五輪開会式と同時間帯に行われた2020/21シーズン最後のOEK定期公演は,正真正銘の「巨匠・井上道義」と神尾真由子さんの神技による聴きごたえ十分のプログラム。シューベルト4番とハイドン102番の2曲の交響曲の立派さ,プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番の底知れぬ魅力。堪能しました。#oekjp
7月23日東京オリンピック2020の開会式とほぼ同時間帯に行われた(22:45現在,まだまだ開会式は続行中ですが),OEK定期公演を聞いてきました。指揮は前音楽監督の井上道義さん,ヴァイオリン独奏は神尾真由子さんでした。
このお二人は「代役」としての登場で,それと連動して,プログラムも全面的に変更になったのですが,その新たなプログラムはシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」,プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番,ハイドンの交響曲第102番というかなり地味なもの。一般的な知名度の低い曲ばかりだったのですが,まず,このプログラミングが大変魅力的でした。OEKにぴったりの曲ばかりを並べた,聴きごたえのある演奏の連続。さすが井上道義さんという選曲でした。
シューベルトとハイドンの交響曲はどちらも大変堂々とした演奏。考えてみると,私自身,井上道義さんが交響曲を指揮するのを聴くのは,2018年3月の「最後の定期公演」以来のことでしたが,まさに巨匠の風格と余裕を感じさせる見事な指揮ぶりでした。もちろん,井上さんらしい,ユーモアやアイデアも随所に盛り込まれていましたが,両曲とも第1楽章冒頭の序奏部から,非常に構えが大きく,ずしっと耳に迫ってくる音楽を聞かせてくれました。
各曲の第2楽章なども,ブルーノ・ワルターなどの往年の大巨匠の演奏を思わせるような,滋味深さを感じさせるような深い味わい。両曲とも第1楽章の呈示部の繰り返しも行っておらず,あえて,「古いスタイル(しかし,思う存分やりたいことをやった)」の演奏を取っているような感もありました。最終楽章には,若々しい気分もありましたが,OEKとの絶妙の呼吸を聞かせてくれた,ハイドンの第4楽章の終結部の緩急自在の味わいなど,名人芸としか言いようのない,リラックスした楽しさがありました。
最初に演奏されたシューベルトの交響曲第4番は,OEKが演奏するのは本当に久しぶりだと思いますが,演奏会の最後に演奏しても満足できるような聴きごたえがありました。
そして,この日の白眉は,2曲目(後半1曲目ですが)に演奏された,神尾真由子さんの独奏によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番でした。OEKは,プロコフィエフの2番は頻繁に演奏しているのですが,第1番を実演で聴くのは私自身初めて。そして...名曲の名演奏だと思いました。曲の最初のヴィオラのトレモロの部分など,CDだとよく分からないのですが,実演で聴くととてもリアルで一気に曲の魅力に引き込まれました。
神尾さんのヴァイオリンには,その名のとおり”神”がかりの”神”技といって良い雰囲気がありました。神尾さんは以前からこの曲を得意にしているとのことですが,両端楽章での夢幻的でポエティックな気分,急速な第2楽章でのゾクゾクさせるスリリングな魅力。井上さんの共感度抜群のバックアップの上で,多彩な表情を表現し尽くしているようでした。これまで,井上さんと神尾さんのコンビで色々な協奏曲を聞いてきましたが,その中でも「最高」の演奏だったのでは,と思いました(この2人のコンビでCD録音を期待したいところです)。
というわけで,井上さん自身,事前のインタビュー動画の中で「オタッキー」と呼んでいたプログラムでしたが,OEKの新たなレパートリーを切り開く,素晴らしい内容だったと思います。会場のお客さんからも盛大な拍手が続き,大いに盛り上がりました。「巨匠・井上道義」と「神尾真由子の神技」による誰もが満足できる公演でした。
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