OEKのCD

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2020/10/22

久しぶりに #石川県立音楽堂 に登場した #井上道義 さん指揮OEKによる,思い切りの良くスイート&スマートな音楽の数々。コロナ禍の中で「心からのプレゼント」をもらったよう。まさに企画の勝利といった演奏会でした。#oekjp

今晩は,OEKの音楽監督退任後,久しぶりの定期公演の登場となった井上道義さん指揮による公演を楽しんできました。

今回のポイントは,26年前に井上さんとOEKが作ったアルバム「スイート」の中から選曲していた点です。コロナ禍の影響で,当初の指揮者マルク・ミンコフスキさんが来日できなくなり,「一体どうなるのだろう?」と心配をしていたのですが,それを逆手に取るように,通常の定期公演では「ありえない」ような,耳あたりの良い小品~中規模の作品ばかりを集めたプログラムとなりました。このプログラムを思い付いたのがどなただったのかは分からないのですが,まさに「企画の勝利」だったと思います。

この日のOEKの編成は打楽器なし,トランペットも登場したのが一か所だけでしたが,そのことによって,プログラム全体に「品の良さ」と言ってもよいような統一感が生まれていたと感じました(そもそも,そういうコンセプトのアルバムだったので,まとまっていた当然とも言えます)。長年,OEK定期公演を聞いてきたファンは「時にはこういうプログラムも良いなぁ」と感じ,あまりクラシック音楽の演奏会を聞いたことのないお客さんにとっては,素直に心地よい音の流れに身を任せることができたのではないかと思います。

アルバム「スイート」を聞いた時はあまり意識をしていなかったのですが,実は,全部作曲者が違い,国籍もバラバラという選曲でした。本家「スイート」に収録されていたR.シュトラウスの「カプリッチョ」の序奏だけは,今回演奏されなかったのですが,この曲を外したことで,全7曲の作曲者の出身国が見事にバラバラになりました。次のとおりです。

バーバー(アメリカ)→ラフマニノフ(ロシア)→マスカーニ(イタリア)→クライスラー(オーストリア)→ディーリアス(英国)→ワーグナー(ドイツ)→サン=サーンス(フランス)

コロナ禍の中で海外旅行がほとんどできなくなった現在,音楽で世界一周というコンセプトもこの日のプログラムにはありました。

演奏の方は,バーバーの弦楽のためのレクエム,ラフマニノフのヴォカリーズと,悲しみをたたえたような音楽が続いた後,カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲の途中からは,明転していく感じでした。オルガンのステージの部分の照明がこの曲の時だけ明るく輝いていました。井上さん指揮OEKの演奏は,悲しい曲でもドロドロした感じにはならず,透明感あふれる弦楽器を主体としたスタイリッシュな美しさの方が際立っていたのですが,カヴァレリア・ルスティカーナの途中での「濃い表現」がとても印象的で,この部分は元祖「スイート」のあっさりした美しさよりも良いなぁと思いました。

続いての「愛の悲しみ」では,この日のコンサートマスター,水谷晃さんのソロをフィーチャーしての弦楽合奏。編曲者の名前までは書いてなかったのですが,この弦楽合奏+ヴァイオリン独奏版は,まさにOEK向きでした。水谷さんの憂いを帯びた,クリーミーな音が大変魅力的でした。

ディーリアスの「春初めてのカッコウを聞いて」は,アルバムの方では最初に収録されている曲。CD同様,さわやかな風が感じられる心地よい音楽なのですが,実演できくと,曲の最初の部分から「ディーリアスだぁ」という空気感がウヮっと伝わって来て,何とも言えない幸福感に包まれました。次のワーグナー「ジークフリート牧歌」もつつましい幸福感に包まれた音楽でした。曲の終盤,ホルンやトランペットが出てくるあたりは,ワーグナーの楽劇のテイストも出てきます。トランペットの藤井さんは最後列で立ち上がって演奏されていましたが,こういう見せ方,聞かせ方も井上さんならではですね。

そして,コロナ禍の中での「世界一周旅行」の最後は,旅の終りを惜しむような,しみじみとした味わいを持ったサン=サーンスの「白鳥」。チェロの独奏は,この日の客演首席奏者だった,マーティン・スタンツェライトさん(広島交響楽団首席奏者とのことです),ハープは松村衣里さんでした。マーティンさんのチェロにはまっすぐな美しさと透明感があり,聞いていてだんだんと切なくなってきました。ハープの松村さんは,「白鳥」を思わせるような白い衣装に着替えて登場。優しくしっかりと白鳥をささえているようでした。さらには弦楽合奏も薄く伴奏をしていたのも,「スイート」な気分を盛り上げていました。

このアルバム「スイート」は,いわゆるBGM的に聞き流せるようなところもあるのですが,じっくり聞くと味わい深い曲ばかり。そのことをよく分かった,井上さん指揮による「愛に溢れた」演奏ばかりだったと思いました。

最後にアンコールとして,唯一,「スイート」に含まれていない曲が演奏されました。世界一周の終点は「日本」ということで,井上さんのアンコール曲の定番,武満徹作曲の「他人の顔」のワルツが演奏されました。いつもどおり,井上さんの「指揮=ダンス」にぴったりの流れるような音楽。時々,大きく溜めを入れたり,自由自在の演奏。締めはクルリと一回転して,お客さんの方を向いておしまい。井上さんは「コロナ禍でも私は元気です。」と語っていましたが,そのことを証明するようなキレ味の良い指揮ぶりでした。

というわけで,この演奏会。考えてみると奇蹟のような公演だったのかもしれません。パンデミックが起こって,国と国の間の人の行き来が止まる事態は誰も予想できなかったし,ミンコフスキさんの代わりに井上さんが登場することも予想できなかったし,ベートーヴェンの交響曲の代わりにカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲が演奏されることも予想できなかったし...。予想を超えたことが起こるのが,ライブで音楽を聞くことの何よりもの楽しみだと思います。こういう演奏会ができたのも,井上さんとOEKの長年の結びつき,そして,このコンビを支えてきた,金沢の聴衆の力もあったからなのかな,と思いました。

今回,改めてクラシック音楽の小品集の魅力のようなものを実感することができました。井上さんとOEKには,「好評につきモア・スイート」といった続編コンサートを期待したいと思いました。

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