OEKのCD

2022年9月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ

コンサート(OEK以外)

2022/09/25

北陸初となる石田組ツアー2022/2023金沢公演@北國新聞赤羽ホール。前半のクラシック+後半の映画音楽+ロック音楽,どの曲からも石田組長とメンバーの真面目さと秘めた熱さが伝わってきて,存分に楽しめました。いつかOEKとの共演など実現して欲しいものです。

本日の午後は,神奈川フィルの首席ソロ・コンサートマスター,石田泰尚さんを中心とした弦楽アンサンブル,石田組の演奏会を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。石田さんについては,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のゲスト・コンサートマスターとして金沢に来られたことはありますが,「石田組」として北陸で演奏会を行うのは今回が初めてです。というわけで,単純に「テレビの音楽番組に出ている人たちを生で見られる」「一度は聴いておかねば」という軽い感じで聴きにいくことにしたのですが...その気合いの入った演奏に改めて感銘を受けました。

前半はモーツァルトとメンデルスゾーンという,オーソドックスなクラシック音楽。後半は,石田さんのソロによるピアソラの後,映画音楽や古典的なロック音楽を弦楽合奏で演奏するという構成でした。

まず前半の室内楽が良かったですねぇ。1曲目のモーツァルトのディヴェルティメントK.138は,石田組長抜きの弦楽四重奏編成。ただし組長のテイストを反映したように,ビシッと美しく聴かせてくれました。2曲目は,メンデルスゾーンの八重奏曲でした。チラシにはこの曲が掲載されていなかったので,大好きなこの曲がプログラムに載っているのを見て,「おっ」と思いました。

石田組については,公演のたびに編成が変わるそうですが,今回はヴァイオリン4,ヴィオラ2,チェロ2の8人。まさにこの曲にぴったりの編成でした。メンデルスゾーンが10代の頃に書いた,「天才の証拠」のような作品ですが,石田組に皆さんは,慌てず騒がず,充実感のある引き締まった音楽を聴かせてくれました。第4楽章の最初の部分は,チェロ,ヴィオラ,ヴァイオリンの順に1人ずつ速いパッセージを弾いて開始します。今回の配置だと音が左右に飛び交っていたので,「組内の派閥抗争か?」という感じでしたが,すぐに一体感とスピード感のある音楽へ。キリッとした格好良さのある音楽になっていました。

後半は石田さんの独奏によるピアソラのアディオス・ノニーノで開始。孤高のソロっという感じが格好良かったですね。じっくり聴かせる曲で,クラシック音楽として定着していっても良い曲では,と思いました。

その後,メンバー紹介や組員の決め方などについての楽しいトークが入った後,映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ。このアラン・シルヴェストリの音楽は,何回聴いても気分が高揚します。弦楽器によるキリキリとした輝くような感じにもぴったりでした。

映画「シンドラーのリスト」は,ヴァイオリン独奏曲の定番ですね。石田さんの真摯なソロをしっかり楽しめました。映画「荒野の七人」のテーマは,この映画のみならず西部劇全体のテーマ曲のような作品。ユニゾンが美しく,「石田組の八人」といった団結力を感じました。

最後はロック音楽の古典2曲。実は,個人的にこの分野がいちばん知識がない分野です。レッド・ツェッペリン「天国への階段」,ディープ・パープル「紫の炎」の両曲とも名前だけは聞いたことはありますが,よく知らない曲でした。ただし,今回聴いてみて,弦楽合奏で聴いても全く違和感がないと思いました。

「天国への階段」の方は,かなりメロディアスな曲で,ヨーロッパの民謡のような親しみやすさを感じました。最後の方,ヴィオラがうなるような感じになったり,音楽の熱気が増していく感じが良いなぁと思いました。

トリの「紫の炎」はテンションの高い急速な曲ということで,バルトークの曲に通じる感じがあると思いました。途中,急速な弦楽合奏になる部分などは,バロック音楽の「嵐」の表現に非常に似ていると思いました(多分,そういうアレンジなのだと重います)。先日,OEKの定期公演できいた,ピアソラ作曲(デシャトニコフ編曲)による「ブエノスアイレスの四季」の世界に通じるものもあると思いました。というわけで,この曲の室内オーケストラ版などがあれば聴いてみたいものだと思いました。

最後,アンコールに応え,まず,クライスラーの「美しいロスマリン」。これはネタバレになってしまいますが...

石田さん以外の3人のヴァイオリニストが順番にソロを取った後,最後のピツィカートのみ石田さんが演奏という,楽しい趣向でした。

アンコール2曲目は,フレディ・マーキュリーの「I was born to love you」。弦楽器によるキューンキューンという不思議な音が印象的なノリの良い演奏でした。そして3曲目は,全員お揃いの「組」のTシャツに着替えて「川の流れのように」。「会場のみなさまお疲れ様でしたという」メッセージが音になって伝わってくるような,ファンサービスのような演奏でした。

というわけで,石田組北陸初公演は大成功だったと思います。また,別のレパートリーで聴いてみたいですね。OEKファンとしては,石田組とOEKによる合同演奏などにも期待したいと思います。

2022/09/17

本日は富山県の入善コスモホールまで出かけ,小林愛実ピアノ・リサイタルを鑑賞。バッハ,ブラームス,ショパンのスケルツォ4曲というシリアス系のプログラムは小林さんのピアノにぴったり。充実の時間でした。名演奏家たちの「音」を長年吸い込んできたようなコスモホールの雰囲気も気に入りました

本日は午後から富山県の入善まで出かけ,小林愛実さんのピアノリサイタルを聴いてきました。昨年のショパン・コンクールで4位を受賞した小林さんの演奏を聴きたかったのはもちろんですが,入善コスモホールに一度行ってみたかったというのも,今回出かけた理由です。

本当は昨日,金沢で行われた角野隼斗さんとマリン・オルソップ指揮ポーランド国立放送交響楽団の演奏会にも行ってみたかったのですが...明日OEK定期公演に行く体力も残しておかないといけないので,小林さんのリサイタルの方を選びました。

今回,小林さんが演奏した曲は,バッハのパルティータ第2番,ブラームスの4つの小品, op.119,そして,ショパンのスケルツォ全4曲でした。シリアス~落ち着いた感じの曲によるプログラムでしたが,それが小林さんのキャラクターにぴったりマッチしていると思いました。

今回実は,運が良いことに,ものすごく前の座席を取ることができました。小林さんの演奏前後~演奏中の表情を間近で見られたのですが,どの曲の演奏も非常に落ち着いており,考え抜かれた音色や表現をしっかりとお客さん伝えてくれる素晴らしい演奏になってると感じました。

バッハのパルティータは自信にあふれた落ち着きのあるタッチでシンフォニアが堂々と始まった後,親密な手紙を1通ずつ書いていくように,アルマンド,クーラント...と続きました。最後とロンドーとカプリッチオは生き生きとした音楽の流れが続き,ぐっと気分が盛り上がって終了しました。大げさな表現はないのですが,とても念入りに演奏されており,バッハの音楽が現代の自然に蘇ってきたような新鮮さを感じました。

ブラームスの4つの小品は,ブラームスの最後のピアノ曲です。曲自体,美しさと懐かしさと寂しさが合わさったような感じで,改めて良い曲集だなと思いました。特に2曲目の間奏曲の中間部で,若き日を思い出すようなワルツが出てくるのですが,この遠くから聞こえてくる感じが絶品でした。第4曲のバラードは,非常に輝きのある音楽。小林さんの落ち着きのある演奏からは,自然な風格が立ち上がっているようでした。

後半はショパンのスケルツォ4曲。多くのお客さん(この日は完売との案内が出ていました)待望の,「小林さんのショパン」でした。スケルツォ集は,ショパンの曲の中でもピリッと辛口的な曲が多く,まさにその辺が小林さんの演奏にぴったりだと思いました。シリアスな曲で見せる,真剣で真摯な表情が小林さんのピアノの魅力だと思いました。ピアノの音はくっきりと磨かれているのですが,そこには冷たい感じはなく,リアルな思いが熱く伝わってくる感じがします。

その一方,スケルツォ第1番の中間部のように,「大きなメロディ」をたっぷりと聴かせてくれる部分も非常に魅力的でした。各曲ともにそういうコントラストがあり,冷静にコントロールされているけれども,誠実で熱いドラマが感じられました。

その中で第4番のスケルツォだけは,もともとちょっと軽やかな雰囲気があります。苦しみを突き抜けた先の軽やかさのようなものがあり,演奏会全体を前向きな明るさの中で締めてくれました。

そして,当然のようにアンコール曲が3曲演奏されました。いずれもショパンの曲。小林さんのショパンといえば,コンクールでも素晴らしい演奏を聴かせてくれた,24の前奏曲が十八番。その中から18番...ではなく17番,4番が演奏されました。個人的に,不思議な明るさが漂い,最後,左手に鐘のような音がくっきりと出てくる17番が特に大好きなので,大きなプレゼントをいただいた気分になりました。

最後はワルツ第5番が華麗かつ爽やかに演奏されてお開きとなりました。

今回,小林さんの演奏も素晴らしかったのですが,入善コスモホールも良いホールだと思いました。外見は結構古くなっていましたが,ホールに入るとじっくりとエイジングを重ねたような落ち着きがあり,ピアノの音をじっくりと楽しむことができました。ホールのあちこちには,過去,このホールで演奏したアーティストのサイン入りポスターがずらっと並んでいましたが(OEKも入っていました),ギドン・クレーメル,マリア・ジョアン・ピレシュ,アルバン・ベルク四重奏団....世界トップレベルのアーティストたちが繰り返し演奏会を行っていることに驚きました。ホールの床面は絨毯になっていましたが,何か名演奏家たちの音をしっかりと吸い込んだような風格のあるホールだなと思いました。

ちなみに金沢からだと高速道路で1時間15分ぐらいで付きました(その後,ホールに着くまで迷ってしまったのは計算外でしたが...)。機会があれば是非また来てみたいと思います。

 

2022/07/01

早くも梅雨が明けてしまった週末,原田智子ヴァイオリンリサイタルへ。重量感のある前半とSPレコードの世界を思わせる後半。そして永遠に続いて欲しいような「揚げひばり」。センス抜群の素晴らしい公演でした

早くも梅雨が明けてしまった金曜日の夜,OEKのヴァイオリン奏者,原田智子さんのヴァイオリン・リサイタルを金沢市アートホールで聴いてきました。ピアノは倉戸テルさんでした。原田さんは毎年のようにリサイタルを行っていますが,ますます絶好調という感じで,今回も素晴らしい演奏を楽しませてくれました。

今回,何夜も素晴らしかったのは,選曲・構成だったと思います。前半最初に,J.S.バッハの無伴奏の「シャコンヌ」,続いてブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番。どちらも後半のトリに来ても良いような重めの作品でしたが,それらをバシッと聞かせた後,後半はハイフェッツやクライスラー編曲による小品3曲。最後はイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番から第1楽章「夜明け」とヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」。最後の2曲は,続けて聴くと,どこか響き合うような,共通する味わいを感じました。

というわけで,センス抜群の選曲と構成でした。

演奏の方は,いつもどおりの原田さんの音と表現を楽しむことができました。ビシッと引き締まった緻密で密度の高い音をベースに,熱く歌ったり,虚無的にクールに決めたり...自由自在に原田さんの世界を聞かせてくれました。最初のシャコンヌを聴くのは2回目だと思いますが,大げさになり過ぎず,辛口な雰囲気の中から段々と味わい深さが増して来るようでした。

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番では,倉戸さんのピアノの豊かで余裕たっぷりの音と相俟って,スケールの大きな音楽を楽しませてくれました。第2楽章でのじっくりと語り合うような深さも素晴らしかったですね。

後半の最初の3曲は上述のとおり,小品3曲でした。こういう親しみやすい曲が並ぶと,前半のアンコールのような感じなり,会場の雰囲気がどんどん盛り上がってくるようでした。単に親しみやすいだけでなく,その中に「人生の苦み」のようなテイストがあるのも良いなぁと思いました。

イザイの無伴奏の曲は実演で聴くのは初めてでしたが(多分),かすれるような弱音から始める雰囲気が非常にミステリアスで,「いいなぁ」と思いました。別世界が広がっていくようでした。そして,その後に演奏された「揚げひばり」の方も冒頭のヴァイオリンソロの部分の高く雲雀が飛翔するような感じが魅力的で,さらに異次元の世界に入ったようでした。静かな雰囲気で演奏会を占めるのが,非常にセンスが良いなぁと思いました。

アンコールで演奏されたのは,フォスターの「金髪のジーニー」。後半最初の3曲に通じる親しみやすい曲で,SPレコードを生で聴いているような充実感を感じました。

原田さんのリサイタルではこれまで,聴きごたえのあるソナタなどを中心に演奏してきましたが,今回のような小品を交えてプログラムも面白いなぁと思いました。というわけで...原田さんのリサイタルには,今後さらに期待をしたいと思います。

2022/06/20

今晩は,金沢初登場の九州交響楽団演奏会@石川県立音楽堂へ。現田茂夫さん指揮,須川展也さんのサックスによる,明るく開放的な気分のある公演。サックスの魅力とラテン系の音楽の魅力の両方をしっかりと楽しめる演奏会でした。オーケストラ・キャラバン企画は,今年も色々楽しみですね。

今晩は,昨年度から始まった「オーケストラ・キャラバン」の一環で行われた,九州交響楽団金沢公演を石川県立音楽堂で聴いてきました。プログラムのポイントは,「サクソフォンが加わるオーケストラ曲」。ソロで登場したり,オーケストラのメンバーとして登場したり,全曲で須川展也さんが演奏に加わっていました(4月のOEK定期での上野耕平さんの時と似た感じかも)。

前半はまず,須川さんのサックスのソロをフィーチャーした曲が3つ演奏されました。ご挨拶がわりの,ドーシー作曲のウードルズ・オブ・ヌードルズという曲は,須川さんの鮮やかな音と指の動きを堪能できるような曲。いきなりのジャズっぽい作品ということで,一気に別世界に連れていかれた感じでした。サクソフォーンという楽器の,一気に主役になってしまうような,良い意味での「押しの強さ」も味わえる楽しい曲でした。

2曲目は,真島俊夫作曲のシーガルという作品。1曲目とは打って変わって,ゆったりとしたバラードっぽい作品。エンニオ・モリコーネの曲の世界につながるような,甘い切ない世界を味わわせてくれました。須川さんの演奏には,時間の感覚を忘れさせてくれるような陶酔感がありました。

3曲目の石川亮太作曲の日本民謡による狂詩曲は,発想としては,外山雄三作曲の「ラプソディ」と同様で,日本の有名な民謡が次々出てくるラプソディです。途中,緩徐楽章風になったり,カデンツァのような感じになったりする点で,サックス協奏曲的な感じもある作品でした。最後は阿波踊り+ソーラン節でしたが,阿波踊りには絶妙のスウィング感があり,サックス向きなのではと思いました。

前半最後は,吹奏楽の定番中の定番曲,アルフレッド・リード作曲のアルメニアン・ダンスPart1を中原達彦さんがオーケストラ用に編曲した版でした。もしかしたら,この日いちばんの注目曲だったかもしれませんね。私自身,吹奏楽版は何回か聴いたことがありますが,オーケストラ版で聴くのはもちろん初めてのことです。その第1印象は,スケールが大きくなったなぁというものでした。弦楽器のカンタービレが出てくると,オリジナルの管弦楽曲のようなスケール感を感じました。その一方,吹奏楽版でのクラリネットの合奏が作りだすような独特の音色感もやはり魅力的だなとも思いました。最後の部分,オーケストラ版で聴くととても軽快でしたが,アマチュアの吹奏楽団が熱く演奏する感じも良いなぁと感じますね。変わらないのは,パーカッションの爽快さでしょうか。この日の客席には,制服を来た学生・生徒さんの姿を沢山見かけましたが,大きな刺激を与えてくれる演奏だったのではないかと思いました。

後半は視点が逆転し,クラシック音楽の中でサクソフォンが使われている曲が2曲演奏されました。というわけで,必然的にフランス音楽ということになります。今晩登場した九州交響楽団の演奏を実演で聴くのは初めてでしたが,ラテン系の音楽の開放感にぴったりなのではと思いました。「九州=南の方=明るい」という先入観を持っているせいもあるかもしれませんが,ビゼーのアルルの女組曲第2番の第1曲パストラールの冒頭の脱力したのびやかな音を聞いて,とてもリラックスした気分になりました。これは,指揮者の現田茂夫さんの指揮の力も大きいと思います。

2曲目の「間奏曲」では,九響メンバーとして演奏していた須川さんのサックスの抑制された美しさを実感できました。3曲目は有名なメヌエット。楚々とした感じのあるフルートの後,管楽器が次々加わって,色彩感が出てくる感じが素晴らしかったです。終曲のファランドールは,非常に遅いテンポで開始。最後の部分は大きく盛り上がっていましたが,全体的に無理なくしっかりと楽しませてくれるのが現田さんの指揮の特徴かなと思いました。

演奏会の最後はラヴェルの「ボレロ」でした。いちばんの「重労働」の小太鼓奏者は,指揮者の真正面,フルートの前という「特等席」でしっかりと,しかし,ラテン的なカラッとした感じを伝えるリズムを刻んでいました。演奏後,現田さんは「ソリスト」のような感じで指揮台の横まで連れてきて,小太鼓奏者の方の健闘をたたえていました。

この曲では,第1ヴァイオリンが大々的に加わり,小太鼓が2台に増えるあたりから,気分がより開放的になってきます。そして最後は満を持して,銅鑼,シンバルなどが炸裂。演奏を聴きながら,今度生まれ変わったら(?),この日の演奏のように,銅鑼を思い切り叩いてみたいなぁと思いました。

そして,アンコールが1曲ありました。これはもしかしたら九響さんの得意のパフォーマンスなのかもしれませんが,スーザの行進曲「星条旗よ永遠なれ」が演奏されました。佐渡裕さん指揮シェナ・ウィンドオーケストラのアンコールの定番ですが,そこまでは速いテンポではなく,しっかりと手拍子を楽しめるような快適なテンポ。そして,最後の部分では,オーケストラメンバーが全員起立(チェロの皆さんも立ってましたねぇ)。やはり,皆で盛り上がるお祭りのような開放感が九州交響楽団さんの持ち味なんだなぁと幸せな気分になりました(月曜日から既に疲れ気味だったのですが,とりあえず疲労感がリセットされました)。

このオーケストラ・キャラバン企画ですが,金沢に居ながらにして全国各地のオーケストラを安価で楽しめるのが良いですね。コロナ禍が契機となって始まった企画ですが,是非,継続して欲しいと思います。今度は(個人的な思いですが),札幌や山形など,これまで金沢に来たことのない「北の方」のオーケストラの演奏を聴いてみたいものです。

2022/05/26

今晩は冨田一樹オルガン・リサイタル@石川県立音楽堂へ。バッハの作品を中心とした,バランスの良いプログラム。特に「〇〇とフーガ」系の曲の多様性と面白さを楽しむことができました。

今晩は,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた冨田一樹オルガン・リサイタルを聴いてきました。プログラムは,先週土曜日のOEK定期公演に続き,J.S.バッハ。「〇〇とフーガ」といったバッハのお得意の構成の曲4曲を中心に,コラールなどの小品を挟んだ,とてもバランスの良い選曲でした。

バッハの前にまず,ブクステフーデ,スウェーリンク,パッフェルベルのオルガン曲が3曲演奏されました。この中では,最初に演奏されたブクステフーデの前奏曲が大変インパクトがありました。大オルガンをイメージして作った曲で,バッハにつながる重厚な壮麗さがあるなと思いました。

バッハの「〇〇とフーガ」系の曲は,構成的には似た感じなのですが,それぞれ冒頭部分の「つかみ」の部分の音色や音の動きが個性的で,その違いを聞くのが面白いなと思いました。後半最初に演奏された,前奏曲とフーガハ長調は,冒頭のジグザグした感じと,フーガの部分のとても大らかで真っすぐな感じの対比が面白く,王道を進むような立派さを感じました。演奏会の最後に演奏された,トッカータとフーガ ニ短調(ドリア旋法)のスケール感も素晴らしかったですね。演奏会全体を締めるのに相応しい壮大さに包まれました。

オルガンの曲については,最後の音を長く伸ばすのがパターンで,それが聴きどころでもあるのですが,冨田さんは,重厚感のあるフーガを含む曲の間に演奏された,小品については,それほど音をのばさず,すっきりと終わっている感じでした。足鍵盤を使わない可愛らしい雰囲気の曲や素朴な味を持った曲があったり,プログラム全体にメリハリがついていまるのが良いなと思いました。「G線上のアリア」として知られる,管弦楽組曲第3番のエアをオルガン独奏で聴くのは初めてでしたが,オリジナルの雰囲気がそのまま再現されており,オルガンの表現力の豊かさを実感しました。「永遠に続いて欲しい」と思わせる平和な音楽でした。

冨田さんは,1曲目の前と最後の曲の後にトークを入れていましたが,その簡潔で親しみやすい解説もとても良かったと思いました。冨田さんが石川県立音楽堂に登場するのは今回が3回目でしたが,今回の公演で,しっかり固定ファンをつかんだのでは,と思いました。バッハのオルガン作品は,まだまだ沢山ありますので,是非,4回目の公演を楽しみにしています。

2022/04/03

#藤田真央 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会第3回「華麗なる輝きを放ち」@北國新聞赤羽ホールを聞いてきました。全く気負ったところのない雰囲気から,自信にあふれた多彩な表現が自然に湧き出ていました。特に緩徐楽章の美しさは息を呑むほどでした。

本日は藤田真央さんによる,モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズの第3回「華麗なる輝きを放ち」を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。第2回は残念ながら聴けませんでしたので,1年前の第1回以来,1年ぶりということになります。

今回は,ソナタ第2番,第12番というヘ長調の作品の間に,第6番,第11番という変奏曲形式を含むソナタ2曲と挟むという,よく考えられた選曲となっていました。藤田さんのスタイルは前回同様,ベースは全く力んだところのない自然体の音楽で,その中から多彩なフレージング,ダイナミックス,音と音の対話などが,くっきりと自在に浮かびかがってきました。気負いなく,自信にあふれた見事な演奏の連続でした。

第2番は第1楽章のクリアで明快な気分に続く,シチリアーノ風の第2楽章の美しさに息を飲みました。第6番は厚みのある気分でぐいぐい迫ってくる感じで開始。第3楽章は長大な変奏曲ですが,各フレーズが常に対話をしているようで,プログラムの中で藤田さんが書いていたとおり,物語を紡いでいくようでした。

後半は「トルコ行進曲」を含む,第11番。驚いたのは,全楽章ほぼアタッカで演奏していた点です。基本的に停滞しないテンポでしたので,全曲を一気に楽しませてくれる感じでした。変奏曲の繰り返しもしっかりと行っていたのも特徴的でしたが,2回目に出てくる時はニュアンスを変え,アドリブ的な音もかなり沢山入れていました。このセンスが素晴らしいと思いました。第1楽章は6つの変奏なのですが,それが12の変奏になったようが楽しさを感じました。トルコ行進曲は中庸のテンポで軽快な演奏。文字通り玉を転がすようなタッチの美しさが印象的でした。

最後に演奏された12番は,最初に演奏された第2番同様,ヘ長調の曲ということで,伸びやかな雰囲気で開始。ここでも第2楽章がせつなくなるような美しさでした。が,レガートとノンレガートを意識的に使い分けて演奏している感じでした。第3楽章の強烈なスピード感も素晴らしく,もしかしたら,グレン・グールドのモーツァルトを意識しているのかなという気もしました。ただし,エキセントリックな感じはせず,自然な音楽になっているのが,藤田さんらしさだと思いました。

アンコールでは,モーツァルトの曲に加え,ショパンの曲も2曲演奏されました。この辺は,モーツァルトだけで閉じて欲しい思いもありましたが...最後に演奏された,エチュードop.25-1のアルペジオの美しさに魅せられてしまいました。「エオリアンハープ」と呼ばれることもある曲ですが,まさにハープのような感じでした。

藤田さんのモーツァルトシリーズですが,今回で丁度半分。次回は10月22日に行われます。モーツァルトのピアノ・ソナタ全集のCD録音もこの頃に発売されるようなので,色々な意味で楽しみな公演になりそうです。

2022/03/25

OEKメンバーによる金澤弦楽四重奏団のデビュー公演&ベートーヴェンチクルス第1回目を金沢市アートホールで聴いてきました。今回は1,8,12番の3曲。これから一緒に全曲制覇したくなるような,緻密で真摯で聴きごたえたっぷりの演奏の連続。充実の時間を過ごしました。#oekjp

ようやく金沢にも春がやってきたかな,と思わせる3月末の金曜日の夜,金沢市アートホールで行われた,金澤弦楽四重奏団によるベートーヴェンの弦楽四重奏曲チクルスの第1回公演を聞いてきました。この金澤弦楽四重奏団という,素晴らしい名前のクワルテットは,青木恵音,若松みなみ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ)という,金沢の音楽ファンにはおなじみの,OEKの弦楽器メンバー4人から構成されています。プログラムに書かれているプロフィールによると,2019年結成となっていますが,演奏会を行なうのは今回が初めてです。

「全16曲あるベートーヴェンの弦楽四重奏曲を演奏する目的で結成」と書かれているとおり,今回を皮切りに,全曲演奏に挑戦するようです。その記念すべき第1回公演で演奏されたのは,第1番,第8番「ラズモフスキー第2番」,第12番の3曲でした。私自身,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲を生で聴いたことはないのですが,今回の素晴らしい演奏を聴いて,「いっしょに全曲制覇したいな」という気持ちになりました。

まず,どの曲も,慌てることのないテンポでくっきりと演奏されていたのが演奏されていたのが素晴らしいと思いました。いつも室内オーケストラの中で一緒に演奏しているメンバーということで,その音のバランスもとても良いと思いました。弦楽四重奏というと第1ヴァイオリンが中心になることが多いのですが,青木さんの音は安定感抜群でしっかりとした音を聞かせながらも一人だけが目立つことはなく,4人が一体となったような練られたサウンドとパート間の緻密な音の受け渡しを楽しむことができました。金沢市アートホールで聴くと,しっかり内声部の音も楽しむことができるので,4人の「音の職人」がベートーヴェンの音楽に真摯に取り組んでいる様をしっかり感じ取ることができました。

今回演奏された3曲は,前期,中期,後期から1曲ずつ選ばれていましたが,それぞれ30分前後かかる「大曲」で,終演時間は9:15頃になりました。上述のとおりとてもじっくりと真正面から取り組んでいるような演奏ばかりでしたので,大変充実した時間を過ごすことができました。

第1番はいちばん古典的な作品でしたが,「ベートーヴェンは最初からすごい」と感じさせる緻密さがありました。第2楽章は「ロメオとジュリエット」の墓場の場面から構想を得たと解説に書かれていたとおり,ひんやりとした悲しみがじわじわ伝わってきました。音の動きが特徴的な第3楽章,軽く鮮やかな第4楽章と,非常に均整のとれた音楽を楽しむことができました。

第8番は「ラズモフスキー」と呼ばれる四重奏曲の第2番です。冒頭の鋭い和音2つを聴いて,まずビシッと気合を入れられました。第2楽章は平穏さの中に緻密な緊張感も漂う感じ。どこか思わせぶりの第3楽章の後,ガッチリとしたリズムの上で颯爽と第1ヴァイオリンが弾むような第4楽章。ベートーヴェンの「傑作の森」の曲らしいなぁと思いました。

第12番は,「変わった曲」揃いの後期の弦楽四重奏曲の中では,いちばんオーソドックスな曲かもしれません。第1楽章冒頭の和音には,広々とした空気感を感じさせる厚みがありました。静かで誠実な雰囲気のある第2楽章の後は生き生きとした第3楽章スケルツォ。第4楽章は,プログラムの解説に「田園」交響曲の終楽章を思わせる大合奏と書かれていたとおりの雰囲気(恐らく,メンバーの方が書かれたものだと思いますが,とても分かりやすい曲目解説でした)。曲の最後の方,一音一音をしっかりと演奏しながら,感情がじわじわと高まっていく感じが素晴らしいと思いました。「いい音楽をきいたなぁ」という終わり方でした。

というわけで,私もこのクワルテットの演奏を聞きながら,一緒にべートーヴェン制覇に挑戦したいとと思います。次回は12月25日クリスマスとのことです。

2022/02/19

本日はニコラ・プロカッチーニ オルガン・リサイタル@石川県立音楽堂へ。今年生誕200年のフランクの作品3曲,アランの3つの舞曲などフランスのオルガン曲を中心に健康的だけれども,刺激的な音楽を楽しませてくれました。

本日はニコラ・プロカッチーニ オルガン・リサイタルを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。プロカッチーニさんは,イタリア出身の若手オルガン奏者で,現在,札幌コンサートホールの専属オルガニストとして活躍をされています。

プログラムは,今年生誕200年のフランクの作品3曲,アランの3つの舞曲,フランス古典期の作曲家グリニーの作品,ヴィエルヌの小品などフランスのオルガン曲を中心に,色々な時代のオルガン曲を楽しませてくれました。構成的には,昨年11月に聴いたミシェル・ブヴァールさんのリサイタルと似た部分もありましたが,バッハやメンデルスゾーンの曲が入っており,よりインターナショナルな選曲となっていました。

演奏された曲で特に印象に残ったのは,やはりフランクの3曲でした。プロカッチーニさんの演奏は,とても誠実で,健康的な雰囲気があるのがフランクの音楽にマッチしていると思いました。

「前奏曲,フーガと変奏曲」は,何となくとっつきにくそうなタイトルですが,ちょっとメランコリックな気分が流れる,「ロマン派のオルガンだ」という感じの作品で土曜日の午後に聴くのにぴったりという,落ち着いた魅力がありました。コラール第2番はフランク最晩年の作品で,より重量感がある作品で大変聴きごたえがありました。最後の部分,静かな音が長~く伸ばされて終わるあたりの不思議な気分もとても魅力的でした。パストラールでは,基調と作る穏やかな気分と中間部でのさざ波が起こるような感じの部分の対比が良いなと思いました。

その他の曲では,アランの「3つの舞曲」が大変面白い作品でした。ジャズ~ポップスなどを思わせるリズムが出てくるなど,足鍵盤が大活躍。ミステリアスな気分,オリジナリティあふれる音色,何が出てくるか分からないような曲想...プロカッチーニさんの生き生きとした刺激的な演奏にぴったりマッチしていました。アランというのは,往年の名オルガニスト,マリー=クレール・アランのお兄さんで,第2次大戦中に29歳で亡くなった作曲家です。過去,何回か石川県立音楽堂のオルガン・リサイタル・シリーズでもその曲が取り上げられてきました。どの曲も才気あふれる作品で,若く亡くなったのが本当に惜しいと改めて思いました。

演奏会の最後は,メンデルスゾーンのオラトリオ「聖パウロ」の序曲をオルガン用に編曲したもので締められました。バッハのマタイ受難曲を再演した,メンデルスゾーンらしくバッハへのオマージュのような敬虔な美しさがあり,曲の最後に向かって前向きに高揚していく感じが素晴らしいと思いました。本日の金沢は小雨が降っていましたが,音楽堂内には青空が広がっているような感じでした。

プロカッチーニさんは,札幌で活躍されている方ということで,今後もまた石川県立音楽堂のオルガンを演奏される可能性はありそうですね。今後の活躍に期待をしたいと思います。ちなみに,今年度次回のオルガン・リサイタルでは,是非フランクのコラールの3番を聞いてみたいものです。前回のブヴァールさんの時は1番を聞いたので,これでコンプリートになります。

2021/12/18

今晩は上野星矢フルートリサイタル@金沢市アートホールへ。三大ソナタを集めた充実のプログラム。気持ちの良いフルートの音に満たされてきました。先行発売のCDも購入。サイン会も大盛況

昨晩から金沢では,この冬一番の寒波を受け,雪が少し積もりました。が,このくらいならば,支障はないですね。そんな中,金沢市アートホールで行われた上野星矢フルート・リサイタルを聞いてきました。金沢でフルートの演奏会が行われることは少ないのに加え,「三大ソナタ」というキャッチフレーズに妙に惹かれ,聞きに行くことにしました。

上野さんの演奏を聴くのは今回が初めてだったのですが,まず,そのフルートの音に感激しました。非常に落ち着いた雰囲気で気負った感じは全くないのに,そこから出てくる音には力がありました。音量も豊かなのですが,ぎゅっと引き締まっており,その音に浸っているだけで充実感を感じました。

演奏後,上野さんは「フルートとしてはこれ以上ないぐらいの重いプログラムに挑戦しました」と語っていたとおり,カール・フリューリングの幻想曲に続いて,フランク(有名なヴァイオリン・ソナタのフルート版),プロコフィエフ,ライネッケのフルート・ソナタが演奏されるという構成でした。この3つのソナタはいずれも20分~30分ぐらいの曲で,「3大ソナタ」(この呼称は今回初めて知ったのですが)という名にふさわしく,どの曲がメインプログラムになってもおかしくないような聴きごたえがありました。

この日はライネッケのフルート・ソナタ「ウンディーネ」が最後に演奏されました。実演では初めて聞く曲でしたが,「ウンディーネ=水の精」ということで,どこか流動的でしっとりとした気分のある第1楽章から魅力的な音楽が続きました。湿度の高い,金沢の冬の気分にもぴったりかもと思いました。

フランクのソナタは,先日,ルドヴィート・カンタさんのチェロで聴いたばかりです。ヴァイオリン以外で聴いても名曲は名曲です。上野さんのフルートの音はとても健康的で,息長くしっかりと歌われるので,音楽に包み込まれるような感じになります。第2楽章,第4楽章の終結部の盛り上がりも素晴らしいものでした。平然と演奏しているけれども,この日のピアノの内門卓也さんと一体となって,音楽が自然に熱気をまとってくる感じを味わえるのは,やはりライブならではだと思いました。

プロコフィエフのソナタの方は,フランクとは反対に,オリジナルがフルート・ソナタで,ヴァイオリン用に編曲した版もよく演奏されるという曲です。以前から親しみやすい雰囲気の曲だなと思っており,一度実演で聴いてみたいと思っていた作品でした。古典的な雰囲気で始まった後,プロコフィエフらしく,段々とヒネリが入ってくる感じなのですが,上野さんの演奏は,シニカルな感じにならず,どの楽章を取っても精気に富んだ美しい音楽になっているのが良いなぁと思いました。

今回の公演(金沢以外にも全国でツァーを行っています)は,この3曲を収録した新譜CD(1月に発売とのことです)のプロモーションも兼ねている感じでしたが,本日はそれ以外にカール・フリューリングという作曲家の幻想曲という初めて聞く作品も演奏されました。この曲もとても魅力的な作品でした。というわけで,15分の休憩を入れてほぼ2時間の充実した内容の公演でした。

さらにアンコール!ここでは,クロード・ボーリングという作曲家の「ジャズ組曲」から「センチメンタル」という,とても親しみやすいう曲が演奏されました。ジャズというよりは,ポップス的な曲(1970年代のカーペンターズの曲にありそうな感じ)でしたが,重いプログラムを締めるには絶好の曲でした。

終演後はCD購入者には,上野さんと内門さんがサインを行ってくれる,ということで嬉しくなって参加してきました。会場のお客さんはフルート愛好家が大勢集まっている感じで,サイン会も大盛況。これから年末にかけて,このCDの方もしっかりと楽しみたいと思います。

2021/12/03

#宮谷理香 デビュー25周年記念ピアノリサイタル 未来への前奏曲@北國新聞赤羽ホール。前半は,じっくりと演奏された前奏曲尽くし。後半は弦楽六重奏との共演による正統派のショパンの2番の協奏曲。小林仁さんとの対談を交えた充実の演奏会でした。

今晩は,金沢市出身のピアニスト宮谷理香さんの「デビュー25周年記念ピアノリサイタル:未来への前奏曲」を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。実は,石川県立音楽堂では楽都音楽祭秋の陣公演でOEKの演奏会も行っていたのですが,「デビュー25周年」「前奏曲尽くしの前半」「弦楽六重奏との共演によるショパンのピアノ協奏曲第2番」といった点に強く惹かれ,こちらを選ぶことにしました。

宮谷さんは1995年のショパン国際ピアノコンクールで5位入賞後,1996年に金沢でデビュー・リサイタルを行いました。「あれから25年になるのか」という感慨を持ちつつ,最初に演奏されたバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番の前奏曲を聴いてびっくり。おおっと思わせるほどゆったりとしたテンポで開始。深く沈潜する雰囲気は,これまでの宮谷さんの演奏にはなかった境地では,と感じました。

続いて,同じハ長調のショスタコーヴィチの24の前奏曲第1番。バッハと連続して演奏しても全く違和感なくつながるのが面白かったのですが,段々とショスタコーヴィチらしく,ちょっとひねった気分に。その後もドビュッシーの前奏曲集,ラフマニノフの前奏曲「鐘」と続いていきました。というわけで,前半全体として,宮谷さんが再構成した新しい曲を聴くような面白さがありました。そして,どの曲についても宮谷さんのピアノのタッチの美しさを味わえました。

トークの中で宮谷さんは,「コロナ禍の閉塞感におおわれた時期を力を蓄えるための時間ととらえている。今回演奏する前奏曲は,その後に続く未来への前奏曲です」といったことを語っていました。その深く考えられた演奏からも,そのことが伝わってきました。25周年に続く,これからの宮谷さんの演奏活動がますます楽しみになる前半でした。

前半の最後は,ショパンの24の前奏曲集の最後の5曲。ラフマニノフの「鐘」嬰ハ短調の後,20番ハ短調が演奏されたのですが,この2曲の雰囲気が結構似ているなぁと新たな発見がありました。この曲集は,長調と短調が交互に出てきますが,その曲想のコントラストも面白かったですね。24番前奏曲は壮絶な雰囲気な演奏もありますが,宮谷さんの演奏は毅然として未来に立ち向かうような感じでした。

後半は小林仁さん編曲による,ショパンのピアノ協奏曲第2番の弦楽六重奏との共演版が演奏されました。その前に行われた,小林さんと宮谷さんによる対談も興味深いものでした。宮谷さんは1995年のショパン・コンクールで5位,小林さんの方は1960年のショパン・コンクールで入賞。宮谷さんが出場した1995年は小林さんが審査員だったという因縁があります。「ショパン・コンクール今昔」といった感じで,次々と面白いエピソードが出てきました。お話を伺いながら,このコンクールが長年,世界的権威のあるコンクールとして継続しているのは,ポーランド市民の「ショパン愛」の大きさの反映なのだなと感じました。

このピアノ協奏曲第2番の演奏ですが,オーケストラ伴奏に近い雰囲気と室内楽的な雰囲気とが交錯していたのが面白かったですね。OEKの客員コンサートマスターとしてもおなじみの水谷晃さんを中心とした,初期ロマン派の気分たっぷりの六重奏と宮谷さんの凛としたピアノ。大ホールで聴く協奏曲とは違った魅力を感じました。宮谷さんのピアノからは,正統派ショパンといった「高貴なロマン」を感じました。

宮谷さんも小林さんもショパンコンクールに出場した際は,第2番を演奏したとのことですが(今年,インターネットで観たコンクールの様子を考えると,お二人ともファイナルまで進んで協奏曲を演奏していること自体,「すごいなぁ」と感じました),特に弦楽六重奏版にぴったりの曲だと思いました。

今回の前半のプログラムは宮谷さんの新譜CDの選曲と重なっていましたので,25周年のご祝儀のような感じで会場でCDも購入。宮谷さんの直筆サイン入り色紙が特典として付いており,良い記念になりました。宮谷さんは,ほぼ満席の客席を観て感激されていましたが,アフターコロナの時代の宮谷さんも応援していきたいと思います。

より以前の記事一覧

最近のコメント

最近の記事

最近のトラックバック