OEKのCD

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コンサート

2019/03/09

快晴の中,エンリコ・オノフリさん指揮・ヴァイオリンによるOEK定期公演へ。モーツァルト25番はこれまで聞いたことがないような濃い演奏。未知の作品,ハイドンの70番もとても面白い作品。「春へのコンブリオ」といった感じの公演でした。

本日の金沢はすっかり春になったような快晴。その中,午後からエンリコ・オノフリさん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演,マイスター・シリーズを聞いてきました。今シーズンのマイスター定期には,「コン・ブリオ」というキャッチフレーズが毎回入っているのですが,今回演奏された,モーツァルトの交響曲第25番とハイドンの交響曲第70番には,共に第1楽章に「コン・ブリオ」という指示が入っていましたので,このコンセプトにぴったりと言えます。今年の金沢は暖冬でしたが,この両曲を中心に,精緻さと同時に前向きな熱気のある演奏で,「春へのコンブリオ」といった感じの素晴らしい公演でした。

オノフリさんが登場する公演については,毎回,どういう表現をするのか読めないスリリングさがあります。今回も,お馴染みのモーツァルトの交響曲第25番がオノフリ流にガラッと変貌していました。初めて聞くハイドンの交響曲第70番については,「ハイドンはこんな変わった交響曲も作っていたのか」という発見の喜びがありました。

まず最初にオノフリさんの弾き振りで,ハイドンのヴァイオリン協奏曲ト長調が演奏されました。演奏される機会の少ない作品ですが,バロック音楽の名残を残しながらも,ハイドンらしい朗らかさな美しさもある良い曲でした。オノフリさんのヴァイオリンは,バロック・ヴァイオリンということで,音色的にはやや落ち着いた感じがしました。その清潔感のある音と同時に,急速なテンポの最終楽章での見事な技巧に圧倒されました。さすがと思いました。

ちなみにこの日のオノフリさんは,マフラーをしていなかったですね。以前はマフラーでヴァイオリンを固定していたと思うのですが...方針を変えたのでしょうか?

続いて上述のとおり,モーツァルトの交響曲第25番が演奏されました。冒頭からゴツゴツした雰囲気の中に十分なエネルギーが込められたような演奏でした。各楽器とも,音を長く伸ばす時に,クレッシェンド気味に音を膨らませていたのが独特で,オノフリさんならではの,濃い音楽を作っていました。その一方,いつも聞き慣れているのとは違う対旋律がしっかり聞こえてきたり,細かい音のバランスにもしっかり配慮をしていました。

この曲はホルンが4本入るのですが,このホルンを最後列両端に2本ずつ分けていたのも独特でした。それと各楽章とも繰り返しをしっかりと行っており,オノフリさんならではの「過剰感」が倍増している感じでした。これまで聞いたこの曲の演奏の中でも,特に個性的で印象的に残る演奏だったと思います。

後半はロッシーニの「セビリアの理髪師」序曲で始まりました。オノフリさんの指揮のレパートリーも,バロック音楽から古典派,ロマン派へと拡大しているのかもしれません。この演奏を聞いてまず,「イタリアだなぁ」と思いました。冒頭からトランペットの音が明るく突き抜けて聞こえてきました。テンポは全体に速めでしたが,弦楽器のカンタービレに透明感がありしっかりと歌われていました。管楽器にもすっきりとした美しさが溢れていました。曲の最後の部分の,お祭り騒ぎの雰囲気もラテン的で良いなぁと思いました。

独特だったのは,通奏低音が入っていたことです。この日は,ロッセッラ・ポリカルドさんという方がチェンバロを担当していましたが,主部が始まる部分で,チャッチャッチャッチャッ...と音が聞こえてくると,ちょっとヴィヴァルディの「冬」の第1楽章あたりと通じる雰囲気になるのが面白いな,と思いました。

演奏会の最後は,ハイドンの交響曲第70番でした。未知の曲でしたが,この曲の構成自体が独特でした。第1楽章は,トランペットやティンパニが力強く入り,祝典的な気分で始まります。独立した序曲のような感じがありました。第2楽章は,反対にちょっと不気味な気分が漂う,暗さと明るさが交錯するような楽章。第3楽章は異様に力強いメヌエット(これはオノフリさんの指揮のせいかもしれませんが)。最終楽章が二重対位法を使った楽章ということで,後期の交響曲の展開部がいきなり始まったような充実感。ハイドンの交響曲にも色々ありますが,特に個性的だと感じました。

このちょっと破格な雰囲気が,オノフリさんの指揮の,良い意味での少々エキセントリックな雰囲気とうまくマッチしていると思いました。コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんを中心としたOEKの音には,美しさと精緻さがありましたが,それにオノフリさんの「思い」がしっかりと加わり,ハイドンの技や工夫に命が吹き込まれていたように感じました。

というわけで,是非,オノフリさんには,今後も古典派交響曲シリーズを期待したいと思います。

2019/03/03

#太田弦 指揮によるカレッジコンサート2019。石川県内の大学オーケストラメンバーとOEKが共演。大編成のブラームスの交響曲第2番等に加え,OEK単独によるシューベルトの交響曲第1番も素晴らしい演奏でした。 #oekjp

本日の午後は,この時期恒例のカレッジコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。石川県内の大学オーケストラメンバーとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の共演ということで,ステージに乗っていたメンバーは若い人中心でしたが,今回は指揮者の太田弦さんも25歳ということで,過去,最も若いメンバーによる公演になったのではないかと思います。

この太田さんですが,4月から大阪交響楽団の正指揮者になります。異例の若さと言えると思います。ただし,本日の指揮ぶりは非常に冷静で落ち着きがあり,ステージいっぱいに乗った大オーケストラを見事にドライブしていました。若手指揮者といえば,「速いテンポで情熱的に聞かせる」という先入観を持ってしまいますが,熟練の指揮ぶりだったと思います。プログラムの方は,ドヴォルザーク,シューベルト,ブラームスとこの演奏会にしては渋めでしたが,2曲の交響曲を中心に,大変聞き応えのある音楽を楽しませてくれました。

学生オーケストラとOEKの合同演奏については,前半最初に演奏されたドヴォルザークの「謝肉祭」の方がOEKメンバーが首席,後半メインで演奏されたブラームスの交響曲第2番の方は学生が首席という形になっていました。ドヴォルザークの方は,OEKの管楽器の名手たちの闊達な演奏をちりばめた華やかさがありましたが,上述のとおりテンポに落ち着きがあり,浮ついた感じになっていないのが特徴だったと思います。タイトルどおり「お祭り」でも面白い曲ですが,他の曲とのバランスの良い充実感がありました。

後半の合同演奏のブラームスの交響曲第2番は,さすがに管楽器の安定感の点では「謝肉祭」に及ばない部分はありましたが,弦楽器の音に威力があり,ドイツの交響曲らしさがしっかりと感じられる,見事な演奏だったと思います。冒頭のコントラバスの音の深さ,各楽章で出てくる息の長いカンタービレなど,ゆったりとしたテンポ設定と相俟って,大交響曲を聞いた充実感がありました。第3楽章の「肝」であるオーボエも大変立派な演奏だったと思います。第4楽章のコーダの部分では見事な盛り上がりを作っていましたが,それが唐突ではなく,少しずつ音楽を耕していくように,音楽の威力を増していっていたのが素晴らしいと思いました。

そして,この日の演奏で特に素晴らしいと思ったのが,真ん中で演奏されたシューベルトの交響曲第1番でした。過去,この曲を実演で聞いた記憶はないのですが,両端楽章の大編成の演奏に負けない充実感のある演奏でした。OEK単独だと,かえって音のクリアな強靱さが明確に感じされる部分ありました。この曲については,CDなどで聞く感じだと,やや冗長な曲かなと思っていたのですが,全楽章を通じて,磨かれた緻密さと新鮮な歌があり,全く退屈しませんでした。最終楽章では,トランペットのハイトーンが大活躍していましたが,この点もCDで聞いた印象とは一味違っていました。

なんといっても太田さんは,まだ25歳。今後もOEKとの共演の機会があると思いますが,今回の安定感と精緻さのある演奏を聞いて,今後の活躍が非常に楽しみになりました。

2019/02/16

川瀬賢太郎指揮OEKの定期公演。ヴェーゼンドンク歌曲集は,藤村実穂子さんの素晴らしすぎる声に圧倒されました。メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」はかなり物語がカットされたのが残念でしたが,蟹江杏さんの版画とともに妖精の活躍するメルヘンの気分が伝わって来ました

本日は,川瀬賢太郎指揮OEKの定期公演を聞いて来ました。

まず,演奏会の前半,世界のオペラハウスで活躍するメゾ・ソプラノ,藤村実穂子さんを加えて,ワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集が演奏されました。この演奏は,本当に見事でした。これまでOEKと共演してきた歌手の中で,もっとも聞き応えのある歌を聞かせてくれた気がします。「圧倒された!」という感じでした。

まず声量が豊かで,曲のすべての部分で,クリアに声が聞こえてきました。無理に声を聞かせようという部分は無いのに,「これがワーグナーだ!」というドラマがしっかりと伝わってきました。オーケストラの中に声が埋もれることなく,凜とした強さのある声から,憧れに満ちた包容力のある声まで,約20分間,ワーグナーの世界に浸らせてくれました。

この歌曲集自体,「トリスタンとイゾルデ」と連動して作られている部分があるので,オペラを思わせる部分がありました。こういう歌を聞くと,是非,藤村さんの出演するオペラを一度観てみたいものだと思いました。川瀬さん指揮,OEKの演奏も,藤村さんにインスパイアされたように,表現力豊かな音楽を聞かせてくれました。

後半では,メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の全曲がナレーション付きの演奏会形式で演奏されました。まず,音楽付きの戯曲を,どういう形でコンサートホールで演奏するかが注目でした。今回は,ステージ背後にスクリーンを用意し,蟹江杏さんによる現代的な感覚と素朴な感覚とが混ざったような,不思議な味わいのある版画を投影しながら演奏するという形を取っていました。シャガールを思わせるような浮遊する感じは,妖精が活躍するメルヘン的な気分を盛り上げていたと思いました。

物語の方は,無名塾の若手俳優,進藤健太郎さんが,演出の田尾下哲さんによるオリジナル台本を朗読する形で進みました。進藤さんは,最初から最後まで登場するのではなく,メンデルスゾーンの音楽をしっかり聞かせながら,それを補う形でナレーションが入っていたのが,オーケストラの定期公演での上演としては,とても良かったと思いました。

ただし,シェイクスピアのオリジナルのストーリーをそのまま使うわけにはいかないので,大胆に省略されていました。「アテネの森の中での若い男女の四角関係」の部分がすっぽりとカットされ,妖精の王様オベロンと女王ティターニア,そして,オベロンの指示で色々な細工をする妖精パックのお話という形になっていました。演劇として,オリジナル版を観たことはないのですが...あんパンを食べたのにアンコが入っていなかったような感じで...個人的には少々残念でした。

ただし,川瀬さん指揮OEKの演奏は,序曲から素晴らしい演奏でした。じっくりと精妙な気分で始まり,妖精が出てくるぞーという気分になった後,爽やかな風が吹き抜けるように音楽が進んでいきました。ソプラノの半田美和子さんとメゾ・ソプラノの藤村実穂子さん,そして,OEK合唱団の女声合唱を加えた,子守歌風の曲の陶酔的な美しさも印象的でした。結婚行進曲はドラマの中盤の曲ということで,大げさに盛り上がりすぎることなく,穏やかに幸福感に溢れる気分で演奏されました。

進藤さんは,まだ若い俳優ということで,ちょっと硬い感じはしましたが,主要登場人物の声をしっかり描き分けており,ドラマがしっかりと伝わってきました。何よりとても聞きやすい声質で,音楽とマッチしていたのが良かったと思いました。

というわけで,演劇作品としての「夏の夜の夢」という点では少々物足りなかったのですが,音楽と美術が一体となった,メルヘン的な気分を伝える点では成功していたのではないかと思います。そして,前半に登場した藤村実穂子さん。是非,再度金沢で歌を聞きたいものです。忘れられない声でした。

2019/01/26

OEK初登場の #ポール・エマニュエル・トーマス さん指揮, #松田華音 さんのピアノによるOEK定期公演。ラヴェル「マ・メール・ロワ」バレエ版の魅力を堪能。ラヴェルのピアノ協奏曲での松田さんのピアノも魅力的 #oekjp

本日の金沢は雪が降ったり止んだり。その中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。昨年に比べれば大したことはありませんが,いつもより少し早めに出かけることにしました。

登場した指揮者は,ポール・エマニュエル・トーマスさん。ピアノ独奏は,松田華音さんでした。どちらもOEKの定期公演初登場でした。プログラムは,フランス音楽中心で,交響曲のない構成でしたが,バレエ音楽版の「マ・メール・ロワ」を中心に,オーケストレーションの妙味をじっくり味わわせてくれるような,素晴らしい内容でした。

個人的には,最後に演奏されたバレエ音楽版「マ・メール・ロワ」を聞けたのが大収穫でした。私が,最初にこの曲を聞いたのは,アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団によるLPレコードの演奏でした。その後,実演で「マ・メール・ロワ」を何回か聞いているのですが,どうもクリュイタンス盤で聞いた「好きな部分」が出てこないのです。つまり,最初にLPで聞いたのがバレエ音楽版で,実演で聞いたのが組曲版だったということです。今回演奏されたのは,念願のバレエ音楽版ということで,聞きたかった部分をしっかり堪能できました。

具体的に言うと,組曲版にはない,前奏曲の部分で2本のホルンが高音で応答する箇所やいくつかの間奏曲で,弦楽器がコルレーニョ(多分)でカタカタ音を慣らした後,高音がキューンと下降する箇所などです。その他にも,室内オーケストラ編成のOEKならではの各楽器のソリスティックな活躍をしっかり楽しむことのできる箇所が多く,改めてラヴェルの楽器の使い方が素晴らしいと思いました。

お馴染みの組曲の部分についても,終曲の「妖精の園」の大団円に向かって精緻に各曲のキャラクターが描き分けられていました。組曲版だと20分程度ですが,バレエ版だと30分ぐらいかかりますので,終曲での名残惜しさはいつも以上でした。

トーマスさんの指揮は,情緒的になるところはなく,冷静にラヴェルのスコアをクリアに再現している感じでした。あまり変わったことをせず,OEKの良さをしっかりと引き出してくれたのが良かったと思います。何より,「ざわざわした感じ」「キラキラした感じ」など,実演でないと本当の良さは楽しめない曲なのは,と思いました。

ちなみに,最後にアンコール曲が2曲演奏されました。公演時間がやや短かったせいもあると思いますが,個人的には「マ・メール・ロワ」の気分で終わる方が良かったと思いました。ビゼーの「アルルの女」のファランドールとオッフェンバックの「ホフマンの舟歌」が演奏されたのですが...これはまた別プログラムにしてもらった方が良かった気がしました。

2曲目に登場した松田華音さんのピアノ独奏による,ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調も素晴らしい演奏でした。この曲は,OEKは何回も演奏していますが,その中でも特に素晴らしい演奏だったのでは,と思いました。何より松田さんのピアノがお見事でした。両端楽章では,くっきり,しっかりとした音でソリスティックな魅力を聞かせてくれました。淡々とクールに演奏しても格好良い曲ですが,所々で濃厚な情緒のようなものを感じさせてくれました。

対照的に中間の第2楽章は比較的さらりと自然に演奏していたのですが,そのピアノの音が素晴らしかったですね。ピアノの弦が振動しているのが分かるような,クリアでありながら夢見るような気分が感じられました。演奏全体としても,繊細さと大胆さが両立したような面白さが出ていました。

アンコールで,松田さんはチャイコフスキーの小品を演奏しました。こちらの方は,力技でバリバリと聞かせる演奏。ラヴェルとはまた別のキャラクターを見せてくれました。松田さんは,まだ若いピアニストです。これからの再演にまた期待したいと思います。

最初に演奏された,コダーイのガランタ舞曲は,複数の民族舞曲が連続的に演奏される曲で吹奏楽でおなじみのアルメニアン・ダンスやバルトークのルーマニア民俗舞曲などと似た構成です。トーマスさんは,OEKを明快に鳴らし,曲の魅力をストレートに伝えてくれました。この曲でも,管楽器を中心としたOEKメンバーのソリスティックな活躍が素晴らしかったですね。

今回の公演は,OEKとしては比較的珍しいフランス音楽を中心としたプログラムでした。トーマスさんの指揮からは,強い個性は感じなかったのですが,何よりラヴェルの「マ・メール・ロワ」のバレエ版の全曲をしっかりと聞かせてくれたのが良かったと思います。この曲については,OEKの十八番として,また機会があれば再演を期待したいものです。

2019/01/20

#森山開次 新演出 #井上道義 指揮OEKによるモーツァルト「#ドン・ジョヴァンニ」を #オーバード・ホール で鑑賞。両人の思惑がピタリとはまった,非常に完成度の高い上演。このオペラは,色々な演出に耐えられる不朽の名作と実感 #oekjp

本日は午後から富山まで遠征し,森山開次新演出,井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」をオーバード・ホールで観てきました。これまで金沢でOEKは,「フィガロ」「魔笛」「コジ・ファン・トゥッテ」を上演したことはありますが,「ドン・ジョヴァンニ」は未上演。モーツァルトの作品の中でも,特別な位置を締める名作だけれども,実演で観たことがなかったこともあり,高速バスに乗って観にいくことにしました。

今回の上演は,10名のダンサーを随所で活用した日本語による上演という点に特徴がありました。総監督の井上さんと演出・振付の森山さんとしては,オペラに溢れるエネルギーを美しく表現し,普通のドラマを楽しむように分かりやすく作品に入り込めるようにしたい,という狙いがあったと思いましたが,その思惑どおりの完成度の高い上演になっていたと感じました。やはりこのオペラは不朽の名作だと思いました。

それを支えていたのは,まず何よりも,それぞれのキャラクターにぴったりの歌手の皆さんの歌唱力だったと思います。

今回の私の座席は,例によって「いちばん高い(場所にある)席」だったので,声がやや遠く感じる部分はあったのですが,すべての歌手の歌詞がとてもよく聞こえました。これはオーバードホールの残響が石川県立音楽堂コンサートホールほど長くないことによると思いますが,字幕なしでもストレスなく理解できました(今回,英語対訳の字幕も付いていたのが面白かったですね)。

ドン・ジョヴァンニのヴィタリ・ユシュマノフさんの日本語は,井上さんがチラシ等で書かれていたとおり「ペラペラ」の流ちょうさ。ツェルリーナを誘惑したり,セレナードを歌ったりする場での柔らかな声に特にリアリティがありました。特にセレナードの方は,文語調の日本語で歌うと「明治時代の歌」のような,ちょっと現実離れしたような「いい感じ」になっていました。この曲の時の伴奏の,マンドリン伴奏+弦楽器少しという楽器の使い方は,さすがモーツァルトといった感じでした。

レポレッロ役の三戸大久さんは,体型的にもユシマノフさんと良いコントラストで,この作品のコメディ的な部分をしっかり盛り上げていました。昨年5月の金沢の楽都音楽祭では,ドン・ジョヴァンニのアリアを聞きましたが,そのとき同様の余裕のある声が見事でした。

このオペラで,ドン・ジョヴァンニ同様にポイントとなるのが,3人のキャラクターの違うソプラノです。プログラム解説等に書いてあったとおり「女性の3つの側面」を見事に表現しており,オペラに立体感を作っていました。

ドン・ジョヴァンニに父親を殺害され,自分も口説かれたドンナ・アンナは,悲劇の女性といったムードがあります。髙橋絵理さんは,抜擢だったと思うのですが,その声には,気品と瑞々しさがあり,第2幕に出てくる長いアリアなどをたっぷりと楽しませてくれました。

ドン・ジョヴァンニの元恋人のドンナ・エルヴィーラは,別の女性が騙されそうになると止めに入るような,ドン・ジョヴァンニにとっては天敵のような役柄です。鷲尾麻衣さんの歌唱には,天敵でありながら,どうしても忘れられず,ドン・ジョヴァンニの命乞いまでしてしまうような,母親的な暖かみのようなものを感じました。

マゼットと結婚式を上げたばかりなのに,ドン・ジョヴァンニに誘惑されるツェルリーナ役は,井上さん指揮のオペラでは常連と言って良い小林沙羅さん。上記2人よりも軽い声で,登場しただけで爽やかな空気感が漂っていました。ツェルリーナは,マゼットを慰めつつも,実は手玉にとっているような感じもあるのですが,小林さんの癒やしに溢れた声を聞きながら,マゼットが惚れるのも当然も感じました。近藤圭さんの演じるマゼットの実直な感じも良いと思いました。

ドン・ジョヴァンニ以外の男声の方はやや影が薄くなるようなキャラクターになっているのですが,そのの中でドンナ・アンナの婚約者,ドン・オッターヴィオ役の金山京介さんのまっすぐ正面を見て歌うような誠実さに,妙に訴えかけてくる力があると感じました。もしかしたら日本語の力かなと思いました。

そして最初の最後に出てくる,騎士長役のデニス・ビシュニャさん。まさにオペラ全体の重石のようなスケールの大きな声を聞かせてくれました。

これらのキャストに加え,舞台セットが素晴らしかったですね。ステージの奥に一段高いステージがあり,その両側から赤絨毯の敷かれた階段(あとで写真を見ると,絨毯ではないようですね。ただし,イメージとしては赤絨毯の雰囲気でした)が2本伸び,それが客席まで続いていました。オーケストラは,純粋なピットというよりは,客席に張り出した前方のステージと通常のステージの間のスペース入っている感じで,恐らく通常のホールでも上演できるような感じでした。

このように高低差と奥行きのある構成だったので,場面に応じて多彩な使い方をしていました。宴会の場でのゴージャス感や最後の地獄落ちの場面での,騎士長役の威圧感を見事に演出していました。モーツァルトの音楽は,それぞれのアリアも素晴らしかったのですが,各幕切れのアンサンブルの部分が特に面白いと思いました。今回,立体感のあるステージを使っていたのに加え,音楽にも立体感があり,観ていて「なんだかすごい世界が広がっているなぁ」という感じにさせてくれました。

これだけでもすごいのですが,これに各場面に対応して,10人のダンサーによるモダンな感じのダンスが加わります。一種,「動く大道具」のような役割を果たしている部分もあり,場面展開をダンスで演出しているようでした。

オペラの最後の部分は,オリジナルだと「残された3人の女性」がこれからどうします,といったことを歌う部分があるのですが,今回はその部分はカットし,ドン・ジョヴァンニの地獄落ちを「しっかり確認する」という形で,スピーディーに結んでいました。オリジナル版も観たい気はしましたが,「この締め方で納得」という終わり方だったと思います。

やはり,このホールだと,オーケストラの音を聞くにはややデッドな感じは残ったのですが(だんだん耳が慣れてきましたが),それ以外については,非常に完成度の高い上演だったのではないかと思いました。森山さんは金沢にも縁のある方ですので,是非,他のオペラの演出・振付にも(驚くべきことに今回が初だったんですね)挑戦していって欲しいものです。

2019/01/12

2019年最初のOEK定期は,フォルクハルト・シュトイデさんの弾き振り&リードによるモーツァルトとシュトラウス・ファミリーの音楽。新年らしい清新さと上品な華やかさのある演奏。今年も色々な公演を楽しめそうです。 #oekjp

2019年最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会は,恒例のニューイヤーコンサートでした。昨年のちょうど今頃は,50cmぐらいの雪が積もっていたのですが,今年は暖冬傾向ということで,本日は音楽堂まで自転車で往復しました。

登場したのは,ウィーン・フィルのコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデさんで,昨年に続いての「弾き振り」を交えての演奏となりました。プログラムの構成もほぼ同様で,前半は序曲的な曲に続いて,シュトイデさんの独奏による協奏曲。後半はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを彷彿とさせるような,シュトラウス・ファミリーの音楽でした。

前半・後半ともに,派手に聞かせるというよりは,音楽そのものを流れよく,すっきりと聞かせるような演奏で,正月の気分に相応しい,清新さと品の良い華やかさが漂う,素晴らしい雰囲気の公演だったと思います。何より「このパターンが,OEKのニューイヤー・コンサートの定番かも」と思わせる安定感があるのが良かったですね。

前半の最初のモーツァルトの交響曲第1番は,昨年5月の楽都音楽祭の時,アシュケナージさん指揮OEKで聞きましたが,その時よりも音にビシッとした芯があり,聞き応えを感じました。続く協奏曲もモーツァルトの作品で,名曲の割りに比較的演奏されることの少ない,ヴァイオリン協奏曲第4番がシュトイデさんの弾き振りで演奏されました。考えてみると,シュトイデさんが立って演奏していたのはこの曲だけでした。

シュトイデさんのヴァイオリンの音には,切れ味の良い細身の刀を思わせるようなきらめきがありました。速めのテンポですっきりと演奏しつつ,次々と湧き出てくる美しい曲想を鮮やかに聞かせてくれました。アビゲイル・ヤングさんを中心としたOEKの演奏も自発性に富んでおり,幸福感に溢れた音の世界を楽しむことができました。

後半は,お待ちかねのシュトラウス・ファミリーの音楽でした。こちらも昨年と同様で最初に「ジプシー男爵」序曲,最後に「皇帝円舞曲」と規模の大きめの曲を配し,その間にポルカ,ギャロップ,軽めのワルツなどが並ぶという構成でした。

前半同様,シュトイデさんの作る音楽には,「無理矢理」感がなく,どの曲も大変気持ちよく,流れの良い音楽を楽しむことができました。途中,お客さんを楽しませるためのパフォーマンスが入るのも昨年同様でした。ニューイヤーコンサートは,金沢公演の後,富山県射水市や東京でも行われるのであまり詳しくは書かないのですが...今年もまたMVPは,打楽器奏者のグンナー・フラスさんでした。とりあえずは「クラップフェンの森で」にご注目ください。それともう一つOEKメンバーが,「楽器以外」で活躍する曲があります。こちらもお楽しみに。

演奏会の最後は,タイトルからして,シュトラウスのワルツの中でも,特に立派な雰囲気のある皇帝円舞曲で締められました。曲の最後の部分,チェロ(おなじみカンタさんでした)のソロが入り,室内楽的な雰囲気になった後,大きく盛り上がって終了。この曲はトリにぴったりですね。

そしてアンコールで,お約束どおりの手拍子入りの「ラデツキー行進曲」でおしまいでした。あまりビシビシ仕切らない,のどかな雰囲気が良かったですね。

演奏会の後,OEKメンバーが音楽堂の入口付近で,恒例のOEKどら焼きを配布していました。こちらの方も「これがないと新年になった気がしない」というぐらい定着しましたね。というわけで,華やか,かつ穏やかな気分で新年気分の最後を味わうことのできた演奏会でした。

2019/01/03

2019年最初の演奏会は,OEKメンバーによる新春ミニコンサート@石川県庁19階展望ロービー。大勢のお客さん一緒に,音楽による初「日の出」を楽しみました。

2019年最初の演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる新春ミニコンサートでした。毎年1月3日に石川県庁19階展望ロービーで行っているもので,大勢のお客さんで賑わっていました。私の場合,今年の正月3が日は,初詣に行った以外は,「ほぼ家の中」でゴロゴロと過ごしていましたので,絶好の気分転換になりました。そういった方が大勢集まっていたのではないかと思います

演奏された曲は,ハイドン :弦楽四重奏曲「日の出」~第1楽章,ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番~第1楽章,ドヴォルザーク:ユーモレスクということで,比較的堅めの選曲でしたが,30分ほどの時間,しっとりとした弦楽四重奏の音色を楽しむことができました。登場したのは,ヴァイオリンが原田智子さん,江原千絵さん,ヴィオラが石黒靖典さん,チェロが早川寛さんでした。

ハイドンの「日の出」は,恐らくこの展望ロビーにちなんでの選曲でしょう。今年の場合,初日の出の時間帯はしっかり晴れていましたので,このロビーからもしっかりと見られたのではないかと思います。この曲の第1楽章の出だしの部分は,じわ~っと太陽が昇っていくような雰囲気がありますので,「音楽による初日の出」といったところです。今回の演奏はロマンティックな気分が漂うぐらい,柔らかな空気感がありました。少々くすんだ感じがあったので,冬の金沢の空にぴったりだと思いました。

続くベートーヴェンの弦楽四重奏曲は,恐らく「第1番=最初=1年の最初」というつながりで選ばれたのではないかと思います。実は,12月20日に石川県西田幾多郎記念哲学館で行われた,OEKメンバー(今回とはヴィオラの石黒さんを除くと別メンバー)によるコンサートで聞いたばかりの曲だったので,図らずも聞き比べのような形になりました。この曲についてもじっくり,ゆったりと演奏され,豊かな情感が耳に染みこんでくるようでした。特に第1ヴァイオリンの原田智子さんの表情豊かな演奏が印象的でした。

最後は,ドヴォルザークのユモレスクがアンコールのような感じでリラックスした雰囲気で演奏されて,終了しました。

この日はお客さんが多すぎたこともあり(私は13:00からの1回目の方を聞きました),会場に到着した時は,椅子席が全部埋まっており,立ったまま聞くことになってしまいました。補助席がもう少し欲しいところでしたが,これも地元でのOEKの人気によるところでしょう。

今年もまた,可能な限り演奏会通いをして,色々な音楽を楽しみたいと思います。

2018/12/30

今年もあとわずか。2018年のOEKの公演を定期公演を中心に振り返ってみました。 #oekjp

2018年もあとわずかです。今年も石川県立音楽堂で行われたOEKの定期公演を中心に,数多くの演奏会を楽しむことができました。この時期,音楽雑誌では,ベストコンサートを決める企画もありますが,私の場合,何事につけ「これがいちばん」を決めるのが苦手なので(正直なところ,記憶がどんどん薄れていくので...),全体的な印象を振り返ってみたいと思います。

今年のOEKの定期公演のうち,9月最初の川瀬賢太郎さん指揮のものだけは聞きに行けなかったのですが(その代わり,同一内容の大阪公演を聞きに行きました),それ以外はすべて聞くことができました。フィルハーモニーとマイスターの定期公演をタイプ分けすると,次のような感じになると思います。

A OEKのレパートリーの根幹,古典派~初期ロマン派の作品中心のプログラム
B バロック音楽など古楽系の指揮者による声楽が加わるプログラム
C 編成を少し大きくしてのロマン派プログラム
D 指揮者のこだわりのプログラム
E オペラ

OEKの定期会員に入っていれば,これらをバランス良く楽しますね。フル編成のオーケストラの定期公演の場合より,A,Bが多い分,プログラムの多様性や工夫があるのがOEKの良さです。そして,近年は,以前にも増して,世界的に著名なアーティストによる,OEK独自企画的な公演が多かったと思います。ちょうど1年前の1月にマルク・ミンコフスキさんがOEKの芸術監督になることが発表されましたが,このことがその象徴だと思います。そして,このことは,OEKの試行錯誤の30年の歴史の成果だったのではないかと思います。

そのミンコフスキさん指揮による,7/30の「ペレアスとメリザンド」定期公演は,記念碑的な公演でした。通常のオペラとは一味違う,演劇的で象徴的なオペラの魅力を理想的なキャストと見事なプロジェクションマッピングとともに伝えてくれました。その他のオペラ公演では,11/25の「リゴレット」も,金沢初演でした。青山貴さん,森麻季さんを中心に,イタリア・オペラの中でも特に魅力的な作品をしっかり楽しむことができました。

ただし,オペラというのは,やはり総合芸術なので,OEKファンとしては,上記のタイプAのOEKの根幹プログラムを色々な指揮者で楽しむことができたのが,いちばん嬉しかったですね。井上道義さんの音楽監督として最後のステージとなった3/17公演でのハイドンの「朝・昼・晩」,9月からOEKの指揮者団に加わったユベール・スダーンさん指揮による10/13公演でのハイドンの103番,シューベルトの5番,川瀬賢太郎さんによる9月定期でのハイドンの90番,ベートーヴェンの5番。その他,急遽代役で2/24公演に登場したマティアス・バーメルトさんによるシューベルトの6番,7/7の公演に登場したリープライヒさん指揮によるベートーヴェンの1番。こういった曲を,色々な解釈で楽しむことができました。

ちなみにモーツァルトの方は,5月の楽都音楽祭で,たっぷりと楽しむことができました。一見,名曲中心の「どなたでも楽しめます」といった内容でしたが,今年の場合,「室内オーケストラの競演」のようになっていたのがとても面白かったですね。

上記のタイプBの古楽型については,3/10の北谷直樹さんとラ・フォンテ・ヴェルデによる公演が,非常にスリリングでした。オリジナリティの点では,今年最高だったと思いますた。11/01の鈴木雅明さんとRIAS室内合唱団による公演は,バロック音楽ではなくメンデルスゾーンの珍しい宗教音楽がメインで演奏されました。素晴らしい合唱の力と共に,隠れた名曲を再発見するような公演になったと思います。

合唱団と共演した公演では,8/26に富山で行われた山下一史さん指揮によるベートーヴェンのミサ・ソレムニスも聞き応えがありました。前年のヴェルディに続いての「夏のミサ」公演も定着しつつあるようですね。

タイプCのロマン派的な公演については,定期公演ではありませんが,1/23に行われた佐渡裕さん指揮による兵庫PACオケとの合同公演が楽しめました。「1812年」では,立派な大砲も登場しましたね。6月の定期公演に登場した,川瀬さんは,金沢ではシューマンの「ライン」,小松ではチャイコフスキーの5番を楽しませてくれました。武満徹「系図」での谷花音さんの見事なナレーションも鮮烈な印象が残っています。

10月の小松公演では田中祐子さん指揮によるフランス・プログラム。サン=サーンスの2番はOEKにピッタリの曲でした。そして,番外編が,2/26のミンコフスキさん指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーブルによるメンデルスゾーンの3番,4番。古楽器によるちょっと不自由な感じが魅力になっているような演奏でした。

最後にタイプDの「こだわりの選曲」については,どの公演も「こだわり」なのですが,特に井上道義さん指揮による,2/3公演でのショスタコーヴィチにチェロ協奏曲とヒンデミットの「画家マティス」の組み合わせが印象的でした。クニャーゼフさんのチェロは今年登場したソリストの中でも最も強烈な印象を残してくれた気がします。
井上さんの指揮では,11/7に邦楽ホールで行われた,邦楽洋楽コラボレーション公演も井上さんらしさ満載,本領発揮といった内容でした。

6/21の下野竜也さん指揮による定期は,後半にロッシーニの序曲が並ぶ下野さんならではの選曲。吉野直子さんのハープによる,ニーノ・ロータの曲も良い曲でしたね。11/29の定期には,オリ・ムストネンさんが初登場。ムストネンさん自身の作品とヒンデミット,シベリウスなどの作品を組み合わせる,何が出てくるか分からないようなプログラム。全身アーティストといった感じのムストネンさんの魅力をたっぷうり味わうことができました。

OEKと共演したソリストでは,上記の人たちに加え,フルートのジャスミン・チェイさん,ピアニストの反田恭平さん,小山実稚恵さん,ヴァイオリンの堀米ゆず子さんなど,若手からベテランまで実力者との共演が続きました。

その他,ピアニストの平野加奈さん,OEKのフルート奏者,松木さやさんなど地元の若手奏者との共演もありました。音楽堂室内楽シリーズでは,OEKの奏者たちによる室内楽公演も楽しむこともできましたが,今後も地元のアーティストやOEK内の名手たちとの共演に期待したいと思います。聴衆からの距離の近いアーティストについては,世界的に活躍するアーティストとは違った,「応援しながら聞く」という最高の楽しみがあるのではないかと思っています。

先日,天皇誕生日の記者会見の中で天皇陛下は,平成の時代が戦争のない時代として終わりそうであることに言及されていましたが,世の中が平和であることが,芸術活動の前提だと私は思っています。来年は5月に元号が変わりますが,新しい時代も戦争のない時代が続くことを心から願っています。

2018/12/20

本日は石川県立音楽堂の #夜コン ...には行かず,西田哲学館で行われたクリスマスコンサートへ。OEKメンバーが挑んだ,ヤナーチェクの「ないしょの手紙」をはじめとした,充実の弦楽四重奏曲3曲 #oekjp

本日は石川県立音楽堂コンサートホールで行われていた(はず)の「夜クラ」第2回目に行くという選択肢もあったのですが,プログラムの素晴らしさに惹かれ,石川県西田幾多郎記念哲学館で行われた,OEKメンバーによる「かほく市クリスマスコンサート2018」を聞いてきました。

この演奏会も恒例イベントになっているのですが,「クリスマスコンサート」という楽しげな名称とは関係なく(?),30分程度の弦楽四重奏曲をたっぷりと聞かせてくれる,大変マニアックな内容の演奏会でした。登場したのは,OEKメンバーによる室内楽ではおなじみの,ヴァイオリンの松井直さん,上島淳子さん,ヴィオラの石黒靖典さん,そして,チェロの大澤明さんでした。

演奏された曲は,モーツァルトの弦楽四重奏曲第16番変ホ長調,K.428,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番ヘ長調,op.18でした。今回も,大澤さんのトークを交えての内容でしたが,どの曲の選曲にもこだわりがあったと思います。

大澤さんのお話によると,モーツァルトの弦楽四重奏曲は,有名な「ハイドンセット」の中の1曲だけれども「その中でも演奏される頻度の少ない曲」。ヤナーチェクについては,タイトルとは裏腹に結構支離滅裂な部分もあるけれども,素晴らしい作品。ベートーヴェンについては,「遠くからだと子猫に見えるが,実は虎」という作品,ということで,超有名作はなかったのですが,各楽器の音が生々しく聞こえるホールで聞いたこともあり,どの曲も迫力に満ちていました。

モーツァルトとベートーヴェンについては,古典派音楽の到達点といった趣きのある作品で,各楽章とも主要な主題が,きっちりと展開し,絡み合うような緻密さを感じました。モーツァルトの方は,音の動きに半音階的な動きを感じさせる部分が多く,どこか古典派音楽を超えるような部分もありました。

ベートーヴェンの方は,まさに大澤さんの言葉どおりの作品で,第1楽章の冒頭,清澄な感じのユニゾンで始まった後,中期の作品を思わせるようなモチーフの積み重ねが続きました。クライマックスでは,切実な声を上げるように感情が爆発する部分もあり,やはりベートーヴェンだなぁと思いました。

前述のとおり各楽器の音が生々しく聞こえるホールだったので,少々疲れる部分はありましたが,第2ヴァイオリンとヴィオラの内声部の音の動きがしっかり聞こえ,第1ヴァイオリンがしっかりと歌い上げ,チェロがビシッと引き締め...という感じで臨場感たっぷりの演奏を楽しむことができました。

2曲目に演奏された,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番の方は,かっちりとまとまった古典派音楽とは対照的に,どの楽章についても狂気に満ちた,この世から一歩踏み外したような世界が広がっていました。ヤナーチェクの音楽は,モーツァルト,ベートーヴェンに比べると,確かにとっつきにくかったのですが,音楽というよりは,常に何かのストーリーを語っているような表現力の多彩さを感じました。

最晩年のヤナーチェクの恋愛がモチーフになった作品で,技巧面でも一筋縄では行かない難曲であることは確かですが,OEKメンバーの演奏には,その難曲に正面から挑むような迫力がありました。聞いているうちに,クリスマス気分も吹っ飛びそうでしたが,こういうスタンスも良いですね。

ただし,今回の演奏会では、開始前のプレコンサートとして賛美歌が演奏され,さらにアンコールではバッハの「主よ人の望みの喜びよ」が演奏されました。しっかりとクリスマス直前であることを思い出すこともできました。

この演奏会も恒例になっているようですが,今後もマニアック路線で,色々な弦楽四重奏を楽しませて欲しいと思います。

2018/12/09

「金沢でメサイアを歌い続けて70年」#北陸聖歌合唱団 と #柳澤寿男 指揮 #OEK によるメサイア全曲公演。70年に相応しい充実感のある演奏 #oekjp

本日は,「金沢でメサイアを歌い続けて70年」となる北陸聖歌合唱団と,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,年末恒例のヘンデル作曲オラトリオ「メサイア」公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。記念の年ということで,全曲が演奏されました。指揮は,「メサイア」を指揮するのは2回目の登場となる柳澤寿男さんでした。

北陸聖歌合唱団と柳澤さんのつながりは,過去の歴代指揮者の中でも特に強いようで,今回の全曲演奏も見事な演奏でした。柳澤さんの作る音楽は正統的で,全曲を通じて,がっちりと引き締まった充実感を感じました。テンポ設定も中庸だったと思いますが,この曲の合唱部分によく出てくる,メリスマ風の細かい音の動きの続く部分などでは,妥協しないような速いテンポでした。合唱団の皆さんは大変だったと思いますが,その緊迫感が一つの聞き所になっていたと思いました。

その一方,70年記念ということで,合唱団の人数は120名編成でしたので,スケール感を感じさせる余裕のある声を聞かせてくれました。ハレルヤ・コーラスでの,クライマックスに向かって,充実感を高めていく構成も良かったのですが,最後のアーメン・コーラスでの染み渡るような清澄な気分も素晴らしいと思いました。宗教音楽のクライマックスにぴったりの表現だったと思いました。

今回は全曲演奏だったのですが,休憩の方は第2部の途中に1回入るだけでした。2枚組CDの「メサイア」と同じような分け方だったと思います。その分,第1部と第2部,第2部と第3部に切り替わる部分が入ってしまうのですが,連続的に聞くことで,その空気感の違いが実感できました。特にイエスの生誕を描いたクリスマス気分の溢れる第1部と受難を描いた第2部については,急に湿気を沢山含んだ曇り空(本日の金沢の空のことですが)に切り替わったようなコントラストを感じました。

ソリストの方については,特に女声が充実していたと思います。ソプラノの朝倉あづささんは,70年記念公演には「外せない」ですね。プログラムのプロフィールを読むと,この公演に登場するのは27回目とのことで,平成になってからはほぼフル出演という感じだと思います。その声の雰囲気がずっと変わらないのは,本当に素晴らしいと思います。北陸聖歌合唱団の「メサイア」公演に無くてはならない存在だと改めて思いました。

ソプラノの出てくる曲は,どの曲も良いのですが,特に第3部の最初の曲(全曲演奏以外だとカットされることもあるのですが)が好きです。この曲を聞くと,「メサイアも終わりに近づいてきたな,今年も終わりに近づいてきたな」と少ししんみりとした気分になります。

メゾ・ソプラノは田中展子さんでした。メサイア公演には初登場の気がしますが,今回のソリスト4人の中で,特に素晴らしい声を聞かせてくれたと思いました。まず声にしっとりとした落ち着きと品の良い美しさがあり,どの曲を聞いても,美しいなぁと思いました。いちばんの聞かせどころの,第2部の最初のアリアも深さと同時に,厳しさが伝わってきました。メサイアの中には,オーケストラの伴奏部に付点音符が入った音型が連続する箇所が結構あるのですが,柳澤さん指揮は,この付点音符の部分については,例年に増して,厳しく引き締まった感じで演奏していたように思えました。このアリアでの田中さんの声をさらに引き立てていたと感じました。

テノールの志田雄啓さんも,「メサイア」公演ではお馴染みの方で,大らかな表現を聞かせてくれましたが,今回は全体的に高音部が苦しそうな感じだったのが,少々気になりました。バスの大塚博章さんがこの公演に登場するのは今回が初めてだったと思います。どの曲も美しく安定感のある歌を聞かせてくれましたが,少々ソツがなさ過ぎるかな,と贅沢なことを感じました。

さすがに全曲公演となると,休憩時間を合わせると3時間コースになり,少々疲れましたが,70年記念に相応しい充実した公演だったと思います。

PS. 本日は「70年の公演記録」をまとめたリーフレットも配布されました。そのうち何回行っているのか,カウントしてみたところ,丁度20回でした。私にとっても記念の公演ということになります。

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