OEKのCD

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2017年1月22日 - 2017年1月28日

2017/01/28

音楽堂室内楽シリーズ ヤノシュ・オレイニチャク ピアノ・リサイタル。サロン風を意識した,余裕たっぷり,安心して楽しめる大人のショパン。プログラムも雰囲気に応じてどんどん変更

本日は午後から,「音楽堂室内楽シリーズ Vol.4 ヤノシュ・オレイニチャク:エスプリ・ショパン:知られざる珠玉の名曲とともに」が石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。室内楽シリーズは,通常は交流ホールで行われているのですが,今回は,ポーランドを代表するショパン弾きの一人,ヤノシュ・オレイニチャクさんが登場するとあって,ゆったりとコンサートホールで行われました(ただし,3階は使っていませんでした)。

オレイニチャクさんは,2002年度のアカデミー賞受賞作映画「戦場のピアニスト」のサウンドトラックを演奏した方で,ショパンコンクールの審査員,ワルシャワ国立ショパン音楽院の教授でもあります。というわけで,正真正銘の「ショパンのスペシャリスト」ということになります。

ただし,この日のプログラムは,「サロンのショパンを再現したい」というコンセプトに基づくもので,ポロネーズ2曲,スケルツォ,バラード以外は,短めの作品が10曲ぐらい並んでいました。演奏の方も堅苦しさよりは,たっぷりとした余裕を感じさせてくれるものでした。もちろん,コンサートホールでの演奏ということで,十分なスケール感や力強さもありました。「さすが」という感じの,安定感のある演奏を堪能させてくれました。

プログラムの方は,かなり変更になっていました。オレイニチャクさんは,客席の雰囲気に応じて,後半になるに連れて,気分の赴くままにプログラムを変更していたようです。さらにアンコールは,ショパン以外の曲も含む4曲。この自由さは,アルトゥール・ルービンシュタイン(オレイニチェクさんの師匠に当たります)などに通じる,エンターテイナー的なキャラクターも持った巨匠ピアニストの系譜につらなると思いました。

キレの良いテクニックで力強く弾きまくる若手ピアニストの演奏も素晴らしいのですが,オレイチェニクさんのような存在は,これからますます貴重になるのではないかと思いました。

最後に本日演奏された曲目です。私も全部分からなかったのですが,会場に案内が出ていませんでしたので,分かる範囲でご紹介しましょう。この日は,浦久俊彦さんがナビゲーター役として登場し,前半最後にインタビューコーナーがあったのですが(この内容もとても面白いものでした),恐らく,正式なプログラムは浦久さんのWebサイトの方で発表されるのでないかと思います。

ショパン/軍隊ポロネーズ
ショパン/ノクターン 嬰ハ短調「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」
ショパン/ノクターンホ短調
ショパン/2つのマズルカ,op.24-1,2
ショパン/3つのマズルカ,op.63
ショパン/幻想即興曲 → バラード第1番に変更
ショパン/前奏曲 ホ短調,op.28-4
ショパン/スケルツォ第2番 → 英雄ポロネーズに変更
(休憩)
ショパン/ワルツ イ短調,op.34-2 → ワルツop.69-1「告別」に変更
ショパン/2つのワルツ,op.64-2,1 → 小犬のワルツは演奏せず
ショパン/ワルツ ホ長調
ここで,ワルツ イ短調 op.34-2を演奏
ショパン/ワルツ イ長調 → マズルカ(番号不明)に変更
ショパン/ポロネーズ変イ長調, op.53 → スケルツォ第2番に変更

(アンコール)
ピアソラ/オブリビオン
ショパン/小犬のワルツ
ドビュッシー/前奏曲集第2巻~花火
ショパン/前奏曲集第7番(太田胃酸のCMでおなじみ。胃腸調ならぬイ長調です)

これだけ,自在にプログラムが変わると,楽しくなってきますね。

2017/01/22

笈田ヨシ演出,OEKの「蝶々夫人」を金沢歌劇座で観てきました。鮮やかさ,強烈さと同時に日米関係を考えさせる演出。中嶋彰子さんの歌と演技も見事 #oekjp

上演するのに費用のかかるオペラ公演を全国共同制作で行うプロジェクトが,金沢を中心に続いていますが,今年は,プッチーニの「蝶々夫人」が上演です。その全国ツァーの初日が,金沢歌劇座で行われたので聞いてきました。

私自身,「蝶々夫人」の全曲を聞くのは2回目です。前回観たのは,1999年同じ金沢歌劇座で,天沼裕子さん指揮OEKということで,20年近くも前のことになります。時が経つのは速いものです。この時の蝶々さんは,金沢出身の濱真奈美さんで,とにかく「ものすごく感動した」記憶が残っています。

今回は,ここ数年OEKと共演する機会が多い,中嶋彰子さんがタイトルロール,その使用人のスズキ役が鳥木弥生さん。オーケストラはもちろんオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)ということで,オペラ「滝の白糸」のメンバーが「蝶々夫人」にスライドしたようなところがありました。そして,何といっても注目は,時代を昭和初期に変更した,笈田(おいだ)ヨシさんによる演出です。

その印象は,大変鮮やかで強烈なものでした。リアルでありながら洗練された美しさを感じさせる衣装や舞台も素晴らしかったのですが,特に最後の場面での中嶋彰子さんの蝶々さんの強さが印象的でした。

# 以下,色々とネタばれがあります。

ピンカートンに裏切られた上,ピンカートンとの間の子どもも彼に渡すことになった蝶々さんは,オリジナルでは切腹するのですが,今回の演出では,切腹はせず,それまで家の前に立てていた星条旗を床に転がし,それを踏み越えるような形で,力強く立ちつくす,といった終わり方になっていました。セリフがなかったので,解釈は観る側に任されると思うのですが,ピンカートンからの自立を印象付けていたのかもしれません。

このことは,ピンカートン=アメリカ,蝶々さん=日本の象徴と考えられることもできます。笈田さんによるプログラム・ノートによると,戦後の「なんでもアメリカのものが優れている。日本の伝統は古臭い」という社会風景をこの2人に託していたとも読めます。

ただし,同じアメリカ人のシャープレスの方は,「よい大人」なので,アメリカが悪いというよりは,ピンカートという個人の浅はかさが問題な気もします。星条旗を象徴的に使っていたのは,ちょっと分かりにくい面もあると思いました。

それにしても,中嶋彰子さんの蝶々さんは素晴らしいと思いました。第1幕での純粋で清潔な感じ。第2幕前半でのピンカートンを待つ切なさといじらしさ。そして第2幕後半での強さ。1人の女性の生涯を演じきったような多彩な性格を持った歌と演技を見せてくれました。

蝶々さんを支える「スズキ」役の鳥木さんの,脇役ぶりも印象的でした。領事役のシャープレスと対になるような「見守る大人」役を演じていました。

ピンカートン役のロレンツォ・デカーロさんは,その名のとおり大変デカーい方で,大国アメリカのイメージにぴったりでした。第1幕後半の延々と続く,蝶々さんとの「愛の場」は,結構リアルな演出で,2人の熱い声を聴いているうちに,見ていてどんどん引き込まれてしまいました。

1幕最後は,布団の上でピンカートンが蝶々さんに覆いかぶさるような形で終わっていましたが,考えてみると,全体の幕切れ(蝶々さんが星条旗の上に)と好対照を成していたといえます。

その他の脇役の中では,ほとんど荒事歌舞伎のような形で乱入してきたボンゾ役の清水那由太さんの迫力のある声も見事でした。そういえば,清水さんは「白糸組」のメンバーの一人ですね。

今回の特徴としては,ピンカートンの「アメリカの奥さん」のケイト・ピンカートンと蝶々さんが「直接対話する場面」があった点です。プログラム解説によると,この部分は改訂版にはない部分で,今回は特に復刻して含めてものとのことです。「わざわざ奥さんを連れてくるかなぁ?」という気もしましたが,この対話シーンが,演劇的な緊迫感を盛り上げていたと思いました。

舞台全体としては,和風の障子やフスマをイメージさせるような数枚の衝立をうまく活用し,舞台背景にあるスクリーンなどと合わせて,簡素ながら鮮やかな効果を上げていました。蝶々さんが登場する場での,何とも言えない華やかさ,ハミングコーラスから翌朝にかけての時間の推移の表現など,どの場からもくっきりとしたイメージが伝わってきました。「滝の白糸」の時同様,合唱団の皆さんは,歌を歌うだけではなく,舞台の一部になったような感じで,色々な場面で盛り上げてくれました。

「泣けるかどうか?」という点では,前回のオーソドックスな演出の方が泣けたのですが,今回の上演では,全曲を貫く武士の血を引く「蝶々さん」の「健気さ」「強さ」が強く伝わってきました。そして,伝統的な雰囲気だけではなく,全ての点でくっきりとした新鮮さが感じられました。その点が素晴らしかったと思います。

この公演は,今後2月19日まで,大阪,群馬,東京(2回)と4回上演されます。今回のミヒャエル・バルケ指揮OEKの演奏は,ティンパニの強打など,迫力満点でした。他公演では,大阪フィル,群馬交響楽団,読売日本交響楽団が演奏します。お近くの方は是非お出かけください。

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