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2018年11月

2018/11/29

#オリ・ムストネン さん,OEK定期に初登場。フィンランドの作品を中心として,ムストネンさんの多彩さを実感できる素晴らしい公演でした。作曲家としても素晴らしいと思いました。 #oekjp

本日は,OEK定期公演初登場となる,オリ・ムストネンさん指揮によるフィルハーモニー定期を聞いてきました。ムストネンさんといえば,フィンランドを代表するピアニストという印象を持っていたのですが,実は,指揮者としても,さらには作曲家としても活躍の場を広げています。本日の定期公演は,そのすべてを聞かせてくれる充実の内容となりました。チラシの宣伝文句に書かれていたとおりの「天才」的な雰囲気を持つアーティストだと思いました。

プログラムは,最初に演奏されたヒンデミットの「4つの気質」以外は,すべてフィンランドの作曲家の作品。メインとなるシベリウスの「ペレアスとメリザンド」組曲は,過去の定期公演で聞いたことはありますが,それ以外は,定期公演に登場するのは初めての作品。ということで,ムストネンさんのこだわりのプログラムと言えます。

# 訂正です。調べてみると、「4つの気質」については、河村尚子さんのピアノ、広上淳一さん指揮で一度取り上げていましたので、「OEK初」ではありませんでした。

最初に演奏された,ヒンデミットの「4つの気質」は,ピアノ協奏曲と変奏曲が合わさったような独特の作品でした。古代ギリシャのヒポクラテスの時代から伝わる「人間の典型的な気質」を変奏曲として表現した作品なのですが,他のヒンデミットの曲同様,ややとっつきにくいところがありました。ただし,ムストネンさんのピアノの音には,独特の透明感のようなものがあり,苦み走っているけれども,後味がとても良い,といったムードがありました。

ムストネンさんのピアノを聞くのは今回初めてでしたが,とても手を高く上げて演奏したり,独特の奏法だったと思います(専門的なことは分かりませんが)。速い部分での軽快な躍動感が素晴らしく,重苦しくなるところのない演奏でした。機会があれば,是非,別の作曲家の曲も聞いてみたいものです。

続いては,ムストネンさん自身が作曲した九重奏曲第2番の弦楽合奏版が演奏されました。これは今回が日本初演とのことでした。聞く前はどういう作品なのか想像もできなかったのですが,とても魅力的な作品でした。4楽章構成の作品で,どこかベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏曲を思わせるような,躍動感と神秘性を感じました。しかも古くさい感じはなく,ベートーヴェンを現代的で新鮮な感性でバージョンアップさせたようなような,オリジナリティを感じました。急速なパッセージが連続する最終楽章では,この日のコンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんのリードが光っていました。この曲については,オリジナルがどういう編成だったのも気になります。機会があれば,オリジナル版も聞いてみたいものです。それと,ムストネンさんの他の作品も聞いてみたいものです。

後半は,指揮者としてのムストネンさんの魅力を味わうことができました。

最初に演奏された,ラウタヴァーラのカントゥス・アルクティクスは,鳥の鳴き声を収録した音源とオーケストラとが共演する独特の作品です。聞くのは2回目ですが,ムストネンさんの指揮で聞くと,非常に清々しく感じられました。不思議なことに,音を聞いているうちに,ビジュアルが喚起されるところもありました。最後の部分では,ティンパニとシンバルが盛大に入り,スケール感たっぷりの盛り上がりを聞かせてくれました。

次に演奏された,シベリウスの「ペレアスとメリザンド」組曲もとても魅力的な作品でした。ドビュッシーの同名の曲の印象からすると,もう少し淡い感じの演奏を予想していたのですが,ムストネンさんの指揮には最初の曲から,グイグイと音楽を引っ張っていくような力強さがありました。アンコール曲としても時々演奏されることのある,「間奏曲」などでは,ムストネンさんのピアノ演奏に通じるような躍動感を感じました。

最後の「メリザンドの死」は,重苦しい感じで始まった後,最後の方で,どこかシベリウスの交響曲第2番を思わせるような大きな盛り上がりを作り,その余韻を残すように静かに終了。OEKの音もとても良く鳴っており,演奏会をしっかり締めてくれました。

その後,同じシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォが演奏されました。この選曲は,事前に組み込まれたアンコール曲的な位置づけだったと思いますが,本当に見事な演奏でした。他の曲同様,速めのテンポでくっきりと演奏されました。その音には光り輝くような壮麗さがありました。

プログラム的には,あまり知られていない曲が並んでいたので一見地味な印象を持ったのですが,実際には,多彩であると同時に,フィンランド的な風味で統一感のある見事なプログラミングだったと感じました。何よりも,ムストネンさんの多彩な才能をしっかり実感できました。ムストネンさんには,是非またOEKに客演して欲しいと思います。OEKメンバーとの室内楽公演なども期待したいと思います。

2018/11/25

#鈴木織衛 指揮OEK他によるヴェルディ #リゴレット 金沢初公演@金沢歌劇座。#青山貴 さんと#森麻季 さんを中心に聴き応え十分の人間ドラマ

本日の午後は,金沢で全曲を上演するのが今回が初めてとなる,ヴェルディの歌劇「リゴレット」の公演が金沢歌劇座で行われたので聴いてきました。金沢では,ここ数年,全国のいくつかの公共ホールとの共同企画によるオペラを毎年のように行ってきましたが,今回の公演は,金沢独自企画とのことです。プログラムに書かれていた山田正幸プロデューサの言葉によると「遠慮なく作品を選べた」ということで,個人的には大歓迎です。

「リゴレット」は,ヴェルディの出世作として知られていますが,今日の感覚からすると差別的な表現や役柄が出てくるせいもあるのか,国内ではなかなか上演されないとのことです。が,本日の公演を聴いて,主要キャストの重唱を中心に進んでいく,聴き応え十分の人間ドラマだと改めて実感しました。特にタイトルロールの青山貴さんの輝きのある威力十分の声,リゴレットの娘,ジルダ役の森麻季さんの丁寧でしなやかな声は,それぞれの役柄にぴったりのはまり役と感じました。

その他の役柄もキャラクターが分かりやすく,現代の演劇などに通じる「わかりやすさ」を感じました。特に殺し屋スパラフチーレは,数あるオペラの中でも,いちばんクールな役柄ではと思いました。高岡出身の森雅史さんが,グッと広がるような低音で存在感を示していました。

唯一の問題点は(というかかなり大きな問題だったのですが),マントヴァ公爵役のアレクサンドル・バディアさんの体調不良のため,かなり歌唱が不安定だった点です。第2幕の最初に山田プロデューサが「最後までつとめますので...」という異例のエクスキューズが入りました。特に第1幕の最初の方は,高音が出ない部分があったりして,かなり不安でした。その後,山田さんの言葉どおりの熱のこもった歌で,見せ場の「女心の歌」(かなり独特の歌い回しでした)が出てくる第3幕まで,何とか歌いきってくれました。

この作品については,虐げられた存在であるリゴレットと正反対のキャラとしてマントヴァ公爵が位置づけられており,何でも思いのままに楽々と生きている感じを出すことが作品の一つのポイントだと思うので,「苦労している公爵」というのは少々残念でした。機会があれば,「リベンジ」を期待したいものです。

それにしても,リゴレットとジルダのアリアは,聴き応えがありました。リゴレットには,他人を傷つける道化の面と愛情たっぷり(過剰?)な父親の2面がありますが,特に第2幕の「悪魔め鬼め」での深い表現が素晴らしいと思いました。ジルダの方は,コロラトゥーラ・ソプラノの名曲として有名な「慕わしい人の名は」での美しさも素晴らしかったのですが,やはり同じ第2幕に出てくる「日曜日に教会で見かけてから...」とこれまでの恋愛の一部始終を語るようなアリアでの情感の豊かさが素晴らしいと思いました。

そして,第3幕での四重唱。4人の思惑が絡まりつつ,音楽の方がワクワクと高まっていく感じが最高でした。その後,ジルダが「予定変更」で殺害されることになるのですが,実はその「キャスティング・ボード」を握っていたのが,殺人者の妹のマッダレーナでした。藤井麻美さんの声には,その重役に相応しい,聴き応えがありました。

ドラマの起点となるのが,第1幕の最初の方のモンテローネ伯爵の「呪い」なのですが,李宗潤さんの威力のある声も良かったと思います。ドラマの要所要所にくさびを打ち込んでいる感じでした。

鈴木織衛さん指揮OEKのオーケストラも雄弁で流れの良い音楽を聴かせてくれました。ヴェルディならではのオーケストレーションも面白く(スパラフチーレが出てくる時のヴィオラやチェロの伴奏,嵐の中の殺人の場でのフルートなどによる描写的な音楽...),名曲だなぁと思いました。

合唱団の方は,今回は男声合唱のみでしたが,公爵の宮殿の場での軽妙な感じ,,嵐の場の恐怖感をハミング(?)で盛り上げたり,大活躍だったと思います。何より「ヴェルディあるある」的な楽しげな行進曲が出てくると嬉しくなりますね。

舞台の方は,比較的簡潔で回り舞台の上に可動式のついたてのようなものを組み合わせて,色々な場面を作っていました。ジルダの場については,「籠の鳥」のような形で取り囲んだり,天井から「ブランコ」が降りてきたり,色々な工夫がありました。特にブランコについては,ジルダの「揺れる気持ち」を象徴しているようで,効果的だったと思いました。

このオペラのストーリーは,「リゴレットの悲劇」なのですが,自ら死を選んだ形になるジルダ側から見ると,「ジルダの自立」とも言えるのかなとも思いました。ストーリーの細部を見ると,「どこか変?」といった部分もあるのですが,音楽の持つ迫力と合わせて聞くと,色々と深読みをしたくなる作品だなぁと感じました。

というわけで,公演に携わった多くの皆さんに感謝をしたいと思います。

2018/11/22

#夜のクラシック アフターセブンコンサート2018 その第1回にはヴァイオリニストの #三浦文彰 さんが登場。特製カクテルに負けない,「大人の香りと落ち着き」のある演奏を聞かせてくれました。#加羽沢美濃 さんの司会も期待どおりでした。

「夜のクラシック:アフターセブンコンサート2018」と題された,19:15開始の新演奏会が石川県立音楽堂で始まりました。コンセプトとしては,「大人向けの極上の音楽を,トークを交えて休憩なしで楽しむ」というものです。その第1回の主役は,若手ヴァイオリニストの三浦文彰さん。案内役は作曲家の加羽沢美濃さん,ピアノは小森谷裕子さんでした。

開始時間が15分遅くなっただけだったのですが,確かにその効果はあったと思います。OEKの定期公演などとは一味違った,リラックスした空気がありました。これは,加羽沢さんのリラックスした進行の力も大きかったと思います。第1回とは思えない安定感と親しみやすさがありました。そして華やかさもありました。

演奏時間も1時間程度と短めでしたが,演奏会全体の充実感も十分でした。三浦文彰さんが今回演奏した作品は,ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番,タルティーニのヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」,サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチョーソということで,静かな曲から技巧的な曲へと少しずつ盛り上がっていくような構成でした。

三浦さんのヴァイオリンの音について,加羽沢さんは「色気がある」と語っていましたが,そのとおりで,どの曲についてもしっとりとした香りと大人の落ち着きのようなものを感じました。しっかりとヴィブラートを効かせた,温かみのある音を聞くだけで,幸福感を感じました。

途中,加羽沢さんと三浦さんとのトークが入りましたが,さすが加羽沢さんだと思いました。NHKの「らららクラシック」などでもお馴染みの,リラックスしていながら,しっかりとした内容のあるお話を引き出していました。さらには「三浦文彰」さんのイメージを即興的にピアノ小品として演奏。さりげなく「真田丸」のテーマを入れたり(私にも分かりました),トリルを入れたり,色々な隠し味のある演奏でした。

タルティーニの曲では,ピアノのトリルとヴァイオリンのトリルを聞き比べたり,重音のトリルが「悪魔のトリル」であることを説明したり,なるほどというお話を楽しむことができました。

タルティーニの「悪魔のトリル」では,終盤,かなり長いカデンツァがあり,堂々たる貫禄を感じさせる,伸びやかさのある音楽を楽しませてくれました。最後に演奏された,序奏とロンド・カプリチョーソも,全くバタバタした感じになることなく,しっかりとした歌と速い音の動きの中から立ち上るロマンの香りのようなものを楽しませてくれました。

アンコールでは,「真田丸」のテーマが演奏されたのですが,テレビなどで使われていたバージョンではなく,ヴァイオリン独奏用のバージョンでした。何というか,「もしもパガニーニが真田丸を演奏したら?」といった趣きのある,技巧的で力感のある演奏を楽しませてくれました。

というわけで,この「夜のクラシック(略して「夜クラ」)第1回は期待どおりの内容でした。末永く続くシリーズになって欲しいものです。

PS.途中,「悪魔のトリル」と題した,ANAクラウンプラザホテルのバーテンダーの方によるカクテルがステージ上に登場しました。これは飲んでみたかったですね。終演後,音楽堂のお隣のANAクラウンプラザホテルのラウンジで楽しめますということでしたが...飲酒運転になるので断念。本日は「大人のカクテル」の雰囲気とはほど遠い,雨合羽+自転車で来たのですが,今後は「その辺」も意識して来ないといけないかもしれませんね。

2018/11/17

吉井健太郎さんによる,無伴奏チェロによるミニリサイタルを石川県立歴史博物館で聞いてきました。じっくり平常心で演奏された第1番全曲と各曲のプレリュードさわり集。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。終演後はCDも購入。こちらは教会での収録

本日は,元ウィーン交響楽団の首席チェロ奏者だった,吉井健太郎さんによる無料のミニリサイタルが,石川県立歴史博物館(歴博)で行われたので聞いてきました。実は,今朝までは行く予定ではなかったのですが,今朝,ツイッターで流れてきた演奏会情報を見た後,「どうしようかな?」と少し思案をして,10:30頃に出かけることに決めました。

開演の11:00少し前に会場に到着したのですが,こういうことができるのも,市街地がコンパクトな金沢ならではですね。それと自転車ならではです。天候が段々と良くなってきたので,本日は歴博まで自転車で出かけてきました。

今回の公演については,バッハの無伴奏チェロ組曲が演奏されるのは分かっていたのですが,どの曲が演奏されるのかについては,よく知らずに出かけました。大学の教授を思わせる(貧困な発想ですが...),落ち着いた雰囲気で吉井さんが登場。無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードが始まりました。

速すぎず,遅すぎず,平常心そのものの雰囲気で演奏が始まりました。間近で聞く吉井さんのチェロの音には温かみがあり,じっくりとバッハの世界に浸ることができました。まさにベテランの味といった感じでした。プレリュードの後,一旦,軽くトークが入るかな,と思い私も拍手をしたのですが,ここではトークはなし。そのまま,組曲第1番の全曲が演奏されました。

お客さんの方は,チェロ組曲に慣れていなかった人が多かったのか,アルマンド,クーラントと1曲ごとに拍手が入りました。この辺は致し方がなかったかもしれません。やはり,事前に何の曲を演奏するかアナウンスがあった方が良かったですね。プレリュード以下の曲も,声高に騒ぐことなく,じっくりとバッハの音楽の美しさを吉井さん自身が味わうように聞かせてくれました。

その後,吉井さんのトークが入り,バッハの無伴奏チェロ組曲集について,「何のために書かれたか分からない。もしかしたら自分のためののかもしれない」という説明があった後,1曲ごとに性格が違うことが,各曲のプレリュードの「さわり」を演奏しながら紹介されました。バッハの「無伴奏」については,ルドヴィート・カンタさんの演奏で全曲演奏を何回か聞いたことはあるのですが,「プレリュードばかり」を聞き比べるのは,始めてかもしれません。吉井さんの説明では次のとおりでした。
第1番 皆さんご存じの曲
第2番 いちばん寂しい気分の曲
第3番 ハ長調です
第4番 メロディがあるのかないのかユニークな曲
第5番 途中からフガートに。作曲家は書きたがるけれども,奏者の方はハラハラ。
第6番 幾何学的な雰囲気のある曲

ヨコに流れているものを,タテに切ったような感じで,各曲の性格の違いを鮮やかに感じ取ることができました。逆に言うと,「プレリュードが肝」と言えそうです。吉井さんは,「バッハについては難しい印象をもたれますが,とても簡単です。きれいな水を見ていると思えば良い」とおっしゃっていましたが,「なるほど!」と思いました。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。チェロ1本による無伴奏は,確かに「1本の川の流れ」のようなものです。各曲の性格が,浅野川と犀川の違いのようなものなのかもしれませんね。

どの曲も途中まで演奏して終了しましたので,「もう少し聞きたい」という気分になりました。というわけで...会場で販売していた,吉井さんの無伴奏全曲のCDを購入してしまいました。さらにはサイン会も行っていたので,サインもいただきました。

吉井さんの演奏会は,11月17日は午後から石川県立伝統産業館で同様の公演があった後,18日は日中湯涌自然音楽祭2019で,19:30からはクラシックカフェ ヤギヤで公演が行われます。その後,全国いくつかで公演を行うようです。「チェロを持った渡り鳥」といったところでしょうか。

PS.帰宅後,入手したCDを聞いてみました。今回の会場とは違い,教会で収録されたものでホールトーンがしっかりと入っていました。全部聞くのが楽しみです。

2018/11/11

#池辺晋一郎 クラシック講座 #シェイクスピアと音楽 を #石川県立音楽堂 で聞いてきました。#三輪えり花 さんとともに,シェイクスピア作品の魅力が多面的に語られました。

本日は午後から,「池辺晋一郎クラシック講座 シェイクスピアと音楽」を聞いてきました。ゲストは,シェイクスピアの戯曲の演出などを沢山手がけている「舞台人」(プログラムに書かれていた肩書です。「シアトリスト」の日本語訳のようです),三輪えり花さんで,お二人が関わったシェイクスピア作品の話を中心に,シェイクスピア作品の魅力を語るという趣向でした。また,途中,池辺さんがシェイクスピア作品用に書いた歌曲が,女声三重唱などで演奏されました。

池辺さんは,日本のクラシック音楽の作曲家の中でも特に戯曲用の音楽を書いている方で,シェイクスピアだけで40作も音楽を書いているそうです。特に「マクベス」や「ハムレット」については別の演出家のために,各6,7回も書いているとのことです。こういうことができるのは,自分の個性を殺してでも「演出家の注文に応じて作曲すること」に喜びを感じることができるから,と語っていました。芝居好きの作曲家でないとできないことであると当時に,池辺さんに「職人的気質」があるから可能なことだと思います。

今回は,喜劇,悲劇などジャンルごとに紹介されました。私自身,池辺さんが音楽を書いた作品に限らず,過去30年ほどの間にかなり沢山,シェイクスピア作品を観てきたので,「そのとおり」というお話ばかりでした。シェイクスピアの戯曲の魅力として,「現代的にアレンジしても変わらないセリフの普遍性」「声で読んだ時のリズムの良さ」などが上げられていました。

途中,三輪さんが「マクベス」の中のセリフを英語で朗読する場面がありましたが,本物の迫力がありました。「明日,明日,明日」で始まるセリフで,読んで気持ち良いだけでなく,リアルな実感のこもった迫力のあるセリフだったので,後で調べてみたいと思います。

反対に現代上演する時の問題点として,「長いこと(ある程度カットしないといけない)」「言葉が難しい場合がある」「そのままだと残酷過ぎる場がある」といったことがありました。その他,プロローグでストーリーを説明する人がいたり,道化役が重要な役割をになっていることなどもシェイクスピア作品の特徴です。

作曲家の立場からすると,「ファンファーレを作曲するのが大変」「亡霊が出てくるときの音楽を毎回作るのが大変」など,何作も作曲してきた池辺さんならではのお答えが面白かったですね。

これまで私が観たことのあるシェイクスピア作品は,「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「リア王」「オセロ」「リチャード3世」「冬物語」「十二夜」「お気に召すまま」「ウィンザーの陽気な女房たち」など(仲代達矢,平幹二朗で観たものが中心です。)。

この日は,俳優座のために池辺さんが音楽を書いた「お気に召すまま」の中の曲が2曲歌われたのですが,この曲は30年近く前に一度聞いているはずです。さすがに思い出すことはできませんでしたが,1970年代のミュージカルを思わせる曲調を聞いて,さすが池辺さんと改めて思いました。

三輪さんと池辺さんとの関わりでは,兵庫県立ピッコロ劇団のために演出した「十二夜」で接点があるそうです。最後にその中の曲が歌われてお開きとなりました。兵庫県については,県立の劇団とオーケストラがあるため,この作品は,オーケストラメンバーによる「生演奏」が可能になったそうです。

石川県の場合,能登演劇堂という無名塾が本拠地のようにして使っている立派な劇場とOEKというオーケストラがありますので,池辺さんが仲介役となって,無名塾公演にOEKが参加するようなシェイクスピア公演などができると面白いのではないかと思います。池辺さんは,「「冬物語」は好きな作品だが,まだ音楽を書いたことはない」と語っていましたので,是非,無名塾による「冬物語」に期待したいと思います。

2018/11/10

#石川県立音楽堂 で #左手のピアニストの為の公開オーディション を聞いてきました。6人の個性と左手のみによる表現の幅広さを実感てきました。#ガル祭 での再会を楽しみにしています

本日は,いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2019の関連企画として行われた「左手のピアニストの為の公開オーディション」を聞いてきました。このオーディションは,「ピアニストを目指していたが,右手の病気や障がいなどで両手での演奏が困難になった人を対象に。世界に呼びかけ開かれた未来を創るお手伝いをする」ことを趣旨として行われたもので,優秀者は,来春の楽都音楽祭で,オーケストラと協奏曲を共演またはソリストとして出演することができます。位置づけとしては,オリンピックに対してのパラリンピックに該当するようなオーディションということになります。

音楽の世界とスポーツの世界が同様なのかは,人によって考え方は違うと思いますが,レパートリーが限られる「左手のピアニスト」のために機会を提供することは意義のあることだと思います。ただし,今回審査委員長を務めた,舘野泉さんの講評にも出てきたとおり,左手のピアニストということを過度に強調する必要もありません。左手のピアニストだからこその,「思いの強さ」であるとか「表現意欲」というものが感じられるのでは...と思い,今回聞きに行くことにしました。

今回登場したのは6人のピアニストでした。国際的に参加者を募集をしていたこともあり,地元出身は1名で,海外からの参加者も1名ありました。そのこともあり,大変水準の高い演奏ばかりだったと思います。

課題曲はマグヌッソン「アイスランドの風景」という組曲の中の「鳥の目から見た高地」「オーロラの舞」の2曲。それに各自が選んだ自由曲を加え,合計15分程度で演奏するというものです。自由曲の方は,「左手のためのピアノ曲」の定番である,スクリャービンのop.9-2を演奏した人が3人いました。それ以外の方は,シュールホフ,吉松隆,サンカンの作品を自由曲で演奏しました。

ほとんど聞いたことのない作品ばかりを連続して聞くことになったのですが,全く退屈することがありませんでした。左手だけで弾くことによるシンプルなメロディの美しさと,両手で演奏している?と思わせるような幅広い音域を使った急速のパッセージの対比など,大変変化に富んだ演奏を楽しむことができました。

課題曲は6回同じ曲を聞き,スクリャービンも3回聞いたのですが,それぞれの個性というか演奏の味わいの違いがあるのも面白かったですね。オーディションをテーマにしたミュージカルに「コーラスライン」という名作があります。このミュージカルでは,それぞれ名も無い応募者たちが,自分の過去を語っていくシーンがありますが,今回,プログラムのプロフィールに書かれた「左手で演奏する理由」という項目を読みながら,6人の奏者の「人生」を思い浮かべ,それと重ね合わせて聞いてしまいました。

今回面白かったのは(これはオーディションやコンクール全般に言えるのかもしれませんが),審査員の講評を生の声で聞けたことです。今回の審査員は,舘野泉さんに加え,作曲家の一柳慧さん,吉松隆さんという豪華メンバーでしたが,それぞれの「聴き方」が分かり,「へぇ,そうなのか」と感じる部分がありました。特に舘野さんは,「細かい部分にこだわりすぎず,大きな音楽を作って欲しい」ということを語っており,そのことが審査にも反映していたようです。

今回の結果ですが,車椅子に座ったまま演奏された,月足さおりさん(音がとても美しいと思いました)と瀬川泰代さん(明るい笑顔にぴったりの演奏でした)が最優秀に選ばれ。次点のような感じで,児島顕一郎さんが最優秀審査員賞(個人的にはこの方の自由曲の演奏がいちばん印象に残りました),Stefan Warzyckiさんが優秀賞に選ばれました。

それ以外にも「左手のため」の「この作品」については,誰にも負けないという思いの強さを感じる箇所がいくつかありました。選考された結果については,私が感じた結果とは少し違っていたのですが,来春のガル祭でどういう演奏を聞かせてくれるのか楽しみにしたいと思います。「左手のための協奏曲」も演奏されるようですが,どの協奏曲が演奏されるのかも楽しみですね。

2018/11/07

久しぶりに 石川県立音楽堂に登場した井上道義さん指揮OEK等による洋邦コラボレーションコンサート。ペルトのフラトレス,若林千春の新曲,ストラヴィンスキーのアポロ。新しいアートを作り出す楽しさと芸術の神への感謝の思いが伝わってくるような演奏会でした。

本日は,久しぶりに石川県立音楽堂に登場した,井上道義さん指揮OEKメンバー等による,「洋邦コラボレーション」と題された演奏会を聞いてきました。井上さんは,OEK初代音楽監督の岩城宏之さん同様,クラシック音楽と邦楽とが一体になったような演奏会を何回か行って来ましたが,本日の演奏会は,井上さんの「やりたいこと(orやりのこしたこと)」が隅々まで徹底した,総決算的な内容だったと思います。

演奏されたのは,茶道のお手前+能舞とペルトのフラトレスのコラボレーション,若林千春さん作曲による「ゆにわ/しま IV-b」という独奏フルート,独奏チェロ,能管,小鼓,大鼓のための作品(初演)。そして,ストラヴィンスキーの「ミューズを率いるアポロ」の3曲でした。特に前半の2曲は,通常のクラシック音楽のコンサートの雰囲気とは一味違う,シアターピース的な作品で,井上さんらしさが溢れていました。後半のストラヴィンスキーも素晴らしい作品の素晴らしい演奏でした。

最初に演奏されたペルトのタブラ・ラサは,2楽章構成の作品で,ステージ奥でOEKの弦楽合奏が静かで神秘的なムードを醸し出す中,山根一仁さんとアビゲイル・ヤングさんのヴァイオリンが,掛け合いをしていきます。繰り返しがとても多いので,次第に陶酔的な気分になっていく作品です。

その中で,上手側で渡邊荀之助さんが能を舞い,下手側で奈良宗久さんがお茶を煎れる動作をします。ステージの照明は暗目で,2人にスポットライトが当たるようになっていましたので,この2人の動作にどんどん引き込まれていきました。ただし...その意味まではよく分かりませんでした。

第1楽章の後半で,照明が点滅し,その後,渡邊さんが奈落の底に落ちていったり(ステージの床がエレベータのように下がっていくということですが),奈良さんの方は,茶道の道具を全部片付けた後,第2楽章になって再度登場して,お茶を煎れる動作をしたり...なかなか難解でした。曲が終わった後,井上さんが,表現していたストーリーを解説してくれて,「そういうことだったのか」と了解できた部分もあったのですが...少々懲りすぎだったかもしれません。

音楽の方は,第2楽章はさらにシンプルでゆっくりとした曲想になりました。井上さんによると「空」を表現していたということです。この時空の感覚がなくなるような感じはペルトの音楽ならではの魅力だと思いました。

次の若林さんの新曲の方は,音楽的にはかなり前衛的で,メロディが全くないような作品でしたが,武満徹の作品であるとか,能そのもののスタイルを思わせる雰囲気があり,とても楽しめました。

最初,大鼓と小鼓が静かに応答しあうような和の雰囲気で始まった後,途中,独奏チェロの細井唯さんと独奏フルートの松井さやさんが入場してきて,特殊奏法満載の不思議で強烈な世界が続きました。チェロの方は不協和音というよりは,故意にギシギシ言わせるような音が続出,フルートの方は息だけの音を使ったり,ウワオーという感じで半分声を出しながら演奏したり,伝統に刃向かうムードたっぷりの音楽が続きました。

ただし,このお二人による集中力のある演奏で聞くと,目が離せないという感じになり,強くひかれました。舞台奥の紗幕の後ろに,能に登場する邦楽器が3つ配置し,その前に少し距離を置いてチェロとフルートが,能のシテとワキといった感じで並んでいましたので,この舞台で能を表現しているように思いました。終了間際に能管が,ピーッと強く音を出していたのも能に通じると思いました。

邦楽器と洋楽器のコントラストを聞かせる二重協奏曲という点では,武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を思わせる要素もあると思いました。尺八がフルートに,琵琶がチェロに置き換わったようなイメージです。最初と最後が邦楽器中心で,中間部にチェロとフルートによる長いカデンツァが入っているようにも思えましたが,この構成もノヴェンバー・ステップスと似ていると思いました。何より「どういう楽譜になっているのだろう?」と思わせるほど不思議な音が続いていたのも同様でした。

タイトル自体も謎だったのですが,今回のテーマの洋と邦のコラボというテーマに相応しい作品だったと思いました。この作品は,井上さんが主催している「是阿観作曲家コンクール」の第1回優秀作品に選ばれた作品です。2021年に上演を計画している新作能に向けた,3年計画のコンクールということで,今後どういう作品が登場してくるのか期待したいと思います。

後半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「ミューズを率いるアポロ」が,弦楽合奏で演奏されました。これは普通のクラシック音楽のコンサートのスタイルで演奏されましたが,井上さんの原点である,バレエを意識しての選曲となっていました。

実演で聞くのは初めての曲でしたが,ストラヴィンスキーの曲の中でも特に心地良い響きのする作品だと思いました。古代ギリシャの気分を伝えるような晴朗な気分にあふれていました。単純にシンプルなわけでなく,「実は複雑そう」という面もありましたが,「芸術の神アポロ」に対する素直な賛美,井上さんの「アートの世界」に対する信頼や演奏できることの喜びのようなものがストレートに伝わってきました。

特に前半のプログラムは,色々と冒険的な試みをしており,「一体どうなったのだろう?」といったスリリングな面もありましたが,「新しいアート」を作り出す楽しさを存分に伝えてくれるような演奏会だったと思います。

2018/11/01

OEK初登場の #鈴木雅明 さん指揮による定期公演。「疾走する哀しみはとまらない」といった感じのモーツァルト40番。そして #RIAS室内合唱団 等との共演によるメンデルスゾーンの宗教音楽2曲。晴れやかな気分が残る,生きる力が湧いてくるような演奏でした。

今年も早くも11月です。11月最初のOEK定期公演は,OEK初登場となる鈴木雅明さんの指揮で,モーツァルトとメンデルスゾーンを中心としたプログラムが演奏されました。鈴木さんといえば,バッハ・コレギウム・ジャパンの音楽監督として世界的に有名な方です。今回は,バッハよりはもう少し時代的には新しい古典派から初期ロマン派にかけての作品が取り上げられましたが,「さすが」という説得力十分の演奏を聞かせてくれました。特に演奏会の後半,今回のもう一つの目玉である,RIAS室内合唱団との共演で演奏されたメンデルスゾーンの宗教音楽は,知られざる名曲を再発掘してくれるような,素晴らしい演奏だったと思います。

演奏会の最初は,「スウェーデンのモーツァルト(何となくキダ・タローさんを思わせるキャッチフレーズですが...)」と呼ばれることのある,クラウスという作曲家のシンフォニアで始まりました。実質的には,序奏部とフーガからなる序曲といった感じの作品でしがが,OEKの響きがすっかり「鈴木雅明仕様」に変わっていたのがすごいと思いました。

弦楽器の音は軽やかで透明。しかしサラサラと流れすぎる感じではなく,しっかりと各声部が絡み合う壮麗さのある音楽を聞かせてくれました。ヴィブラートも控えめですっきりとした感じでしたが,極端に過激な古楽奏法という感じではなく,現代のオーケストラによる古典派音楽の演奏に相応しいバランスの良さを感じました。この日のティンパニは菅原淳さんでしたが,そのバロック・ティンパニの引き締まった音も印象的でした。響きが軽くなる分,ビシッと曲を引き締めているようでした。

続いて演奏されたのは,おなじみのモーツァルトの交響曲第40番でした。今回は,クラリネットが入らない初稿で演奏されたのですが,そのこともあるのか,甘い感じは消え,弦楽器を主体としたシリアスさが際立っていました。今回の演奏で特徴的だったのは,そのテンポの速さです。どの楽章も大変速いテンポでした。

ただし,どの楽章も繰り返しをきっちりと行っていましたので(第4楽章の後半も繰り返すのは,かなり珍しいと思います),演奏時間的には30分ぐらい掛かっていたと思います。その結果,全4楽章を通じて,どこまで行ってもクールな哀しみがヒタヒタと迫ってくるような感じになっていました。「疾走する哀しみはとまらない」といった感じの演奏だったと思います。

その一方で,単純に走るだけの演奏ではなく,要所要所でテンポを落として,ドキッとするような陰影を感じさせてくれる部分がありました。特に第4楽章のシンコペーションのリズムの部分など,「押しの強さ」があり,独特の深さが後に残りました。

鈴木さんの指揮に接するのは今回が初めてだったのですが,大変エネルギッシュな指揮ぶりが印象的でした。透明感のある響きと,裏に秘めた熱さとのバランスがどの曲も素晴らしいと思いました。

後半は,どちらも初めて聞く,メンデルスゾーンの宗教曲2曲が演奏されました。タイトルだけを見ると,「難解そう?渋そう?」という印象を持ったのですが,さすがメンデルスゾーン。両曲とも,初めて聞いても「良い曲だなぁ」と実感できる作品でした。

オラトリオ「キリスト」については,構想としては,ヘンデルの「メサイア」同様,キリストの生涯を3部に分けて描くはずだったのですが,メンデルスゾーンが早逝してしまったため,「キリストの誕生」と「キリストの受難」までしかできていません。その点では「未完成」なのですが,音楽自体はしっかり完成していると思いました。

それほど長い作品ではなく,ヘンデルの「メサイア」第1部の要素とバッハの「マタイ受難曲」の要素とが,うまく合わさったような充実感を感じました。特に第2部の方は,「10分で楽しむマタイ受難曲」といった感じで,大変魅力的な合唱曲(そのまま,演歌としても行けそうな感じ?)の後,コラールで締められていました。オーケストラは,ほぼフル編成で,その響きには,ロマン派音楽的な雰囲気もありましたので,バッハやヘンデルの作品以上に親しみやすい作品になっていたと思いました。

テノールの櫻田亮さんの役割は,受難曲の福音史家同様レチタティーヴォ中心で,その凜とした声は,宗教音楽にぴったりでした。RIAS室内合唱団もまた,素晴らしい声を聞かせてくれました。「室内」という名称が付いているとおり,音量で圧倒するという感じではなかったのですが,その声はビシッと締まっており,十分なボリューム感と素晴らしい安定感がありました。特に輝きのある高音が印象的でした。

演奏会の最後に演奏された,同じくメンデルスゾーンの詩編42番「鹿が谷の水を慕いあえぐように」の方は,タイトル的にはさらに渋そうな感じでしたが,実際には大変聞きやすく,気持ちの良い作品でした。

この曲では,ソプラノのリディア・トイシャーさんも活躍していました。その清潔感と伸びやかさのある声は,櫻田さん同様,宗教曲にぴったりでした。加納さんのオーボエと絡むように歌われる曲がありましたが,どちらにも芯のある強さがあり,聞き応えがありました。

この曲は,「神を待ち望まん Harre auf Gott!」というフレーズがキャッチフレーズのように繰り返される曲で,終曲に向かって力強く盛り上がって終わります。オーケストラと合唱団が一体となった,晴れ渡ったような輝きが素晴らしく,「生きる勇気」を与えてくれるようでした。

この日は,後半に知名度の低い曲を持ってくる冒険的なプログラムでしたが,見事に締めてくれました。

今回,初めて鈴木雅明さんの指揮に接したのですが,予想したよりもエネルギッシュで,透明感と同時に根源的な力強さを持った音楽を聞かせてくれる方だと思いました。機会があれば金沢で,鈴木さんの指揮による,バッハの作品も聞いてみたいものだと思いました。

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