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2022年9月

2022/09/25

北陸初となる石田組ツアー2022/2023金沢公演@北國新聞赤羽ホール。前半のクラシック+後半の映画音楽+ロック音楽,どの曲からも石田組長とメンバーの真面目さと秘めた熱さが伝わってきて,存分に楽しめました。いつかOEKとの共演など実現して欲しいものです。

本日の午後は,神奈川フィルの首席ソロ・コンサートマスター,石田泰尚さんを中心とした弦楽アンサンブル,石田組の演奏会を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。石田さんについては,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のゲスト・コンサートマスターとして金沢に来られたことはありますが,「石田組」として北陸で演奏会を行うのは今回が初めてです。というわけで,単純に「テレビの音楽番組に出ている人たちを生で見られる」「一度は聴いておかねば」という軽い感じで聴きにいくことにしたのですが...その気合いの入った演奏に改めて感銘を受けました。

前半はモーツァルトとメンデルスゾーンという,オーソドックスなクラシック音楽。後半は,石田さんのソロによるピアソラの後,映画音楽や古典的なロック音楽を弦楽合奏で演奏するという構成でした。

まず前半の室内楽が良かったですねぇ。1曲目のモーツァルトのディヴェルティメントK.138は,石田組長抜きの弦楽四重奏編成。ただし組長のテイストを反映したように,ビシッと美しく聴かせてくれました。2曲目は,メンデルスゾーンの八重奏曲でした。チラシにはこの曲が掲載されていなかったので,大好きなこの曲がプログラムに載っているのを見て,「おっ」と思いました。

石田組については,公演のたびに編成が変わるそうですが,今回はヴァイオリン4,ヴィオラ2,チェロ2の8人。まさにこの曲にぴったりの編成でした。メンデルスゾーンが10代の頃に書いた,「天才の証拠」のような作品ですが,石田組に皆さんは,慌てず騒がず,充実感のある引き締まった音楽を聴かせてくれました。第4楽章の最初の部分は,チェロ,ヴィオラ,ヴァイオリンの順に1人ずつ速いパッセージを弾いて開始します。今回の配置だと音が左右に飛び交っていたので,「組内の派閥抗争か?」という感じでしたが,すぐに一体感とスピード感のある音楽へ。キリッとした格好良さのある音楽になっていました。

後半は石田さんの独奏によるピアソラのアディオス・ノニーノで開始。孤高のソロっという感じが格好良かったですね。じっくり聴かせる曲で,クラシック音楽として定着していっても良い曲では,と思いました。

その後,メンバー紹介や組員の決め方などについての楽しいトークが入った後,映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ。このアラン・シルヴェストリの音楽は,何回聴いても気分が高揚します。弦楽器によるキリキリとした輝くような感じにもぴったりでした。

映画「シンドラーのリスト」は,ヴァイオリン独奏曲の定番ですね。石田さんの真摯なソロをしっかり楽しめました。映画「荒野の七人」のテーマは,この映画のみならず西部劇全体のテーマ曲のような作品。ユニゾンが美しく,「石田組の八人」といった団結力を感じました。

最後はロック音楽の古典2曲。実は,個人的にこの分野がいちばん知識がない分野です。レッド・ツェッペリン「天国への階段」,ディープ・パープル「紫の炎」の両曲とも名前だけは聞いたことはありますが,よく知らない曲でした。ただし,今回聴いてみて,弦楽合奏で聴いても全く違和感がないと思いました。

「天国への階段」の方は,かなりメロディアスな曲で,ヨーロッパの民謡のような親しみやすさを感じました。最後の方,ヴィオラがうなるような感じになったり,音楽の熱気が増していく感じが良いなぁと思いました。

トリの「紫の炎」はテンションの高い急速な曲ということで,バルトークの曲に通じる感じがあると思いました。途中,急速な弦楽合奏になる部分などは,バロック音楽の「嵐」の表現に非常に似ていると思いました(多分,そういうアレンジなのだと重います)。先日,OEKの定期公演できいた,ピアソラ作曲(デシャトニコフ編曲)による「ブエノスアイレスの四季」の世界に通じるものもあると思いました。というわけで,この曲の室内オーケストラ版などがあれば聴いてみたいものだと思いました。

最後,アンコールに応え,まず,クライスラーの「美しいロスマリン」。これはネタバレになってしまいますが...

石田さん以外の3人のヴァイオリニストが順番にソロを取った後,最後のピツィカートのみ石田さんが演奏という,楽しい趣向でした。

アンコール2曲目は,フレディ・マーキュリーの「I was born to love you」。弦楽器によるキューンキューンという不思議な音が印象的なノリの良い演奏でした。そして3曲目は,全員お揃いの「組」のTシャツに着替えて「川の流れのように」。「会場のみなさまお疲れ様でしたという」メッセージが音になって伝わってくるような,ファンサービスのような演奏でした。

というわけで,石田組北陸初公演は大成功だったと思います。また,別のレパートリーで聴いてみたいですね。OEKファンとしては,石田組とOEKによる合同演奏などにも期待したいと思います。

2022/09/18

OEKの2022/23定期公演シリーズ開幕!そして,広上淳一さんのアーティスティック・リーダー就任記念演奏会。遅めのテンポ設定で,広上さんの掌の上に載ってのびのびと演奏してるような「英雄」。デシャトニコフ版の「ブエノスアイレスの四季」での神尾真由子さんの表現の幅広さ。OEKどら焼きプレゼント,広上さん等身大パネル各種出現!...等々新リーダーの存在感がさらにアップした公演でした。

本日はOEKの2022/23定期公演シリーズの幕開け,そして,広上淳一さんのアーティスティック・リーダー就任記念の演奏会を聴いてきました。広上さんは,ここ数年,頻繁にOEKを指揮されていましたので,登場回数的にはそれほど変わらないのかもしれないのですが,本日の公演を含め,9月になってから一気に「広上さんらしさ」が浸透し始めたなぁと実感しています。ここしばらくは,”リーダーのリーダー・シップにワクワク”という感じが続きそうだと思いました。

本日はこの”就任記念”ということで,演奏会に先立ちセレモニーがありました。演奏会の前の「あいさつ」というのは,個人的にはあまり好きではないのですが,本日の馳石川県知事,村山金沢市長の挨拶を聞いて,広上さんとのコラボレーションで,結構色々大きく(良い方に)変わっていくのでは,という期待を持ってしまいました。そして,広上さんの「ことば」がいつもどおり素晴らしいですね。自然に前向きな気持ちにさせてくれます。金沢市の人口規模,観光資源の上にOEKが重なり,さらには,このコンパクトな距離感を活かして,団員と市民の個人レベルでのつながりが強まっていけば,現在以上にOEKは金沢市民に親しまれる存在になるのでは,という期待感を持ってしまいました。そんな就任あいさつでした。

演奏会の方は,コダーイのガランタ舞曲で始まりました。7月の広上さん指揮によるOEK定期公演は,ハンガリー狂詩曲がトリでしたが,それの続編のような緩急自在の楽しい音楽でした。広上さんの先ほどの挨拶の中で,「団員個人のファンになって欲しい」という言葉があったのですが,きっと,クラリネットの遠藤さんのファンが増えたのではと思わせるような演奏でした。

2曲目は神尾真由子さんのヴァイオリンとの共演で,ピアソラ(デシャトニコフ編曲)の「ブエノスアイレスの四季」でした。OEKはマイケル・ダウスさんの弾き振りでこの曲のCD録音を残していますが,そのスタイリッシュな恰好良さのある演奏とは一味違い,全般にテンポは遅めに設定し,この曲集の持つ,「怪しい楽しさ」のようなものを,広上さん指揮OEKと一体になって,より鮮明に伝えてくれました。神尾さんのヴァイオリンでピアソラを聞くのは初めてでしたが,演歌の世界に近いようなむせぶような情感を感じさせてくれたかと思えば,ヴィルトーゾ風の華やかさを聞けせてくれたり,神尾さんの表現力の幅の広さを存分に味わうことができました。

今回この曲を聞いて感じたのは,この曲はピアソラ作曲というよりは,編曲者のデシャトニコフの力が大きいのではということです。ヴィヴァルディの「元祖・四季」のパロディのようなフレーズはデシャトニコフのオリジナルだし,「夏」の最後の部分(本日は,秋・冬・春・夏の順に演奏)に出てくる,ヴィヴァルディの「夏」を不協和音で聞かせたり,最後は腰砕けになるような脱力した感じで締めたり...ウィットが効いたアレンジになっています。プログラムの飯尾洋一さんの解説によると,デシャトニコフは1955年,ウクライナ生まれの作曲家ということで,他にもこの方の作品を聞いてみたくなりました。

演奏後は神尾さんの独奏によるアンコールがありました。パガニーニのような感じの曲でしたが...もう息をする暇がないのではという急速な音の動きが続く演奏で,会場は茫然という感じになっていました。お見事でした。

公演の最後は,ベートーヴェンの「英雄」でした。OEKも色々な指揮者と演奏してきた曲ですが,恐らく,過去OEKが演奏してきた「英雄」の中で最長だったと思います。広上さんのテンポ設定はかなり遅め,しかも,第1楽章の繰り返しをしっかり行っていましたので,全体で1時間ぐらいかかっていたのではないかと思います。

というわけで,まさに巨匠の「英雄」でした。広上さんの手のひらの上で,OEK団員がのびのびと演奏しつつ,要所要所でビシッと引き締める,そういった感じの演奏だったと思います。キビキビとした熱い「英雄」も良いのですが,この日の「英雄」を聞いて,さすがリーダーと思いを新たにした会員も多かったのではないかと思います。

特に印象的だったのは,第4楽章の後半部です。この部分について,岩城宏之さんは,「遅いしたテンポで演奏した方が絶対良い」という持論を著書で披露されており,私もその説に同感なのですが,それと同じテンポ感でした。それに加え,ティンパニの強打(バロックティンパニで,カラッとした感じ),ホルンの強奏も印象的で,個人的に「こういう「英雄」を聞いてみたかった」と思っていた演奏が実現した感じでした。

というわけで,本日の公演も終わってみると2時間30分くらいでした(最初のセレモニーも含めてですが)。9月以降,広上さんの登場する演奏会を2回聞きましたが,改めて,「良いクラシックの音楽会」というのは,純粋に「良い音楽」だけでは成り立たないのだなと感じてします。演奏者と聴衆の時間と空間の共有をどれだけ楽しく,濃密なものにできるか,ということに掛かってるのではと思いました。9月以降,ものすごい行動力で動きまわっている広上さんの姿を見ながら,一気に石川県立音楽堂という場が,何か良いことがありそうな場に変わってきているのを多くの人は実感している気がします。

これから広上OEKは,このプログラムで全国各地でツァーを行いますので,是非,全国各地でファンを増やしていって欲しいと思います。

PS. この日,音楽堂で目についたのは...広上さんの等身大パネル(各種)。一緒に写真を撮っている人の姿も見かけましたが,音楽堂の新名物になりそうです。そして...就任記念のどら焼き。終演後,全員にプレゼントされました。色々な広上グッズが出てきても楽しそうです。個人的に期待しているのは,「広上モデル,鍵盤ハーモニカ」です。広上さんと皆で合奏する機会があれば,参加してみたいですね。

2022/09/17

本日は富山県の入善コスモホールまで出かけ,小林愛実ピアノ・リサイタルを鑑賞。バッハ,ブラームス,ショパンのスケルツォ4曲というシリアス系のプログラムは小林さんのピアノにぴったり。充実の時間でした。名演奏家たちの「音」を長年吸い込んできたようなコスモホールの雰囲気も気に入りました

本日は午後から富山県の入善まで出かけ,小林愛実さんのピアノリサイタルを聴いてきました。昨年のショパン・コンクールで4位を受賞した小林さんの演奏を聴きたかったのはもちろんですが,入善コスモホールに一度行ってみたかったというのも,今回出かけた理由です。

本当は昨日,金沢で行われた角野隼斗さんとマリン・オルソップ指揮ポーランド国立放送交響楽団の演奏会にも行ってみたかったのですが...明日OEK定期公演に行く体力も残しておかないといけないので,小林さんのリサイタルの方を選びました。

今回,小林さんが演奏した曲は,バッハのパルティータ第2番,ブラームスの4つの小品, op.119,そして,ショパンのスケルツォ全4曲でした。シリアス~落ち着いた感じの曲によるプログラムでしたが,それが小林さんのキャラクターにぴったりマッチしていると思いました。

今回実は,運が良いことに,ものすごく前の座席を取ることができました。小林さんの演奏前後~演奏中の表情を間近で見られたのですが,どの曲の演奏も非常に落ち着いており,考え抜かれた音色や表現をしっかりとお客さん伝えてくれる素晴らしい演奏になってると感じました。

バッハのパルティータは自信にあふれた落ち着きのあるタッチでシンフォニアが堂々と始まった後,親密な手紙を1通ずつ書いていくように,アルマンド,クーラント...と続きました。最後とロンドーとカプリッチオは生き生きとした音楽の流れが続き,ぐっと気分が盛り上がって終了しました。大げさな表現はないのですが,とても念入りに演奏されており,バッハの音楽が現代の自然に蘇ってきたような新鮮さを感じました。

ブラームスの4つの小品は,ブラームスの最後のピアノ曲です。曲自体,美しさと懐かしさと寂しさが合わさったような感じで,改めて良い曲集だなと思いました。特に2曲目の間奏曲の中間部で,若き日を思い出すようなワルツが出てくるのですが,この遠くから聞こえてくる感じが絶品でした。第4曲のバラードは,非常に輝きのある音楽。小林さんの落ち着きのある演奏からは,自然な風格が立ち上がっているようでした。

後半はショパンのスケルツォ4曲。多くのお客さん(この日は完売との案内が出ていました)待望の,「小林さんのショパン」でした。スケルツォ集は,ショパンの曲の中でもピリッと辛口的な曲が多く,まさにその辺が小林さんの演奏にぴったりだと思いました。シリアスな曲で見せる,真剣で真摯な表情が小林さんのピアノの魅力だと思いました。ピアノの音はくっきりと磨かれているのですが,そこには冷たい感じはなく,リアルな思いが熱く伝わってくる感じがします。

その一方,スケルツォ第1番の中間部のように,「大きなメロディ」をたっぷりと聴かせてくれる部分も非常に魅力的でした。各曲ともにそういうコントラストがあり,冷静にコントロールされているけれども,誠実で熱いドラマが感じられました。

その中で第4番のスケルツォだけは,もともとちょっと軽やかな雰囲気があります。苦しみを突き抜けた先の軽やかさのようなものがあり,演奏会全体を前向きな明るさの中で締めてくれました。

そして,当然のようにアンコール曲が3曲演奏されました。いずれもショパンの曲。小林さんのショパンといえば,コンクールでも素晴らしい演奏を聴かせてくれた,24の前奏曲が十八番。その中から18番...ではなく17番,4番が演奏されました。個人的に,不思議な明るさが漂い,最後,左手に鐘のような音がくっきりと出てくる17番が特に大好きなので,大きなプレゼントをいただいた気分になりました。

最後はワルツ第5番が華麗かつ爽やかに演奏されてお開きとなりました。

今回,小林さんの演奏も素晴らしかったのですが,入善コスモホールも良いホールだと思いました。外見は結構古くなっていましたが,ホールに入るとじっくりとエイジングを重ねたような落ち着きがあり,ピアノの音をじっくりと楽しむことができました。ホールのあちこちには,過去,このホールで演奏したアーティストのサイン入りポスターがずらっと並んでいましたが(OEKも入っていました),ギドン・クレーメル,マリア・ジョアン・ピレシュ,アルバン・ベルク四重奏団....世界トップレベルのアーティストたちが繰り返し演奏会を行っていることに驚きました。ホールの床面は絨毯になっていましたが,何か名演奏家たちの音をしっかりと吸い込んだような風格のあるホールだなと思いました。

ちなみに金沢からだと高速道路で1時間15分ぐらいで付きました(その後,ホールに着くまで迷ってしまったのは計算外でしたが...)。機会があれば是非また来てみたいと思います。

 

2022/09/10

OEK新シーズン開幕に先立ち,岩城宏之メモリアルコンサートへ。竹多倫子さんによるプリマドンナのオーラ全開の素晴らしい歌,尾高惇忠「音の旅」(オーケストラ版)の全曲初演,広上淳一さん指揮による熟練のモーツァルト「リンツ」。新コンビへの期待が大きく広がる演奏会でした

本日はOEKの定期公演新シーズン開幕の時期に毎年行われている,岩城宏之メモリアルコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。毎年,その年度の岩城宏之音楽賞受賞者との共演がまず注目です。今年は,金沢市出身のソプラノ,竹多倫子さんが受賞されました。それに加え,今年の場合は「OEKアーティスティック・リーダー」という肩書きで,広上淳一さんが登場するのも注目です。そして,その期待どおり...というか期待以上に楽しめる公演となりました。

まず,音楽堂に入ると,何だか華やいだ雰囲気。玄関付近から大勢の人が行き来していました。さらに,ホワイエにあるカフェ・コンチェルトが久しぶりに営業をしていました。以前のANAホテルではなく,BLUE MONDAYコーヒーさんの営業。ここにも大勢の人が入っており,久しぶりに私も開演前に1杯飲んでみました。その味わいが口の中に残る中,公演を待つのも良いものです。

もう一つ期待以上だったのが,1曲目に演奏された尾高惇忠作曲の「音の旅」(オーケストラ版)の全曲演奏でした。もともとカワイ音楽教室の機関誌向けに作曲したピアノ連弾曲集に宮沢賢治の童話を題材として作曲した連弾曲を追加した組曲で,全部で16曲もあります。今回は,それをオーケストラ用に編曲した版が演奏されました。これまで抜粋版が広上さん指揮で演奏されただけで,全曲演奏されたのは今回が初めてとのことです。

この組曲が,ものすごく楽しめました。最初の方の曲は,いかにも子供向け小品といった,聴いていて頬が緩む感じの曲が多かったのですが,宮沢賢治の世界に入ってくると,少しずつミステリアスな気分も加わってきました。どの曲も親しみやすいメロディを持ち,短い曲ばかりなのですが,それぞれにオーケストレーションに工夫がされており,全く飽きることなく楽しめました。念入りに作られた小品がギュッと詰まっている感じで,「音のおせち料理」といった趣があると感じました。トロンボーン3本,テューバ,打楽器多数が入る曲で,編成的にはOEK向きではないのですが,広上&OEKのレパートリーとして定着していって欲しい曲だと思いました。

この曲が予想以上の大作だったので,前半はこの曲だけでした。岩城賞を受賞した竹多さんは,後半の最初のステージに登場し,ヴェルディ,コルンゴルト,ワーグナーの3つのアリアを歌いました。まさに圧巻のステージでした。キラキラした鮮やかな青のドレスで竹多さんが登場すると(ヴェルディの「ドン・カルロス」のアリアの序奏の後,登場),プリマドンナのオーラが全開に。声量豊かに,スパッと率直に切り込んでくるような竹多さんの声が飛び込んでくると,一気にヴェルディの世界になりました。このオペラ,全く観たことはないのですが,何か全部観たような気分にさせてくれました。広上さん指揮OEKの作る気分ともぴったりと合致し,役柄のキャラクターがリアルに伝わってきました(ストーリーは知らなくても,リアルさを感じました)。

コルンゴルトのアリアは,この作曲家のマジックのような音楽も素晴らしく,たっぷりと酔わせるような音楽を聴きながら,スローモーションの叙情的な映像を観ているような気分になりました。ワーグナーの「タンホイザー」のアリアは,竹多さんの十八番の曲ですね。ホルンの歯切れの良い音による序奏部聴くだけで気分が沸き立つのですが,それを受けて,突き抜けて飛び込んでくる竹多さんの声も爽快。何か,このまま演奏会が終了しても良いような充実感がありました。

その後,広上さん指揮OEKでモーツァルトの「リンツ」交響曲が演奏されました。これもまた素晴らしい演奏。広上さんとOEKはすでに何回も共演していますので,すでに熟練の味が感じられる演奏となっていました。

第1楽章の序奏部は,気骨のある率直な雰囲気で開始。その後は,基本的にゆったりと構えながらも,広上さんのやりたいことが鮮やかに伝わってくるような味わい深い演奏でした。陰りを感じさせる部分での自然なニュアンスの変化も美しく,全く退屈することなく楽しむことができました。

第3楽章のメヌエットは大らかな雰囲気で開始。トリオになるとさらにひなびた感じになるのですが,この部分での慈しむような雰囲気の中でのオーボエと弦楽器の絡み合いが美しかったですね。

第4楽章も落ち着いた雰囲気で始まった後,だんだんと色々な音が絡み合ってくる楽しさが高まってくるような演奏。途中,フォゴットやオーボエの音がねっとりとした感じで絡んでくるのが面白かったですね。最後は,大げさになり過ぎない感じで華やかさをアップして,気持ちよく終了。熟練のモーツァルトという感じでした。

この日の公演は,プログラムを見た感じだと「短い?」と思ったのですが,終わってみると2時間以上の充実感でした(「リンツ」は各楽章の提示部の繰り返しを全部行っていたと思います)。色々な点で,新コンビへ期待が高まった公演でした。

PS.演奏会に先立って,記念式典があり,馳石川県知事から竹多さんに賞状等が授与されました。馳知事の挨拶は,堅苦しくならない簡潔な言葉で,竹多さんに加え,バランスよく関係者全員に感謝をしており,「さすが」と思いました。

2022/09/06

本日は夏休みをとって「ランチタイムコンサート:#oekjp の名手たちによる木管アンサンブルの調べ」を石川県立音楽堂で聴いてきました。心地よい華やかさのある響きに包まれた充実の1時間でした。

本日の金沢は台風の接近に伴うフェーン現象気味で午前中から猛暑。その中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の3人の木管楽器奏者(フルート:松木さや,オーボエ:加納律子,クラリネット:遠藤文江)と倉戸テルさんのピアノによるランチタイム・コンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。

実は,今回,「夏休み」をわざわざ取って聴いてきました。その理由は,今年の春の「楽都音楽祭」でこの3人による室内楽公演を聞き逃した「無念さ」があったからです。そのリベンジの思いで聴いてきました。

ただし公演内容は全く違うものでした。,楽都音楽祭の時は,各楽器のソロだったのに対し,今回はすべて,3つの木管楽器が入る室内楽曲でした。演奏されたのは,フマガッリの演奏会用大三重奏曲, ボールの4つの舞曲,そして,サン=サーンスのデンマークとロシアの歌による奇想曲...知らない曲ばかり,しかも,フマガッリとボールについては,作曲者名自体聴くのは初めてでした。

言ってみれば,演奏者の方がやってみたい曲を集めた,”攻めた”プログラムだったのですが,聴いているとどれも親しみやすい曲ばかりで,大変充実した時間を過ごすこともできました。暑さにもかかわらず,お客さんは良い感じで入っており,私同様,「この3人の演奏なら悪いはずはない」という期待感と満足感が合わさった雰囲気の演奏会となりました。

まず,フマガッリの作品の冒頭の3楽器のハモリを聴いただけで華やかな気分になりました。素晴らしいバランス,素晴らしい音響(本日は1階席の真ん中で聴きました)。イタリア・オペラの幕が開いたようなワクワク感がありました。その後,各楽器のソロが出てきたり,絡み合って盛り上がっていったり...大変良くできた作品でした。3人の奏者の余裕のある技巧と美音に彩られた,とても気持ちの良い作品でした。

2曲目のボールの作品では,ピアノは入らず,純粋に木管三重奏となりました。ボールという人は20世紀の英国の指揮者・作曲家ということでしたが,フマガッリ以上に親しみやすさのある作品でした。曲は,第1曲「陽気なダンス」,第2曲「叙情的なダンス」,第3曲「輪舞」,第4曲「スクェア・ダンス」の4曲から成っていました。

2曲目がゆったりとした音楽(加納さんのオーボエがエキゾティック),3曲目がはねるようなスケルツォ的な音楽,でしたので,全体的な構成としては4楽章の交響曲に近い面もあったかもしれません。4曲目は遠藤さんのクラリネットがなんともユーモラスで,ラグタイムなどに通じるような素朴な楽しさがありました。曲の終わり方も常套的な「チャン,チャン」という感じだったのも楽しかったですね。

3曲目の作品は,演奏前の加納さんのトークによると,デンマークとロシアの王室の友好を意図して作られた作品とのことでした。その気分で聴いたせいか,冒頭から「ロイヤル!」な気分がっただよい,倉戸さんのピアノのフレーズなど,ベートーヴェンの「皇帝」を思わせる優雅な華やかさがありました。デンマーク民謡とロシア民謡をそれぞれ展開させた作品ということで,松木さんによる主題の提示部分(どっちがどっちかは分からなかったのですが)から魅力的でした。

最後の方で,ユニゾンで演奏する部分が出てきたのが印象的でしたが,戦争がまだ継続している昨今,「ウクライナとロシアの歌による○○」といった曲があれば聴いてみたいものだと思いました。

演奏後のアンコールはなかったのも良かったと思います。トークを合わせて,1時間弱の公演でしたが,3人の奏者の作り出す,軽やかな華やかさに包まれた,心地の良い公演でした。外に出ると...急にムッとした空気に包まれ,現実に戻されてしまいましたが。

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