OEKのCD

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コンサート

2017/06/17

快晴の下,芝生の緑の美しい金沢市民芸術村でOEKメンバーによる「ふだん着ティータイムコンサート」を聞いてきました。今年の室内楽コンサートは聞いたことのない曲の連続でしたが,どの曲も楽しめました。飲み物サービスもサポート #oekjp

毎年恒例の,OEKメンバーの自主企画による無料コンサート「ふだん着ティータイムコンサート」を聞いてきました。本日の金沢は,梅雨時とは思えない(まだ入っていない?)爽やかな天候だったこともあり,会場の金沢市民芸術村は芝生や水辺で遊んだ後,コンサートに突入,といった親子連れを中心に沢山のお客さんが入っていました。
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前半の「子どものためのコンサート」は特に盛況で,オープンスペースには立ち見のお客さんもいるほどでした。
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私の方は...飲み物サービスのお手伝いをしながら聞いていました。オープンスペースの上部で,楽友会メンバーとOEKメンバーで飲み物サービスを行うのが恒例なのですが,本日は「冷たい飲み物」の準備が遅れ気味になっており,少々バタバタしていましたので,ついつい色々とお手伝いをしました。オーボエの加納さんと一緒に,ホット・コーヒーをポットに移す作業したのですが,良い思い出(?)になりました。

コンサートの方は,例年の内容とほぼ同じ形で,ファゴットの柳浦さんの司会で,楽器紹介を交えて,親しみやすい曲が演奏されて行きました。今回の注目は...チェロの早川さんが,なぜかトロンボーン奏者として出演されていたことでしょうか。
1分間指揮者コーナーでは,今年も色々な「飛び入り指揮者」が登場し,色々なテンポで,ラデツキー行進曲とベートーヴェンの「運命」が演奏されました。意外なことに,最初に登場した,幼稚園児がいちばん「オーソドックス」なテンポだったと思います。ブラーボ!最後に「てのひらを太陽に」を皆で歌って,最初のコーナーは終了しました。

休憩後は,ミュージック工房に場所を変え,「室内楽コンサート」が行われました。2回休憩をはさみ,約2時間半行われたのですが,何と演奏された曲全部,初めて聞く曲でした。私も色々演奏会に出かけていますが,これだけ渋い曲が並ぶのも珍しいことです。ちなみに次のとおりです。
  • マーズ/ディヴェルティメントから(松木(フルート),遠藤(クラリネット),柳浦(ファゴット)
  • ヴィトマン/デュオ(ドゥミヤック(ヴァイオリン),大澤(チェロ)
  • ドホナーニ/弦楽三重奏曲「セレナ-デ」(若松(ヴァイオリン),古宮山(ヴィオラ),キム(チェロ)
  • パーカッション二重奏 3曲(渡邉,望月(パーカッション))
  • ファッシュ/ソナタ ヘ長調(加納,水谷(オーボエ),渡邉,柳浦(ファゴット))
  • シュルホフ/コンチェルティーノより(松木(フルート),石黒(ヴィオラ),今野(コントラバス))
  • クンマー=シューベルト/ウィリアム・テルの主題によるデュオコンチェルタンテ(坂本(ヴァイオリン),大澤(チェロ))
  • ヒンデミット/小室内楽(松木(フルート),加納(オーボエ),遠藤(クラリネット),柳浦(ファゴット),金星(ホルン))
こういった曲を,前半のコンサートからの流れでお子さんも一緒に聞いている,という光景が素晴らしかったですね。それと,一見,難解そうに思えるラインナップですが,予想以上に分かりやすい曲が多く,どの曲も楽しむことができました。室内楽といっても,いちばんの定番である弦楽四重奏が入っていないのも面白いところです。
毎回感じるのですが,至近距離で聞くプロの演奏は,曲の知名度に関わらず,聞く人を引き付ける迫力を持っていると思いました。
個人的には,最後に演奏されたヒンデミットの曲の見事にがっちりとまとまった聞きごたえのある響きが特に印象に残りましたが,本当にどの曲にも聞きどころがありました。「打楽器小ネタ集」という趣きのあった渡邉さんと望月さんのステージ,ピッコロとヴィオラとコントラバスという奇想天外の編成のシュルホフの作品,異様にきらびやかで華麗だけどどこかB級の味わいもある,坂本さんと大澤さんによるクンマーなど,この演奏会ならではの楽しめる作品が並んでいました。
というわけで,天気同様,大変気持ちの良く過ごすことのできた土曜日の午後でした。
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2017/06/02

OEK定期公演にハインツ・ホリガーさん初登場。迷いのない表現が徹底した,冷静で熱い表現の詰まった演奏会。1回で終わるにはもったいないかも #oekjo

6月のOEK定期公演には,恐らく,現在世界で最も有名なオーボエ奏者,ハインツ・ホリガーさんが登場しました。ホリガーさんは,昨年の定期公演に登場したイェルク・ヴィトマンさん同様,マルチ・タレントなアーティストです。ヴィトマンさんの時同様,管楽器奏者兼指揮者兼作曲家による,定期公演ということで,その「3つの顔」を反映した,非常にチャレンジングなプログラムでした。

ホリガーさんは,1939年生まれということで70代後半ですが,ステージに登場した雰囲気には,全く老いた雰囲気はなく,ホリガーさんらしさが,隅々まで徹底した,4曲を聞かせてくれました。

プログラムの最初で演奏された,ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」は,少々ぶっきらぼうなぐらいの速目のテンポで第1楽章序奏が始まった後,所々で独特の意味深さを感じさせてくれる,不思議な魅力を持った音楽を聞かせてくれました。テンポをぐっと遅くする部分もありましたが,ロマンティックで甘い雰囲気になることは全くなく,どこか,現代音楽を聞いているような雰囲気のあるハイドンだと思いました。

次に演奏されたフィアラのコンチェルタンテは,オーボエとイングリッシュホルンのソロをまじえた古典派時代の二重協奏曲的な作品でした。ホリガーさんのオーボエの音は,音質も音の動きも大変軽やかでした。さすがに抜けるような音,という感じではなく,やや枯れた感じもありましたが,イングリッシュホルンのマリー=リーゼ・シュプバッハさんとの音のバランスが素晴らしく,音楽全体に豊かさが溢れていました。

アンコールで,ホリガーさんの自作による,オーボエとイングリッシュホルンのための「エア」という小品が演奏されました。いわゆる「現代音楽」風の作品だったのですが,そのすべての音が生きている感じで,大変雄弁でした。

後半もまず,ホリガーさんの自作のメタ・アルカという弦楽合奏のための作品が演奏されました。最初の方を聞いた感じでは,武満徹の作品を思わせるような,詩的て異様なムードを感じましたが,次第に色々な特殊奏法が出てきて,次々と曲のテクスチュアが変化していきました。自作自演ということで(他の作品でも同様でしたが),表現の迷いが全くなく,難解さはあったものの,どこかスカッと割り切れているような心地よさを感じました。

この日のゲストコンサートマスターは,東京フィルの荒井英治さんでした。この曲ではソロも担当しており,エネルギーをしっかり秘めた,怪しい美しさを持った素晴らしい演奏を聞かせてくれました。

最後に演奏された,シェーンベルクの室内交響曲第1番は,シェーンベルクが12音技法を用いるようになる前の初期の作品です。ただし,弦5部1名ずつにかなり充実した木管楽器群が加わる独特の編成で,薄いのか厚いのか分からない面白い響きを楽しむことができました。

15人程度の編成ということで,曲の最初の部分から透明感がありました。全奏者がソリストのように,音が前へ前へと出てくる感じで,大変生き生きした演奏を聞かせてくれました。この曲については,複雑な音の動きが難解さにつがなっている部分もありましたが,その複雑さを複雑のままクリアに表現しており,大変聞きごたえがありました。

演奏後,ホリガーさんは,全奏者と一人ずつ握手をして,その苦労(?)を労っていました。一緒に難曲に取り組んだ「同志」といった感じの熱さを演奏の背後に感じました。ホリガーさんについては,クールで神経質な雰囲気かなと勝手に予想していたのですが,実際には,出てくる音楽は確かに冷静で確固たるものがあるけれども,その背後には熱いエネルギーに満ち溢れているのでは,と感じました。
今回の定期公演は,大変チャレンジングな内容でしたが,結果として,狙いどおり,いくつもの顔を持つホリガーさんらしさを多面的に楽しむことができました。この日の定期公演1回の演奏で終わらせるには,もったいないぐらいの充実感のある演奏会だったと思いました。

2017/05/14

第16回北陸新人登竜門コンサート<ピアノ部門> 川畑夕姫さん,尾田奈々帆さんが井上道義指揮OEKと共演。万全のシューマンとサン=サーンスを楽しみました。 #oekjp

毎年,4~5月頃に行われている北陸地方の新人演奏家発掘のための新人登竜門コンサート。第16回目となる今回はピアノ部門が行われ,尾田奈々帆さん(石川県出身)と川畑夕姫さん(富山県出身)のお2人が登場し,井上道義指揮OEKと共演しました。
新しく始まった「ガル祭」が終了して1週間ほどで行われた演奏会でしたが,ピアノを習っている子供連れのお客さんなどが多い感じで,お客さんの方にもどこか若々しい気分がありました。
お2人が演奏したのは,川畑さんがシューマンのピアノ協奏曲,尾田さんがサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」でした。どちらも大変立派な演奏でした。井上道義さんが途中のトークで「若い人の伸びは素晴らしい!」語っていたとおり,この演奏会に向けて万全の仕上がりの演奏を楽しむことができました。
シューマンの方は,昨年からOEKが2回別のピアニストと演奏していますが,今回の川畑さんとの演奏は,それとは違った魅力がありました。第1楽章などは,全般にゆったりとしたテンポで,どこかおっとりとした優雅さが感じられました。速いパッセージが続く第3楽章の最後の方は,特に好きな部分です。今回の川畑さんの演奏を聞きながら,じわじわと熱くなってきました。演奏全体を通じて,OEKと一体となって,若々しく華やいだロマンの世界を伝えてくれました。
尾田さんの方は,OEKが過去ほとんど演奏したことのない,サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」を演奏しました。尾田さんは,東京芸術大学で勉強中の大学生なのですが,まったく物怖じすることなく,演奏効果満点の曲を堂々と弾き切ってくれました。本当に伸び盛りといった雰囲気のある演奏でした。
第2楽章のエキゾティックなムード(この辺は正真正銘のエジプト風というよりは,サン=サーンスが感じた自称「エジプト風」のようですが),は音による「世界の車窓から」といったムード満点がありました。それに続く第3楽章での元気のある演奏は,お客さんを魅了したのではないかと思います。曲の最後の部分の華やかなパッセージの鮮やかさが特に印象的でした。
尾田さんは,とても小柄で,演奏後はとてもニコニコしていたので,聞いている方も幸せな気分にさせてくれました。「明日から仕事...」と思いがちな日曜の午後に聞くにはぴったりの演奏だったと思います。
この2曲だけだと,演奏時間が短いので,前半最初にはメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」序曲,後半最初にはサン=サーンスの交響詩「死の舞踏」が演奏されました。どちらも「大変よく出来た曲」です。約2カ月ぶりに井上さんの指揮を聞きましたが,その魅力を十全に楽しませてくれました。
メンデルスゾーンの序曲は,本当にこの時期にぴったりの空気感を持った作品です。この演奏会には,自転車で行ったのですが,明るい緑の中を風を切って走るようなムードを感じました。サン=サーンスの方は,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんが大活躍でした。独特の調律をしたヴァイオリンを使った演奏で大変雄弁な演奏を楽しませてくれました。
この新人登竜門コンサートですが,入場料1000円の演奏会ということで,「オーケストラの演奏会をちょっと聞いてみたいのですが」という人にぴったりな気もします。久しぶりに井上さんの「踊るような」(今年のラ・フォル・ジュルネのテーマ)指揮にも接することができ,大満足の演奏会でした。

2017/04/07

鈴木優人指揮OEK定期公演。風と緑のベートーヴェンといった感じの爽快な演奏。15年ぶりに聞くヴァイオリンの木嶋真優さんも堂々たるアーティストに成長していました #oekjp

OEKの4月の定期公演には,OEKと初共演となる鈴木優人さんが登場し,バッハ,モーツァルト,ベートーヴェンの音楽を指揮しました。メインに演奏されたのが,ベートーヴェンの交響曲第2番ということで,新入社員,新入生が溢れているこの時期にぴったりの,新鮮な響きに満ち溢れた演奏会となりました。

鈴木さんは,お名前のとおり,「優しい人」という雰囲気を持った方で,音楽全体から幸福感が漂ってくるようでした。どの曲にも,ひねくれたところのない率直さや明晰さがありました。音楽が停滞することなく,曲想に応じて,非常に切れ味の鋭い,強い響きも出していましたが,それが荒々しくなるところはありません。スピード感たっぷりの部分でも,常に余裕を持った微笑みのようなものを感じさせてくれました。

最後に演奏された,ベートーヴェンの交響曲第2番では,聞いているうちに,春の陽光と緑に包まれているような気分にさせてくれる演奏が好きなのですが,この日の演奏は,まさにそういう感じの演奏でした。まさに「風と緑のベートーヴェン」といったところでしょうか。

最初に演奏された,バッハの管弦楽組曲第3番は,トランペット3本が華やかに活躍する祝祭的な作品ですが,ヒステリックな響きになることなく,余裕を感じさせてくれました。ベートーヴェンの時以上に,古楽奏法を取り入れた演奏になっていましたが,それがしっくり馴染んでいるのが,OEKのすばらしさだと思いました。

G線上のアリアとして知られる,有名な「エア」は,遅めのテンポを取って,じっくりと聞かせてくれました。透明な響きと同時に,充実感が広がる,素晴らしい演奏でした。

そして,この日のもう一つの楽しみが,ヴァイオリンの木嶋真優さんとの共演でした。木嶋さんは,いしかわミュージック・アカデミーで夏休みの時期に金沢にはよく来られていたのですが,それから約15年が経ちました。この日の演奏を聞いて,本当に立派なアーティストになったなぁと実感しました。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番ということで,決して派手な曲ではないのですが,大変聞きごたえのある演奏を楽しませてくれました。第1楽章のヴァイオリンが登場する部分などでは,ものすごくじっくりと演奏していました。OEKを従えて,王女様がゆっくりと入場して来るような,オーラがありました。

第3楽章のトルコ風の部分は,OEKの演奏ともども,大変スピード感のある演奏で,スリリングな味わいもありました。演奏全体に委縮したところがなく,伸び伸びと演奏しているのも素晴らしいと思いました。

アンコールでは,鈴木さんのピアノとの共演で,グラズノフの瞑想曲が演奏されました。SPレコード時代に聞かれていたような懐かしさのあるヴァイオリン小品で,木嶋さんの音からは,濃厚な気分がしっかりと伝わって来ました(ただし,演奏会全体からすると,ややバランスとしては悪かったかもしれません)。

演奏会は,ベートーヴェンの第2番の後,これもまた,春の空気のような柔らかさを持った,モーツァルトの「フィガロの結婚」序曲がアンコールで演奏されて終了しました。改めて,鈴木優人さんは,OEKの雰囲気にぴったりとマッチした指揮者だな,と思いました。鈴木さんは,チェンバロ以外にも,パイプ・オルガンも演奏されるはずですので,きっとこれから,石川県立音楽堂やOEKとの付き合いが長くなるアーティストに違いないと思いました。そのことを期待しています。

2017/03/14

新鮮さ溢れる服部百音のヴァイオリンと反田恭平のピアノ+垣内悠希指揮OEK。さらに声明・雅楽・舞楽・バレエ・石井眞木。時空を超えた公演でした。 #oekjp

2人の新進アーティストによる,ベートーヴェンの協奏曲的作品と,雅楽や声明を取り入れた石井眞木の作品とを組み合わせた「悠久からの伝統と革新」と題した演奏会が石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。

時代と空間を越えて,新しい音楽を創造していこうという意図は,特に前半で演奏された石井眞木の聲明交響Ⅱに表れていました。この曲は,10年前に井上道義さんがOEKの音楽監督に就任した際の記念公演で演奏された曲です。声明と雅楽とオーケストラが組み合わさった音楽に,舞楽とバレエをさらに組み合わせた作品で,確かに聞いた記憶はあったのですが,前回はバレエは入っていなかったと思います。調べてみると10年前は,「OEKバージョン」というやや簡略化された形で演奏されていたようです。

今回,バレエ(「瀕死の白鳥」)が加わった版ということで,何とも不思議な世界が広がっていました。声明も雅楽も石井眞木の音楽も,通常聞きなれているクラシック音楽とは次元の違う音楽ばかりです。滑らかに気持ち良く音楽が流れていくというよりは,いくつかの音響が非連続的に切り替わるような雰囲気がありました。途中,バレエと舞楽の2人のダンサーが,サン=サーンスの「白鳥」と雅楽と現代音楽の上で踊るシーンを見て,「シュールレアリズムの絵を見るようだな」と感じました。明るい舞台だけれども,幻想的といった独特のムードを持った作品だったと思います。

後半は「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭」のテーマに合わせるような形でベートーヴェンの協奏曲的作品が2曲演奏されました。

まず,若手ヴァイオリニスト,服部百音さんが登場しました。垣内悠希指揮OEKが共演したのは,ロマンス ヘ長調でした。この曲はとても良い曲なのですが,定期演奏会などではなかなか取り上げられない作品ですね。久しぶりにこの美しい作品を聞いて,懐かしくせつなくなるような気分になりました。

服部さんの演奏は,しっかりと情感がコントロールされた楚々としたムードの演奏で,この曲の雰囲気にぴったりでした。きめ細かいヴィブラートが美しく,すっと耳に入ってきました。服部さんの名前のローマ字表記には,Mon é とアクサンテギュが付いていました。確かにフランス音楽などに合いそうな,品の良いさらりとした味があると思いました。是非,次回はフランスの作品などを聞いてみたいものです。

最後に演奏されたのは,今話題のピアニスト,反田恭平さんとOEKの共演による「皇帝」でした。反田さんは,昨年,TBSの「情熱大陸」に登場して以来,その個性的な生き方に注目をしていたのですが,その期待通りのスリリングな演奏を聞かせてくれました。スター性も十分で,今後独自の地位を築いていくピアニストになるのではないか,と思いました。

第1楽章冒頭のカデンツァから,クリアな音で,余裕たっぷりに聞かせてくれました。重苦しい感じはなく,瑞々しい感性と華やかさを感じました。その一方,曲のどの部分をとっても,「何か表現してやろう」という企みが潜んでいるようで,聞いていて全く退屈しませんでした。音量を急激に小さくしたり,妙にしっとりと沈み込んだり,キラキラするような硬質な高音を聞かせたり,かなり個性的な演奏だったと思うのですが,全体を通してみると,まったく嫌味なところはありませんでした。反田さんの強い表現意欲が,演奏全体に満ちており,「若さは素晴らしいな」と感じました。

大変じっくりと演奏された第2楽章には,硬質な美しさと耽美的な美しさが共存していました。対照的に第3楽章には躍動感ががあり,次から次へと,色々な表現が湧いて出てくるようでした。速いパッセージでの鮮やかな技巧も見事でした。垣内さん指揮OEKによる,これもまた気持ちの良い清々しさのある演奏と一体となって,若いアーティストならではの「皇帝」を楽しませてくれました。

反田さんは,OEKの次のシーズンの定期公演では,井上道義さんとプーランクのピアノ協奏曲を共演するようです。井上さんとの組み合わせだと一体どういうことになるのか,大変楽しみです。

終演後,お2人によるサイン会も行われました。プログラムの表紙にお2人並んでサインをいただいたのですが,これは将来貴重なサインになるかもしれませんね。

2017/03/11

3.11東日本大震災の発生日に行われた井上道義指揮OEK定期公演。モーツァルトのレクイエムは大騒ぎすることのない抑制された演奏。ダニール・グリシンさん独奏のバルトークのヴィオラ協奏曲ともども音楽自体の美しさが伝わってきました #oekjp

3.11東日本大震災の発生した日に行われたOEKの定期公演マイスターシリーズは,井上道義さん指揮による,モーツァルトのレクイエムを中心としたプログラムでした。後から気付いたことですが,この大災害で亡くなられた方の魂を鎮めるための選曲と言えます。

ただし,演奏会の方は特に震災を意識したものではなく,演奏の方も大げさに感動を盛り上げるようなものではなく,しっかりと抑制の効いた質実さを感じさせるものでした。この日の演奏は,バイヤー版によるものとのことでしたが,その辺も関係していたのかもしれません(ただし,どの部分が違っていたのが,通常のジュスマイヤー版との違いは私にはよく分かりませんでした)。

特にOEKの演奏には,全曲を通してキビキビとした折り目正しさと透明感があり,宗教音楽に相応しい清潔感を感じました。OEK合唱団の方は,その上に情感のこもった歌を聞かせてくれました。こちらも大げさに叫ぶような部分はなく,全体的にしっかりと抑制された演奏の印象を持ちました。そのことが音楽自体の美しさが際立ち,感動をさらに深めていたと思いました(もっとドラマティックな音楽を期待していた人には,やや淡白に思えた面があったかもしれませんね)。

独唱者では,森麻季さんが,やや本調子でない気はしましたが,相変わらず天から降ってくるような軽やかで滑らかな声を聞かせてくれました。その他の3人も安定感のある声を聞かせてくれました。特にテノールの笛田博昭さんは,声自体の凛とした強さが素晴らしく,ひと際光っているようなでした。笛田さんの歌では,以前,「トロヴァトーレ」のいくつかのアリアを聞いたことがありますが,そのうち,OEKとの共演でのイタリア・オペラあたりを期待したいと思います。

この日のもう一つのハイライトは,ダイール・グリシンさんのヴィオラ独奏による,バルトークのヴィオラ協奏曲でした。この曲をOEKが演奏するのは初めてだと思いますが,グリシンさんの存在感のある豊かな音でしっかりと堪能させてくれました。曲の構成としては,静かな楽章2つの後,動きのある楽章で締める,ということで,バーバーのヴァイオリン協奏曲とちょっと似た部分もあると思いました(もちろん,バーバーの曲ほど親しみやすくななく,センチメンタルな部分も無いのですが)。

「ヴィオラは,人間の声にいちばん近い楽器」というのを何かの音楽番組でやっていましたが,グリシンさんの音はまさに人間の声のようで,一見晦渋な雰囲気の中から,親しみやすい情感であるとか,諦観のようなものが伝わってきました。

ちなみにこの日は,ヴィオラの客演の首席奏者として須田祥子さんも参加していました。グリシンさんと2人並んだモーツァルトの方は大変豪華メンバーでした。

モーツァルトとバルトークの最晩年の遺作を並べたプログラムでしたが,鎮魂の気持ちと同時に,人間らしい情感の豊かさや,生きていることのありがたみのようなことの伝わってくる公演だったと思います。

さて,この日ですが,予想通り井上道義さんとグリシンさんによるサイン会がありました。それを予想して,井上道義さん指揮による,日比谷公会堂でライブ録音した話題のショスタコーヴィチ交響曲全集を持参してみました。井上さんは大喜びでした。これについては,また別に紹介しましょう。

2017/03/05

第13回OEK&石川県学生オーケストラ合同公演。今年はサン=サーンス「オルガン付き」交響曲。上品な華やかさと熱気を持った聞きごたえのある演奏でした。OEKによるヤナーチェクも掘り出し物的な良い曲でした #oekjp

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県内の大学オーケストラメンバーによる合同公演,カレッジコンサート。2年ぶりに行われた今回は,サン=サーンスの交響曲第3番がメイン・プログラムとして演奏されました。この曲は,パイプオルガンを活用できる点で,石川県立音楽堂コンサートホールで演奏するのにぴったりの作品です。指揮は,2年前のカレッジコンサートにも登場したことのある松井慶太さんでした。

この演奏会は,1曲目と3曲目が合同演奏。2曲目にOEKの単独演奏が入るというのが定型となっています。今回もその形でした。最初に演奏された,スメタナの歌劇「売られた花嫁」序曲は,OEKの方がトップ奏者になる合同演奏でした。この曲もOEKが単独で演奏する機会は多くない曲ですが,大変安定感のある演奏でした。この曲は,冒頭の旋回するように降りてくるメロディ(「男はつらいよ」に雰囲気が似ていると思います)の後,弦の細かい音の刻みが続くのですが,それがくっきりと聞こえ,聞いていてワクワクとしました。生き生きとした気分と同時に,音楽が大らかさがあるのが良いと思いました。

2曲目に演奏された,ヤナーチェクの「弦楽のための組曲」という珍しい作品も大変楽しめました。この2曲目に入れる作品はOEK側で選んでいるようですが(1,3曲目の方は学生側で選んでいるようです),毎回,定期公演に出てこないような,「ちょっといい感じ」の掘り出し物的な曲が出てきます。ドヴォルザークやスークの作品に,「弦楽のためのセレナード」がありますが,このヤナーチェクの作品もその系統の作品で,せつなくなるような,ほのかな甘さと,生き生きとした民族的な感じとがバランスよく合わさった曲でした。ヤナーチェクの室内楽といえば,もっと意味深な曲というイメージを持っていたのですが,こういう素直な曲も良いなと思いました(かなり若い時の作品のようです)。

後半は,学生側がトップになる形の合同演奏で,サン=サーンスの「オルガン付き」が演奏されました。OEKがこの曲を演奏するのは...初めてではないかと思います。この曲は,CDでも楽しめる曲ですが,やはり生のパイプオルガン付きの生演奏の威力にはかないません。第1楽章後半の静かな部分では,ホール一杯に静かに広がるパイプオルガンの低音が加わることで,弦楽器のカンタービレの魅力が10倍増(推測です)ぐらいになっていました。

そして,第2楽章後半の最初に格好良く盛大に入り,音楽が生気を増し,大きく盛り上がって行きます。今回は音楽堂のオルガンをいちばんよく演奏している黒瀬惠さんの演奏ということで,オーケストラとのバランスがとても良く,この曲を上品かつ華やかに楽しませてくれました。

この曲では,第2楽章前半のスケルツォ風の部分にピアノが入るのも好きです。オルガンと対照的に,ピアノが加わることで,音楽に透明感と軽やかさが加わる感じで(「動物の謝肉祭」の「水族館」と通じる部分がありますね),サン=サーンスの楽器の使い方が巧いなぁといつも思います。

そして合同オーケストラの演奏も立派でした。曲の最初の部分などは,やや恐る恐る始まっている感じもしましたが,フレーズを誠実に積み重ねながら,次第に大きな音楽を作って行くような雰囲気がしっかりと伝わって来て,大変聞きごたえがありました。何よりも音に込めた熱気のようなものが常に感じられました。曲の最後は,ティンパニの気合いのこもった連打を中心にビシッと締めてくれました。

演奏時間的には,全体で約90分ということで短めでしたが,どれも大変充実した演奏だったと思います。この時期は,大学生の授業が終わっており,お客さんの動員的にはやや厳しいところがあるような気がしますが,これからどんどん春らしくなっていく季節の気分にぴったりの演奏会でした。

2017/03/04

OEK2017-2018定期公演ラインナップ速報版が発表されました。アサートン,ヘスス・ロペス=コボス,:フォルクハルト・シュトイデなどと初共演。特に注目は,やはりミンコフスキの「ペレアス」でしょうか #oekjp

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2017-2018定期公演ラインナップ速報版のチラシが郵便で送られてきていました。今後変更になる可能性もありますが,ご紹介しましょう。やはり,今回もミンコフスキさん指揮のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(演奏会形式)が特に注目でしょうか。全国からお客さんが集まるのではないかと思います。その他にも「OEK初登場」のアーティストが沢山いますね。期待したいと思います。

■フィルハーモニーシリーズ(全8回)
9/20 指揮:井上道義,ヴァイオリン:神尾真由子
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲,交響曲第8番 他
*ガルガンチュア音楽祭の延長のようですね。

10/18 指揮・ピアノ:シュテファン・ヴラダー
モーツアルト:ピアノ協奏曲第21番,24番,交響曲第41番「ジュピター」

11/30 指揮:デイヴィッド・アサートン
エルガー:2つの小品,バートウィッスル:ヴィルレー,ディーリアス:付随音楽「ハッサン」より,ブリテン:シンプル・シンフォニー,ベートーヴェン:交響曲第7番
*アサートンさんが国内でOEKを指揮するの多分初めてだと思います。

1/6 リーダー&ヴァイオリン:フォルクハルト・シュトイデ
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲,シュトラウス:ワルツ&ポルカ集
*フォルクハルト・シュトイデさんもOEKとは初共演だと思います。ウィーン・フィルのコンサートマスターということで,「産地直送」という感じの公演になりそうです。

2/24 指揮:ヘスス・ロペス=コボス,フルート:ジャスミン・チョイ
アリアーガ:交響曲ニ長調/ニ短調,モーツァルト:アンダンテK.315,尾高尚忠:フルート協奏曲,シューベルト:交響曲第6番
*ヘスス・ロペス=コボスさんも初登場だと思います。フルートのジャスミン・チョイさんは,確かエキストラで登場したことがあったと思います。

3/17 指揮:井上道義,ピアノ:反田恭平
プーランク:オーバード,ハイドン:交響曲第6-8番「朝」「昼」「晩」
*ハイドンの6-8は,ものすごく前,井上さんの指揮の定期公演で取り上げたことがあります。反田さんは,近年注目のピアニスト。今年の3月にもOEKと共演しますね。大変楽しみな共演です。

6/21 指揮:下野竜也,ハープ:吉野直子
プリテン:マチネ・ミュージカル,ロータ:ハープ協奏曲,ロッシーニ:序曲集
*下野さんは以前,「スッペ序曲集」による定期公演を行ったことがあります。その続編のような感じですね。

7月下旬 指揮:マルク・ミンコフスキ
ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」(演奏会形式)
*かなり難易度の高い,長いオペラですが,これは県外(もしかしたら国外からも)からもお客さんが集まると思います。

■マイスター・シリーズ(全5回)<<ドイツ,音楽の街>>
マイスター・シリーズの方は,今回もテーマが決められています。<<ドイツ,音楽の街>>ということで,ドイツの5つの都市にちなんだ曲などが演奏されます。

1 フランクフルト
11/18 指揮:ペーター・ルジツカ,ピアノ:ソフィー=マユコ・フェッター
メンデルスゾーン:フィンガルの洞窟,モーツァルト:ピアノ協奏曲第18番,ルジツカ:トランス(2010),モーツァルト:交響曲第39番
*ペーター・ルジツカさんは,ドイツを代表する作曲家で,OEKと初共演です。ソフィー=マユコ・フェッターさんとOEKも初共演だと思います。

2 ベルリン
2/3 指揮:井上道義,チェロ:アレクサンドル・クニャーゼフ
ヒンデミット:序曲「エロスとプシュケ」,ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番,メンデルゾーン:八重奏曲,ヒンデミット:交響曲「画家マティス」
*クニャーゼフさんは,ラ・フォル・ジュルネ金沢に登場したことはありますが,定期公演の方には初登場だと思います。

3 ドレスデン
3/10 指揮&チェンバロ:北谷直樹,声楽アンサンブル:ラ・フォンテヴェルデ
ヴェ4チーニ:序曲第1番,ゼレンカ:2つのオーボエ,ファゴットと通奏低音のためのソナタ第5番,ヴィヴァルディ:弦楽のための協奏曲ト短調,RV.156,バッハ,J.S.:チェンバロ協奏曲ハ長調BWV594, ミサ曲ロ短調(抜粋)
*北谷さんは「OEKのバロック担当」としてすっかりおなじみですね。

4 デュッセルドルフ
6/9 指揮:川瀬賢太郎
武満徹(岩城宏之編曲):系図,シューマン:交響曲第3番「ライン」 他
*川瀬さんの登場は2回目です。系図は,岩城さんがOEK用に編曲したもので演奏するようです。

5 ミュンヘン
7/7 指揮:アレクサンダー・リープライヒ
シュトラウス, R.:メタモールフォーゼン,ワーグナー:ジークフリート牧歌,ベートーヴェン:交響曲第1番
*リープライヒさんもお馴染みの指揮者です。ミュンヘンで活躍されている方ということで,テーマにぴったりですね。

■ファンタスティック・オーケストラコンサート(全4回)
10/4 案内役:池辺晋一郎,指揮:田中祐子
池辺晋一郎が選ぶクラシック・ベスト100 第3回 

12/20 指揮:竹本泰蔵,歌:海宝直人
クリスマス・ミュージカル with OEK

2/10 指揮:鈴木織衛
オーケストラ meets Hawaiians
*OEKがハワイアンを演奏,というのは注目ですね。

5/17 案内役:池辺晋一郎,指揮:田中祐子
池辺晋一郎が選ぶクラシック・ベスト100 第3回 

2017/02/19

マルク・ミンコフスキ指揮OEK 「セヴィリアの理髪師」。演奏会形式のメリットを生かし切った,音楽も歌手も縦横無尽に動き回る,最上のエンターテインメントでした. #oekjp

OEKは1月に,「蝶々夫人」を演奏したばかりですが,2月の定期公演フィルハーモニーシリーズでは,ロッシーニの人気オペラ「セビリアの理髪師」の全曲が演奏会形式で演奏されました。

今回は,何といってもマルク・ミンコフスキさんがこのオペラをどう聞かせてくれるかが注目でした。恐らく,現在の欧米のオペラハウスでも最高レベルの生きの良い歌手たちを自由自在に歌わせ,動かし,絡ませ,素晴らしく豪華で楽しいオペラを楽しませてくれました。たっぷりとメロディを歌わせる伝統的なイタリア・オペラとはちょっと肌合いは違う気はしましたが,現代的なシャープさを感じさせながらも,暖かみのある幸福感のある世界を作ってくれました。最上のエンターテインメントだったと思いました。

今回は大道具を全く使わず,「椅子」「理髪店セット」「お手紙セット」ぐらいしか小道具もなかったのですが,そのことによって,歌手たちが,本当に縦横無尽にホール内を動き回っていました。客席から登場したり,パイプオルガンステージを使ったり(バルコニーの設定なので丁度よかったですね),オーケストラの背後のステージを使ったり...ロッシーニの音楽の持つ躍動感を視覚的にも表現していました。

このオペラについては,第1幕の前半の方に有名なアリアが集中しているのですが,それにも増して,各幕切れでの,5重唱,6重唱といったアンサンブルが見事でした。オーケストラの演奏がはっきりと聞こえるのが演奏会形式のメリットです。大太鼓のビートの上に生き生きとした音楽が続き,さらにその上で歌手たちが,表情豊かな歌を聞かせてくれました。

アルマヴィーヴァ伯爵役のデヴィッド・ポーティロ,ロジーナ役のセレーナ・マルフィ,フィガロ役のアンジェイ・フィロンチクの3人は,いずれも若々しく,瑞々しく,くっきりとした歌を聞かせてくれました。特に伯爵役のポーティロさんの声は大変軽やかで,この役柄にぴったりでした。今回は,第2幕の最後,通常カットされることの多い,伯爵による長いアリアが歌われましたが,この技巧的なアリアをしっかりと聞かせてくれたことで,このオペラの主役は伯爵だったのだな,ということが改めてよく分かりました。

最後に「伯爵の身分を明かして,うまく収まる」というのは,「水戸黄門」的な感じで,それをさらに念を押すようなところもありましたが,一流の歌で聞くと意味合いが変わります。オペラ全体の充実感がアップした感じでした。その分,全員が出てきて,丸く収まる大団円の部分は,大変軽快でした,

このオペラの中の悪役(憎めない悪役ですが),バルトロ役のカルロ・レポーレさんも素晴らしかったですね。貫禄たっぷりの声で,見事なコメディアンぶりを楽しませてくれました。今回の上演が大きく盛り上がったいちばんの立役者だったと思います。

その他の歌手は,若手日本人歌手が参加していました。特にバジーリオ役の後藤春馬 さんが堂々とした声で,欧米の歌手たちとしっかり絡んでいるのが印象的でした。地元石川県出身のベルタ役の小泉詠子さんも,大騒動の中で唯一,クールな役柄で,しっかり存在感を出していました。

ミンコフスキさん指揮の作る音楽は,所々,ちょっとミステリアスな感じのあるテンポの変化や音量の変化を付ける部分があるのが特徴ですが,全曲を通じて,何とも言えぬ大らかさがあり,一緒にオペラを楽しんでいるような感じでした。上演時間は休憩を含めて3時間ぐらいかかりましたが,恐らく大半のお客さんはとても時間が短く感じたのではないかと思います。今後もミンコフスキさん指揮によるオペラに期待をしたいと思います。ミンコフスキさんが得意とするオッフェンバックのオペラあたりどうでしょうか?

2017/01/22

笈田ヨシ演出,OEKの「蝶々夫人」を金沢歌劇座で観てきました。鮮やかさ,強烈さと同時に日米関係を考えさせる演出。中嶋彰子さんの歌と演技も見事 #oekjp

上演するのに費用のかかるオペラ公演を全国共同制作で行うプロジェクトが,金沢を中心に続いていますが,今年は,プッチーニの「蝶々夫人」が上演です。その全国ツァーの初日が,金沢歌劇座で行われたので聞いてきました。

私自身,「蝶々夫人」の全曲を聞くのは2回目です。前回観たのは,1999年同じ金沢歌劇座で,天沼裕子さん指揮OEKということで,20年近くも前のことになります。時が経つのは速いものです。この時の蝶々さんは,金沢出身の濱真奈美さんで,とにかく「ものすごく感動した」記憶が残っています。

今回は,ここ数年OEKと共演する機会が多い,中嶋彰子さんがタイトルロール,その使用人のスズキ役が鳥木弥生さん。オーケストラはもちろんオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)ということで,オペラ「滝の白糸」のメンバーが「蝶々夫人」にスライドしたようなところがありました。そして,何といっても注目は,時代を昭和初期に変更した,笈田(おいだ)ヨシさんによる演出です。

その印象は,大変鮮やかで強烈なものでした。リアルでありながら洗練された美しさを感じさせる衣装や舞台も素晴らしかったのですが,特に最後の場面での中嶋彰子さんの蝶々さんの強さが印象的でした。

# 以下,色々とネタばれがあります。

ピンカートンに裏切られた上,ピンカートンとの間の子どもも彼に渡すことになった蝶々さんは,オリジナルでは切腹するのですが,今回の演出では,切腹はせず,それまで家の前に立てていた星条旗を床に転がし,それを踏み越えるような形で,力強く立ちつくす,といった終わり方になっていました。セリフがなかったので,解釈は観る側に任されると思うのですが,ピンカートンからの自立を印象付けていたのかもしれません。

このことは,ピンカートン=アメリカ,蝶々さん=日本の象徴と考えられることもできます。笈田さんによるプログラム・ノートによると,戦後の「なんでもアメリカのものが優れている。日本の伝統は古臭い」という社会風景をこの2人に託していたとも読めます。

ただし,同じアメリカ人のシャープレスの方は,「よい大人」なので,アメリカが悪いというよりは,ピンカートという個人の浅はかさが問題な気もします。星条旗を象徴的に使っていたのは,ちょっと分かりにくい面もあると思いました。

それにしても,中嶋彰子さんの蝶々さんは素晴らしいと思いました。第1幕での純粋で清潔な感じ。第2幕前半でのピンカートンを待つ切なさといじらしさ。そして第2幕後半での強さ。1人の女性の生涯を演じきったような多彩な性格を持った歌と演技を見せてくれました。

蝶々さんを支える「スズキ」役の鳥木さんの,脇役ぶりも印象的でした。領事役のシャープレスと対になるような「見守る大人」役を演じていました。

ピンカートン役のロレンツォ・デカーロさんは,その名のとおり大変デカーい方で,大国アメリカのイメージにぴったりでした。第1幕後半の延々と続く,蝶々さんとの「愛の場」は,結構リアルな演出で,2人の熱い声を聴いているうちに,見ていてどんどん引き込まれてしまいました。

1幕最後は,布団の上でピンカートンが蝶々さんに覆いかぶさるような形で終わっていましたが,考えてみると,全体の幕切れ(蝶々さんが星条旗の上に)と好対照を成していたといえます。

その他の脇役の中では,ほとんど荒事歌舞伎のような形で乱入してきたボンゾ役の清水那由太さんの迫力のある声も見事でした。そういえば,清水さんは「白糸組」のメンバーの一人ですね。

今回の特徴としては,ピンカートンの「アメリカの奥さん」のケイト・ピンカートンと蝶々さんが「直接対話する場面」があった点です。プログラム解説によると,この部分は改訂版にはない部分で,今回は特に復刻して含めてものとのことです。「わざわざ奥さんを連れてくるかなぁ?」という気もしましたが,この対話シーンが,演劇的な緊迫感を盛り上げていたと思いました。

舞台全体としては,和風の障子やフスマをイメージさせるような数枚の衝立をうまく活用し,舞台背景にあるスクリーンなどと合わせて,簡素ながら鮮やかな効果を上げていました。蝶々さんが登場する場での,何とも言えない華やかさ,ハミングコーラスから翌朝にかけての時間の推移の表現など,どの場からもくっきりとしたイメージが伝わってきました。「滝の白糸」の時同様,合唱団の皆さんは,歌を歌うだけではなく,舞台の一部になったような感じで,色々な場面で盛り上げてくれました。

「泣けるかどうか?」という点では,前回のオーソドックスな演出の方が泣けたのですが,今回の上演では,全曲を貫く武士の血を引く「蝶々さん」の「健気さ」「強さ」が強く伝わってきました。そして,伝統的な雰囲気だけではなく,全ての点でくっきりとした新鮮さが感じられました。その点が素晴らしかったと思います。

この公演は,今後2月19日まで,大阪,群馬,東京(2回)と4回上演されます。今回のミヒャエル・バルケ指揮OEKの演奏は,ティンパニの強打など,迫力満点でした。他公演では,大阪フィル,群馬交響楽団,読売日本交響楽団が演奏します。お近くの方は是非お出かけください。

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