OEKのCD

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2022/09/18

OEKの2022/23定期公演シリーズ開幕!そして,広上淳一さんのアーティスティック・リーダー就任記念演奏会。遅めのテンポ設定で,広上さんの掌の上に載ってのびのびと演奏してるような「英雄」。デシャトニコフ版の「ブエノスアイレスの四季」での神尾真由子さんの表現の幅広さ。OEKどら焼きプレゼント,広上さん等身大パネル各種出現!...等々新リーダーの存在感がさらにアップした公演でした。

本日はOEKの2022/23定期公演シリーズの幕開け,そして,広上淳一さんのアーティスティック・リーダー就任記念の演奏会を聴いてきました。広上さんは,ここ数年,頻繁にOEKを指揮されていましたので,登場回数的にはそれほど変わらないのかもしれないのですが,本日の公演を含め,9月になってから一気に「広上さんらしさ」が浸透し始めたなぁと実感しています。ここしばらくは,”リーダーのリーダー・シップにワクワク”という感じが続きそうだと思いました。

本日はこの”就任記念”ということで,演奏会に先立ちセレモニーがありました。演奏会の前の「あいさつ」というのは,個人的にはあまり好きではないのですが,本日の馳石川県知事,村山金沢市長の挨拶を聞いて,広上さんとのコラボレーションで,結構色々大きく(良い方に)変わっていくのでは,という期待を持ってしまいました。そして,広上さんの「ことば」がいつもどおり素晴らしいですね。自然に前向きな気持ちにさせてくれます。金沢市の人口規模,観光資源の上にOEKが重なり,さらには,このコンパクトな距離感を活かして,団員と市民の個人レベルでのつながりが強まっていけば,現在以上にOEKは金沢市民に親しまれる存在になるのでは,という期待感を持ってしまいました。そんな就任あいさつでした。

演奏会の方は,コダーイのガランタ舞曲で始まりました。7月の広上さん指揮によるOEK定期公演は,ハンガリー狂詩曲がトリでしたが,それの続編のような緩急自在の楽しい音楽でした。広上さんの先ほどの挨拶の中で,「団員個人のファンになって欲しい」という言葉があったのですが,きっと,クラリネットの遠藤さんのファンが増えたのではと思わせるような演奏でした。

2曲目は神尾真由子さんのヴァイオリンとの共演で,ピアソラ(デシャトニコフ編曲)の「ブエノスアイレスの四季」でした。OEKはマイケル・ダウスさんの弾き振りでこの曲のCD録音を残していますが,そのスタイリッシュな恰好良さのある演奏とは一味違い,全般にテンポは遅めに設定し,この曲集の持つ,「怪しい楽しさ」のようなものを,広上さん指揮OEKと一体になって,より鮮明に伝えてくれました。神尾さんのヴァイオリンでピアソラを聞くのは初めてでしたが,演歌の世界に近いようなむせぶような情感を感じさせてくれたかと思えば,ヴィルトーゾ風の華やかさを聞けせてくれたり,神尾さんの表現力の幅の広さを存分に味わうことができました。

今回この曲を聞いて感じたのは,この曲はピアソラ作曲というよりは,編曲者のデシャトニコフの力が大きいのではということです。ヴィヴァルディの「元祖・四季」のパロディのようなフレーズはデシャトニコフのオリジナルだし,「夏」の最後の部分(本日は,秋・冬・春・夏の順に演奏)に出てくる,ヴィヴァルディの「夏」を不協和音で聞かせたり,最後は腰砕けになるような脱力した感じで締めたり...ウィットが効いたアレンジになっています。プログラムの飯尾洋一さんの解説によると,デシャトニコフは1955年,ウクライナ生まれの作曲家ということで,他にもこの方の作品を聞いてみたくなりました。

演奏後は神尾さんの独奏によるアンコールがありました。パガニーニのような感じの曲でしたが...もう息をする暇がないのではという急速な音の動きが続く演奏で,会場は茫然という感じになっていました。お見事でした。

公演の最後は,ベートーヴェンの「英雄」でした。OEKも色々な指揮者と演奏してきた曲ですが,恐らく,過去OEKが演奏してきた「英雄」の中で最長だったと思います。広上さんのテンポ設定はかなり遅め,しかも,第1楽章の繰り返しをしっかり行っていましたので,全体で1時間ぐらいかかっていたのではないかと思います。

というわけで,まさに巨匠の「英雄」でした。広上さんの手のひらの上で,OEK団員がのびのびと演奏しつつ,要所要所でビシッと引き締める,そういった感じの演奏だったと思います。キビキビとした熱い「英雄」も良いのですが,この日の「英雄」を聞いて,さすがリーダーと思いを新たにした会員も多かったのではないかと思います。

特に印象的だったのは,第4楽章の後半部です。この部分について,岩城宏之さんは,「遅いしたテンポで演奏した方が絶対良い」という持論を著書で披露されており,私もその説に同感なのですが,それと同じテンポ感でした。それに加え,ティンパニの強打(バロックティンパニで,カラッとした感じ),ホルンの強奏も印象的で,個人的に「こういう「英雄」を聞いてみたかった」と思っていた演奏が実現した感じでした。

というわけで,本日の公演も終わってみると2時間30分くらいでした(最初のセレモニーも含めてですが)。9月以降,広上さんの登場する演奏会を2回聞きましたが,改めて,「良いクラシックの音楽会」というのは,純粋に「良い音楽」だけでは成り立たないのだなと感じてします。演奏者と聴衆の時間と空間の共有をどれだけ楽しく,濃密なものにできるか,ということに掛かってるのではと思いました。9月以降,ものすごい行動力で動きまわっている広上さんの姿を見ながら,一気に石川県立音楽堂という場が,何か良いことがありそうな場に変わってきているのを多くの人は実感している気がします。

これから広上OEKは,このプログラムで全国各地でツァーを行いますので,是非,全国各地でファンを増やしていって欲しいと思います。

PS. この日,音楽堂で目についたのは...広上さんの等身大パネル(各種)。一緒に写真を撮っている人の姿も見かけましたが,音楽堂の新名物になりそうです。そして...就任記念のどら焼き。終演後,全員にプレゼントされました。色々な広上グッズが出てきても楽しそうです。個人的に期待しているのは,「広上モデル,鍵盤ハーモニカ」です。広上さんと皆で合奏する機会があれば,参加してみたいですね。

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