぎだな,ふしだな」など,親しみやすく分かりやすい曲が比較的多く,オペラ全体が暗くなるのを防いでいたと思いました。それと,今村さんの脚本自身がそうなのだと思いますが,「どこか昭和」な雰囲気が感じられ(例えば,交通事故の件数などは,現在よりずっと多かったはずです),それが味となって感じれました。

池辺さんの音楽には,現代音楽風のシリアスさと昭和風の分かりやすさが混在させることで(途中,懐メロが1曲入りましたね),オペラ全体を観やすくかつ,深みのあるものにしていたと思いました。松井慶太さん指揮の小編成のOEKも,打楽器やピアノなど多彩な楽器が加わることで,ドラマに彩りと緊迫感を加えていました。

そして,最後の場ですが,やはり,落語同様,沢山のろうそくが出てきました。人間の生命をロウソクに例えるというのは,やはり,外すわけにはいきませんね。この部分での背景に「死神マスク」がうごめく中での「ロウソク沢山」という雰囲気は,やはりこのオペラのいちばんの見せ場だと思いました。

このオペラは,何回も色々な編成で再演されてきているそうですが,人間の生命力のはかなさと逞しさの両方を感じさせてくれる点で,落語同様に名作といっても良いのではないかと思います。

前半の古今亭志ん輔さんによるオリジナル版も素晴らしいものでした。志ん輔さんの声は,口跡が良く,落語を滅多に聞かない私のようなものにも,この落語のストーリーがくっきりと伝わってきました。語り口に軽さと渋みとが両立しており,死を扱っているにも関わらず,重苦しくなくなることなく,生命のはかなさのようなものを実感できました。

というわけで,オリジナルのシンプルな味,オペラ版のスケール感の両方を楽しめた今回のような機会は大変貴重だったのではないかと思います。少々終演時間が遅くなりましたが(21:45頃,「夏休み前」特別公演といったところでしょうか),落語にぴったりの,石川県立音楽堂邦楽ホールならではの好企画だったと思いました。

PS.ロウソクは生命のたとえによく使われるのですが,実際に染色体の一部に「テロメア」というロウソクのような部分があるそうです。次のような番組で取り上げられています。個人的に,結構感心があります。

2017/08/06

東京大学音楽部管弦楽団サマーコンサート2017金沢公演。充実のロシアプログラムを三石精一さん指揮で見事に聞かせてくれました。

本日は,東京大学音楽部管弦楽団のサマーコンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われて来たので聞いてきました。東京大学音楽部管弦楽団は,数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢に出演されたことがありますが,演奏旅行(学生オーケストラでツァーというのがまず,凄いのですが)で金沢に来られたのは...初めてのことかもしれません。

今回聞きに行こうと思ったのは,やはりラ・フォル・ジュルネ金沢での好印象が残っているからです(それと,ツイッターの力です)。調べてみると2011年の「シューベルト」の時に来られています。その時も,聞いているうちに「大学生が演奏している」ということを忘れそうでしたが,今回も同様でした。どのパートにも不安定なところはなく,ロシア音楽を集めた充実のプログラムをしっかり楽しむことができました。

最初のグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲は,プログラムの解説には「速弾きの練習の成果をお楽しみに」と書かれていましたが,そこまで猛烈な速さではなかったと思います。しっかりと音を鳴らし切った余裕のある演奏でした。冒頭からティンパニの野性的な強打が素晴らしく,低弦を中心とした重心の低いサウンドがグリンカにぴったりだと思いました。

2曲目のショスタコーヴィチの交響曲第9番は,今回,特に楽しみにしていた曲です。もともとディヴェルティメント風の軽さのある曲ですが,第1楽章の冒頭から気負ったところのない,脱力感が素晴らしいと思いました。今回の指揮者は,東大のオーケストラを長年指揮されている,超ベテラン指揮者の三石精一さんでしたが,その落ち着きのある指揮ぶりが,自然な「軽み」を生んでいたと思いました。

この曲には,ソリスティックな部分も沢山出てきます。要所で出てくるピッコロの存在感。印象的な音型を「お呼びでない?」という感じで何回も演奏するトロンボーンのとぼけた味。切れ味良く演奏されていたコンサートマスターのソロ。どれもイメージどおりの演奏でした。

さらには,しっとりした味のある第2楽章でのクラリネット,第3楽章でのトランペットの気持ちの良い音,第4楽章でのトロンボーンとテューバの荘重なファンファーレ。どれも充実した演奏でした。そして第5楽章への導入となるファゴット。このソロは,とても長く,意味深のものでしたが,見事に聞かせてくれました。

第5楽章では,後半,タンブリンなどのパーカッションが盛大に加わって,ちょっとチープな感じで盛り上がった後,本当に軽やかに締めてくれました。東大メンバーの演奏も素晴らしかったのですが,三石さんの若々しさも素晴らしいと思いました。

後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」でした。チャイコフスキーの交響曲については,アマチュア・オーケストラが頻繁に取り上げるレパートリーですが,熟練の演奏という感じで,特に安心して楽しむことができました。

この曲についても,第1楽章の冒頭から深刻になり過ぎることなく,しっかりとした美しい音を楽しませてくれました。特にヴィオラの音が美しいなぁと思いました。第2主題も甘く成り過ぎることなく,ロマンの香りをほのめかせつつ,美しく聞かせてくれました。ppppppの弱音の後に始まる強烈な展開部も神経質になり過ぎることなく,鮮やかに決めてくれました(今回は,プログラムの曲目解説が非常に充実していたので,それを見ながら書いています)。その後,金管が炸裂する部分は,一瞬ちょっとヒヤリとする部分がありましたが,凄味のある盛り上げを聞かせてくれました。

第2楽章の暖かみのあるチェロの音と中間部でのちょっと不吉な雰囲気のあるヴァイオリンも良い味わいを出していました。第3楽章は堂々たる演奏でした。安定感のあるテンポでクリアに始まった後,次第に熱くなり過ぎることなく,巨大に盛り上がって行きました。この部分では,個人的には大太鼓の腹に応える強打とシンバルの強打の連携をいつも楽しみにしているのですが,迫力と鋭さのある素晴らしい音で◎でした。

楽章の後,間違って「拍手がはいるかな?」とも思ったのですが,無事入りませんでした。そのお蔭で,楽章の後の「静寂」をたっぷり味わうことができました。プログラムには第3楽章最後の部分の楽譜が掲載されていましたが,最後に休符が入っていることの意味が分かりました。祭りの後の静寂のような気分になりました。

そして,第4楽章に入っていきますが,クールかつ盛大に盛り上がった第3楽章の後だと,大変情感豊かでウェットに響いていました。見事なコントラストでした。クライマックスの部分では,ミュートを付けたホルンの不気味な音が大変効果的でした。銅鑼の音は大変静かでした。その後,しんみりとした気分になっていきます。最後部分での力をふり搾るように続く,コントラバスの鼓動のような音も印象的でした。

最後,東大オーケストラ伝統となっているアンコールがありました。プログラムの裏表紙に「歌声ひびく野に山に」というドイツ民謡の譜面が印刷されていたので,何かあるな?と思っていたのですが,最後にこれを会場のお客さんと一緒に輪唱をするという楽しい趣向でした。こういう「伝統」があるのも良いですね。

今回の演奏会については,東大オーケストラのツイッターの宣伝の力で聞きに行こうと思ったようなところもあるのですが,SNSの活用については,恐らく,プロオーケストラの方が学ぶべきところが多いと思いました。北陸新幹線の開通後は,東京と金沢の距離も縮まったので,機会があれば,また金沢公演を期待したいと思います。

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