OEKのCD

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2022/03/05

鈴木雅明指揮 #oekjp による第9公演。個人的には...過去実演で聴いた第9の中でも最高でした。プロの合唱団の素晴らしさ,そして4人のソリストによるオペラのような声の饗宴。その中から平和を希求するメッセージが伝わってきました。 #森谷真理 #池田香織 #小堀勇介 #大西宇宙 #東京混声合唱団

本日は鈴木雅明さん指揮によるOEK定期公演を石川県立音楽堂で聴いてきました。本来は,OEK芸術監督のマルク・ミンコフスキさん指揮による,ベートーヴェン全交響曲チクルスの「締め」の公演となるはずでしたが,今年もまた,コロナ禍の影響で指揮者は鈴木さんに交代となりました。

演奏されたのはベートーヴェンの第九 1曲のみ。その演奏は...個人的に過去実演で聴いた第9中,最高の演奏でした(比較できるほど何回も第9を聴いてはいるわけではないのですが...)。ソプラノ:森谷真理,アルト:池田香織,テノール:小堀勇介,バリトン:大西宇宙という素晴らしい4人のソリストに加え,合唱は東京混声合唱団。プロの合唱団による第9を聴くこと自体がまず大変貴重なことですが,すべてが高次元・異次元の第9を聴かせていただいた気がしました。

この日のOEKの編成は,かなり大きく,弦楽器は第1ヴァイオリン10,第2ヴァイオリン8,ヴィオラ6,チェロ6,コントラバス4という特別編成。そのこともあり,どの部分を取っても音に力がありました。鈴木雅明さんのテンポは,第1楽章冒頭から,全く弛緩することのない,ぐいぐい迫ってくるようなやや速目の設定。各パートがくっきりと聞こえ,そこには,意志の強さを感じさせる熱気が常に漂っていました。この日も,アビゲイル・ヤングさん,水谷晃さん,松井直さんの3人のコンサートマスターが揃っていましたが,いつもにも増して,表現の幅が広く,力強い弦の響きを聞かせてくれました。

第2楽章も,キビキビとしたテンションは継続。この日はバロック・ティンパニを使っていましたが,全楽章を通じて力感のある見事な音で,OEKの音を引き締めていました。トリオの部分での流れるようなスピード感も印象的でした。そして,後半,通常カットされることの多い,繰り返しも行っており,「おおっ」と思ったのですが,全く弛緩することはありませんでした。

第3楽章では,弦楽器の歌いっぷりが印象的でした。テンポはやや速目ぐらいだったと思いますが,しっかりとした歌を堪能した感じでした。途中,ホルンが音階のようなフレーズを演奏する部分が印象的です。この音も爽快。その後,テンポが少し上がって,さわやかな感じになる部分が好きなのですが,その期待どおりの演奏でした。楽章最後に警告するように加わるトランペットのピリッとした感じも良かったですね。

そして,第4楽章。やはり,この日の最大の聴きものでした。まず,合唱団の皆さんですが,この楽章に入る時に「特製マスク?」を着用。この時点では4人のソリストは入っていませんでした。これまでの楽章同様,オーケストラは気合十分の音で(ただし荒れ狂う感じではなく),始まった後,「歓喜の歌」が低音パートにさらっとした感じで登場。それが段々盛り上がったところで,いよいよバリトンなのですが...どこ?

ここで上手のドアがパッと開いて,大西宇宙さんが登場。「O Freunde...」と歌っては歩き,歌っては歩きという感じでステージ中央へ。大西さんにパッとスポットライトが当たったような鮮やかな出方でした。そして,声がまた素晴らしく,「この場の主役!」というオペラの一場面を観るような雰囲気になりました。そして,その他の3人の歌手も入場。

この日出演した4人の歌手は,今日本で最も活発に活動されている歌手ばかりということで,4人で歌う部分には,まさに声の饗宴のような華やかさがありました。ステージにいちばん近い場所で,歌っていたこともあり,「お客さんにしっかりメッセージを伝えよう」という気分がビシビシと伝わってきました。続いて,テノールのソロへ。小堀さんは,大変軽やか,そして,よく通る声で,会場は清々しい気分に。トルコ行進曲風の部分もとても爽快でした。

「歓喜の合唱」が力強く出てくる部分は,怒涛のような(?)素晴らしさ。何だか分からないけれども,凄いものが伝わってくるぞ,という「さすがプロ」という合唱でした。その後,満を持してトロンボーンが登場し,再度気分が変わりますが,この部分での合唱も見事でした。アマチュアの合唱団だと,どうしても「高音部が大変そう」という感じになりますが,美しさと輝きのある余裕の合唱でした。フーガの部分になると,宗教音楽を思わせる雰囲気に。そういえば,この宗教音楽は鈴木さんの専門の世界だったなぁと改めて思い出しました。

この部分が終わると,再度,4人のソリストによるオペラのアンサンブルのような気分に。第9の4楽章は,この日のプログラムで飯尾洋一さんが書かれていたとおり,多様式な音楽なのですが,本日の演奏は,そのことを生き生きと感じさせてくれました。

全曲の最後は,十分盛り上げつつも,しっかりと噛みしめるような落ち着きも感じられました。鈴木さんは,今回の公演について,「平和を希求する第9に」といったコメントを述べられていますが,ただのお祭り騒ぎではない,力強いメッセージが伝わってくるような終結部でした。

今回の第9については,昨年末の第5波が収まっていた時点では,「コロナ禍収束記念の第9にならないかな」と個人的には期待していたのですが,そういうわけには行きませんでした。そして,ロシアのウクライナ侵攻という,新たな世界的な危機を迎える中で演奏されることになりました。OEKがこの曲を本拠地で演奏する機会は他のプロオーケストラに比べると非常に少ないのですが,それだからこそ,色々なことを感じさせてくれる公演になったと思いました。

PS. ミンコフスキさん指揮OEKによる第9...これは本当にコロナ明けにリベンジで聴いてみたいものです。

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