OEKのCD

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2019/02/16

川瀬賢太郎指揮OEKの定期公演。ヴェーゼンドンク歌曲集は,藤村実穂子さんの素晴らしすぎる声に圧倒されました。メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」はかなり物語がカットされたのが残念でしたが,蟹江杏さんの版画とともに妖精の活躍するメルヘンの気分が伝わって来ました

本日は,川瀬賢太郎指揮OEKの定期公演を聞いて来ました。

まず,演奏会の前半,世界のオペラハウスで活躍するメゾ・ソプラノ,藤村実穂子さんを加えて,ワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集が演奏されました。この演奏は,本当に見事でした。これまでOEKと共演してきた歌手の中で,もっとも聞き応えのある歌を聞かせてくれた気がします。「圧倒された!」という感じでした。

まず声量が豊かで,曲のすべての部分で,クリアに声が聞こえてきました。無理に声を聞かせようという部分は無いのに,「これがワーグナーだ!」というドラマがしっかりと伝わってきました。オーケストラの中に声が埋もれることなく,凜とした強さのある声から,憧れに満ちた包容力のある声まで,約20分間,ワーグナーの世界に浸らせてくれました。

この歌曲集自体,「トリスタンとイゾルデ」と連動して作られている部分があるので,オペラを思わせる部分がありました。こういう歌を聞くと,是非,藤村さんの出演するオペラを一度観てみたいものだと思いました。川瀬さん指揮,OEKの演奏も,藤村さんにインスパイアされたように,表現力豊かな音楽を聞かせてくれました。

後半では,メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の全曲がナレーション付きの演奏会形式で演奏されました。まず,音楽付きの戯曲を,どういう形でコンサートホールで演奏するかが注目でした。今回は,ステージ背後にスクリーンを用意し,蟹江杏さんによる現代的な感覚と素朴な感覚とが混ざったような,不思議な味わいのある版画を投影しながら演奏するという形を取っていました。シャガールを思わせるような浮遊する感じは,妖精が活躍するメルヘン的な気分を盛り上げていたと思いました。

物語の方は,無名塾の若手俳優,進藤健太郎さんが,演出の田尾下哲さんによるオリジナル台本を朗読する形で進みました。進藤さんは,最初から最後まで登場するのではなく,メンデルスゾーンの音楽をしっかり聞かせながら,それを補う形でナレーションが入っていたのが,オーケストラの定期公演での上演としては,とても良かったと思いました。

ただし,シェイクスピアのオリジナルのストーリーをそのまま使うわけにはいかないので,大胆に省略されていました。「アテネの森の中での若い男女の四角関係」の部分がすっぽりとカットされ,妖精の王様オベロンと女王ティターニア,そして,オベロンの指示で色々な細工をする妖精パックのお話という形になっていました。演劇として,オリジナル版を観たことはないのですが...あんパンを食べたのにアンコが入っていなかったような感じで...個人的には少々残念でした。

ただし,川瀬さん指揮OEKの演奏は,序曲から素晴らしい演奏でした。じっくりと精妙な気分で始まり,妖精が出てくるぞーという気分になった後,爽やかな風が吹き抜けるように音楽が進んでいきました。ソプラノの半田美和子さんとメゾ・ソプラノの藤村実穂子さん,そして,OEK合唱団の女声合唱を加えた,子守歌風の曲の陶酔的な美しさも印象的でした。結婚行進曲はドラマの中盤の曲ということで,大げさに盛り上がりすぎることなく,穏やかに幸福感に溢れる気分で演奏されました。

進藤さんは,まだ若い俳優ということで,ちょっと硬い感じはしましたが,主要登場人物の声をしっかり描き分けており,ドラマがしっかりと伝わってきました。何よりとても聞きやすい声質で,音楽とマッチしていたのが良かったと思いました。

というわけで,演劇作品としての「夏の夜の夢」という点では少々物足りなかったのですが,音楽と美術が一体となった,メルヘン的な気分を伝える点では成功していたのではないかと思います。そして,前半に登場した藤村実穂子さん。是非,再度金沢で歌を聞きたいものです。忘れられない声でした。

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