OEKのCD

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2022年7月

2022/07/15

#oekjp の2021/22年シーズンを締めくるフィルハーモニー定期は,広上淳一さん指揮による,バッハ,ブルックナー,リストの編曲ものという独特のプログラム。そして,OEKを自在にドライブした,濃厚かつ楽しさの溢れる,新シーズンの期待を高める演奏ばかり。ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲での小林美樹さん演奏にもすっかり魅せられました。

本日はOEK2021/2022年シーズンを締めくる定期公演フィルハーモニー・シリーズを石川県立音楽堂で聴いてきました。指揮は,9月からOEKのアーティスティック・リーダーに就任する広上淳一さん,ヴァイオリンは小林美樹さんでした。このプログラムが決まった時には,就任のことは決まっていなかったと思いますが,広上さんらしさが存分に発揮された,楽しく・新鮮・聴きごたえのある公演となりました。

まずプログラムが非常に個性的でした。通常,定期公演の場合,「交響曲で締める」のが定番ですが,この公演に交響曲はなく。その代わりにOEK単独で演奏したのは,編曲作品ばかり。ウェーベルン編曲のバッハは以前に定期公演で取り上げられたことがありますが,それ以外の作品は初めて聴く曲ばかりでした。それぞれにキャラクターが違う曲ばかりで,新しくスタートを切る広上&OEKコンビの魅力のエッセンスをデモンストレーションするようでした。

最初に演奏された,ウェーベルン編曲のバッハの「音楽の捧げもの」の6声のリチェルカーレは,飯尾洋一さんがプログラムに書かれていたとおり,私にとっても,かつてNHK-FMで放送していた「現代の音楽」という番組のテーマ曲のイメージがいまだにあります。冷たく不気味な雰囲気というイメージを持っていたのですが,広上さん指揮OEKの演奏には,暖かみのような空気感があり,絶妙の調和のある音楽となっていた気がします。石川県立音楽堂の音響の力もあると思いますが,この曲も「古典」になったのだなぁと感じさせてくれました。

その後,ヴァイオリンの小林美樹さんとの共演による,ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲でした。意外なことに。OEKがこの曲を取り上げるのは今回が初めてとのことです。トロンボーンが入らない曲で,チャイコフスキーの協奏曲などとほぼ同じ編成なので,「なぜか盲点になっていた」としか言いようがない感じです。そして,今回初めて演奏を聴いた,小林美樹さんのヴァイオリンがお見事でした。すっかりファンになってしまいました。小林さんのヴァイオリンには,技をひけらかすような感じはなく,音色も落ち着いた感じでした。演奏全体に堂々とした自信ががあふれ,安心してドヴォルザークの音楽に浸ることができました。

第3楽章は次々と多彩なメロディが湧き上がってくる,ドヴォルザークらしい音楽です。小林さんは,広上&OEKの作り出す表情豊かな音楽にぴたりと絡み合い,曲の終結部に向けて,どんどんテンションが上がっていくのがスリリングでした。室内楽を演奏するような密度の高さと同時に,演奏全体に漂う雰囲気には,何とも言えない「華」もあり,「良い音楽を楽しませてくれたなぁ」という充実感が後に残りました。

鳴りやまない拍手に応えて演奏された,品格が高く,ホール全体に染み渡るようなバッハも素晴らしい演奏でした。

後半最初に演奏されたのは,ブルックナーの弦楽五重奏曲ヘ長調の中のアダージョ楽章を,ベルリンフィルのホルン奏者,ラデク・バボラークが弦楽合奏用に編曲したものでした。恐らく,OEKが初めて演奏したブルックナーですね。曲自体が素晴らしく美しい作品でした。交響曲作曲家であるブルックナーの「隠れた名曲」ですね。「アダージョ」というほど,テンポが遅い感じはせず,色々な楽想が次々出てる感じの親しみやすさがありました。途中,首席ヴィオラ奏者のダニイル・グリシンさんによる,非常に雄弁なソロが出てきたり,メロディの美しさだけでなく,何かを語りかけてくるような意味深さも感じました。中間部では,広上さんの大きな指揮の動作に合わせて,ぐわーっと盛り上がりました。濃厚さはあるけれども爽やかさも漂うような演奏だったと思います。

演奏会の締めは,トバーニ編曲によるリストのハンガリー狂詩曲第2番でした。非常に有名な,いわば「通俗名曲」といっても良い作品なので,定期公演のトリとして演奏されることは,ほとんどない曲ですが,ブルックナーの後で聴くと,その静と動のコントラストの面白さが際立つ感じでした(開放感を感じました)。トバーニの編曲ですが,楽器の使い方は,通常耳にすることの多い版(飯尾さんの解説によると,ミュラー=ベルクハウス版)とほぼ同じで,楽器編成がコンパクトになっただけ(=OEKのための版)といった印象でした。

冒頭の弦楽器の音からゴージャスで,前半は,遅いテンポをぐっとキープする広上さんの楽しそうな顔が目に浮かぶようでした。後半は軽快な感じになりますが,それでも慌てる感じはなく,ケレン味たっぷりにもったいぶったり,やんちゃな感じで特定の弦楽器を強調したり,オーケストラ音楽の楽しさがあふれ出てくるような演奏でした。広上さんを含め,メンバー皆が音楽を楽しんでいるような演奏だったと思います。

その後,広上さんから一言あいさつがあった後(定期公演に大勢の人に来てもらい,「心の居酒屋」のようになって欲しい...といった言葉が印象的でした),シベリウスの「悲しいワルツ」がアンコールで演奏されました。この曲もまた,じっくりとしたテンポと抑制された音で開始。体全体を使った,広上さんならではの指揮で,OEKを見事にコントロールしていました。最初の方は弦楽合奏なのですが,途中,パッと光が差し込むように,松木さんのフルートが入ってきます。この部分でのゾクッとするような気分の変化が素晴らしいと思いました。

広上さんのアイデア満載の選曲と演奏ということで,新シーズンへの期待が一層広がった演奏会でした。

2022/07/09

#oekjp 定期マイスターシリーズ2021/22の最終公演は,プリンシパル・ゲストコンダクターとしての登場が本日で最後となるユベール・スダーンさん指揮。シューマンの2番では,その思いが力強い音になっていた。ラヴェルの協奏曲での見事にコントロールされた,三浦謙司さん美しいピアノも見事でした。

本日はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演マイスターシリーズ2021/2022の最終公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。指揮はユベール・スダーンさん,ピアノは三浦謙司さんでした。

OEKは今度の9月から指揮者陣の体制が変更になりますので,スダーンさんが,プリンシパル・ゲストコンダクターとしてOEKを指揮するのは本日が最後ということになります。そのことも反映してか,いつもにも増してスダーンさんの「思い」がOEKの音に強く反映しているように思えました。

この日のプログラムは,前半がフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲とラヴェルのピアノ協奏曲というフランス音楽。後半はシューマンの交響曲第2番。すべて聴きごたえのある演奏でしたが,特に,最後に演奏されたシューマンの交響曲第2番は,これからもスダーンさんとセットで強く記憶に残るような演奏だったと思いました。

この曲については,シューマンの不健康な精神状態が反映した曲と言われています。確かに,第1楽章などはハ長調なのに,冒頭の金管のファンファーレからどこか沈んだ雰囲気が漂っています。しかし,本日の演奏は,楽章を追うに連れて,健康的な気分に変わっていくように思えました。スダーンさんの指揮ぶりは,急速なテンポでも,手綱をビシッと締めており,第2楽章などはずっしりとした安定感を感じました(この楽章の終了後,スダーンさん自信,オーケストラに向かって拍手をしてびっくり)。

第3楽章の美しく自然な歌も素晴らしかったですね。第4楽章は迷いのない力強い音で開始。ドイツ風の行進曲を聴くような充実感がありました。コーダの部分では,ティンパニが曲全体を支配するような素晴らしい強打を聴かせてくれて,見事に締めてくれました。

この日は,前半のフランス音楽の時は通常のティンパニ,後半のシューマンではバロックティンパニを使っていましたが,その独特の落ち着きのある音が威力を発揮していました(演奏後,スダーンさんは各奏者を立たせていたのですが,ティンパニの方を立たせるのを忘れていたようですね)。

前半では,三浦謙司さんと共演したラヴェルのピアノ協奏曲が素晴らしい演奏でした。OEKは過去何回も演奏してきた曲ですが,今回の三浦さんのピアノは,どこを取っても言うことなし,という素晴らしい演奏でした。無駄な力は入っていないので,どの音もくっきりと聞こえ,この曲の持つ多彩なニュアンスが大げさに演奏しなくてもしっかりと伝わってきました。そして急速なパッセージでの鮮やかさ。平然と演奏するクールさがラヴェルにぴったりだと思いました。第2楽章もしっとりとしているけれども,ベトつくことはなく,底光りするような美しさを感じました。第3楽章も切れ味が良かったですね。

OEKの方は,管楽器を中心に,各パートがソリストになったような演奏を聴かせてくれました。特に小クラリネットを演奏していた,この日のエキストラ吉田誠さんの明るく主張する音が印象的でした。急速なテンポということで,楽器によっては,少々,雑然とした感じに聞こえるような部分もあったのですが,これもまたこの曲のキャラクターとも言えると思いました。両端楽章で,賑々しく活躍していた打楽器チームも,ムチの音をはじめ,要所要所でビシッと演奏を引き締めていました。

アンコールでは三浦さんの独奏でマルチェロのオーボエ協奏曲の第2楽章が演奏されました。ピアノ独奏版で聴くのは初めてでしたが,その淡々とした音の美しさにすっかり魅了されました。三浦さんのソロ・リサイタルの聴いてみたいと思いました。

最初に演奏されたフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲もOEKは何回も演奏してきている曲です。松木さんの爽やかなフルートが楽しめた「シシリエンヌ」も良かったですが,最後の「メリザンドの死」のその最後の部分,音楽がパタっと止まって静寂が訪れる部分が「すごい」と思いました。

全曲の演奏後,スダーンさんは英語で挨拶をされて,アンコールを1曲演奏しました。シューマンのトロイメライを管弦楽用に編曲したものでした。ヨーゼフ・シュトラウスという人名が耳に残りましたが,どこか後期ロマン派風のトロイメライという美しさがありました。スダーンさんの「置き土産」という感じの演奏でした。

スダーンさんがプリンシパル・ゲストコンダクターとしてOEKを指揮するのは今回で最後となりますが,まだまだ,OEKと演奏して欲しい曲はありますね。

2022/07/01

早くも梅雨が明けてしまった週末,原田智子ヴァイオリンリサイタルへ。重量感のある前半とSPレコードの世界を思わせる後半。そして永遠に続いて欲しいような「揚げひばり」。センス抜群の素晴らしい公演でした

早くも梅雨が明けてしまった金曜日の夜,OEKのヴァイオリン奏者,原田智子さんのヴァイオリン・リサイタルを金沢市アートホールで聴いてきました。ピアノは倉戸テルさんでした。原田さんは毎年のようにリサイタルを行っていますが,ますます絶好調という感じで,今回も素晴らしい演奏を楽しませてくれました。

今回,何夜も素晴らしかったのは,選曲・構成だったと思います。前半最初に,J.S.バッハの無伴奏の「シャコンヌ」,続いてブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番。どちらも後半のトリに来ても良いような重めの作品でしたが,それらをバシッと聞かせた後,後半はハイフェッツやクライスラー編曲による小品3曲。最後はイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番から第1楽章「夜明け」とヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」。最後の2曲は,続けて聴くと,どこか響き合うような,共通する味わいを感じました。

というわけで,センス抜群の選曲と構成でした。

演奏の方は,いつもどおりの原田さんの音と表現を楽しむことができました。ビシッと引き締まった緻密で密度の高い音をベースに,熱く歌ったり,虚無的にクールに決めたり...自由自在に原田さんの世界を聞かせてくれました。最初のシャコンヌを聴くのは2回目だと思いますが,大げさになり過ぎず,辛口な雰囲気の中から段々と味わい深さが増して来るようでした。

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番では,倉戸さんのピアノの豊かで余裕たっぷりの音と相俟って,スケールの大きな音楽を楽しませてくれました。第2楽章でのじっくりと語り合うような深さも素晴らしかったですね。

後半の最初の3曲は上述のとおり,小品3曲でした。こういう親しみやすい曲が並ぶと,前半のアンコールのような感じなり,会場の雰囲気がどんどん盛り上がってくるようでした。単に親しみやすいだけでなく,その中に「人生の苦み」のようなテイストがあるのも良いなぁと思いました。

イザイの無伴奏の曲は実演で聴くのは初めてでしたが(多分),かすれるような弱音から始める雰囲気が非常にミステリアスで,「いいなぁ」と思いました。別世界が広がっていくようでした。そして,その後に演奏された「揚げひばり」の方も冒頭のヴァイオリンソロの部分の高く雲雀が飛翔するような感じが魅力的で,さらに異次元の世界に入ったようでした。静かな雰囲気で演奏会を占めるのが,非常にセンスが良いなぁと思いました。

アンコールで演奏されたのは,フォスターの「金髪のジーニー」。後半最初の3曲に通じる親しみやすい曲で,SPレコードを生で聴いているような充実感を感じました。

原田さんのリサイタルではこれまで,聴きごたえのあるソナタなどを中心に演奏してきましたが,今回のような小品を交えてプログラムも面白いなぁと思いました。というわけで...原田さんのリサイタルには,今後さらに期待をしたいと思います。

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