OEK新シーズン開幕に先立ち,岩城宏之メモリアルコンサートへ。竹多倫子さんによるプリマドンナのオーラ全開の素晴らしい歌,尾高惇忠「音の旅」(オーケストラ版)の全曲初演,広上淳一さん指揮による熟練のモーツァルト「リンツ」。新コンビへの期待が大きく広がる演奏会でした
本日はOEKの定期公演新シーズン開幕の時期に毎年行われている,岩城宏之メモリアルコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。毎年,その年度の岩城宏之音楽賞受賞者との共演がまず注目です。今年は,金沢市出身のソプラノ,竹多倫子さんが受賞されました。それに加え,今年の場合は「OEKアーティスティック・リーダー」という肩書きで,広上淳一さんが登場するのも注目です。そして,その期待どおり...というか期待以上に楽しめる公演となりました。
まず,音楽堂に入ると,何だか華やいだ雰囲気。玄関付近から大勢の人が行き来していました。さらに,ホワイエにあるカフェ・コンチェルトが久しぶりに営業をしていました。以前のANAホテルではなく,BLUE MONDAYコーヒーさんの営業。ここにも大勢の人が入っており,久しぶりに私も開演前に1杯飲んでみました。その味わいが口の中に残る中,公演を待つのも良いものです。
もう一つ期待以上だったのが,1曲目に演奏された尾高惇忠作曲の「音の旅」(オーケストラ版)の全曲演奏でした。もともとカワイ音楽教室の機関誌向けに作曲したピアノ連弾曲集に宮沢賢治の童話を題材として作曲した連弾曲を追加した組曲で,全部で16曲もあります。今回は,それをオーケストラ用に編曲した版が演奏されました。これまで抜粋版が広上さん指揮で演奏されただけで,全曲演奏されたのは今回が初めてとのことです。
この組曲が,ものすごく楽しめました。最初の方の曲は,いかにも子供向け小品といった,聴いていて頬が緩む感じの曲が多かったのですが,宮沢賢治の世界に入ってくると,少しずつミステリアスな気分も加わってきました。どの曲も親しみやすいメロディを持ち,短い曲ばかりなのですが,それぞれにオーケストレーションに工夫がされており,全く飽きることなく楽しめました。念入りに作られた小品がギュッと詰まっている感じで,「音のおせち料理」といった趣があると感じました。トロンボーン3本,テューバ,打楽器多数が入る曲で,編成的にはOEK向きではないのですが,広上&OEKのレパートリーとして定着していって欲しい曲だと思いました。
この曲が予想以上の大作だったので,前半はこの曲だけでした。岩城賞を受賞した竹多さんは,後半の最初のステージに登場し,ヴェルディ,コルンゴルト,ワーグナーの3つのアリアを歌いました。まさに圧巻のステージでした。キラキラした鮮やかな青のドレスで竹多さんが登場すると(ヴェルディの「ドン・カルロス」のアリアの序奏の後,登場),プリマドンナのオーラが全開に。声量豊かに,スパッと率直に切り込んでくるような竹多さんの声が飛び込んでくると,一気にヴェルディの世界になりました。このオペラ,全く観たことはないのですが,何か全部観たような気分にさせてくれました。広上さん指揮OEKの作る気分ともぴったりと合致し,役柄のキャラクターがリアルに伝わってきました(ストーリーは知らなくても,リアルさを感じました)。
コルンゴルトのアリアは,この作曲家のマジックのような音楽も素晴らしく,たっぷりと酔わせるような音楽を聴きながら,スローモーションの叙情的な映像を観ているような気分になりました。ワーグナーの「タンホイザー」のアリアは,竹多さんの十八番の曲ですね。ホルンの歯切れの良い音による序奏部聴くだけで気分が沸き立つのですが,それを受けて,突き抜けて飛び込んでくる竹多さんの声も爽快。何か,このまま演奏会が終了しても良いような充実感がありました。
その後,広上さん指揮OEKでモーツァルトの「リンツ」交響曲が演奏されました。これもまた素晴らしい演奏。広上さんとOEKはすでに何回も共演していますので,すでに熟練の味が感じられる演奏となっていました。
第1楽章の序奏部は,気骨のある率直な雰囲気で開始。その後は,基本的にゆったりと構えながらも,広上さんのやりたいことが鮮やかに伝わってくるような味わい深い演奏でした。陰りを感じさせる部分での自然なニュアンスの変化も美しく,全く退屈することなく楽しむことができました。
第3楽章のメヌエットは大らかな雰囲気で開始。トリオになるとさらにひなびた感じになるのですが,この部分での慈しむような雰囲気の中でのオーボエと弦楽器の絡み合いが美しかったですね。
第4楽章も落ち着いた雰囲気で始まった後,だんだんと色々な音が絡み合ってくる楽しさが高まってくるような演奏。途中,フォゴットやオーボエの音がねっとりとした感じで絡んでくるのが面白かったですね。最後は,大げさになり過ぎない感じで華やかさをアップして,気持ちよく終了。熟練のモーツァルトという感じでした。
この日の公演は,プログラムを見た感じだと「短い?」と思ったのですが,終わってみると2時間以上の充実感でした(「リンツ」は各楽章の提示部の繰り返しを全部行っていたと思います)。色々な点で,新コンビへ期待が高まった公演でした。
PS.演奏会に先立って,記念式典があり,馳石川県知事から竹多さんに賞状等が授与されました。馳知事の挨拶は,堅苦しくならない簡潔な言葉で,竹多さんに加え,バランスよく関係者全員に感謝をしており,「さすが」と思いました。
« 本日は夏休みをとって「ランチタイムコンサート:#oekjp の名手たちによる木管アンサンブルの調べ」を石川県立音楽堂で聴いてきました。心地よい華やかさのある響きに包まれた充実の1時間でした。 | トップページ | 本日は富山県の入善コスモホールまで出かけ,小林愛実ピアノ・リサイタルを鑑賞。バッハ,ブラームス,ショパンのスケルツォ4曲というシリアス系のプログラムは小林さんのピアノにぴったり。充実の時間でした。名演奏家たちの「音」を長年吸い込んできたようなコスモホールの雰囲気も気に入りました »
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