OEKのCD

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コンサート

2021/01/09

大雪の中,結構苦労して,2021年最初のOEKの定期公演へ。モーツァルトの「パリ」とハイドンの「ロンドン」の間にヘンデルのオルガン協奏曲が入る「GO TOヨーロッパ」的構成。指揮とオルガンは鈴木優人さん。王道を行くような立派さと,鈴木さんならではのアイデアに溢れた素晴らしい演奏。鈴木家から持ち込んだポジティフオルガンの音も疲れを癒してくれました

大雪の中,2021年最初のOEKの定期公演を聴いてきました。指揮は鈴木優人さんで,オルガン協奏曲でのオルガンの演奏も担当しました。

まず本日の金沢ですが,約30cmの積雪があり,市内の交通はかなり混乱していたようでした。我が家の方も幹線道路までの道路の除雪が行われておらず,下手に車を出すと動けなくなりそうだったので,一番確実な「徒歩」で石川県立音楽堂に行くことにしました。約1時間歩いたので,音楽を聴く前に,到着しただけで「達成感+疲労感」を感じてしまいました。

公演の方は,モーツァルトの交響曲第31番「パリ」,ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」という2つのニ長調の交響曲の間に,ヘンデルのオルガン協奏曲第4番が入る「音楽堂でGO TOヨーロッパ」的な構成。昨年のニューイヤーコンサートとは違い,「普通の」定期公演でしたが,2曲のニ長調の交響曲の演奏には,何とも言えない品の良い華やかな気分があり,新年を祝う気分には相応しいと思いました。

「パリ」を聴くの方は久しぶりです。第1楽章の冒頭の雰囲気から大らかな華やかさがありました。鈴木さんのテンポ設定には慌てた感じはなく,OEKの各楽器がしっかり聞こえてきて,充実感がありました。しっとりとした脱力感のある第2楽章に続く,第3楽章でも各パートの絡み合いがとても面白く,立体感のある盛り上がりを作っていました。

その後,ヘンデルのオルガン協奏曲が演奏されました。もともとオラトリオの幕間に演奏された曲ということで,今回も演奏会の真ん中に置かれたのだと思います。オルガンの方は,音楽堂のパイプオルガンではなく,鈴木さん所蔵のポジティフオルガンという小型のオルガン(チェレスタと同じぐらいの大きさでしょうか。譜面立てがなかったので,見た感じ「立派な机=演台」のようでした)が使われました。OEKのSNSにこの楽器の仕組みを鈴木さんが説明する動画が上がっていましたが,可愛らしい感じの音が鳥の鳴き声のように聞こえたり,シンプルで素朴な音が夢見心地にさせてくれたり,大変楽しめました。本日は徒歩で歩いてきて,少々疲れていたこともあり,絶好の癒しの音楽になりました。

後半の「ロンドン」は,OEKが頻繁に演奏している曲ですが,本日の演奏は,王道を行くような立派さと,鈴木さんならではのアイデアに溢れた,素晴らしい演奏だったと思います。第1楽章冒頭の序奏部の鋭く切れ込むような感じのインパクトがまず素晴らしかったですね。主部に入ると,ゆったりとしたテンポ感になり,高級な音楽に身をひたしているような優雅な気分にさせてくれました。「パリ」同様,OEKの各楽器の音がソリスト集団のような感じでしっかり聞こえて来て,大交響曲を聴いた充実感を感じました。

落ち着いた気分をベースに,雰囲気が生き生きと変化する第2楽章。輝きのあるメヌエットの後,トリオの部分では別世界に連れて行ってくれるような気分を楽しめた第3楽章。第4楽章ではリラックスした気分でスタートした後,次第にキビキビと音楽が絡み合う充実感のある音楽に。最後の部分では,大きくテンポを落として,「おしまい」と語りかけるような感じで終わっていました。音楽全体から,自然なユーモアも漂ってくるような余裕を感じました。

OEKの定期公演では,コンサートマスターを中心に全員が「礼」をしてお開きになるのですが,本日のコンサートマスターは,定期公演に登場するのは,本当に久しぶりのアビゲイル・ヤングさん。その笑顔を見てこちらも嬉しくなりました。OEKメンバーにとっても,最高のスタートを切れた2021年最初の定期公演だったのではないかと思いました。

終演後は,恒例の「たろうのどら焼き」のプレゼントもありました(OEKメンバーからの手渡しではなかったのですが仕方がないですね)。こちらも嬉しかったですね。今から食べてみたいと思います。毎年違う味なので楽しみです。

2020/12/31

コロナ禍に向き合い続けた2020年。困難な状況の中でライブ演奏を送り続けてくれた,OEKをはじめとしたアーティストの皆様,関係者の皆様に感謝をしつつ,1年を振り返ってみました。ありがとうございました。#oekjp

コロナ禍の影響を受け続けた2020年も大みそか。私自身,富山県に2回出かけた以外は,ずっと石川県内にとどまっていた異例の1年になりました。クラシック音楽界も多大な影響を受けました。その1年を振り返ってみたいと思います。

まず何といっても3~7月中旬までライブに全く行かなかったというのが私にとっては異例でした。ここ数年,年間50回以上生演奏を聴いていたのですが(楽都音楽祭の中身を「ばらばら」に数えるともっと増えるかも),今年は30回程度でした。室内オーケストラであるOEKは,他の通常編成のオーケストラに比べると影響は少なかったと思いますが,それでも,「休憩なし」「座席数半分」「チケットのもぎりのセルフ化」など「新様式」の公演に切り替わり,通常に戻りつつはあるものも,現在も継続しています。

特に声楽関係の公演(特に合唱団の出演する公演)への影響は大きく,年末恒例「メサイア」公演が「合唱団抜き」になったり,予定していた新作オペラ公演の初演が延期になったり,お客さん以上に,主催者側・アーティスト側にとって試練の年になりました。アマチュア団体の公演もほとんど行われていない状況が続いています。その中で,例年春の連休中に行っていた「楽都音楽祭」については,「中止」とはせず,「秋の陣」として,縮小しつつも9~12月に分散実施したことは大きな意義があったと思いました。

2020年,芸術監督のマルク・ミンコフスキさん指揮のOEKの公演はゼロ,プリンシパル・ゲスト・コンダクターのユベール・スダーンさんはニューイヤーコンサートのみに出演。まず,このことが異例で,7月の公演再開後は,代役の日本人指揮者による公演が中心となりました。

7月26日に行われた田中祐子さん指揮OEKによる「スペシャルコンサート:いま届けたいクラシック」は,ライブで音楽を聴けるありがたみを再認識させてくれる内容で,特に感慨深いものとなりました。9月以降の公演では,代役で登場した三ツ橋敬子さん指揮による,元気でしなやかなモーツァルトが印象的でした。その他にもOEK定期初登場だった園田隆一郎さん,久しぶりの登場だった高関健さんも,それぞれに安定感たっぷりの音楽を楽しませてくれました。

そして,ミンコフスキさんの公演の代役として登場した井上道義さん。25年以上前のCD「スウィート」に収録された曲を再演する「サプライズ公演」となりました。スダーンさんの代役で「岩城メモリアル」公演に登場した川瀬賢太郎さん。延々と生き生きとした音楽が続くようなシューベルトの「ザ・グレート」を聞いて大いに勇気づけられました。個人的には,この2つが今年特に印象に残った公演でした。

独奏者では, 北村朋幹さんのピアノ,成田達輝さん,渡辺玲子さんのヴァイオリンなど,それぞれの強い思いのこもった演奏をしっかりと楽しむことができました。7月26日の「復活公演」に登場した神尾真由子さんは,OEKと共に成長しているアーティストという気がします。楽都音楽祭に登場した藤田真央さんのピアノも毎回聞き逃せませんね。

「コロナ前」には作曲家として新曲を初演,「コロナ中」の12月にはOEKを使った「シンフォニック・ジャズ」を楽しませてくれた挾間美帆さんには,「コロナ後」の共演にも期待しています。

この1年で,大勢の人が集まること,さらには密な状態で声を出すことに対して大きな注意が必要な世の中に変貌してしまうとは,誰も予想していなかったと思います。そうなってしまったからには仕方がないのですが,そのことを根拠に,様々なものが「不要不急」となってしまったことが残念です。対案としてインターネットを活用したライブ配信の動きも出てきましたが,「ホールの空気の振動を感じること」「パフォーマンスに対して拍手を送ること」は,ライブ・パフォーマンスのいちばんの魅力であり,ライブ以外の方法が出てきたとしても,私はライブの方を選びたいと思います。

2021年もコロナ禍は継続することになりそうです。「コロナと折り合いをつけつつ,不要不急を克服できるのか」このことが課題になってくると思います。2020年,困難な状況の中でライブ演奏を送り続けてくれた,OEKをはじめとしたアーティストの皆様,関係者の皆様に感謝をしていと思います。ありがとうございました。

2020/12/11

#挟間美帆 + OEK + #山下洋輔 +#エリック宮城 によるシンフォニック・ジャズ・ホリデー@石川県立音楽堂。忘年会代わりの「コロナの年」の憂さ晴らしのような爽快な公演。エリックさんのピリッとくるハイトーンとエネルギーには感服

例年,12月10日過ぎの金曜日といえば,忘年会に行くのがお決まりでしたが,今年はコロナ禍の影響で職場関係をはじめ,忘年会はほとんどゼロといった状況(私の場合ですが)。今晩行われた,挟間美帆さん指揮・編曲によるOEKシンフォニック・ジャズ・ホリデーは,「コロナの年」の憂さを晴らすような,忘年会がわりのような公演になりました。会場には学校の吹奏楽部関係と思われる若いお客さんも大勢入っていました。吹奏楽にとっても試練の年でしたが,その憂さも,ゲスト奏者のエリック宮城さんの,強烈なハイトーンでかなりの程度晴らしてくれたのではないかと思います。

前半は,挟間さんが編曲した,「ニューヨーク,ニューヨーク」「ホワイト・クリスマス」「A列車で行こう」というお馴染みのスタンダード・ナンバーでスタート。今回,まず素晴らしかったのは,挟間さんの編曲でした。ビッグバンド・ジャズといえば,サクソフォーン,トロンボーンといった楽器が沢山入るのが定番ですが,この日の編成は,ほぼOEKの通常編成でした。その編成で,しっかりジャズを聞かせてくれたのが嬉しかったですね。通常のビッグ・バンドよりは,ゆったりとしたゴージャズ感が出ており,まさにこの日の公演のタイトル通りの「シンフォニック・ジャズ」の世界でした。

前半は,もう一人のゲスト,ピアニストの山下洋輔さんが登場しました。ここで演奏されたのが,山下さんが元々はピアノと弦楽四重奏のために書いた「サドン・フィクション」という組曲の中の4曲でした。今回演奏されたのは,「ジャズの歴史」をたどるように,「ニュー・オーリンズ」「バップ」「スウィング」と言ったジャズのスタイルを示す曲と「幻燈辻馬車」という,元々は映画音楽として書いた作品が,挟間さんのアレンジで演奏されました。

山下さんのピアノには,かつてのような荒れ狂うような前衛的な気分はなく,譜面を見て弾いている曲もありました。かなり枯れた味わいのある演奏でしたが,挟間さんのアレンジによるOEKのバックアップによって,多彩な音とスタイルを持った音楽を鮮やかに楽しませてくれました。特に「幻燈辻馬車」は,馬車の気分を表すようなウッドブロックのリズムの上に何とも言えず怪しく,魅惑的な世界が広がっており,気に入りました。

そして後半は(この日は休憩時間を入れて2時間ぐらいの長さでした。座席数の制限もしていなかったので,久しぶりに通常の形の演奏会に参加したことになります),エリック宮城さんのトランペット・ソロを随所にフィーチャーした「くるみ割り人形」組曲のジャズ版を全部演奏。元々はデューク・エリントンとストレイホーンが彼らのビッグバンドのためにアレンジしたものでしたが,それを挟間さんがさらにOEKとエリック宮城さん用にアレンジしたものが今回演奏されました。

曲順はチャイコフスキーのオリジナル版とは違うのですが,曲はきっちり入っており,さらに「間奏曲(序曲と似た感じでしたが)」が加わっています。編成は,フル編成のOEK(ハープが入っていました。パーカッションはティンパニを入れて3名でした)に,エリックさんのトランペット,須川崇志さんのベース,高橋信之介さんのドラムスが加わるものでしたが,上述のとおり,ほぼ通常のオーケストラの編成でエリントンの世界を描いていたのが素晴らしいと思いました。

どの曲も須川さんのベースと高橋さんのドラムスがしっかりとリズムを刻む上にエリックさんを中心に色々な楽器の演奏が展開していく感じでした。何といっても,エリックさんのトレードマークである,ピリッと来るようなハイトーンが強烈でした。オペラのアリアのクライマックスに出てくる高音を「来るぞ来るぞ」と待ち構えて聞くのと同様の期待感。そして,それを上回るような迫力を味わうことができた満足感。エリックさんの出番は「ものすごく」多く,その体力(唇力というのでしょうか)にも感服しました。

演奏前の挟間さんとエリックさんのお話だと,サックスやトロンボーンが入っていない代わりに,トランペットで多彩な音を出してもらうことにした,ということで,エリックさんはトランペット2本(1本はフリューゲルホルンかも?)とミュート各種を駆使しての演奏でした。ハイトーン以外にも,多彩な音色やムードを楽しませてくれ,「エリックさんでないと弾き通せないのでは?」と思わせるほどの,見事な演奏の連続でした。

シンフォニックジャズの場合,弦楽器が加わるのがビッグバンドジャズとのいちばんの違いだと思います。この日コンサートマスターだった水谷晃さんをはじめ,OEKのメンバーは非常に楽しそうに演奏していたのが印象的でした。管楽セクションの方も,クラリネットの遠藤さんをはじめソロが多く,OEKメンバーにとっても非常に演奏し甲斐のある曲になっていたと思いました。

というわけで,この「挟間美帆&OEKによるシンフォニック・ジャズ」というのは,OEKの新しい「売り」にできるのでは,と思いました。特に,今回のエリックさんとの「くるみ割り人形」は,「OEK用のアレンジ」ということなので,この曲で全国ツァーなどしても面白いのではと思いました。個人的に期待してしまうのが...シンフォニックジャズ版「展覧会の絵」。実現しないでしょうか?

そして,盛大な拍手に応えて演奏されたアンコールが,映画「天使にラブソングを2」で使われている,「ジョイフル,ジョイフル」。これを山下洋輔さんも含めて,全員で演奏。この曲のオリジナルは第9の「歓喜の合唱」ということで,「日本の師走」に聞くには誠にふさわしい作品。OEKは12月に第9をほとんど演奏しない稀有な日本のオーケストラですが,その代わりに「ジョイフル,ジョイフル」を演奏するのを恒例にしても面白いかもと思わせるほど,浮き浮きとした気分の演奏でした。お客さんもOEKメンバーもしっかり楽しんでいたと思います。

挟間さんとOEKは,昨年度のコンポーザ・オブ・ザ・イヤーだったことからつながりが始まりましたが,本日の大盛り上がりの演奏を聞いて,OEKシンフォニック・ジャズ・ホリデーの続編に期待したいと感じました。「ホリデー」は,クリスマスのことを指すとも解釈できるので,年末恒例でも面白いかもしれませんね。

2020/12/06

栁澤寿男指揮OEKによる「合唱なし」のメサイア公演@石川県立音楽堂を聞いてきました。4人のソリストの大活躍に拍手。第1部12曲目の合唱曲の代わりの「きよしこの夜」も感動的でした。

本日は,12月上旬恒例,OEKのクリスマス・メサイア公演を聞いてきました。この公演についてもコロナ禍の影響を受け,「合唱なしメサイア」という異例の形になりましたが,「メサイアの伝統は続く」公演のサブタイトルのとおり,北陸聖歌合唱団が70年以上に渡って継続してきた,年末メサイア公演の伝統はしっかりと引き継がれました。

「合唱なし」で「メサイア」を演奏するというのは,異例ではあったのですが,指揮の栁澤さんが公演前のプレトークで語っていたとおり,「合唱なしでも,ストーリーはほぼつながる!」というのも新たな発見でした。第2部と第3部の「締め」の音楽である,「ハレルヤコーラス」と「アーメンコーラス」を4人で歌ってもらう以外は,独唱曲ばかりでしたが,すっきりとまとまったメサイアを聞いたという手応えがしっかり残りました。

もちろん「ハレルヤ」も「アーメン」も,華麗な雰囲気よりは,質実な雰囲気に変わりましたが,この華やか過ぎない,室内楽的気分は,むしろ今年1年の雰囲気に相応しいと感じました。お客さんの多くは,それぞれの心の中で音楽を膨らませて,「メサイア」を聞ける喜びを噛みしめていたのではないかと思います。

今回の演奏は休憩なしで,全体で70分ほどに納まっていました。栁澤さんのテンポ設定は比較的速めで,折り目正しくキビキビと音楽を進めていく感じで,いつもにも増して,弦楽器を中心にOEKの清々しい音を楽しむことができました。

そして何と言っても,今回の主役は4人のソリストたちだったと思います。上述のとおり,2つの合唱曲も歌っていましたので,のんびりとしている暇はなかったかもしれません。ソプラノの韓錦玉さんの天使のような軽やかさ,メゾソプラノの小泉詠子さんの抑制された落ち着きのある声,テノールの青柳素晴さんの柔らかな声,そしてバリトンの与那城敬の声の輝きと威力。それぞれの担当曲に相応しい歌を聞かせてくれました。中でも特に印象的だったのは,バリトンの与那城さんの歌った2曲でした。"Why do the nations"はスピード感あふれるテンポ感が格好良かったですね。

プレトークで,栁澤さんが「今回の選曲で,1カ所だけストーリーのつながらないところがあります。それは,第1部12曲目のイエス生誕の場の合唱が抜けていることで。その代わりに,例年アンコールで歌ってきた「きよしこの夜」を,13曲目「ピファ(田園交響曲)」の後に入れるので,会場の皆さんもハミングで参加してください」というお願いがありました。

確かに第12曲("ワンダフル"という歌詞が出てくる曲)のない「クリスマス公演」というのは,物足りなかったのですが,今回の「きよしこの夜」を入れるというのは素晴らしいアイデアでした。音楽的にも違和感がなかったし,何よりもハミングという形ではあれ,会場に居た合唱団の皆さんが参加する機会を作ってくれたことが良かったと思いました。この歌詞のない「きよしこの夜」は,多くの人にとって忘れられない瞬間になったのではないかと思います。

特に北陸聖歌合唱団の皆さんにとっては,大変残念な公演だったと思いますが,その思いはしっかりと受け継がれたと思います。「コロナの年」を象徴するような,これまでにない「メサイア」公演だったと思います。プレトークの最後に,栁澤さんは,コロナ禍の後に再度共演したいとおっしゃられていましたが,その日を楽しみにしています。

2020/12/05

OEK初の有料ライブ配信 PFUクリスマス・チャリティ・オンラインコンサート。三ツ橋敬子さん指揮による明るくしなやかなベートーヴェンの8番。川久保賜紀,遠藤真理,三浦友理枝の3人のソリストによる緊密で親密な三重協奏曲。オンライン公演の展望を考えつつ,自宅リビングで楽しませていただきました。

本日は午後から,PFUクリスマス・チャリティ・オンラインコンサートをストリーミングによるライブ配信で視聴しました。OEK設立当初から続いている,PFU主催のチャリティ・コンサートも今年はコロナ禍の影響で,オンラインコンサートという形を取ることになりました。試聴するための権利を購入して自宅のリビングで観るというスタイルは,私自身初めての経験でしたが,「拍手がない」「拍手をしても届かない」という寂しさは大いにありましたが,オンデマンドにはないライブ感は感じられ,こういう形もありかもという感想を持ちました。

今回のプログラムは,ベートーヴェン生誕250年の年にちなんで,ベートーヴェンの交響曲第8番と三重協奏曲の2曲が演奏されました。ソリストが3人揃う,三重協奏曲の方がメインプログラムという配列になっていました。

最初に演奏された交響曲第8番は,9月の定期公演に続いての登場となった三ツ橋敬子さん指揮によるOEKの慌てるところのない演奏。伸びやかで美しい響きを存分に味わうことができました。今回のコンサートミストレスは松浦奈々さんでしたが,松浦さんの表情豊かなリードがそのまま全体に広がっているような明るさがありました(こういう部分が分かるのはオンラインの良さでしょうか)。

第3楽章のトリオの部分では,ホルン,クラリネット,チェロを中心としたじっくりと聞かせる室内楽のようになるのもOEKらしいところだと思います。第4楽章も速すぎないテンポで,細かい音型などもくっきりと演奏。律義さの中からユーモアが伝わってくるようでした。最後の部分のティンパニの見せ場も力感たっぷりでした。

後半の三重協奏曲のソリストは,ヴァイオリン:川久保賜紀,チェロ:遠藤真理,ピアノ:三浦友理枝の3人。考えてみると,指揮者も女性,コンサートミストレスも女性。特に男女の区別を意識する必要のない時代ではありますが,これだけ女性中心というのも珍しいかもしれません。

この曲は,ピアノ三重奏+協奏曲という独特の編成ということで,滅多に演奏されることがない曲です。第1楽章の序奏部から,「いかにもベートーヴェン」という「来るぞ,来るぞ」感じが良いですね。3人の演奏は,トリオを作って10年目というだけあって,息がぴったりで,密度の高いアンサンブルをじっくりと楽しむような雰囲気がありました。ただし,曲の雰囲気としては,三重奏+協奏曲という「二重の制約」がある感じで,自由自在に羽ばたくいう感じが出しにくいような曲という気もしました。

その点で,冒頭の遠藤真理さんのソロをじっくりと堪能できた,第2楽章がいちばん聞きごたえがあった気がしました。ヴァイオリン,ピアノもそれぞれに聞かせどころがあり,じわりと広がる幸福感に浸ることができました。第3楽章は,軽快だけれどもじっくりと演奏されたポロネーズ風の楽章。ベートーヴェンが同時期に書いた「傑作の森」と呼ばれる他の曲に比べると,大きく盛り上がるという感じの曲ではないのですが,堂々と締めてくれました。

終演後は,オーケストラメンバーから拍手。演奏後にライブなのに拍手を送れないというのは,やはり寂しいですね。

ベートーヴェンの2曲の後,三ツ橋さんと3人のソリストによるトーク。そして,クリスマスを意識したアンコール曲として坂本龍一による映画「戦場のメリークリスマス」の音楽がピアノ三重奏で演奏されました。最初の三浦友理恵さんのピアノのクリアな音を聞きながら,坂本さんの音楽だなぁと実感。途中,力強く盛り上がる部分があったり,大変聞きごたえのあるアンコールでした。

というわけで,初めての「有料ライブ配信」を楽しませてもらいました。期間限定ですが,「何回も視聴できる」というのもこの方式のメリットですね。今後のアイデアですが,年数回,実際の「お客さんを入れた定期公演」について「有料ライブ」を行うというのも面白い気がします(お客さんの拍手が入るので)。いずれにしても,新しいファン層を広げるための試みとしても注目だと思います。

2020/11/26

今晩は園田隆一郎さん指揮によるOEKの定期公演を聞いてきました。安定感抜群,ニュアンス豊かな「ジュピター」,ヴァイオリンの渡辺玲子の熱さと激しさが際立っていたメンデルスゾーン。そして園田さんお得意のロッシーニ。充実の70分でした。#oekjp

園田隆一郎さん指揮,渡辺玲子さんのヴァイオリン独奏による,OEKの11月の定期公演を聞いてきました。指揮者も独奏者の変更というのは10月の定期公演に続いてのことです。指揮の園田さんは,数年前のOEKのオペラ公演に登場したことはありますが,定期公演は初登場です。まず,この園田さんがどういう音楽を聞かせてくれるのかを楽しみに聞きに行ってきました。

プログラムのプロフィールを読むと,園田さんは,オペラ(それもロッシーニ)の専門家といった感じでしたので,最初に演奏されたロッシーニの歌劇「アルジェのイタリア女」序曲は,「定期公演初登場のご挨拶がわり」といったところでした。じっくりとしたテンポから,カラッとしていながらニュアンス豊かな音楽がしっかりと聞こえてきました。テンポの速くなる主部での,自然に湧き上がってくるような愉悦感が素晴らしいと思いました。オーボエがしっとり聞かせる,というのは「ロッシーニあるある」の1つですが,この曲でソロを担当していたエキストラの橋爪絵梨香さんのくっきりとした音。お見事でした。

2曲目は,生で聞くのが今月2回目となるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でした。ソリストはおなじみの渡辺玲子さんでした。今回の定期公演では,OEKとは久しぶりの共演となる渡辺さんの演奏も聞き所でした。渡辺さんは,以前から気合たっぷりの音楽を聞かせてくれる方ですが,それにさらに磨きがかかり,随所に「鬼気迫る」雰囲気のあるメンデルスゾーンを聞かせてくれました。

冒頭から情感たっぷり,というか隠そうとしても情感があふれ出てしまう,といった感じの演奏でしたが,全体の雰囲気がスリムでキリッと締まっているのが渡辺さんらしいところだと思います。今月14日に白山市で聞いた,若手ヴァイオリニストの郷古廉さんの演奏よりは,随所に「頑固さ」のある演奏で,渡辺さんの「思い」が発散されていました。第2楽章もかなり崩した感じの歌いっぷりで,ちょっとポルタメントを入れるなど,ベテラン奏者の味がありました。第3楽章はかなりのスピードで,「このスピードについてこれるかな?」と挑発するかのように,自由自在なテンポ感で演奏。園田さん指揮OEKは,これにしっかりと反応しており,実にスリリングでした。曲の最後の部分では,渡辺さんのヴァイオリンは,さらにいっそう激しさを増し,強烈な印象を残して全曲を締めてくれました。

アンコールでは,多分パガニーニの無伴奏の曲が演奏されました。メンデルスゾーンの終楽章の延長戦のような感じの切れ味の素晴らしさを楽しませてくれました。

後半はモーツァルトの「ジュピター」交響曲が演奏されました。7月にOEKが公演を再開して以後,ほとんど毎回のようにモーツァルトの交響曲を聞いていますが,毎回毎回,雰囲気が違うのが本当に面白いですね。「ジュピター」は,8月末に栁沢寿男さん指揮で聞いていますが,今回の園田さん指揮の演奏は,どっしりとした安定感の上で自在に遊ぶような,素晴らしい演奏でした。

園田さんは雰囲気としては...どこか大相撲の琴奨菊(つい先日,引退発表したばかりですが)といった感じで,包容力と朴訥さが指揮の動作から感じられたのですが,その音楽はニュアンス豊かで,楽章ごとのキャラクターがしっかりと描きわけられていました。第1楽章からは堂々としたたくましさ。第2楽章からは,何とも言えない寂し気な情緒。第3楽章からはサラリと流れるような爽やかさ。そして第4楽章は全部を総括するような,どっしりとした包容力を感じました。特に「これみよがし」なことはせずに,じっくり,くっきりと立体的な音楽を聞かせてくれた第4楽章の味わいが素晴らしいと思いました。

実は,今回登場予定だったギュンター・ピヒラーさん指揮による「ジュピター」を聞くのをとても楽しみにしていました。今回聞けなかったのは大変残念だったのですが,園田さんの指揮で,恐らく,ピヒラーさんとは全く違うアプローチでこの曲を聞くことができたのは,大きな収穫でした。園田さんには,是非,今後もOEKに客演をしていただきたいと思います。OEKのロッシーニといえば,ミンコフスキさん指揮による「セビリアの理髪師」全曲を思い出しますが,これに続く,ロッシーニのオペラ全曲などに期待しています。

2020/11/14

快晴の秋晴れの土曜日の午後,OEK白山公演へ。太田弦さん指揮による熟練のモーツァルトの40番と郷古廉さんとの共演による非常にたくましいメンデルスゾーンの協奏曲を楽しんできました

快晴の秋晴れの土曜日の午後,白山市まで出かけ,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)白山公演2020を聞いてきました。指揮は11月3日のピアノ協奏曲公演に続いて太田弦さん,ヴァイオリン独奏は郷古廉さん。2人の若手アーティストの共演でした。

今回の会場,白山市松任文化会館ピーノに来るのは,2月上旬以来のことです。思い起こせば,コロナ禍が拡大する直前の公演で,しかも演奏曲目は,現時点では演奏が難しい曲となってしまったベートーヴェンの第9ということで,遙か遠い昔のことに思えます。

本日のプログラムは休憩なしで,前半がメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲,後半がモーツァルトの交響曲第40番でした。両曲とも10月の定期公演で取り上げた曲+11月の定期公演で取り上げる曲ということで,それらとの比較の楽しみが聞き所といえます。

メンデルスゾーンは過去何回も演奏されて来た曲ですが,今回の郷古さんの演奏は,非常にたくましく,力強さを感じさせる演奏だったと思います。宮城県出身の郷古さんが東日本大震災直後に登場した「忘れられない」定期演奏会以来,数回OEKと共演をしていますが,ますます立派なアーティストに成長しているとなぁと感じました。

この松任文化会館については,やはり音楽専用でない多目的ホールということで,サイズ的にはOEKに丁度良いのですが,音が客席まであまり飛んで来ず,残響も少なめです。石川県立音楽堂コンサートホールで聞くような優雅な気分が味わえなかったのが残念でしたが,その分,郷古さんの切れ味の良い技巧をしっかりと感じることができました。カデンツァの部分などでは,バッハの無伴奏ヴァイオリンを聞いているような切実さな迫力が伝わってきました。最終楽章の最後の方はテンポをぐっと上げ,大変,生き生きとした音楽になっていました。OEKもぴったりと息の合ったバックアップでした。OEKのツイッターでは,「太田さんと郷古さんは同級生」と書かれていましたが,これからも何回も共演をしていくコンビになっていくのかもしれませんね。

後半のモーツァルトの40番は,10月に高関健さん指揮による,「全部繰り返しを行う」形での演奏を聞いたばかりでしたが,今回は「全部繰り返しを行わない」形での演奏でした。どちらが良いとは簡単には言えませんが,やはり「全部繰り返す」のは,時々ならば良いというのが正直なところでしょうか。今回の演奏時間は25分ぐらいでした。

太田さんの指揮ぶりは,今回も安定感抜群でした。力んだような部分はなく,要所要所のみで力を入れ,こだわりの表現を聞かせる,といった感じでした。その結果として,音楽全体としての形の良さやバランスの良さが出てくると思いました。各楽章とも,オーケストラの各楽器の音がしっかりと聞こえ,モチーフの積み重ねで曲が構成されていることが実感できるような,職人的な音楽なのではと思いました。これから,色々な曲について,味わい深く聞かせてくれるような指揮者になっていくのではと思いました。

アンコールでは,これもまた定番曲の「フィガロの結婚」序曲が演奏されました。無駄のない動きから,音楽の流れがしっかり伝わってくるような鮮やかな演奏で,太田さんはオペラの指揮にも向いているかも,と勝手に想像しながら聞いていました。

演奏時間は丁度60分程度と短めでしたが,終わってみれば,序曲,協奏曲,交響曲が揃っており,きっちりとしたプログラムを聞いたという充実感が残りました。このお二人は来年早々,七尾市で行われるOEKの公演に登場します。その共演の方も聞いてみたくなりました。

 

2020/11/03

文化の日の午後「OEK&石川県ピアノ協会スペシャルコンサート」を石川県立音楽堂で聞いて来ました。ピアノ協奏曲3曲と独奏曲1曲の充実の内容。特に樋口一朗さんの独奏による,輝きに満ちた「皇帝」らしい「皇帝」がお見事でした。太田弦さん指揮OEKの演奏も大船に乗ったような安心感がありました。#oekjp

文化の日の午後,「OEK&石川県ピアノ協会スペシャルコンサート」を聞いて来ました。石川県ピアノ協会関係のピアニストとOEKが共演する演奏会は過去定期的に行われてきましたが,今回は文化庁主催という形になり,座席数を限定していた代わりに,公演の動画は後日配信されるなど,「新しい様式」に従った内容となっていました。

内容の方は,ピアノ協奏曲3曲+独奏曲1曲という充実の内容。15分の休憩時間を含めて,2時間少しの長さがありました。段々と通常の公演に近づいているなぁという印象です。

今回登場したピアニストは,江端玲子さん,加藤恵理さん,坂下幸太郎さん,樋口一朗さんの4人で,それぞれ,ラーション/ピアノのためのコンチェルティーノ,シューマン/ピアノ協奏曲イ短調,メンデルスゾーン/ロンド・カプリチオーソ(ピアノ独奏),ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」を演奏しました。

どれも大変充実した内容でした。ラーションの作品がいちばん珍しい曲でしたが,シンプルな雰囲気の中から北欧らしい空気感が漂ってくるようなとても良い曲でした。江端さんの自然体の落ち着きのある演奏の雰囲気に合っていると思いました。

シューマンのピアノ協奏曲は,加藤さんの曲に対する思い入れがしっかりと伝わってくるような演奏で,特にゆっくりとロマンティックな情緒を聞かせてくれる部分の濃い味わいが良いと思いました。第3楽章最後の方で,ピアノの音が延々と上下するような部分の丁寧かつノリの良い演奏も素晴らしいと思いました。

メンデルスゾーンのロンド・カプリチオーソを演奏した坂下さんは,恐らく,まだ小学生か中学生。この曲を作曲した時のメンデルスゾーンも大変若かったはずですが,その瑞々しい美しさとロンドの部分での軽やかさに感嘆しました。これからが大変楽しみなピアニストだと思います。

最後に登場した樋口一朗さんによる「皇帝」は,まさに王道を行くような堂々たる演奏でした。冒頭のカデンツァ風の部分から磨かれた音の輝きが素晴らしかったですね。この日の指揮は,樋口さんと同世代でまだ20代の指揮者,太田弦さんでしたが,その指揮も素晴らしく,曲全体に,大船に乗ったような安定感がありました。第3楽章は少し疲れ気味かな,という気がしましたが,曲全体から堂々とした力強さが発散されており,曲のどこを取っても,皇帝らしい皇帝だなと思いました。

地元のアーティストにとっても,今年は苦難の年だったと思いますが,今後への希望を感じさせてくれるような素晴らしい内容だったと思いました。

2020/10/22

久しぶりに #石川県立音楽堂 に登場した #井上道義 さん指揮OEKによる,思い切りの良くスイート&スマートな音楽の数々。コロナ禍の中で「心からのプレゼント」をもらったよう。まさに企画の勝利といった演奏会でした。#oekjp

今晩は,OEKの音楽監督退任後,久しぶりの定期公演の登場となった井上道義さん指揮による公演を楽しんできました。

今回のポイントは,26年前に井上さんとOEKが作ったアルバム「スイート」の中から選曲していた点です。コロナ禍の影響で,当初の指揮者マルク・ミンコフスキさんが来日できなくなり,「一体どうなるのだろう?」と心配をしていたのですが,それを逆手に取るように,通常の定期公演では「ありえない」ような,耳あたりの良い小品~中規模の作品ばかりを集めたプログラムとなりました。このプログラムを思い付いたのがどなただったのかは分からないのですが,まさに「企画の勝利」だったと思います。

この日のOEKの編成は打楽器なし,トランペットも登場したのが一か所だけでしたが,そのことによって,プログラム全体に「品の良さ」と言ってもよいような統一感が生まれていたと感じました(そもそも,そういうコンセプトのアルバムだったので,まとまっていた当然とも言えます)。長年,OEK定期公演を聞いてきたファンは「時にはこういうプログラムも良いなぁ」と感じ,あまりクラシック音楽の演奏会を聞いたことのないお客さんにとっては,素直に心地よい音の流れに身を任せることができたのではないかと思います。

アルバム「スイート」を聞いた時はあまり意識をしていなかったのですが,実は,全部作曲者が違い,国籍もバラバラという選曲でした。本家「スイート」に収録されていたR.シュトラウスの「カプリッチョ」の序奏だけは,今回演奏されなかったのですが,この曲を外したことで,全7曲の作曲者の出身国が見事にバラバラになりました。次のとおりです。

バーバー(アメリカ)→ラフマニノフ(ロシア)→マスカーニ(イタリア)→クライスラー(オーストリア)→ディーリアス(英国)→ワーグナー(ドイツ)→サン=サーンス(フランス)

コロナ禍の中で海外旅行がほとんどできなくなった現在,音楽で世界一周というコンセプトもこの日のプログラムにはありました。

演奏の方は,バーバーの弦楽のためのレクエム,ラフマニノフのヴォカリーズと,悲しみをたたえたような音楽が続いた後,カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲の途中からは,明転していく感じでした。オルガンのステージの部分の照明がこの曲の時だけ明るく輝いていました。井上さん指揮OEKの演奏は,悲しい曲でもドロドロした感じにはならず,透明感あふれる弦楽器を主体としたスタイリッシュな美しさの方が際立っていたのですが,カヴァレリア・ルスティカーナの途中での「濃い表現」がとても印象的で,この部分は元祖「スイート」のあっさりした美しさよりも良いなぁと思いました。

続いての「愛の悲しみ」では,この日のコンサートマスター,水谷晃さんのソロをフィーチャーしての弦楽合奏。編曲者の名前までは書いてなかったのですが,この弦楽合奏+ヴァイオリン独奏版は,まさにOEK向きでした。水谷さんの憂いを帯びた,クリーミーな音が大変魅力的でした。

ディーリアスの「春初めてのカッコウを聞いて」は,アルバムの方では最初に収録されている曲。CD同様,さわやかな風が感じられる心地よい音楽なのですが,実演できくと,曲の最初の部分から「ディーリアスだぁ」という空気感がウヮっと伝わって来て,何とも言えない幸福感に包まれました。次のワーグナー「ジークフリート牧歌」もつつましい幸福感に包まれた音楽でした。曲の終盤,ホルンやトランペットが出てくるあたりは,ワーグナーの楽劇のテイストも出てきます。トランペットの藤井さんは最後列で立ち上がって演奏されていましたが,こういう見せ方,聞かせ方も井上さんならではですね。

そして,コロナ禍の中での「世界一周旅行」の最後は,旅の終りを惜しむような,しみじみとした味わいを持ったサン=サーンスの「白鳥」。チェロの独奏は,この日の客演首席奏者だった,マーティン・スタンツェライトさん(広島交響楽団首席奏者とのことです),ハープは松村衣里さんでした。マーティンさんのチェロにはまっすぐな美しさと透明感があり,聞いていてだんだんと切なくなってきました。ハープの松村さんは,「白鳥」を思わせるような白い衣装に着替えて登場。優しくしっかりと白鳥をささえているようでした。さらには弦楽合奏も薄く伴奏をしていたのも,「スイート」な気分を盛り上げていました。

このアルバム「スイート」は,いわゆるBGM的に聞き流せるようなところもあるのですが,じっくり聞くと味わい深い曲ばかり。そのことをよく分かった,井上さん指揮による「愛に溢れた」演奏ばかりだったと思いました。

最後にアンコールとして,唯一,「スイート」に含まれていない曲が演奏されました。世界一周の終点は「日本」ということで,井上さんのアンコール曲の定番,武満徹作曲の「他人の顔」のワルツが演奏されました。いつもどおり,井上さんの「指揮=ダンス」にぴったりの流れるような音楽。時々,大きく溜めを入れたり,自由自在の演奏。締めはクルリと一回転して,お客さんの方を向いておしまい。井上さんは「コロナ禍でも私は元気です。」と語っていましたが,そのことを証明するようなキレ味の良い指揮ぶりでした。

というわけで,この演奏会。考えてみると奇蹟のような公演だったのかもしれません。パンデミックが起こって,国と国の間の人の行き来が止まる事態は誰も予想できなかったし,ミンコフスキさんの代わりに井上さんが登場することも予想できなかったし,ベートーヴェンの交響曲の代わりにカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲が演奏されることも予想できなかったし...。予想を超えたことが起こるのが,ライブで音楽を聞くことの何よりもの楽しみだと思います。こういう演奏会ができたのも,井上さんとOEKの長年の結びつき,そして,このコンビを支えてきた,金沢の聴衆の力もあったからなのかな,と思いました。

今回,改めてクラシック音楽の小品集の魅力のようなものを実感することができました。井上さんとOEKには,「好評につきモア・スイート」といった続編コンサートを期待したいと思いました。

2020/10/03

本日午後のOEK定期公演は 「さすが#高関健 さん」という素晴らしい内容。モーツァルトの40番が「なかなか終わらない」充実の大交響曲に変貌。#成田達輝 さん独奏によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番もスタイリッシュな感じとワイルドさが混在した魅力的な演奏。

本日の午後は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演マイスターシリーズを聞いてきました。当初は,世界で最も有名なヴィオラ奏者でもある,ユーリ・バシュメットさんが指揮者+独奏で登場予定でしたが,コロナの影響で来日不可能となり,高関健さん指揮,成田達輝さんのヴァイオリン独奏に変更になりました。

プログラムも一部変更になりましたが...予想を上回る,素晴らしい内容の公演になりました。ボリューム的にもほぼ通常の定期公演と同じぐらいの聞き応え(逆に言うと途中に休憩が欲しいぐらいでした)。その理由は,後半に演奏された繰り返しを全部行ったモーツァルトの交響曲第40番の素晴らしさ+成田達輝さんのヴァイオリンの素晴らしさによります。

モーツァルトの40番は通常だと25分程度で演奏されることが多いと思いますが,本日の演奏は,35分ぐらいかかっていたと思います。高関さんのテンポ設定は,1楽章から3楽章まではかなり速めで,全く弛緩することなく,特に半音階を含む「嘆き」のモチーフをがっちりと積み上げていくような構築感が見事でした。甘い雰囲気になることはなかったので,色々な楽器によるモチーフの積み重ねや絡まり合いを純粋に楽しめた気がしました。

第1楽章の繰り返しが行われることは多いのですが,第2楽章は前半も後半も繰り返していたので(これはかなり珍しいと思います),単純計算で2倍の長さになります。第2楽章は静かな透明感のある楽章ですが,色々な楽器がモチーフを繰り返していくことで,延々と星空が続くような壮大さを感じました。第3楽章は直線的でがっちりとした感じで始まった後,中間部では柔らかな響きに。こういった曲のパーツごとの対比も鮮やかでした。

第4楽章も速いのかな...と思ったら,この楽章だけはそれほど速くなく,安定感のある歩み。「疾走する哀しみ」と言われる楽章ですが,印象としては「疾走しないし,それほど悲しくない」という感じでした。ただし,それが良いと思いました。第2楽章同様,前半も後半も繰り返しをしていたので,曲の最後の部分は,「あれ,まだ終わらない」と思った人もいたかもしれません。ずっと安定感のある音楽が続いた後,展開部の最初の部分だけ,リズムが乱れ,音楽が崩壊するような感じになるのを強調していたのも面白かったですね。繰り返しを行ったからこそ,違和感が強調されていた気がしました。

というわけで,高関さんの手によって,モーツァルトの40番が,細かいモチーフのしつこい積み重ねで出来た大交響曲のように変貌していました。バシュメットさんが指揮したらどうなっていたのだろうか,という思いもありましたが,これまで聞いてきた40番の中でも特に印象に残る演奏になりました。

前半に演奏された,成田さんの独奏によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番も,クールさとホットさとが入り交じった演奏で,この曲のキャラクターにぴったりだと思いました。成田さんのヴァイオリンを石川県立音楽堂コンサートホールで聞くのは初めてでしたが,曲の冒頭から,そのよく通る,伸びやかな響きに魅せられました。全曲を通じて,とてもスタイリッシュな格好良さがあったのですが,第3楽章など結構ワイルドな感じで,表現の幅の広さやスケールの大きさを感じました。独特の甘さと静けさをもった2楽章の雰囲気も印象的でした。

この曲を実演で聞くのは久しぶりだったのですが,大太鼓が,随所で効果を発揮していると思いました。甘いけれどもちょっとグロテスクな感じを強調しているのではと思いました。第3楽章では,パーカッションの渡邉さんは,大太鼓に加えて,カスタネットやシンバルなども持ち替えて演奏しており,大活躍でした。

プログラムの最初に演奏された,シューベルトのイタリア風序曲第1番は,ロザムンデ序曲と「ザ・グレート」の素材が出てくるような明るい作品。飯尾洋一さんのプログラム解説にあったとおり,序曲,協奏曲,交響曲という構成の「ベーシックな構成」の定期公演を聞けたのが何よりも良かったですね。

というわけで,バシュメットさんを聞けなかったのは本当に残念でしたが(是非,また呼んでください),そのことを忘れさせるような充実した内容の定期公演でした。

 

 

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