#ユベール・スダーン 指揮OEKの定期公演は,「英雄」交響曲がメイン。「現代のスタンダートのベートーヴェンはこれだ」と思ってしまいました。#リーズ・ドゥ・ラ・サール さんによる憂いを持った「ジュノム」も最高でした。#oekjp
本日は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のプリンシパル・ゲストコンダクター,ユベール・スダーンさん指揮による,ベートーヴェンとモーツァルトによるプログラムを聞いてきました。昨年9月以来,スダーンさん指揮による,素晴らしく充実したウィーン古典派の音楽の数々を聞いてきましたが,本日の自信に溢れた「英雄」を聞いて,スダーンさん指揮OEKは最強のコンビだと確信しました。
最初に演奏された,モーツァルトの歌劇「皇帝ティートの慈悲」序曲から,引き締まった音と揺るぎない構築感を持った世界が広がっていましたが,後半のベートーヴェンの「英雄」は,その世界がさらに拡大され,もしかしたら「現代のスタンダードのベートーヴェンはこれかも」と思わせるほどの説得力十分の演奏を聞かせてくれました。
まず冒頭の和音2つの緊迫感に凄まじいものがありました。バロック・ティンパニの強く乾いた音とともに,弛緩することのないベートーヴェンの世界が始まりました。もちろん曲想の変化に応じて,柔らかい響きが出てきたり,滑らかなメロディラインが出てきたりするのですが,ベースは,速いテンポでキビキビと引き締まった緊張感がありました。ゴツゴツとした力強さがあったのも,私にとってのイメージどおりの「英雄」でした。
第2楽章も速めのテンポで,暗く落ち込むようなウェットな感じはなく,比較的サラリと演奏していました。そのことによって,楽章内の部分と部分の間での明暗の対比や楽器の重なり合いによるテクスチュアの変化などが,鮮やかに浮かび上がっていたと思いました。
第3楽章も快適なテンポ。中間部のホルンの重奏の部分も速めのテンポで生き生きとしたノリの良い音楽が続きました。第4楽章も同様でしたが,変奏曲形式ということで,次から次へと音の風景が代わり,前へ前へと進んでいきました。途中,管楽器が次々と活躍する部分での,花がパッ,パッと咲いていくような感じも鮮やかでした。
この部分では,何とクラリネットがベルアップをしていました。マーラーの交響曲の演奏を観るようなデフォルメの効果があった気がしましたが,演奏自体がビシッと引き締まっているので,違和感というよりはこれが正解と思わせる説得力を感じました。コーダの部分では,テンポが速くなるのではなく,平静さをしっかりキープした威厳のようなものが伝わってきました。見事なフィナーレでした。
スダーンさんのベートーヴェンは,以上のとおり非常によくまとまっており,部分部分がしっかりと組み合わさった構築感があるのですが,そのベースには,常に「熱」や「若々しさ」があります。その一方で,演奏全体に揺るぎのない自信が満ちており,安心して楽しむことができました。スダーンさんとOEKによるベートーヴェンについては,既に2年前の楽都音楽祭でその片鱗を聞いていますが(2番と6番),是非,全曲を聞いてみたいものです。
さてこの演奏会ですが,リーズ・ドゥ・ラ・サールさんをソリストに迎えての,モーツァルトの「ジュノム」協奏曲も素晴らしい演奏でした。リーズさんの音には常に詩的なセンスがあると思いました。第1楽章は全体的に軽快な音楽なのですが,カラッと晴れた感じというよりは,所々で憂いを感じさせるような,奥行きを感じました。
第2楽章はさらに憂いに満ちていました。静かだけれども,切々と迫ってくる感じが魅力的でした。中間部での強い表現は,曲全体のクライマックスを作っているようでした。第3楽章は,第1楽章以上に快速のテンポで演奏されました。リーズさんの見事な技巧に支えられたスピード感も素晴らしかったのですが,途中テンポをグッと落としたメヌエット風の部分での夢の世界に入り込んだような深さは全曲中の白眉だったと思いました。
アンコールでは,ケンプ編曲によるバッハのシチリアーノが演奏されました。この演奏が少しグレン・グールドを思わせるような,トツトツとした感じがあり何とも言えない孤独感が伝わってきました。ただし,エキセントリックな感じはなく,健康的な美しさを持っていたのがリーズさんの演奏の魅力だと思いました。
もともと,モーツァルトとベートーヴェンはOEKの最も大切なレパートリーですので,「良くて当たり前」的なところもありますが,今回の演奏を聞いて,さらにスダーンさんへの信頼が高まりました。同じプログラムで東京公演も行われますので,少しでも多くの方に聞いてもらいたいものです。
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