OEKのCD

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2019/11/29

岩城宏之さんの遺産の一つ,ジュリアン・ユー編曲による室内オケ版「展覧会の絵」は,多彩で大胆な響きの連続。大変楽しめました。津田裕也さんの「平然と美しい」ピアノによるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番も絶品でした。

昨日のリハーサル見学に続き,本日はオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演マイスター・シリーズを聞いてきました。指揮は,常任客演指揮者の川瀬賢太郎さん,ピアノは津田裕也さんでした。

本日の公演の面白さは,まず選曲にありました。最初にオリバー・ナッセンがムソルグスキーの作品をオーケストレーションした「ムソルグスキー・ミニアチュアズ」,次にショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番。最後にムソルグスキー作曲,ジュリアン・ユー編曲による室内オーケストラのための「展覧会の絵」が演奏されました。現代の作曲家がアレンジした,「ひねりの効いた」ムソルグスキーの作品と,いつもとは一味違って「結構,素直な感じの」ショスタコーヴィチという,川瀬さんこだわりのプログラムでした。そして,その狙いどおりの,大変面白い演奏会になりました。

最初の「ムソルグスキー・ミニアチュアズ」は小品2曲ということで,フルコースの前菜のような感じの位置づけでした。ムソルグスキーというよりは,メンデルスゾーンといった趣きのある,愛らしい曲2曲。この曲を聞きながら,作曲者の故オリバー・ナッセンさんは,大変体格が立派な方だったなぁということを思い起こしました。大きなナッセンさんが作った,珠玉の小品といった作品でした。

続く,ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番は,昨日,リハーサルを聞いたばかりだったので,特に面白く聞くことができました。古典的といって良いような明快さのある曲想で,両端楽章の生き生きとした表情がまず印象的でした。冒頭,ファゴットが軽快なメロディを演奏するのですが,飯尾洋一さんのプログラム解説に書かれていたとおり,「なるほど,チャイコフスキーの「悲愴」交響曲の第3楽章の主題とよく似ているなぁ」と思いました。

それを受けて出てくる津田裕也さんのピアノは非常にクリアで,力んだところのない,心地良い音を聞かせてくれました。派手なパフォーマンスはなく,平然と地に足のついたタッチで鮮やかな音楽を楽しませてくれました。初めて実演で聞く曲でしたが,「絶品!」と思いました。

第2楽章は,川瀬さんが「ショスタコーヴィチのすべての曲の中でも特に美しい部分」とおっしゃられていたとおりの楽章でした。ショスタコーヴィチの緩徐楽章は,美しさと同時に冷たさとか不気味さが漂うのが定番ですが,この楽章については,素直に美しく,ほのかにロマンティックな気分も漂っていました。息子(指揮者として有名なマキシム・ショスタコーヴィチ)のために書いた曲という点が反映しているのだと思います。津田さんのスタイルにぴったりの楽章でした。

第3楽章は再度軽快な雰囲気に戻りますが,途中,ピアノ練習曲の定番「ハノン」のパロディ風パッセージが出てくるあたりが面白いところです。津田さんは,この部分も平然と鮮やかに演奏しており,お客さんは唖然として聞いているといった感じでした。

アンコールで演奏されたショパンのマズルカのしっとりとした落ち着きも絶品でした。金沢の冬の空気にピッタリでした。

後半の「展覧会の絵」は,数あるこの曲の編曲の中でも特に型破りなものだと思います。OEKは故岩城宏之さんとこの曲を演奏しており,CD録音も残していますが,実演で聞くとそれを遙かに上回るような面白さを体感できました。多彩で大胆な響きの連続でした。

岩城さんの録音と違うのは,弦楽器の人数をOEKの通常の編成で演奏していることです。特にジュリアン・ユーの楽譜には人数についての指示はなく,岩城さんは弦楽器各1名という「超室内オケ」編成で演奏していたのですが,今回は編成を大きくすることで,より響きの多様性が表現されていたと思いました。

「展覧会の絵」といえば,まず「プロムナード」のメロディが印象的ですが,ジュリアン・ユー版では,ヴィオラが演奏します。ラヴェル版でのトランペットとはあえて正反対の音を使ったという感じです。この日は,おなじみダニール・グリシンさんが担当していましたが,あらためて「素晴らしい音だ」と思いました。大きく浮遊するような,不思議な大らかさが漂っていました。基本的にプロムナードが出てくるたびにグリシンさんが活躍していたので,絵を見て回っている「お客さん」役を担当していたとも言えます。

その次に活躍が目立ったのが,エキストラの河野玲子さんをはじめとする打楽器奏者の皆さんでした。シロフォンなどの鍵盤打楽器が加わって,急に「中国風」の雰囲気になったり,多種多様な音を楽しませてくれました。

その他の楽器(というが,すべてのパートだと思います)も,特殊奏法続出で,次から次へと音色やテクスチュアが変化していきました。ピアノ版だと素直に一続きのメロディを,複数の楽器に分けて,妙なぎこちなさを強調したり,管楽器の方々に「音」を出さずにヒューという息の音だけを出させたり,SF映画の音楽のようになったり...「技のデパート金沢支店(?)」という感じでした。恐らく,バランス良くまとめるのは難しかったと思うのですが,川瀬さんは非常に精緻,かつ生き生きと各曲を聞かせてくれました。

最後の「キエフの大門」も独特でした。最後の最後の部分は...最近では「珍百景」の音楽ですが...大げさに盛り上がるのを避け,室内楽的な雰囲気のまま進んでいきました。そして最後,チャイムの音の余韻をしっかりと響かせて静かに終了。諸行無常の響きあり,といったところでしょうか。

実は,昨日のリハーサルの時,川瀬さんは「お客さんには,最後の音の余韻をしっかり持ち帰って欲しい。アンコールはなしにしましょう」といったことを語っていました。「なるほど,アンコールなしで正解」と思いました。

色々なアイデアの詰め込まれた,OEKの遺産を発掘した今回の演奏会は大成功だったと思います。演奏会全体の時間的にはやや短めでしたが,新鮮な「展覧会の絵」を中心に,OEK以外では聞けないようなプログラムをしっかりと楽しめた演奏会でした。

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