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コンサート

2020/01/25

マキシム・パスカル指揮OEK定期公演。理詰めだけれども雄弁なベルクの室内協奏曲。輝かしさと堂々たる聞きごたえのあった挟間美帆さんの「南坊の誓い の世界初演。そして記念の年のスタートに相応しい生きの良さのあったベートーヴェンの交響曲第2番。若い世代による新鮮さ溢れる公演 #oekjp

本日は午後から,フランスの若手指揮者,マキシム・パスカルさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いて来ました。プログラムは,前半は,ベルクの室内協奏曲と挟間美帆さんの新曲,後半はベートーヴェンの交響曲の中でも比較的演奏される機会の少ない第2番という非常に冒険的な内容。若い世代のアーティストたちによる新鮮さ溢れる公演となりました。

ベルクの室内協奏曲をOEKが演奏するのは今回が初めてかもしれません。。ピアノとヴァイオリンがソリスト的,それ以外は13管楽器という変則的な編成で,その名のとおり,協奏曲的要素と室内楽的要素が混ざったような作品でした。新ウィーン楽派のベルクの作品ということで,モチーフの設定やその組み合わせ方は理詰めで(ベルク,シェーンベルク,ウェーベルンの名前を読み込んだモチーフなどは,ちょっとショスタコーヴィチを思わせる感じかも),単純に感情移入するのは難しい曲ではあるのですが,パスカルさんの作る音楽には,明晰さと同時にしなかやかさがあり,どこか詩的な気分やドラマが漂っているように感じました。ユージュン・ハンさんのヴァイオリン,アルフォンセ・セミンさんのピアノは,技巧的に鮮やかであると同時に,音で対話をするような雰囲気があり,とっつきにくい音楽ではあったのですが,曲の最後の部分など,どこか意味深く,ミステリアスな雰囲気を持っていました。

続いて,OEKのコンポーザー・オブ・ザ・イヤーの挟間美帆さんの「南坊の誓い」が世界初演されました。この作品は,安土桃山時代に加賀藩に滞在していたことのあるキリシタン大名,高山右近をモチーフにした作品で,タイトルの「南坊」というのも,高山右近が名乗っていた名前とのことです。挟間さんは,最新のアルバムがグラミー賞にノミネートされているとおり,現在最も注目度の高いジャズ作曲家の一人です。実は,もう少しジャズ的な要素のある軽い感じの作品になるのでは,と予想していたのですが,本日初演された曲は,爽快で輝かしい部分と内省的な部分のメリハリがしっかりと付けられた,分かりやすさと同時に堂々たる聞きごたえを持ったオーケストラ作品でした。OEKの編成ぴったりで演奏できる辺りも含め,OEK側の期待どおりの作品に仕上がっていたのではないかと思いました。

曲は3つのパートに分かれているように思いました。両端部分はがっちりとした感じ+生き生きとした感じ,中間部がしっとりとした感じでしたので,ガーシュインの「パリのアメリカ人」の金沢版といった趣きがあると思いました("Ukon in Kanazawa"といったところでしょうか)。最初の部分で,同じリズムパターンが何回も繰り返されたり,ポリフォニックに絡んだりする辺りも面白かったのですが,中間部でヴィオラが深々とした歌を聞かせる辺りが,個人的には特によいなぁと思いました。終演後のサイン会の時に挟間さんにこのことを話してみたところ,「ヴィオラで高山右近を描いた」とおっしゃられていました。やっぱり主役だったんですね。

最後の部分は,輝かしい響きで締められ,演奏後は盛大な拍手に包まれました。とても演奏効果の上がる曲だったので,今後,この曲はOEKの基本レパートリーとして,国内の演奏旅行などで再演しても面白いのでは,と思いました。

後半はベートーヴェンの交響曲第2番が演奏されました。パスカルさんの作る音楽は,全曲を通じて若々しいものでした。第1楽章の主部や第4楽章などは,かなりのスピード感で,一気に駆け抜けていく感じでした。両楽章ともアビゲイル・ヤングさんを中心とした弦楽器が,いつもどおりの切れ味の良い演奏でしっかりとこたえていました。対照的に,第1楽章の序奏部や第2楽章では,しっかりと歌い込まれた,豊かなニュアンスを持った演奏を聞かせてくれました。特に停滞することなく,伸び伸びと歌い込まれた2楽章が良いなぁと思いました。

両端楽章については,個人的には,ちょっと慌て過ぎに感じたのですが,ベルクの時とはまた違った,率直な音楽を聞かせてくれました。ベートーヴェン生誕250年の記念の年のスタートに相応しい生きの良い演奏だったと思います。

挟間美帆さんがノミネートされているグラミー賞は,アメリカ時間の1月26日に発表されるので,公演後,挟間さんはロサンゼルスに移動するとのことでした。今回の定期公演は,その前祝い公演だったのではと思っています。大相撲初場所の優勝の行方も気になっていますが,グラミー賞の結果発表も益々楽しみになってきました。

2020/01/11

OEKニューイヤーコンサート2020 ユベール・スダーンさん指揮 森麻季さんのソプラノによるバロック・オペラの名曲+オッフェンバック+シュトラウス・ファミリーの音楽。楽しさとこだわりが両立した充実の公演。ヤングさんのチャールダーシュも言うことなし。もちろんOEKどら焼きもゲット #oekjp

本日の午後は,2020年最初の公演,OEKのニューイヤーコンサートを聞いてきました。今年の指揮はプリンシパル・ゲストコンダクターのユベール・スダーンさん,ソリストとしてソプラノの森麻季さん,OEKの第1コンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんが登場しました。

この公演については,毎年,通常の定期公演とは少し違う趣向が凝らされていますが,今回特にスダーンさんらしさが出ていたと思いました。前半は森麻季さんの得意のレパートリーを中心とした,バロック~古典派のオペラ・アリア中心。後半は今年が没後140年(昨年は生誕200年でした)となるオッフェンバックの「パリの喜び」の抜粋の後,シュトラウス・ファミリーの音楽。その間に,ヤングさんのソロを数曲,といった構成でした。

色々な時代,ジャンルの小品中心ということで,雑然とした感じになるのかなとも思ったのですが,スダーンさんは意図的に多彩な小品の組み合わせの妙を楽しませようとしていたように思いました。モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章と痔2楽章を別々に演奏してその間に別の曲を入れたり,ヴィヴァルディの四季の冬だけを演奏したり...数年前の北谷直樹さん指揮による,パスティッチョ特集を思い出しました。

曲と曲の間に何回も拍手が入りましたが,これも敢えてそういう形にしているようで,拍手を積み重ねていきながら,新年のコンサートに相応しいお祭り感が自然に盛り上がっていきました。それでいて,全体がビシッとしまっていたのは,やはりスダーンさんの熟練の指揮の力だと思いました。OEKならば指揮者なしでも演奏できそうな弦楽合奏の曲もかなりありましたが,スダーンさんはきっちりリズムを取って指揮をするというよりは,曲のイメージを明確に示すような指揮ぶりで,どの曲についても,音楽の自然な勢いがあり,曲想に応じたメリハリが鮮やかにつけられていました。

前半に登場した森麻季さんの歌も,いつもどおり素晴らしかったですね。森さんならではの,精緻で丁寧な滑らかさのある歌,透明感だけでなく,ぞくぞくさせてくれるような艶っぽい声を楽しませくれました。ヘンデルのアリアは,森さんの十八番ばかりだったと思いますが,「ドン・ジョヴァンニ」中ののドンナ・アンナのアリアも森さんにぴったりだと思いました。前半のじっくりとした感じを受けて,最後の方にコロラトゥーラが入る構成で,とても聞き応えがありました。

そして,ヤングさんのヴァイオリンも素晴らしかったですね。改めて素晴らしいヴァイオリニストだなぁと再認識しました。モンティのチャールダーシュは,技巧的にも難しい曲ですが,その辺を鮮やかにクリアした上で,変化に富んだ曲想を持った内容のある音楽として,「どうだ!」という感じで楽しませてくれました。

後半の最初に演奏されたオッフェンバックの「パリの喜び」は個人的に大好きな作品で,一度,実演で聞きたかった作品です。全曲ではなく,抜粋でしたが,この曲の持つ華やかさと軽妙さをしっかり伝えてくれました。個人的な定番はシャルル・デュトワのCDで,それに比べると,少々大人しいかなという気はしましたが,特に冒頭の序曲を実演で聞けたのは大きな収穫でした。

最後は,新年の定番と言っても良い,ヨハン・シュトラウスのポルカ2曲とワルツ1曲でした。「田園のポルカ」という作品は,オーケストラのメンバーによる「ラララ」という楽しげな声が入る曲でした。数年前のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで聞いた記憶があります。

「雷鳴と電光」に続いて,締めの定番「美しく青きドナウ」,アンコールの定番「ラデツキー行進曲」で演奏会はおひらきとなりました。スダーンさんのテンポ感はとてもスムーズでしたが,「ドナウ」の中間部では,思い入れたっぷりにテンポを落としたり,所々で思いの強さが伝わってきました。ラデツキー行進曲も,拍手しやすいテンポのリラックスムードでしたが,全体の雰囲気が,がっちりとした行進曲になっていたのが良いなぁと思いました。

終演後,スダーンさんのサイン会があった後,新年恒例の茶菓工房たろうさん提供による,「OEKどら焼き」のプレゼントがありました。今年も,多彩なプログラムを楽しませてくれそう,という期待感いっぱいのニューイヤーコンサートでした。

2019/12/31

2019年のOEK定期公演を振りかえる。OEKらしさに磨きがかかった一年。毎回聞き逃せないミンコフスキさんの公演を中心に,金沢ならではの公演が増えてきた気がします。

今年も大みそか。2019年のOEKの定期公演は,どの公演も楽しめました。

公演のタイプとしては,まず,(1)ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェンの交響曲を核としたベーシックなプログラム,(2)室内オーケストラの可能性を広げようと独自性を追求するプログラムに分けられると思います。(1)は,ユベール・スダーンさんやラルフ・ゴトーニさんが登場した公演,(2)の方は,川瀬賢太郎さんが登場した,ジュリアン・ユー編曲版の「展覧会の絵」公演などが入ると覆います。

そして,マルク・ミンコフスキさんが登場した2回の公演。「ミンコフスキさんの「新世界」?」「ブラームスのセレナード第1番?」すべてが注目でした。そして,意表を突いて演奏されたドヴォルザークのスラヴ舞曲op.72では,曲の魅力を再発見させてくれました。

このミンコフスキさんの影響もあるのか,ポール=エマニュエル・トーマス,ピエール・ドゥモソー,パトリック・ハーンといった若い指揮者による公演が続いたのも今年の特徴だったと思います。この「才能の先物買い(?)シリーズ」も金沢ならでは魅力だと思います。

ソリストもそれぞれ素晴らしかったのですが,「一人」に絞れば,メゾ・ソプラノの藤村実穂子さんでしょうか。世界最高峰のワーグナーの声を堪能できました。

最後に,個人的にもっとも印象に残った公演は,OEKと初共演だったコーリャ・ブラッハーさん指揮+弾き振りによる定期公演でした。ブラームスのヴァイオリン協奏曲とベートーヴェンの交響曲第4番といったオーソドックスなプログラムを非常に立派で熱のこもった音で再現してくれました。

OEKについては,公演ごとに(指揮者の個性や編成によって)大きく雰囲気が変わる適応力の高さが面白い点だとと思います。2020年はどういう音を聞かせてくれるのか,大いに期待したいと思います。

2019/12/08

OEKと北陸聖歌合唱団の「メサイア」(抜粋)公演は,三河正典さん指揮による,じっくりとしたテンポによる,晴れやかで気持ち良い演奏。独唱の皆さんの歌唱も充実。#oekjp

本日は年末恒例のOEKと北陸聖歌合唱団の「クリスマス・メサイア」公演を聞いてきました。今年は,抜粋版による演奏で,指揮は三河正典さん指揮でした。第1部はほぼ全曲が演奏され,第2部と第3部は「はずせない」定番曲中心という感じでした。

プログラムに掲載されていた,北陸聖歌合唱団による60年に渡る公演リストを見ると,三河さんは今回で4回目の登場。地元の指揮者以外では,最多の登場回数です。今回の演奏を聞いて,北陸聖歌合唱団と三河さんの相性は抜群だと思いました。三河さんのテンポ設定は,基本的に遅めでしたが,そのことにより,合唱団だけでなく,オーケストラの演奏についても,表現が徹底していると感じました。それでいて,演奏全体はすっきりまとまっており,「ハレルヤ・コーラス」をはじめ,合唱団が大きく歌い上げる部分は,とても晴れやかでした。聞いている方も気持ち良かったのですが,歌っている皆さんも気持ちよかったのではないかと思いました。

「アーメン・コーラス」などでは,三河さんは,曲中の要所要所で非常に大きな間を取っていました。最後は,非常に壮麗でスケール感たっぷりに締めてくれました。

今回はソリストの皆さんも素晴らしい歌唱の連続でした。序曲に続いて,テノールの伊達達人さんの,全く苦しげな感じのしない瑞々しい声。バリトンの高橋洋介さんは,過去,OEKの定期公演にも登場しています。第1部と第3部の魅力的なアリアを威厳のある美しい声で聞かせてくれました。

メゾ・ソプラノのパートは,今回はカウンターテノールのデキョン・キムさんが担当しました。古楽の歌唱法で,非常にすっきりとしているのですが,その中に優しさの溢れており,第2部の長いアリアなども自然な哀しみがこもっているようでした。ソプラノは,お馴染みの朝倉あづささんではなく,韓錦玉さんでした。韓さんの声にも暖かみがあり,第1部後半などは,クリスマスの物語をお母さんが子どもに読み聞かせてくれているような親しみやすさを感じました。

今年も無事に平和な気分で「メサイア」を楽しむことができました。少々早いのですが,今年の演奏会通いは本日で最後になりそうです。アンコールの「きよしこの夜」を聞きながら,無事1年が終わりそうなことに感謝したいと思います。

PS.今回は,「メサイア」に先だって,春日朋子さんによる,パイプオルガン演奏で2曲演奏されました。これまで,プレコンサートの形だったのですが,このスタイルの方がじっくりと楽しめるので,良いなと思いました。

2019/12/07

12月恒例のPFUクリスマスチャリティコンサート。今年の指揮は,OEK初登場のキハラ良尚さん。オーソドックスでありながら,非常に新鮮で勢いのあるベートーヴェンの7番を聞かせてくれました。村治奏一さんとの共演のアランフェス,池辺さん監修の映画音楽集も楽しめました。

本日は12月恒例のPFUクリスマスチャリティコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。このコンサートも回を重ね,今回で28回目とのことです。毎年のように,OEKが登場していますので,ほとんど12月の定期公演のようなものですね。

今回登場したのは,若手指揮者のキハラ良尚さん,ギター奏者の村治奏一さんでした。お二人ともOEKと共演するのは初めてだと思います。この2人に加え,案内役として池辺晋一郎さんが登場しました。

前半は,スッペの「軽騎兵」序曲で始まりました。非常に有名な曲ですが,あまりにも親しみやすい曲なので,演奏会で聞くのはかえって珍しい,といった曲かもしれません。キハラさんの指揮は大変率直で,のびのびとこの曲を魅力を伝えてきました。じっくり聞くと気持ち良い曲だなぁと思わせてくれました。

この曲ですが,実は,次に演奏された池辺さん作曲の黒澤明監督の映画「影武者」の音楽への伏線でした。池辺さんが「影武者」の映画音楽を担当した際,ラッシュ(未編集プリント)に「軽騎兵」序曲が入っていたそうです。「軽騎兵」序曲のイメージで音楽を付けて欲しいという黒澤監督のメッセージなのですが,その真意はよく分からないということで,あれこれ策を駆使して,「金管楽器の音を入れたい」ということが分かり,作曲したとのことです。

この「影武者」の音楽ですが(どういう場面で使われていたのか分からないのですが),「軽騎兵」というよりは,ベートーヴェンの「英雄」の第2楽章の葬送行進曲のような感じの曲でした。途中トランペットが出てくるということで,ワーグナーの「神々の黄昏」の「ジークフリートの葬送行進曲」的な感じもありました。「軽騎兵」序曲のような「景気」の良さ(池辺さんの本日のダジャレの一つです)はありませんでしたので,恐らく,戦いに敗れた感じの場面で使われたのかなと思いました。

続いて,武満徹「3つの映画音楽」から,第1曲「調練と休息の音楽」と第3曲「ワルツ」が演奏されました。「ワルツ」の方は,井上道義さんの時代から,アンコールピースとして何回も聞いてきた曲でしたが,第1曲の方を聞くのは...久しぶりだと思います。ちょっとブルースっぽい雰囲気のある魅力的な作品で,「ワルツ」並みに聞かれても良い曲だなぁと思いました。「ワルツ」の方は,井上さんに比べるとあっさりとした感じで,シュッとした感じの美しさがありました。

前半の最後は,村治奏一さんの独奏で,ロドリーゴのアランフェス協奏曲が演奏されました。金沢の冬とは正反対のカラッとした明るさのある演奏でした。村治さんのギターの音の澄んだ音が心地良く響いていました。有名な第2楽章も,ノスタルジックな雰囲気よりは,どこかニヒルでクールな雰囲気を感じました。第3楽章は力強さと同時に,ニュアンスの豊かさを感じました。キハラさん指揮OEKも,しなやかにバックアップをしていました。

アンコールでは,タレガの「アルハンブラの思い出」が演奏されました。最初の部分は,オッと思わせるほど揺らぎのある独特のテンポ感で始まりました。村治さんならではの語り口にグッと引きつけてくれるような演奏でした。

後半は,OEK十八番のベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されました。9月の定期公演でも取り上げたばかりの得意曲です。ただし,私自身は都合でこの公演を聞けなかったので,そのリベンジ(?)の意味と,初めて聞く指揮者がどういう演奏を聞かせてくれるかの期待を込めて,大変楽しみにして聞きました。

そのキハラさんの演奏ですが,奇をてらった所のない,伸びやかな演奏だったと思いました。堂々とした部分は堂々と,テンポの速い部分はぐいぐい進む,というメリハリがしっかり効いていました。この曲を何回も演奏している,OEKの持つ安定感をベースにしつつも,要所要所で,力強い表現やデリケートなニュアンスを効かせたり,非常にバランスの良い演奏だと思いました。

特に後半の第3,第4楽章の流れの良さは,若手指揮者ならではだと思いました。しっかりと音やバランスが整ったままで,心地良く疾走するような演奏でした。第4楽章の最後の部分なども熱狂的に燃え上がるというよりは,ゴールインした後もそのまま,ゴールを超えてズーッと走り抜けていってしまうような,余裕のある伸びやかさを感じました。

案内役の池辺さんは,「キハラさんは,これから必ず名前をたびたび聞くようになる指揮者です」と紹介されていました。これからの活躍が大いに楽しみです。ちなみに,ちょっと気になる「キハラ」というカタカナ表記ですが,もともとは漢字表記だけれでも,「芸名(?)」として使っているとのことです。俳優でいうと「キムラ緑子」のような感じですね。

まだ時期的には早いのですが,「クリスマス・チャリティコンサート」ということで,アンコールでは,アダンの「オー・ホーリー・ナイト」が池辺さんのお弟子さんの日高さんによる編曲版で演奏されました。池辺さんは「クリスマス・ソングの中ではこの曲がいちばん好き」と語っていましたが,実は私も同様です。「ジングルベル」「赤鼻のトナカイ」などと比べると,大人っぽい雰囲気があり,聞いているうちに,どこか切ない感じにさせてくれるような美しさがあります。日高さんのアレンジは,OEKにぴったりの編成用のもので,期待どおりの美しさと切なさを味わうことができました。これからも,PFUコンサートのアンコール曲として毎年使ってもらっても良いかなと思いました。

2019/11/29

岩城宏之さんの遺産の一つ,ジュリアン・ユー編曲による室内オケ版「展覧会の絵」は,多彩で大胆な響きの連続。大変楽しめました。津田裕也さんの「平然と美しい」ピアノによるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番も絶品でした。

昨日のリハーサル見学に続き,本日はオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演マイスター・シリーズを聞いてきました。指揮は,常任客演指揮者の川瀬賢太郎さん,ピアノは津田裕也さんでした。

本日の公演の面白さは,まず選曲にありました。最初にオリバー・ナッセンがムソルグスキーの作品をオーケストレーションした「ムソルグスキー・ミニアチュアズ」,次にショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番。最後にムソルグスキー作曲,ジュリアン・ユー編曲による室内オーケストラのための「展覧会の絵」が演奏されました。現代の作曲家がアレンジした,「ひねりの効いた」ムソルグスキーの作品と,いつもとは一味違って「結構,素直な感じの」ショスタコーヴィチという,川瀬さんこだわりのプログラムでした。そして,その狙いどおりの,大変面白い演奏会になりました。

最初の「ムソルグスキー・ミニアチュアズ」は小品2曲ということで,フルコースの前菜のような感じの位置づけでした。ムソルグスキーというよりは,メンデルスゾーンといった趣きのある,愛らしい曲2曲。この曲を聞きながら,作曲者の故オリバー・ナッセンさんは,大変体格が立派な方だったなぁということを思い起こしました。大きなナッセンさんが作った,珠玉の小品といった作品でした。

続く,ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番は,昨日,リハーサルを聞いたばかりだったので,特に面白く聞くことができました。古典的といって良いような明快さのある曲想で,両端楽章の生き生きとした表情がまず印象的でした。冒頭,ファゴットが軽快なメロディを演奏するのですが,飯尾洋一さんのプログラム解説に書かれていたとおり,「なるほど,チャイコフスキーの「悲愴」交響曲の第3楽章の主題とよく似ているなぁ」と思いました。

それを受けて出てくる津田裕也さんのピアノは非常にクリアで,力んだところのない,心地良い音を聞かせてくれました。派手なパフォーマンスはなく,平然と地に足のついたタッチで鮮やかな音楽を楽しませてくれました。初めて実演で聞く曲でしたが,「絶品!」と思いました。

第2楽章は,川瀬さんが「ショスタコーヴィチのすべての曲の中でも特に美しい部分」とおっしゃられていたとおりの楽章でした。ショスタコーヴィチの緩徐楽章は,美しさと同時に冷たさとか不気味さが漂うのが定番ですが,この楽章については,素直に美しく,ほのかにロマンティックな気分も漂っていました。息子(指揮者として有名なマキシム・ショスタコーヴィチ)のために書いた曲という点が反映しているのだと思います。津田さんのスタイルにぴったりの楽章でした。

第3楽章は再度軽快な雰囲気に戻りますが,途中,ピアノ練習曲の定番「ハノン」のパロディ風パッセージが出てくるあたりが面白いところです。津田さんは,この部分も平然と鮮やかに演奏しており,お客さんは唖然として聞いているといった感じでした。

アンコールで演奏されたショパンのマズルカのしっとりとした落ち着きも絶品でした。金沢の冬の空気にピッタリでした。

後半の「展覧会の絵」は,数あるこの曲の編曲の中でも特に型破りなものだと思います。OEKは故岩城宏之さんとこの曲を演奏しており,CD録音も残していますが,実演で聞くとそれを遙かに上回るような面白さを体感できました。多彩で大胆な響きの連続でした。

岩城さんの録音と違うのは,弦楽器の人数をOEKの通常の編成で演奏していることです。特にジュリアン・ユーの楽譜には人数についての指示はなく,岩城さんは弦楽器各1名という「超室内オケ」編成で演奏していたのですが,今回は編成を大きくすることで,より響きの多様性が表現されていたと思いました。

「展覧会の絵」といえば,まず「プロムナード」のメロディが印象的ですが,ジュリアン・ユー版では,ヴィオラが演奏します。ラヴェル版でのトランペットとはあえて正反対の音を使ったという感じです。この日は,おなじみダニール・グリシンさんが担当していましたが,あらためて「素晴らしい音だ」と思いました。大きく浮遊するような,不思議な大らかさが漂っていました。基本的にプロムナードが出てくるたびにグリシンさんが活躍していたので,絵を見て回っている「お客さん」役を担当していたとも言えます。

その次に活躍が目立ったのが,エキストラの河野玲子さんをはじめとする打楽器奏者の皆さんでした。シロフォンなどの鍵盤打楽器が加わって,急に「中国風」の雰囲気になったり,多種多様な音を楽しませてくれました。

その他の楽器(というが,すべてのパートだと思います)も,特殊奏法続出で,次から次へと音色やテクスチュアが変化していきました。ピアノ版だと素直に一続きのメロディを,複数の楽器に分けて,妙なぎこちなさを強調したり,管楽器の方々に「音」を出さずにヒューという息の音だけを出させたり,SF映画の音楽のようになったり...「技のデパート金沢支店(?)」という感じでした。恐らく,バランス良くまとめるのは難しかったと思うのですが,川瀬さんは非常に精緻,かつ生き生きと各曲を聞かせてくれました。

最後の「キエフの大門」も独特でした。最後の最後の部分は...最近では「珍百景」の音楽ですが...大げさに盛り上がるのを避け,室内楽的な雰囲気のまま進んでいきました。そして最後,チャイムの音の余韻をしっかりと響かせて静かに終了。諸行無常の響きあり,といったところでしょうか。

実は,昨日のリハーサルの時,川瀬さんは「お客さんには,最後の音の余韻をしっかり持ち帰って欲しい。アンコールはなしにしましょう」といったことを語っていました。「なるほど,アンコールなしで正解」と思いました。

色々なアイデアの詰め込まれた,OEKの遺産を発掘した今回の演奏会は大成功だったと思います。演奏会全体の時間的にはやや短めでしたが,新鮮な「展覧会の絵」を中心に,OEK以外では聞けないようなプログラムをしっかりと楽しめた演奏会でした。

2019/11/27

川瀬賢太郎指揮OEK定期公演の前日リハーサルと川瀬さん+OEK楽団員との交流会に参加。音楽作りのプロセスの一端とメンバーの素顔に接してきました。

本日は,うまい具合に午後から仕事を休むことができたので,石川県立音楽堂楽友会主催による,OEK定期公演のリハーサル見学会+楽団員との交流会に参加してきました。この企画は4回目なのですが,今回は指揮者の川瀬賢太郎さんも参加されていたのが,「スペシャル」な点でしょうか。

まず,明日の定期公演のリハーサルが,13:30から石川県立音楽堂コンサートホールでスタート。インスペクターのオーボエの加納さんが,日程の確認をさっと行った後,ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番のリハーサルが始まりました。ピアニストはOEKと初共演となる津田裕也さんでした。

まずリハーサルで感じたことは,残響がとても長く感じるということです。お客さんが入っていないので当然なのですが,非常に贅沢な雰囲気をあじわうことができました。前日までのリハーサルとは違い,本日のリハーサルは,楽章単位で最後まで通した後,気になる点をチェックするという感じでした。

ここで面白かったのが,OEKのメンバーが「ハイッ!」と手を上げて,「○小節目はどうしますか?」「もう一度お願いします」という感じで,川瀬さんと意見交換を行っていた点です。OEKの人数は,ほぼ学校の1クラス分(40人程度)ですので,「主体的で対話的な授業」を川瀬さんを中心に行っている,という感じにも見えました。

指揮者の役割は,メンバーに解釈や方向性を示すことだと思いますが,実はメンバーの方もいくつかの表現方法の選択肢を持っており,そのすり合わせを行っているという感じでした。指揮者の仕事というのは,実力のあるアーティスト集団の中から最上のものを引き出す「コーチ」的な存在とも言えるのかもしれないですね。

リハーサルは順調に進み,45分程度で終了しました。ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番は20分程度の曲なので,その2倍ぐらいの長さで終わっていた感じです。川瀬さんは,とても丁寧な言葉遣いで,とても効率よく指示をされており,現代の指揮者の「リハーサル力」は,ビジネスの世界にもそのまま使えそうと思いました。

その後,カフェ・コンチェルトに場所を移し,川瀬さんとOEKメンバー6名との交流会になりました。ケーキ2個+飲み物飲み放題で,7つのテーブルに分かれて立食形式で和やかに歓談をしました。

交流会で役だったのが,楽友会の幹事さん特製の「プロフィールシート」でした。一般的なプロフィール紹介だけでなく,「へぇ」というような「会話のネタ」がうまく盛り込まれていました。例えば,ヴィオラの古宮山さんのところには,「今はまっているのはオキシ漬け」と書かれており,「一体これは何だ?」というところから会話が広がっていました。

ちなみに本日参加されたOEKメンバーは次の方々でした。

  • ヴァイオリン:トロイ・グーキンズさん(当初出席予定だった原三千代さんの代理)
  • ヴィオラ:古宮山由里さん
  • チェロ:早川寛さん
  • フルート:岡本えり子さん
  • オーボエ:加納律子さん
  • クラリネット:遠藤文江さん

私も,ケーキとコーヒーを手にして,各テーブルを回り,全員とお話することができました。指揮者の川瀬さんには,次のようなことを尋ねてみました。

リハーサルの進め方はいつも今日のような感じなのでしょうか。
昨日までみっちりやっていたので,本日は通した後,気になるところを確認する感じだった。

プログラムは川瀬さんが考えたのでしょうか?
ムソルグスキー生誕180年の年にちなんで考えた。ジュリアン・ユー編曲の「展覧会の絵」は岩城さんが残した録音を聞いて,再演しようと思った。

弦楽器の編成はCDよりも増やしているようですね
岩城さんのCDでは,弦楽器は各パート1名で演奏しているが,実は楽譜では,特に1人で演奏せよという指示はない。ソロとトゥッティといった指示があり,通常の編成でも良いと考えられるので,今回は通常の編成で演奏することにした。

ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番はとても良い曲でしたね
ショスタコーヴィチが自分の息子のために書いた曲で,ある意味,いちばんショスタコーヴィチらしさが出ている曲である。この曲は何回も演奏している好きな曲である。

OEKが演奏するのは今回が初めてです。
ホルンが4本入るなど,OEKにとっては編成がやや大きいことと,演奏時間が演奏会に入れるにはやや短いので,意外に実演で演奏される機会は少ないのかもしれない。

ピアニストの津田さんはこの曲が得意なのでしょうか。
津田さんは,同世代の馴染みの演奏家。この曲を演奏するのは,津田さんは初めて。川瀬さん自身は,過去何回も共演しており,今回はこの曲と取り上げることにした。

・・・といったお話をさせていただきました。とても良い作品でしたので,明日の演奏が大変楽しみになりました。

その他,「特製プロフィールシート」をもとに各テーブルを回ってみました。少々緊張する面もありましたが,とても和やかに歓談をすることができました。

最後にサイン入り色紙のもらえる抽選会が行われて(私は見事ハズレでしたが),お開きとなりました。今回のような交流会は,演奏会への期待を高め,メンバーへの親近感が一気に増す好企画だと思いました。川瀬さん+OEKメンバーの皆様,ありがとうございました。

2019/11/07

オーケストラ・アンサンブル金沢小松定期公演・秋に,ブザンソン指揮者コンクールで優勝したばかりの沖澤のどかさんが登場。ディーリアスに始まり,フォーレで終わる,こだわりの「なつかしさ」のあるプログラム。小泉詠子さんの新鮮なメゾ・ソプラノとの相性もぴったりでした。#oekjp

このところ2週連続で,木曜日の夜に富山市まで出かけて演奏会を聞いていたのですが,本日(木曜日)は,小松市まで出かけ,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の小松定期公演秋を聞いてきました。今回の注目は,つい先日,ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したばかりの,沖澤のどかさんが指揮者として登場することでした。

ただし,この演奏会自体は,このニュースの前からしっかり決まっていたもので,予定どおり,沖澤さんこだわりの,しっとりとした美しさのある曲が並ぶプログラムが演奏されました。もしも優勝することが分かっていたならば,もう少し華やかな雰囲気の曲が演奏された気がしないでもありませんでしたが,これまでのOEKの演奏会で演奏されたことのない曲が並ぶ,OEKファンなら大喜び(?)といった感じのプログラムでした。それに加え,石川県出身のメゾ・ソプラノ。小泉詠子さんの素晴らしい声を楽しむことができました。

今回のプログラムで意表を突いたのは,後半最後に演奏された曲が,フォーレの組曲「マスクとベルガマスク」だったことです。OEKが演奏するのは初めてだったかもしれません。沖澤さんは,OEKのキャラクターにあった曲を選んだとのことですが,まさにその通りの,小粋で変化にとんだ美しい作品でした。個人的には「オーケストラの演奏会の最後は,やっぱり交響曲かな」とは思うのですが,今回の場合,沖澤さんのトークを聞いて納得しました。

本日のプログラムの最初に演奏された,ディーリアスの「春初めてのカッコウを聞いて」と対応させる形で,フォーレの「マスクとベルガマスク」の終曲のパストラールを配置したとのことでした。説明を聞いてからこの曲を聞くと,なるほどディーリアスと非常によく雰囲気が似ており,「なつかしい」気分にさせてくれました。

この「なつかしさ」というのが今回のプログラムのポイントだったのですが,曲の雰囲気自体「なつかしさ」があるのと同時に,プログラムの最後で最初に演奏された曲を思い出させるという二重の意味での「なつかしさ」にこだわっていたことになります。この選曲のセンスが素晴らしいと思いました。

沖澤さんの指揮については,今年の6月,シューベルトの交響曲第5番などを聞いたことがありますが,オーケストラを強く引っ張っていくというよりは,オーケストラが自発的に作り出す音楽に乗りながら,気づいてみれば,自然と沖澤さんの考える音楽へと導かれている。そういう感じの音楽だなと思いました。

今回演奏された曲で面白かったのは,後半に演奏されたシュニトケの「古典様式による組曲」でした。この曲もOEKが演奏するのは初めてでしょうか?曲の雰囲気としては,レスピーギの「古風な舞曲とアリア」ような感じで,一見,とても心地良く聞きやすい音楽なのですが,所々,隠し味のような感じで,「ちょっと違和感があるな」という毒が混ざったような響きが混ざってきます。それがわざとらしくなく,とてもスマートに品良くユーモアを感じさせてくれたのが良かったと思いました。

そして,この日のもう一人の主役が小泉詠子さんでした。小泉さんは,パーセル,モーツァルト,ロッシーニのオペラのアリアを歌いました。まずソプラノではなくメゾ・ソプラノという点が,まず,沖澤さんが考えた,ちょっと地味目のプログラムの雰囲気にぴったりだったと思います。

モーツァルトのケルビーノのアリア2曲はお馴染みの曲でしたが,パーセルの「ディドとエネアス」のアリア,ロッシーニの「アルジェのイタリア女」のアリアなど,魅力的なアリアを4曲聞かせてくれました。小泉さんの声には瑞々しさと,品の良さがあり,沖澤さんが作る自然体の音楽ともしっかりマッチしていました。

今回は沖澤さんと小泉さんの曲目解説を交えての演奏だったのですが,まず,パーセルの作品での痛切な響きと,低音楽器が半音ずつ下行していくラメント進行が印象的でした。このお二人を中心とした,バロックオペラの企画などあれば(ヘンデルの「メサイア」の全曲でも良いですね),聞いてみたいものだと思いました。

ロッシーニのアリアは,女性の2面性を描いたようなアリアでした。曲の前半での滑らかな美しさと,曲の後半での男を騙すしたたかさ。そのキャラクターをデフォルメしたような感じはありませんでしたが,古典的な雰囲気を保ちながら,鮮やかな歌い分けを楽しませてくれました。

というようなわけで,トーク以外の実質的な演奏時間はかなり短めの演奏会でしたが,その分,それぞれの曲をじっくりと楽しむことができました。今回の演奏会を聞いて,沖澤さんの指揮で,これまでOEKが取り上げてこなかったような作品を色々と聞いてみたいなと思いました。今後の活躍に大いに期待しています。

2019/10/31

ラルフ・ゴトーニ指揮OEK定期公演は,ハイドンとべートーヴェンの交響曲を中心とした暖かみとユーモアと味わい深さのある内容。OEKらしさを楽しませてくれる演奏会でした。#oekjp

本日は,5年ぶりの登場となる,ラルフ・ゴトーニさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。前回のマルク・ミンコフスキさんの時同様,ソリストが登場しない演奏会でしたが(今回,協奏曲は1曲あったのですが,ゴトーニさんの弾き振りでした),オーケストラの編成は対照的で,ほぼOEKのスタンダード編成(コントラバスが1名増強されていただけ)による,古典派の交響曲を中心とした演奏会となりました。

前回の「フル編成オーケストラ」的OEKの演奏も良かったのですが,今回のスタンダードOEKによる,熟練のハイドンやベートーヴェンを聞いて,改めて古典派の交響曲の楽しさを実感しました。

ゴトーニさんについては,クールな音楽作りの印象を持っていたのですが,本日の演奏を聞いて,旧知の仲間と一緒に暖かみとユーモアのある音楽を作っているような,アットホームな雰囲気を感じました。メインで演奏された,ベート-ヴェンの交響曲第8番はいろいろなキャラクターを持った曲で,解釈によっては大変立派で豪快な雰囲気にもなりますが,今回の演奏は,基本的にすっきりと端正に聞かせながらも,神経質な雰囲気はなく,非常に伸びやか。そして,所々,かなり大胆なルバートを入れるなど,「遊び」の感覚があると思いました。本日の演奏は,若々しく張り切ったような生きの良い演奏...というよりは,速すぎないテンポで,きっちりと切れよく演奏しつつも,随所でしみじみとした味わいを感じさせてくれました。ゴトーニさんの演奏の円熟味のようなものを感じました。

前半に演奏された,ハイドンのピアノ協奏曲ニ長調と交響曲第83番「めんどり」にも同様の雰囲気はありましたが,よりスッキリと古典的な清潔感を感じさせてくれました。ピアノ協奏曲の方では,ゴトーニさんのピアノの,軽快でありながら暖かみのある演奏が印象的でした。最終楽章,「途中でハンガリー風になる」というのは,「ハイドンあるある」といった感じでした。

交響曲第83番は,ト短調の曲ということで,オッと思わせるようなドラマティックで引き締まった音で始まるのですが,第2主題になると,すっと穏やかな気分になり,「コッコ,コッコ...」というフレーズが弦楽器やオーボエに出てきて「めんどり」的気分になります。ハイドンの交響曲には,正直を言うと「意味不明」のニックネームがありますが,この曲については,「納得のめんどり」だと思います。

このシリアスさとリラックスした感じの自然なコントラストが良いなと思いました。第2楽章も「めんどり」に通じるような,「同音連打」で始まりましたが,途中,急に音量がアップする部分があったので,「驚愕」を先取りするような雰囲気もあるなと思いました。いずれにしても,OEKのハイドンは,指揮者によって,毎回毎回,味わいが違い,聞くのが楽しみです。

本日のプログラムは古典的な曲が中心でしたが,後半の最初に1曲だけプロコフィエフ作曲,ルドルフ・バルシャイ編曲による「束の間の幻影」の抜粋が演奏されました。1分前後の短いピアノ曲による組曲をバルシャイが弦楽オーケストラ用に編曲した作品で,美しさと同時に,「怪しさ」のようなものが漂っていました。本当に短い曲が多く,「束の間の幻影」というタイトルにピッタリでした。演奏会の流れの中で,不思議な時空間を作っているようでした。

というわけで,編成的にもプログラム的にも,非常にOEKらしい内容の演奏会だったと思います。パワーや華やかさでアッと言わせるような内容ではありませんでしたが,心地良い充実感が後に残るような,非常に味わい深い内容だったと思います。

2019/10/12

マルク・ミンコフスキ指揮OEK マイスター定期は増強した編成によるドヴォルザーク特集。スラヴ舞曲op.72全曲と「新世界から」は,どちらも「ドヴォルザーク愛」にあふれた,熱くて深い演奏。外の雨とは「別世界」でミンコフスキさん音楽に浸ってきました。

本日は台風が関東・東海地方に迫る中,OEKの芸術監督,マルク・ミンコフスキ指揮によるマイスター定期公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。プログラムは協奏曲なしのミンコフスキさんの指揮を楽しむプログラム。前半がドヴォルザークのスラヴ舞曲作品72(全曲),後半がドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」というドヴォルザーク特集でした。

ミンコフスキさんとドヴォルザークという組み合わせは,意外な気はしましたが,前半後半とも,ミンコフスキさんの「ドヴォルザークへの愛」が伝わってくるような,素晴らしい演奏でした。

前半のスラヴ舞曲集は,CDはかなり出ていますが,実演でこれだけまとまって演奏されることは珍しいと思います。特に,作品46の「続編」である,作品72の8曲の方は,超有名曲の72-2以外は,知る人ぞ知るといった曲が多いのではないかと思います。私自身,作品72の全曲を実演で聞くのは初めてでしたが,「スラヴ組曲」といった感じの多様性を感じさせる,聴きごたえのある演奏になっていたと思います。

もともとスラヴ舞曲の方は,速いテンポの舞曲とゆったりしたテンポの曲がバランス良く混ざっています。今回のOEKは弦楽器をかなり増強しており,12-10-8-8-4というフルオーケストラに近い編成でした。そのことにより音の重量感が増していました。その一方で,ミンコフスキの指揮は演奏全体にエネルギーを与えるような感じで,重量感とキレの良い動きが見事に合体していました。

曲の中では,最後の第8番が特に素晴らしい演奏だったと思います。夢見心地のようなしっとりとした気分のある演奏で,第1番~第7番までの生き生きとした世界を美しく,懐かしく振り返っていました。

後半はお馴染みの「新世界から」。ホールの外は,雨が降り続いていましたが,ホールの中は「別世界」。ミンコフスキさんの指揮にもお馴染みの曲に,新たなエネルギーを注入したような,気合い十分の演奏。「別世界から」という演奏だったと思いました。

前半のスラヴ舞曲同様,どの部分にもミンコフスキさんの「ドヴォルザーク愛」が感じられ,それがOEKの演奏のエネルギーになっていました。この日のコンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングさんでしたが,そのお隣には水谷晃さん。チェロの首席奏者の方は客演の辻本玲さん。演奏全体を通じて,各パートが競い合いながらも一体となって盛り上がるような「熱気」がありました。

その一方,静かな楽章では,じっくりと間を取る部分があり,その「静けさ」に凄みを感じました。OEKにとって,「新世界から」は頻繁に演奏できる曲ではありません。恐らく,ミンコフスキさんにとっても,新たなレパートリーなのではないかと思います。その新鮮さが,「熱さ」と「深さ」につながっていた気がしました。

というわけで,雨の中出かけてきて,本当に良かったと思いました。この日の演奏会は北陸朝日放送が収録を行っていましたが,そろそろ,ミンコフスキさん指揮OEKによるCD録音を期待したいと思わせるような素晴らしい演奏会でした。

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